私はあなたに恋をしたの?

原口源太郎

文字の大きさ
5 / 24

しおりを挟む
「ちょっと汚い所だが、我慢してくれ」
 監視カメラ対策のためなのだろうか、別の車に乗り換えたり歩かされたりしてやっとたどり着いたのは下町の小さな家だった。
「あんたが大人しくしていれば無事に家に帰してやる」
 車を運転してきた男がサングラスを外して雪美を見た。
 雪美は男の素顔を見てはいけないような気がしてすぐに目を逸らした。
「しっかり見張ってろよ」
 車で雪美の隣に座っていた男にぶしつけに言うと、サングラスを手にした男は部屋を出ていった。
「君、森口雪美さん?」
 部屋に残った男が尋ねた。
 雪美は初めてその男の声を聞いた。優しい声だと思った。
「そうです」
 雪美は小声で応えた。
 乱暴な事はされそうにない。だけどまだ体の中に恐怖心が残っている。
「間違いないな。人違いだったら困るから。お前たち高校生は皆同じような姿で区別がつかねえ」
 そのぞんざいな言い草に怒りが込み上げてきた。
 何よ、こいつ。男の声が優しいと思った自分にも腹が立った。
「ま、一週間くらいの辛抱だから」
「あの、私、誘拐されたんですか?」
「そうだ」
 男は素っ気無く言った。
 何だこいつ。雪美はまたムカついた。
 だが、横柄な態度のわりに体つきは軟弱そうだ。隙を見て何とか逃げ出せるかもしれない。よく見ると良い顔をしているけど、その顔にカバンでガツンと一発お見舞いして・・・・
「おい、変な考えは起こすなよ。俺たちのやり方を教えてやる。お前が逃げたり、あるいは身代金の受け渡しに失敗したり、無事にお前が家に帰れたとしても、その後で俺たちのことを喋ったり誰か仲間が捕まったりすれば、お前の家族は残った仲間により必ず報復される。かといって殺したりはしない。殺してしまえばそれで終わりだ。一生笑うことのできない生活に陥れてやる。そして俺たちに怯えながら死ぬまで後悔して生きていく。わかるな?」
 雪美は怯えた目で男を見た。
「わかったのなら返事をしろ。わからないのならわかりませんと言ってみろ」
「わ、わかりました」
 男は雪美のカバンを開けて逆さまにした。
 絨毯のないむき出しの床にバラバラと教科書やノート、筆記用具が落ちた。
「だから俺たちはお前を殺さない。俺たちは顔を隠さないし、この家の場所もお前は知ってる。でも俺たちはお前をそのまま帰す。金が払われたらだがな。もし俺たちのことを少しでも喋ったら家族はバラバラになり、お前はその顔に醜い傷を負って生きていくことになる」
 そう言いながら男は床に散らばった物の中からスマホを取り上げた。
「こいつは帰るときまで預かっておく。言うことを聞いて大人しくしていればひどいことはしない」
 男は最後に優しい口調になって言った。
 雪美は悲しくて仕方がなかった。目じりに涙が湧きでてくる。だが男にそれを見られるのが癪で顔をそむけた。
 楽しいはずの週末がこんなになるなんて。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

さようなら、お別れしましょう

椿蛍
恋愛
「紹介しよう。新しい妻だ」――夫が『新しい妻』を連れてきた。  妻に新しいも古いもありますか?  愛人を通り越して、突然、夫が連れてきたのは『妻』!?  私に興味のない夫は、邪魔な私を遠ざけた。  ――つまり、別居。 夫と父に命を握られた【契約】で縛られた政略結婚。  ――あなたにお礼を言いますわ。 【契約】を無効にする方法を探し出し、夫と父から自由になってみせる! ※他サイトにも掲載しております。 ※表紙はお借りしたものです。

処理中です...