遥かなる故郷は宇宙

原口源太郎

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 少女の父親であるホウジョウは、敵のFマシーンが信じられない動きで数発のミサイルをかわすのを見ていた。
「あいつが噂のパイロットか。宇宙同盟には変わったパイロットがいるものだ」
 ホウジョウは娘のヒナタに話しかけた。
「昨日も助けてくれたの」
「そうらしいな」
 ホウジョウは娘の頭を優しくなぜながら言った。
 そこへ部下のオサビラがやってきた。彼もバズーカ砲を携えている。それを上官に見せながら言う。
「見事にかわされました。奴のせいで苦労して準備してきた計画が一瞬でおじゃんです」
「仕方がない。警戒が甘かった」
「まさか同盟軍に作戦が漏れているとは」
「撤退の準備をする。皆に命令を出せ」
「はい」
 オサビラは敬礼をし、その場を離れた。
「つけられたな。アカギルが」
 ホウジョウは燃え上がる輸送機の残骸を見ながらつぶやいた。

 スカイはラ・シューへと急いだ。基地の危機を救い、莫大な戦果を挙げた事実がある。だが軍規に背き、命令もないのに出撃したのも事実だ。指揮官のマックウィーがどのような判断を下すかわからないが、基地に帰り、歓迎してもらえないことはわかっていた。
 そのままソシアの元に向かおうかとも考えた。バズーカの直撃はF104の運動機能に何の障害も与えていなかった。しかしマシンガンの弾丸は残り少なくなっている。それにこれだけの戦闘をしたのだから、上官への報告義務がある。帰還命令も出ている。これ以上軍規違反を重ねれば、ソシアの部隊に合流して戦うことなどできないだろう。

 スカイのF104がドックに入ってきた。派手な戦闘をしたらしいが、F104はいつものように無傷だった。
 マクタはF104への無線のスイッチを入れる。
「お帰り、スカイ。大した手柄をあげたそうだな」
「よしてくれよ。それより指揮官の様子はどうだ?」
「さあ。俺たちはさっきまで、いい気持ちでおねんねしていたところを叩き起こされたんだ。指揮官の御機嫌まではわからんよ」
 マクタは素っ気無く言った。

 指揮官は当然、スカイが基地を離れた理由を知っているはずだ。
 案の定、スカイがF104から降りるとすぐに指令室へ来いとの呼び出しがあった。
 スカイはいい話が聞けるはずもないと諦めて、重い足取りで指揮官の待つ部屋へと向かった。

 指令室で指揮官のマックウィーと副官のオノが待っていた。
 スカイが部屋に入ると、指揮官は静かに口を開いた。
「出撃、ご苦労だった」
「いえ」
 スカイは緊張する声で応える。
「ところで、私は出撃命令を出した覚えはないのだが。オノ、君が命令を出したのか?」
「いえ」
「ならばスカイ、誰から出撃命令を受けたのか?」
「出撃命令は出ていません」
「では、連邦軍の作戦をどうして知っていたのか?」
「知りませんでした」
「ならば勘が働いて出撃したのか?」
「違います」
「他に目的が合って出撃したのか?」
 スカイは答えることができなかった。もちろん指揮官は理由を知っているはずだ。
「どうした。答えなさい」
「ソシアと一緒にダブルドラゴンと戦うために基地を出ました」
「それは私が止めたことではなかったか?」
「そうです」
 スカイはしおらしく答える。
「それを承知で出撃したのなら軍規違反となり、独房に入ってもらうことになる」
「はい」
「副官」
 マックウィーはオノに合図した。
 オノはドアに向かい、立ち番の兵士を呼ぶ。
「独房に連れていけ」
 オノに命令され、二人の兵士がスカイの両脇に付いた。
「すまんな、スカイ」
 腕を取る兵士が小声でスカイに声をかける。
「気にするな」
 スカイも小声で応えた。

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