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第31話 奴隷狩り
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迷宮都市を出発して一週間、特筆すべきことは何もなかった。
途中で小さな村に寄って、頼まれていた物資を届けたり、逆に食料の補充などをしたりした。
魔物は数回襲ってきたが、ルドルフが出張るまでもなく、マツカゼが蹄で経験値に変えていった。
…本当に馬なのか疑問なほどの戦闘力だが、サージの鑑定でも間違いなく種族は馬となっている。
「イベントが足りないと思う」
唐突にサージが言い出した。御者台で立つのはちょっと危ない。
「イベント?」
ギグが問い返す。この旅において退屈しているのは彼も同じだった。なにしろ襲ってくる魔物が弱い。ルドルフの気配で大概は逃げてしまうということもある。
サージはどこか苦悩するかのように、真剣な声で言った。
「そう、たとえば襲われている貴族の馬車を助けてお姫様と仲良しになるとか、そういうイベント」
ああ…とカルロスが苦笑する。馬を合わせてサージに寄せる。
「あったなあ、そういう物語。んで何か問題を抱えていて、それを解決した旅の騎士が、お姫様と結ばれるのがパターンなんだよな」
「そう! せっかくこんな辺境を旅してるんだから、そういうイベントが起こらないとさ」
現実にはそんなことが起こることはない。ここいらにはほとんど貴族の領地などなく、独立した集落が存在するだけだし、もし貴族が馬車で旅をするなら、護衛が必ずつくはずである。
だがそう言ったカルロスに、サージは反論しようのない実例を出した。
「ここに護衛が一人しかいない王女様がいるじゃないか。そういう例外を求めてるんだよ、おいらは」
リアのような無茶な王族が、そうそういても困るのである。
「そんなに暇なら魔法の訓練でもしていればいいだろうに。せっかく新しいスキルを手に入れたんだから」
呆れたようにリアが言う。乗馬しながら剣の訓練は出来ないが、魔法なら馬車の中で出来るだろう。
サージが手に入れた新しいスキルとは、消費魔力軽減というものだ。毎日限界まで魔力を使っていたことにより、このスキルを取得していた。スキルレベルを上げていけば、より少ない魔力で魔法が使えるようになるという、魔法使い垂涎のスキルである。実際ルルーは羨ましかった。
確かに魔法は面白い。特に今は手に入れた魔道書により、日々分かる速度でサージの魔法使いとしての格は上がっている。
だが、ただひたすら修行パートというのも退屈なのである。このあたり、前世があるとはいえ10歳の肉体に精神が引っ張られているのだろう。
元々子供っぽいところもあるのかもしれないが。
「魔法かあ…。そうだね、ちょっと術理魔法と時空魔法を重ねてみて…」
何か琴線に触れたのか、サージはぶつぶつと呟きだした。
これで静かになったか、とうららかな日差しの下、一行は馬を進めるのだが。
「うん、うん、うん…よし」
御者席の横に座ったサージから、薄い魔力が広がっていった。
「あ…」
精霊魔法の訓練をしていたマールが声を上げる。せっかくの精神集中が乱れてしまったのだ。
しかしサージもまた精神を集中していて、己の魔法の効果をたしかめようとしている。
どういう魔法かはなんとなく分かる。魔力を出来るだけ薄く、出来るだけ遠くへ飛ばし、その反射を知ろうというものだろう。魔力探知と空間把握を複合させた、かなり高度な魔法である。
「あれ?」
目を閉じていたサージが、くわっと見開く。
「あ~、この先の森と山を越えたところに、軍隊がいる」
そんな先まで分かるのか、という感心もあったが、軍隊というのが問題である。
「軍隊だと? 何人ぐらいだ? 武装は分かるか?」
リアが確認する。このあたりはどの国家の領土でもないはずだが、部族として軍は持っているかもしれない。
「騎兵が20、歩兵が100で…馬車を4台引いていて、囚人…いや、奴隷かな? それを護送しているみたいなんだけど…」
「コルドバの奴隷狩り!」
突如としてマールが叫んだ。己の忌まわしい記憶と共に、該当する存在を導き出す。
「コルドバ…本当にロクな国じゃないな、あそこは」
頭痛をこらえるような表情でリアが呻く。コルドバは人間至上の軍事国家で、近隣の部族や国家をどんどん併合している。法治国家ではあるのだが、国外の人間を奴隷にすることは禁じられていない。
「どうします?」
難しい顔でカルロスが確認してくる。本来ならば、接触しない方がいい相手だ。
だがリアを知るものとしては、そんな単純な結論が出るとは思っていない。
「リアちゃん…」
マールのつぶらな目に見つめられ、リアの判断は大きく感情の側に寄せられる。
「まずは偵察だな。ちょっと先に行ってくるから」
リアは気合をつけて、マツカゼを走らせた。
「皆殺しにしようかと思ったが、とりあえず偵察だけしてきた」
物騒なことを言うリアの表情は笑みを浮かべている。目だけが笑っていない。
水場で小休止を取っていたらしき軍隊は、確かに奴隷狩りのようであった。木枠の牢の中に、押し込められた人間や獣人たちが、50人はいた。
「というわけで助けに行くんだが、一緒に行く人」
マールが素早く手を挙げて、サージとギグもそれに続いた。年長の二人も、仕方なさそうではあるが手を挙げた。
「いいのか?」
むしろリアの方が驚いたが、ルルーとカルロスは顔を見合わせて苦笑した。
「どうせ止まらないなら、リアの傍にいたほうが安心です」
そう言われてようやく、リアは難しい顔を解いた。
軍隊はこちらに向かって進行してきているので、具体的にどう対処するかの話し合いをすることになった。
「さて、問題がある」
リアが一本指を立てた。問題は複数あるが、一番の問題となるだろうと思うものが、これだった。
「この中で、人を殺したことがある者はいるか?」
そう、それなのである。
軍隊と戦う。しかもここは不死の迷宮の中ではない。正直、レベル的にこちらに被害が出ることは考えにくいが、都合よく死者を出さずに無力化することもできないだろう。
「辺境の盗賊退治で何人か」
カルロスは軍人である以上、経験があった。他の者はない。リアでさえ、迷宮都市で復活を前提とした人殺ししかしていないのだ。
「サージ、大丈夫か?」
わざわざ声をかけたのが、前世日本の常識が、特に人殺しに対する禁忌となっているだろうと思ったからである。
「まあ、遠くから魔法撃ってるよ。慣れるまではね。出来るだけ兵士じゃなく騎士を狙うし」
転生して10年。人間の命が安いこの世界には、なんとか慣れてきている。
それから襲撃の計画を立てた。
目的はあくまで奴隷の確保である。そして下手に解放しても、元の集落に戻ることは難しいだろう。そこまで送らなければいけないという労力がかかる。
「馬と食料は絶対に必要ですね」
カルロスとリアが作戦を立てる。それにサージも顔を出す。
「襲撃するのは夜だな。出来れば同士討ちを狙いたい」
「騎兵は出来るだけ始末しておきたいな。どこかに本隊がいるだろうし」
最低限の糧秣と食料しか用意していなかったのは確認している。
「最初の一撃で強そうなやつはやっつけるよ」
サージの魔法なら、一撃で人は殺せる。鑑定の魔法で確認したが、せいぜいレベルは30程度だった。とても耐えられるものではない。
日が没し、夜の闇の中に宿営の炎が光となって見える。
軍隊の宿営地を見下ろす丘に、リアたちは立っていた。
時刻は深夜までまだ少しあるか。軍隊は歩哨こそ立ててあるが、それほど警戒した様子は見えない。この辺りではそれなりに強力な魔物がいるのだが、無用心なことだ。数を頼んでいるのだろう。
「よし、行くか」
戦士たちに魔法がかかる。馬車と馬はここに置いて、ルドルフを護衛に残す。マールは既に回り込んで、奴隷たちの傍で待機している。
丘をゆっくりと降りていく。金属鎧の音が立たないように、そういった魔法もかけてある。
10数えた時点で、サージとルルーが爆裂火球の魔法を使う。
天幕と、歩哨のための灯火に、火球が炸裂した。
一方的な殺戮だった。
馬に乗って逃げようとする騎兵は、サージが後ろから時空魔法で切り裂いていく。ルルーは集まって組織的に動こうとする集団に、火球の魔法を炸裂させる。
駆け込んだリアたちは、指揮をしようとする騎士を倒していく。一人は残しておく予定だが、都合よく数えておくわけにもいかない。
血と臓物の匂い。そして肉の焼ける匂い。煙が発生し、混乱を助長させる。
「蛮族だ!」
敵が叫んだ。ギグの姿を認めてのものだろう。叫んだその兵士が、ギグの戦鎚で肉塊になる。
カルロスは背後を取られないように、周囲を見回しながら動く。ギグが直情的に動いてしまっているので、それをフォローする。
リアは好き放題に動いているように見えて、相手を選んでいた。何人かは当身で倒し、残りは一合も合わせることなく斬り倒していく。
不思議と冷静な自分に、リアは驚いていた。
戦闘の齎す高揚感というものがない。きわめて機械的に、人を殺していく自分が不思議だった。
どうしてこれほど罪悪感がないのか。殺戮自体はゴブリンやオークで慣れているが、それと人間を同じにしていいものか。
はたと気付く。
人間を奴隷扱いするようなやつらは、こちらも人間として扱わなくていいのだ。
これが戦場であれば、まだしも罪悪感があり、それを打ち消すために精神を高揚させていただろう。
目の前の兵士たちにも生活があり、家族があるのだろうと思っても、その刀が鈍ることはない。
鎧ごと斬ることも出来たが、出来るだけ首筋などの急所を一撃する。苦しませて殺す趣味もない。
マトモな装備もなく、歩兵たちが逃げ出した。その背に向けて、リアは遠慮なく火の矢を放っていった。
既に敵に戦意はなく、どう逃げるかだけを目的としている。歩兵は逃がしてもいいと決めていた。この辺りで逃げ出しても、食料もなく装備もなければ、魔物に襲われて死ぬ可能性も高い。わざわざ捕虜にするつもりはない。
襲撃から一時間もたたないうちに、戦闘は終結していた。
殺し損ねて苦しんでいる敵に、止めをさしてやる。気絶させた騎士を二人、縄で縛って隔離する。
運良く気絶しているだけの兵士がいれば、それはもう放っておく。目的は殲滅ではないのだ。
丘から降りてきたサージが、この惨状を見て嘔吐した。
ルルーも口元を押さえているが、なんとか我慢している。
カルロスはさすがに厳しい顔をしながらも耐えていた。ギグは種族的なものか、さほどこらえた様子はない。
「さて、これからが面倒だな」
リアは呟く。こちらに被害がないのは予定通りだった。だが、問題はここからだ。
馬車に乗せられた奴隷たちを見ながら、リアは深くため息をついた。
途中で小さな村に寄って、頼まれていた物資を届けたり、逆に食料の補充などをしたりした。
魔物は数回襲ってきたが、ルドルフが出張るまでもなく、マツカゼが蹄で経験値に変えていった。
…本当に馬なのか疑問なほどの戦闘力だが、サージの鑑定でも間違いなく種族は馬となっている。
「イベントが足りないと思う」
唐突にサージが言い出した。御者台で立つのはちょっと危ない。
「イベント?」
ギグが問い返す。この旅において退屈しているのは彼も同じだった。なにしろ襲ってくる魔物が弱い。ルドルフの気配で大概は逃げてしまうということもある。
サージはどこか苦悩するかのように、真剣な声で言った。
「そう、たとえば襲われている貴族の馬車を助けてお姫様と仲良しになるとか、そういうイベント」
ああ…とカルロスが苦笑する。馬を合わせてサージに寄せる。
「あったなあ、そういう物語。んで何か問題を抱えていて、それを解決した旅の騎士が、お姫様と結ばれるのがパターンなんだよな」
「そう! せっかくこんな辺境を旅してるんだから、そういうイベントが起こらないとさ」
現実にはそんなことが起こることはない。ここいらにはほとんど貴族の領地などなく、独立した集落が存在するだけだし、もし貴族が馬車で旅をするなら、護衛が必ずつくはずである。
だがそう言ったカルロスに、サージは反論しようのない実例を出した。
「ここに護衛が一人しかいない王女様がいるじゃないか。そういう例外を求めてるんだよ、おいらは」
リアのような無茶な王族が、そうそういても困るのである。
「そんなに暇なら魔法の訓練でもしていればいいだろうに。せっかく新しいスキルを手に入れたんだから」
呆れたようにリアが言う。乗馬しながら剣の訓練は出来ないが、魔法なら馬車の中で出来るだろう。
サージが手に入れた新しいスキルとは、消費魔力軽減というものだ。毎日限界まで魔力を使っていたことにより、このスキルを取得していた。スキルレベルを上げていけば、より少ない魔力で魔法が使えるようになるという、魔法使い垂涎のスキルである。実際ルルーは羨ましかった。
確かに魔法は面白い。特に今は手に入れた魔道書により、日々分かる速度でサージの魔法使いとしての格は上がっている。
だが、ただひたすら修行パートというのも退屈なのである。このあたり、前世があるとはいえ10歳の肉体に精神が引っ張られているのだろう。
元々子供っぽいところもあるのかもしれないが。
「魔法かあ…。そうだね、ちょっと術理魔法と時空魔法を重ねてみて…」
何か琴線に触れたのか、サージはぶつぶつと呟きだした。
これで静かになったか、とうららかな日差しの下、一行は馬を進めるのだが。
「うん、うん、うん…よし」
御者席の横に座ったサージから、薄い魔力が広がっていった。
「あ…」
精霊魔法の訓練をしていたマールが声を上げる。せっかくの精神集中が乱れてしまったのだ。
しかしサージもまた精神を集中していて、己の魔法の効果をたしかめようとしている。
どういう魔法かはなんとなく分かる。魔力を出来るだけ薄く、出来るだけ遠くへ飛ばし、その反射を知ろうというものだろう。魔力探知と空間把握を複合させた、かなり高度な魔法である。
「あれ?」
目を閉じていたサージが、くわっと見開く。
「あ~、この先の森と山を越えたところに、軍隊がいる」
そんな先まで分かるのか、という感心もあったが、軍隊というのが問題である。
「軍隊だと? 何人ぐらいだ? 武装は分かるか?」
リアが確認する。このあたりはどの国家の領土でもないはずだが、部族として軍は持っているかもしれない。
「騎兵が20、歩兵が100で…馬車を4台引いていて、囚人…いや、奴隷かな? それを護送しているみたいなんだけど…」
「コルドバの奴隷狩り!」
突如としてマールが叫んだ。己の忌まわしい記憶と共に、該当する存在を導き出す。
「コルドバ…本当にロクな国じゃないな、あそこは」
頭痛をこらえるような表情でリアが呻く。コルドバは人間至上の軍事国家で、近隣の部族や国家をどんどん併合している。法治国家ではあるのだが、国外の人間を奴隷にすることは禁じられていない。
「どうします?」
難しい顔でカルロスが確認してくる。本来ならば、接触しない方がいい相手だ。
だがリアを知るものとしては、そんな単純な結論が出るとは思っていない。
「リアちゃん…」
マールのつぶらな目に見つめられ、リアの判断は大きく感情の側に寄せられる。
「まずは偵察だな。ちょっと先に行ってくるから」
リアは気合をつけて、マツカゼを走らせた。
「皆殺しにしようかと思ったが、とりあえず偵察だけしてきた」
物騒なことを言うリアの表情は笑みを浮かべている。目だけが笑っていない。
水場で小休止を取っていたらしき軍隊は、確かに奴隷狩りのようであった。木枠の牢の中に、押し込められた人間や獣人たちが、50人はいた。
「というわけで助けに行くんだが、一緒に行く人」
マールが素早く手を挙げて、サージとギグもそれに続いた。年長の二人も、仕方なさそうではあるが手を挙げた。
「いいのか?」
むしろリアの方が驚いたが、ルルーとカルロスは顔を見合わせて苦笑した。
「どうせ止まらないなら、リアの傍にいたほうが安心です」
そう言われてようやく、リアは難しい顔を解いた。
軍隊はこちらに向かって進行してきているので、具体的にどう対処するかの話し合いをすることになった。
「さて、問題がある」
リアが一本指を立てた。問題は複数あるが、一番の問題となるだろうと思うものが、これだった。
「この中で、人を殺したことがある者はいるか?」
そう、それなのである。
軍隊と戦う。しかもここは不死の迷宮の中ではない。正直、レベル的にこちらに被害が出ることは考えにくいが、都合よく死者を出さずに無力化することもできないだろう。
「辺境の盗賊退治で何人か」
カルロスは軍人である以上、経験があった。他の者はない。リアでさえ、迷宮都市で復活を前提とした人殺ししかしていないのだ。
「サージ、大丈夫か?」
わざわざ声をかけたのが、前世日本の常識が、特に人殺しに対する禁忌となっているだろうと思ったからである。
「まあ、遠くから魔法撃ってるよ。慣れるまではね。出来るだけ兵士じゃなく騎士を狙うし」
転生して10年。人間の命が安いこの世界には、なんとか慣れてきている。
それから襲撃の計画を立てた。
目的はあくまで奴隷の確保である。そして下手に解放しても、元の集落に戻ることは難しいだろう。そこまで送らなければいけないという労力がかかる。
「馬と食料は絶対に必要ですね」
カルロスとリアが作戦を立てる。それにサージも顔を出す。
「襲撃するのは夜だな。出来れば同士討ちを狙いたい」
「騎兵は出来るだけ始末しておきたいな。どこかに本隊がいるだろうし」
最低限の糧秣と食料しか用意していなかったのは確認している。
「最初の一撃で強そうなやつはやっつけるよ」
サージの魔法なら、一撃で人は殺せる。鑑定の魔法で確認したが、せいぜいレベルは30程度だった。とても耐えられるものではない。
日が没し、夜の闇の中に宿営の炎が光となって見える。
軍隊の宿営地を見下ろす丘に、リアたちは立っていた。
時刻は深夜までまだ少しあるか。軍隊は歩哨こそ立ててあるが、それほど警戒した様子は見えない。この辺りではそれなりに強力な魔物がいるのだが、無用心なことだ。数を頼んでいるのだろう。
「よし、行くか」
戦士たちに魔法がかかる。馬車と馬はここに置いて、ルドルフを護衛に残す。マールは既に回り込んで、奴隷たちの傍で待機している。
丘をゆっくりと降りていく。金属鎧の音が立たないように、そういった魔法もかけてある。
10数えた時点で、サージとルルーが爆裂火球の魔法を使う。
天幕と、歩哨のための灯火に、火球が炸裂した。
一方的な殺戮だった。
馬に乗って逃げようとする騎兵は、サージが後ろから時空魔法で切り裂いていく。ルルーは集まって組織的に動こうとする集団に、火球の魔法を炸裂させる。
駆け込んだリアたちは、指揮をしようとする騎士を倒していく。一人は残しておく予定だが、都合よく数えておくわけにもいかない。
血と臓物の匂い。そして肉の焼ける匂い。煙が発生し、混乱を助長させる。
「蛮族だ!」
敵が叫んだ。ギグの姿を認めてのものだろう。叫んだその兵士が、ギグの戦鎚で肉塊になる。
カルロスは背後を取られないように、周囲を見回しながら動く。ギグが直情的に動いてしまっているので、それをフォローする。
リアは好き放題に動いているように見えて、相手を選んでいた。何人かは当身で倒し、残りは一合も合わせることなく斬り倒していく。
不思議と冷静な自分に、リアは驚いていた。
戦闘の齎す高揚感というものがない。きわめて機械的に、人を殺していく自分が不思議だった。
どうしてこれほど罪悪感がないのか。殺戮自体はゴブリンやオークで慣れているが、それと人間を同じにしていいものか。
はたと気付く。
人間を奴隷扱いするようなやつらは、こちらも人間として扱わなくていいのだ。
これが戦場であれば、まだしも罪悪感があり、それを打ち消すために精神を高揚させていただろう。
目の前の兵士たちにも生活があり、家族があるのだろうと思っても、その刀が鈍ることはない。
鎧ごと斬ることも出来たが、出来るだけ首筋などの急所を一撃する。苦しませて殺す趣味もない。
マトモな装備もなく、歩兵たちが逃げ出した。その背に向けて、リアは遠慮なく火の矢を放っていった。
既に敵に戦意はなく、どう逃げるかだけを目的としている。歩兵は逃がしてもいいと決めていた。この辺りで逃げ出しても、食料もなく装備もなければ、魔物に襲われて死ぬ可能性も高い。わざわざ捕虜にするつもりはない。
襲撃から一時間もたたないうちに、戦闘は終結していた。
殺し損ねて苦しんでいる敵に、止めをさしてやる。気絶させた騎士を二人、縄で縛って隔離する。
運良く気絶しているだけの兵士がいれば、それはもう放っておく。目的は殲滅ではないのだ。
丘から降りてきたサージが、この惨状を見て嘔吐した。
ルルーも口元を押さえているが、なんとか我慢している。
カルロスはさすがに厳しい顔をしながらも耐えていた。ギグは種族的なものか、さほどこらえた様子はない。
「さて、これからが面倒だな」
リアは呟く。こちらに被害がないのは予定通りだった。だが、問題はここからだ。
馬車に乗せられた奴隷たちを見ながら、リアは深くため息をついた。
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