異世界転性 ~竜の血脈~

草野猫彦

文字の大きさ
23 / 60

第23話 魔法生物

しおりを挟む
 8層に入った。
「あ~、普通の空気だ」
 ほっとしたように言ったのは、一番魔法の適性の低いギグだった。それにカルロスも頷いている。
 だが妖精の瞳を持つマールと、魔法使いである3人は、その階層の異常さにすぐ気が付いていた。
「すんげ~魔力が濃いね」
 魔力というよりは、その前段階の魔素が濃いという方が正しいのだが、おおむね間違ってはいなかった。
 滑らかな石材の通路は象牙色に光っていたが、その光が魔力を強く発しているらしい。

 魔法使いの二人は、休んでいるといつもよりもはるかに早く、魔力が回復していくのを感じていた。リアの場合はそもそも魔力の消耗を感じるほど魔法を使っていない。
「この階層いいなあ。敵の強さ次第だけど、レベル上げにもってこいの気がする」
 うきうきとした気分でサージは言った。

 それは半分正解で、半分不正解だった。



「エクスカリバー!」
 何度目であろうか、サージの空間切断魔法がキメラの魔法防御を突破し、その肉体を両断する。
「よし!」

 また反対側から襲ってきたマンティコアも、リアの刀で止めをさされた。

「皆大丈夫か?」
 声をかけたリアに、各自が手を挙げる。
 慣れるまでは大変だった。この階層の敵は、毒や麻痺と言った状態異常の攻撃手段を持った合成生物が、ほとんどだったのだ。
 そして、魔法に対する抵抗も高い。5層の悪魔相手に使ったサージの奥の手が、普通に迷宮を徘徊するモンスターに使われているということでも、それは明らかだろう。

「なんか、ものすごく敵が強いんだけど…」
 最初の勢いはどこへ行ったのか、サージがため息をつく。だがそれも無理はない。
 8層の敵は、雑魚が5層の守護者とほぼ同じぐらいの強さを持っていた。そして魔法も使ってくるのだ。

「魔力が回復するのは早いけど、神経を使うのが辛いわね」
 ルルーも精神的に疲労していた。継戦能力はともかく、一戦一戦がかなり負担をかけられる。下手をすれば一撃で死ぬような相手だ。

「なんだかな~。雑魚でこんなに強いのに、ドゲイザーってそんなに強かったかなあ?」
 前世知識でサージは疑問の声を上げるが、生態を知っているルルーも、実際の強さまでは知らないのである。
 同じく前世知識を持つリアは、ドゲイザーというものを知らなかった。ゴブンリンやエルフなどは、有名だったから知っているのであるが。

「そもそも目撃例が少ない、魔法で作られた生物だから、個体差があるのかもね」
 ルルーの知識でも、迷宮や遺跡で発見された場合を除いては、野生で存在する魔物ではない。

 とりあえず外見は、巨大な黒い球体に、巨大な目玉と口が付いていて、上部に何本かの触手が生えている。移動手段はふよふよと浮遊するもので、それほど速くはない。
 物理的な攻撃力は体当たりと噛み付きぐらいだが、問題はその特殊能力である。
 まず巨大な目が、魔法を反射する。下手に魔法攻撃すると、自分に跳ね返ってくるわけだ。
 そして触手からは、いろんな効果のある魔法の光線を発するのだ。その種類が個体によって違うらしい。
「金属分解光線は困るなあ…」
 カルロスがギグと顔を見合わせる。彼は板金鎧だし、ギグは鎖帷子だ。武器も金属製である。
「生物分解光線を持っていると、それだけでアウトね」
「どちらにしろ、魔法防御障壁で防げるらしいけど」
 ルルーはもちろん、サージもその魔法は使える。
「麻痺とか洗脳とか、あたしはあんまり戦力にならないですね」
 マールはまた牽制役になりそうだった。
「どちらにしろおいらが最初に鑑定して、その光線を使ってくるか知らせるよ」

 小休止を終えて、一行は迷宮の深奥を目指す。



 そこからも、合成獣を中心とした、魔法の生物が多く現れた。
 一回あたりの戦闘時間は長くなったが、その分戦闘経験も積める。体感では魔法を使ってくる敵は単純な魔物より、経験値が高いようだった。

 そして数時間後、一行は守護者の間へと至った。
 室内の広さは30メートルほどの円形か。そこにふよふよと、直径3メートルほどの黒い球体が浮いている。

「麻痺、石化、冷凍、催眠、洗脳、金属分解、生物分解、猛毒の8種類だね」
「光線はともかくとして、防御力はどうなんだ?」
 リアが尋ねる。サージの鑑定はそこまでちゃんと計測できるので便利だ。
「昆虫のどでかいのと同じぐらいかな。生命力…というか耐久力はアイアンゴーレム程度」
 それは相当しぶといのではないだろうか。いや、防御力はそれほどではないのか。
「じゃあ戦士三人が部屋に突っ込んで、魔法使いはとにかく魔法防御障壁で援護しまくる。異論は?」
 出ない。各自頷いて、リア、カルロス、ギグに魔法をかける。
「よし、行くぞ!」



「話が違う!」
 リアの怒声が飛ぶ。三人の戦士は、再び守護者の間から撤退していた。
「そう言ってもさ…」
 サージが口を尖らせる。確かに彼の責任ではない。

 罠は、部屋自体にあった。
 ドゲイザーの放った光線が、まずギグに当てられた。その一撃は、障壁が防いでくれた。
 ルルーが再度障壁を張ろうとした時、それに気が付いた。
「魔法が使えない!」
 部屋の入ったところで魔力が拡散してしまうので。魔法という形を取らず、ただ放たれるだけ。

 洗脳光線で味方に攻撃し始めたギグを、リアが投げ飛ばして部屋の外に運び、それから魔法で状態異常を解除した。

 試しに弱い水球の魔法をドゲイザーに放ってみても、部屋の中に入った瞬間にただの水へと変わって、その場に落ちた。

 障壁のように、一度固定された魔法は拡散しない。だが攻撃魔法は通じない。ここはそういう部屋だった。

「どうします?」
 カルロスは途方に暮れている。彼にはこの状況からドゲイザーを倒す手段が思い浮かばない。
 それは役に立たず落ち込んでいるギグも、魔法使い二人も同じではあるのだが。

「いや、一応ここの攻略法は知ってるんだ」
 リアの言葉に皆が驚く。なぜそれを早く言わないのか。
「オーガキングと同じ方法で突破すればいいんだけどな。まあ、仕方ないか」
 立ち上がったリアは念のために、大小の刀をルルーに預ける。
「え? どうするの?」
「万一にも分解されたら困るからなあ」
 魔法の袋から取り出したのは、懐かしの撲殺木刀。そして左右の手には手斧を握る。慣れていない武器だが、長柄の物は光線の影響を受けるかもしれない。
「オーガキングも、ここでは苦労したんだ。結局は一人であれを倒したそうだけど」
 状態異常に対する耐性は、オーガキングも相当強かったのだろうが、それだけではない。魔力が拡散する様子を見た今なら、どうやって光線を防いだか分かる。
 オーガキングは魔法を使えなかった。だが魔力自体は豊富だった。

「じゃ、行ってくる」
 そう言い残して、リアは単身守護者の間へと駆け込んだ。

 ドゲイザーが光線を放つ。それをまず、魔法防御障壁が受け止める。

 二撃目。それはリアの耐性で抵抗される。

「はああっ!」
 手斧の斬撃がドゲイザーに突き刺さる。素早い回転でダメージを与えていく。

 ドゲイザーの体当たりをかわし、また一閃。そして光線が放たれる。今度は即死の分解光線か。
 だがそれはリアの放つ魔力で相殺された。

 そう、魔力。
 魔法ではない。魔法になる前の、ただの力の塊。それが、光線を防いだ。
 魔法は魔力へと拡散されたが、魔力自体を消去したわけではない。ならば魔力を垂れ流しにして、それで防御すればいい。
 効率は悪い。本来指向性を与えて魔法として成立させる、いわばエネルギーの塊を、そのまま使っているのだから。
 だがこの場合は有効だった。

 ドゲイザーが光線を放つのに使う魔力と、リアが防御に用いる魔力。その対比が10倍であっても問題はなかった。
 魔力が切れる前に、ドゲイザーを潰してしまえばいいのだ。

 甲殻の割れたドゲイザーへ、リアはひたすら斧を叩き付けた。
 光線が効果がないと気付いてからは、体当たりとその牙とで攻撃してきた。が、無駄だった。
 体当たりは緩慢であり、牙は手斧で砕かれた。



 結局、たった一人でリアはドゲイザーを撃破した。



「なんかもう全部、姉ちゃん一人でいいんじゃないかな?」
 呆れ声で迎えたサージに、リアは首を振る。
「それこそ無茶だ。私一人だったら、どこかの階層で数に押し切られたか、体力が切れて倒れてただろう」
 とは言うものの、そのうち一度は、一人で挑戦してみたいな、と内心で思うリアであった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ

シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。  だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。 かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。 だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。 「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。 国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。 そして、勇者は 死んだ。 ──はずだった。 十年後。 王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。 しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。 「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」 これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。 彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。 王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。 15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。 国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。 これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。  

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

暗殺者から始まる異世界満喫生活

暇人太一
ファンタジー
異世界に転生したが、欲に目がくらんだ伯爵により嬰児取り違え計画に巻き込まれることに。 流されるままに極貧幽閉生活を過ごし、気づけば暗殺者として優秀な功績を上げていた。 しかし、暗殺者生活は急な終りを迎える。 同僚たちの裏切りによって自分が殺されるはめに。 ところが捨てる神あれば拾う神ありと言うかのように、森で助けてくれた男性の家に迎えられた。 新たな生活は異世界を満喫したい。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

処理中です...