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一枚目。スターミックスピザチーズ増し増し

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 目を覚ますと、そこは緑溢れる公園だった。
 公園と言っても遊具の類は一切なく、あるのは鬱蒼と茂った樹木。
 東京でこれだけ自然溢れる場所って、公園じゃね?
 って事で、現在地を公園と仮定しているんだけど、もしかして森だったりするんだろうか?
 てか、東京に森ってあったっけ?
 二十三区以外ならあるのかも知れないけど、ぶっちゃけ二十三区外の事、よく知らないわ。
 いや、二十三区内であっても俺の行動範囲、めっちゃ狭いから森があるかどうか分からないな~。
 それはそうと、俺は何でこんな場所に居るんだろうか?
 確か、ピザデリバリーの為に環状七号線、通称環七を走っていたはずだ。
 毎週金曜の夜にスターミックスピザのチーズ増し増しを注文してくれる番場さん宅に笑顔と幸せを届ける為に。
 慣れた道だと慢心せず、細心の注意を払って運転していたのに、交差点で横から光がぶわぁって……。
 あれ? 俺ってばトラックか何かに轢かれた?
 に、しては俺もバイクも無傷だな。
 だとしたら……。
 え? もしかしてきちゃった?
 知的生命体に拉致られてチップ埋め込まれるとかそういうのきちゃった?
 だから記憶が飛んでいるのかな?
 つーか、何時間拉致られていたんだ? 太陽の位置、めっちゃ高いよ。
 そして、チップ埋め込んで返すなら、拉致った場所に戻してくれよ。誤差は数十メートルくらいなもんじゃないの? よく知らないけど。誤差が酷過ぎるよ。
 それはそうと、腹減ったな。
 宇宙人が盗んでいなければ、スターミックスピザがバイクにあるはずなんだけど……。
 どうだろう?
 辺りを見渡し、そっとバイクに近寄りデリバリーボックスを開けると保温バックがあった。
 マジックテープを剥がし、保温バックからピザの箱を取り出してみれば、何故か温かかった。
 太陽の位置からして十二時間は経っているはずなのに……。
 箱を開け中を覗くと出来立てにしか見えない状態のピザ。宇宙人マジックだろうか?
 冷めたピザほど悲しい物はない。
 ピザを温かいままにしておいた事を宇宙人に感謝して、サイドメニューのコーラと共にピザを食べていると、遠くからガサガサと枝葉が擦れるような音が聞こえた。
 ハイキングの人だろうか?
 音の方へ注意を向けていると、現れたのは……。
 熊だった。
 まさに森の熊さん!?
 四つん這いでいるから体長がどれ程か分からないけど、とにかくデカイ!
 顔の直径が一メートルはありそうに見えるのは、恐怖心から盛っているだけだと信じたいほどデカイ!
 しかもだ。額のあたりに角が生えているように見える……。
 いやいや。角の生えた熊なんていないから!
 多分きっと、死闘を繰り広げた動物の角が刺さって抜けなくなっちゃっただけだ。うん。
 ええっと、森で熊と出会ったら……。
 熊との間に保つべき距離である臨界は十二メートルだった気がする! そしてそれは超えている感じだ!!
 もし、臨界を超えていたら静かにその場に止まり、熊の出方を見る。熊が立ち去るようなら自分もそっと後退り臨界から出る……は、難しそうだ。だって、熊さん俺をガン見しているし。
 あと、何だっけ? 普通の声で優しく話しかけるんだったか?

「こんにちは。いい天気ですね?」

 熊さんが唸り出したよ! どうしよう!!
 ええっと、他に何か……。
 あ! 食べ物や熊の注意を引くような物を持っていたら、足元に置いて意識が食べ物に向かっている間にそっと後退るんだったような……。

「チーズ増し増しピザ、美味しいですよ」

 さっきよりかなり小声で話しかけ、手にしていたピザの箱を足元にそっと置き、ゆっくりと後退あとずさ……。

「グアァァァァァァ!」

 れません!!
 ヤベー走って来た!!
 熊の時速は時速は……そんなの知るか!
 もう駄目だ! 死ぬ!! 喰われる!!!
 こんな事なら『初めては恋人と……』なんてピュアボーイぶっていないで、友達と一緒にピンクなお店に行っておけばよかった。
 バカバカ。俺のバカ!
 一度でいいから女の子とにゃんにゃんしてみたかった!
 そんな切なくも悲しい願いを胸に、目の前で立ち上がり胃が縮み上がるほどの咆哮を叫ぶ熊さんを凝視していると、閃光が走った。
 そして、ずりっと熊さんの頭が横にずれ、そのまま胴体から落ちた。

「!!??」

 何!? 何が起きたの?
 天に召されたばかりの熊さんの生首が目の前に転がっているんですけど! 怖いんですけど!
 あれ? でも、助かった? 食べられずに済むのか?
 一人パニックを起こし、ぐるぐるしていると黒く大きなものが落ちてきた。

「!!!!」

 驚きと恐怖から悲鳴も上げられずに固まっていると、黒いものはコートのフードをはぎ取り、ゆっくりとこちらへ近付いて来た。

「ケガはないか少年?」

 少年と呼ばれるような年齢じゃないけど、今はそこ、どうでもいい。
 何、このヒーロー登場の人?
 いや、女性だからヒロイン?
 真っ赤な髪に透き通る玉の肌。意志の強さが伺える金色の瞳に高く通った鼻梁。そして薄っすら色付いた形の良い唇。あまりの美少女ぷりにコンピューターグラフィックスのように見える。
 服装もフード付きマントに黒色のレザーで作られた未来版くノ一みたいな物を着ている。そして追い打ちをかけるように背中に背負った大剣のせいでゲーム感、半端ない。
 外国人コスプレイヤーだろうか?

「言葉は分かるか?」
「ア、アイファインセンキュー。アンドユー?」
「ん?」

 ヤバイ。テンパり過ぎて色々間違えた。

「ケガ ナイデス」

 日本人が日本語、片言になってどうする!

「言葉は分かるようだな」

 言葉よりジェスチャーの方が早いだろうと、頷けば、外国人コスプレイヤーさんは手を差し出した。

「ここは危険だ。移動しよう」

 頷き、外国人コスプレイヤーの手を取るが、腰が抜けて立ち上がれない。

「すいません。ちょっと動けそうにないです」
「ん? ケガか?」
「いえ。一時的な不調と言いますか、何と言いますか……」

 訳が分からないと言うように顔をしかめると、俺の背に腕を回し両膝を救い上げるようにして抱き上げた。
 これはもしかしなくてもお姫様抱っこ!?
 やだ……ときめく……。
 ではなく!

「お、下ろして下さい!」
「歩けないのだろう?」
「それはそうですけど、これは成人男性が美少女にされていいアレではないので!」

 怪訝そうな顔で俺を覗き込む外国人コスプレイヤーに訴える。

「あっ! あれ! バイク。あれに乗せて貰えば何とかなりますんで、お願いします!」

 必死な訴えが通じたのか、渋々と言った感じで外国人コスプレイヤーは俺をバイクに乗せてくれた。
 鍵はバイクに刺さったままなので、ブレーキをかけつつエンジンをかけるだけだ。
 なのに、手が上手く動かない。
 まるで真冬に手がかじかんで動かない時の様に筋肉が強張って動かせない。

「何とかなりそうか、少年?」
「ちょっと待って下さい。直ぐにエンジンかけますから……」

 筋肉が少しでも弛緩するようにと両手をこすり合わせ握りこむ。そうして再びエンジンをかけようとするが上手くいかない。
 一向に進まない状況に焦れたのか、外国人コスプレイヤーは「もういい」と零し、バイクの後ろへと回った。
 押してくれるのかな?
 と、思いきや。

「勝手に運ぶ」

 バイクごと俺を持ち上げたのだった。
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