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~蘇る記憶~
しおりを挟む『ちょ…おまえ…
これはないだろ…。
ただお茶に砂糖混ぜただけじゃ───
「さっ、続きをどうぞ。
何で私がターゲットなわけ?」
『……。』
有無を言わさないあかりの
迫力を前にレンは仕方なく
コップに注がれた砂糖入の
お茶をチビっと飲んで呟く。
『……それは説明するよりも
手っ取り早い方法がある。
…まずい。』
と言ってあかりの前に
すっと手を差し出した。
「何?」
『俺に触れろ。』
「はい?」
『俺に触れればお前の過去の記憶が
蘇る。…はずだ。』
「過去の記憶…?」
『あぁ、ないはずだ。
お前には、小さい頃の記憶が。』
「確かに、そう。
ないわ、でもそんなことで?」
『あぁ。お前の記憶を
封印したのはお前の父親だ。
お前を人間界に送る時に父親が
人間界以外の全ての記憶を
お前自身の中に封じ込めた。
その記憶を呼び起こすには
…父親同様の人種の者が
お前に触れれば良い。
それだけで封印は解かれるはずだ。』
「父親同様って…まるで
私のお父さんが人間じゃ
ないみたいな言い方ね。
私のお父さんは
人間じゃないの…?」
『…そうか。
それすらも消えているのか…。』
少し俯くレン。
と、ふっと顔を上げ、
『お前の父親も、俺も。
………お前も、人間じゃない。』
「!!!?
わた、しも…?
私って私…?」
あまりに衝撃的な言葉すぎて
ついていけない。
今まで人間として過ごしてきた
あかりにとってこの事実は
あまりにも大きかった。
『そうだ、佐々木あかり。
おまえだよ。
まぁ正確に言えば
純粋な人間じゃないと言うべきか。
おまえ…。あかりの
母親は人間だが…。
父親は魔人族、つまり
あかりは人間と魔人の
ハーフだ。』
「そんな…。
ついてけないわ…。
えっ私ハーフだったんだ…。
魔人族てあまり聞こえよくないけど
悪い人だったの?」
『いや、むしろその反対だ。
世界のあちこちで、禁じられて
いるとはいえ、暴れ回ったり
他の世界に介入しようと
力をつけたりするやつが
必ず現れる。
魔人族はそんなやつらを
抑えるのが昔からの決まりだった。
そして、その魔人族の頂点に
いたのがあかりの父親だったんだ…。』
「じゃあ…私は元々ここ(人間界)の
住人じゃないのね…?」
『あぁ、元々は魔人界にいた。
…ここまで、大丈夫か?』
「大丈夫かと聞かれたら
……大丈夫じゃないわね、
叫びたいくらいに
意味がわからないわ。」
『そうだろうな。
それも、俺に触れて過去を
思い出せばわかる。』
すっと、また差し出された手。
「…信じられないけど…。
とにかくこのままじゃ
私殺されちゃうのよね…。」
『あぁ、守ってやると
言ったが、それはまず
記憶を取り戻してからだ。
でないと話が進まない。』
「……。」
ゴクっと喉を鳴らし
レンの手に自分の手を
重ねる。
…と、その瞬間。
ブワッと自分の中で何かが
はじけた様な、不思議な
感覚に包まれた。
何故かはわからないが
いろんな人が自分の目に映り
あかりに喋りかけてくる。
───あかり、お前は
父さんの宝だ────
────いい?
どんな時でも決してこれを
肌身離さず持ってるの。
あかりのことを守って
くれるからね────
────あかりは
優しい子だね。
あかりのことを
パパもママもだいすきだよ。
そのことを忘れないで────
そうだ、この人が私の
お父さんとお母さんだ。
今、思い出した。
お父さんは魔人族の頂点に立つ男。
人間界で母と出逢い、
恋をして産まれたのが私。
お父さんは普段姿を見せることはない。
だけど合間を縫って
お母さんと私に会いにきてくれてた。
そんな2人がだいすきで、
寂しいことなんてなかった。
だってお母さんがいるし、
レンがいる。
レンはずっと私のそばにいて
楽しいことも悲しいことも嬉しいことも
全部一緒に経験してきた。
そしてあの言葉…
────約束だ。
絶対に、お前を守る────
そう言ってくれたのは
目の前にいるレンだったんだ。
今より少し幼い。
とても真剣な表情で
私を見つめている。
「そう…。
あの夢に出てくる人は
あなただったのね…。」
ボソっと呟くと同時に
目を開くあかり。
頬には自然と涙が流れていた。
『…思い出せたか?』
「…まだ何となく
ぼんやりだけど…。
そのうちハッキリして
くると思う。
レンは、小さい頃から
私を守ってくれてたのね。」
『あぁ…。
久しぶりだな、レンて
呼ばれるの。
…自分が何でターゲットに
なっているのか、わかったか?』
「いえ…それはまだ
よくわからない…。
お父さんが関係しているの?」
『そうだな。
あの日…あかりが
父親と最後にあった日…。
何故父親はあかりの
記憶を消したと思う?』
「それは、人間界で
人間として暮らすため…?」
『じゃあ何で人間界に
送った?』
「それは…何でだろう。」
『小さい頃だったから
覚えてないだろうが
あの時、あかりの父親は
ある者を倒すために
魔人界を離れることになった。
…相手は全ての世界を
我がものにしようと
いろんな禁忌を犯していたやつだ。
そのまま放っておけば
この人間界もすでに
滅んでいただろうな。
自分達がその悪の根源を
根絶やしにするためには
魔人族と関わりのある
あかりも母親も平和な世界に
移る必要があった。
魔人族のいないところでは
いつ危険が及ぶか
わからなかったからな。
これが人間界に送った理由…。』
そして、もう一つ。と
話を続ける。
『あかりの記憶を消したのは
人間界で暮らすためってのも
あるが、それだけじゃない。
あかり自身が自分の意思で
魔人界に戻ってくることを
恐れたからだよ。』
「私の意思で?
私が思えば魔人界に行けるの?
今も?」
『行ける。
今まで人間として暮らしてきたから
信じられないだろうが
あかりは半分は魔人の血が
流れてる…。
その証拠に…。』
キョロキョロと辺りを見回し、
目的のものを見つけると
ほら、と私に渡した。
「これって鏡…。」
『自分の顔を覗いてみな。』
レンに言われて鏡を
自分の前に持ってくる。
「えっ…。
これって…。」
『あかりにも魔人族にしかない
力があるんだよ。』
あかりの見つめるその先には、
右目が緑色に怪しく光る、
あかりの姿が映っていた。
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