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おとどけものの配達日はだいたい決まっていた。月の真ん中あたり。その月の曜日によって前後にずれる事はあったけれど、大きく変わることはなかった。
それが、今月はいつもなら配達を終えているはずの日になっても僕のところへおとどけものは来なかった。
心配していたことがいよいよ現実になったのだと知った。もう一年前のあの惨めな生活には戻れない。
僕は何としてもおとどけものの配達の仕事を復活させなければならないと思った。でも、いったい何をどうすればいいのだろう。僕はあまりにも自分が今までしてきた仕事のことを知らなさすぎた。
公園で死んでいたのが河村だったのなら、もうその方面からおとどけもののことを調べることはできない。調べるとしたら、おとどけものの配達先だ。
どうせその仕事を失うかもしれない。僕はタブーをとされていた領域に足を踏み入れることにした。
そんな決断をしたころ、突然に綾から連絡が来た。
会って話しをしたいという。
僕と綾は時々会って食事に行くだけの関係だったから、飲み屋の女の子たちと遊びに行ったりすることを隠そうとはしなかった。綾のほうがそれを気にしてか、最近、僕に連絡をくれることがなくなっていた。
僕のほうから綾に声をかけておきながら、こんな風になってしまって悪いことをしたなという気持ちはあった。だけど綾は綺麗だから、僕みたいな冴えない男なんかより、もっといい男と付き合った方がいいという思いをずっと持っていた。
エマから教わった洒落た店に行ってみようと誘ってみたけれど、綾は今までのように誰もが気さくに行けるところがいいと言った。しかも軽くお酒が飲める店に行ってみたいと言った。
僕たちは久しぶりに近くにいい店はないかとネットで検索をして何軒かピックアップした。
今までは食事だけだったのに、お酒を飲みたいということは、もしかしたらこれが綾と二人で出かける最後の機会になるかもしれないという予感めいたものがあった。
久しぶりに会う綾はとても綺麗だった。最近見慣れたけばけばしい女の子と違って、化粧をしているのかいないのかわからないくらいだったけれど、それでも綺麗だった。
飲み始めても、どこか他人行儀でなかなか会話が弾まなかった。だけどお互い酔いが回ってきて、少しずつ昔のように話ができるようになった。
「お父さんは地元に帰ってきてほしいみたいなんです」
綾が言った。
綾は今、大学の三年だ。就職について考えなければならない時期に来ている。
「よさそうな就職先はあるの?」
「うん、幾つか。私の弟は結構優秀で、多分大手企業に就職しちゃうから、せめて私には近くに居てほしいみたい。もちろん私が地元に帰ることは強制じゃないし、やりたいことがあればこっちで就職してもいいとは言ってくれているんですけど」
「こっちでやりたいことはあるの?」
「ううん。別に。でも、もう少し都会で暮らしてみたいかなっていう気持ちはあります」
そう言って僕を見る綾の目を見て気が付いた。
綾は僕にここに残れと言ってほしいのではないか。だけど、就職もせずにだらけた生活をしている僕に、綾のことをとやかく言う資格なんてない。
「自分でこうしたいという思いがあるのなら、それに従うべきだと思う」
「うん」
綾は少し寂しげに頷いた。
タクシーで綾のアパートまで送っていった。僕も綾と一緒にタクシーを降り、二人でアパートの入り口まで歩いていった。
その時になってやっと気が付いた。
僕は綾のことが好きなんだ。綾を愛している。
だけど、もうこれっきり会うことはないかもしれない。
僕は最後に自分の想いを綾に伝えたいと思った。
だけどそれはできない。
僕は今まで綾に対して不誠実でありすぎた。
「綾」
僕はとても悲しくなって、どうにもならない気持ちを抑えきれずに、先を歩いていた綾を後ろから抱きしめた。
身を固くしてしばらく動きを止めていた綾は、僕を振り払うように離れた。
「ごめん」
僕はうなだれて言った。
「ごめんなさい」
綾は前を向いたままそう言ってアパートの中へ走っていった。
それが、今月はいつもなら配達を終えているはずの日になっても僕のところへおとどけものは来なかった。
心配していたことがいよいよ現実になったのだと知った。もう一年前のあの惨めな生活には戻れない。
僕は何としてもおとどけものの配達の仕事を復活させなければならないと思った。でも、いったい何をどうすればいいのだろう。僕はあまりにも自分が今までしてきた仕事のことを知らなさすぎた。
公園で死んでいたのが河村だったのなら、もうその方面からおとどけもののことを調べることはできない。調べるとしたら、おとどけものの配達先だ。
どうせその仕事を失うかもしれない。僕はタブーをとされていた領域に足を踏み入れることにした。
そんな決断をしたころ、突然に綾から連絡が来た。
会って話しをしたいという。
僕と綾は時々会って食事に行くだけの関係だったから、飲み屋の女の子たちと遊びに行ったりすることを隠そうとはしなかった。綾のほうがそれを気にしてか、最近、僕に連絡をくれることがなくなっていた。
僕のほうから綾に声をかけておきながら、こんな風になってしまって悪いことをしたなという気持ちはあった。だけど綾は綺麗だから、僕みたいな冴えない男なんかより、もっといい男と付き合った方がいいという思いをずっと持っていた。
エマから教わった洒落た店に行ってみようと誘ってみたけれど、綾は今までのように誰もが気さくに行けるところがいいと言った。しかも軽くお酒が飲める店に行ってみたいと言った。
僕たちは久しぶりに近くにいい店はないかとネットで検索をして何軒かピックアップした。
今までは食事だけだったのに、お酒を飲みたいということは、もしかしたらこれが綾と二人で出かける最後の機会になるかもしれないという予感めいたものがあった。
久しぶりに会う綾はとても綺麗だった。最近見慣れたけばけばしい女の子と違って、化粧をしているのかいないのかわからないくらいだったけれど、それでも綺麗だった。
飲み始めても、どこか他人行儀でなかなか会話が弾まなかった。だけどお互い酔いが回ってきて、少しずつ昔のように話ができるようになった。
「お父さんは地元に帰ってきてほしいみたいなんです」
綾が言った。
綾は今、大学の三年だ。就職について考えなければならない時期に来ている。
「よさそうな就職先はあるの?」
「うん、幾つか。私の弟は結構優秀で、多分大手企業に就職しちゃうから、せめて私には近くに居てほしいみたい。もちろん私が地元に帰ることは強制じゃないし、やりたいことがあればこっちで就職してもいいとは言ってくれているんですけど」
「こっちでやりたいことはあるの?」
「ううん。別に。でも、もう少し都会で暮らしてみたいかなっていう気持ちはあります」
そう言って僕を見る綾の目を見て気が付いた。
綾は僕にここに残れと言ってほしいのではないか。だけど、就職もせずにだらけた生活をしている僕に、綾のことをとやかく言う資格なんてない。
「自分でこうしたいという思いがあるのなら、それに従うべきだと思う」
「うん」
綾は少し寂しげに頷いた。
タクシーで綾のアパートまで送っていった。僕も綾と一緒にタクシーを降り、二人でアパートの入り口まで歩いていった。
その時になってやっと気が付いた。
僕は綾のことが好きなんだ。綾を愛している。
だけど、もうこれっきり会うことはないかもしれない。
僕は最後に自分の想いを綾に伝えたいと思った。
だけどそれはできない。
僕は今まで綾に対して不誠実でありすぎた。
「綾」
僕はとても悲しくなって、どうにもならない気持ちを抑えきれずに、先を歩いていた綾を後ろから抱きしめた。
身を固くしてしばらく動きを止めていた綾は、僕を振り払うように離れた。
「ごめん」
僕はうなだれて言った。
「ごめんなさい」
綾は前を向いたままそう言ってアパートの中へ走っていった。
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