「婚約破棄させてやる……」最低王子が企むも、純粋な公爵令嬢にその手は効かない。

オコムラナオ

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怒りと期限(ペドロル視点)

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「ねぇ。計画はうまくいってるの」
「ああ。もうしばらくの辛抱だよ」
 私はパトンの額にキスをした。

 酔った勢いで、計画のことをそれとなく話してみたのだ。私の体裁を一切傷つけることなく、あちら側から婚約を破棄させる方法のことを。
 私が考えた内容に、パトンは「すごい!それなら確かにうまくいきそうね!」とはしゃいだ。
 そう、私の計画は間違っていない。しかし二ヶ月も経って、何の進展もないとはどういうことだ。

「ねぇ。やっぱりうまくいってないの?」
 パトンの不安げにうるうるとした目が、私の方に向けられている。

「全てうまくいっているから、安心して待ってろよ」
「はい」


 私はアルダタを部屋に呼び出した。

「もう二ヶ月が経った。どこまでいったんだ」
「どこまでとは、どういう……」
「だから、マリルノとの関係性をどこまで深められたのかっていうことだよ!」
 声を荒げると、アルダタは身を縮めた。

「なんとか言ったらどうなんだ」
「……申し訳ありません」
「謝るだけじゃわからないだろう。今、どういう状況になっているのか、わかるように説明しろ」
「かしこまりました」

 アルダタから報告を聞いて、私は開いた口が塞がらなかった。
 進展が全くない、だと……?
 ではこの二ヶ月もの間、この役立たずは何をしていたと言うのだろう?
 アルダタは一冊のノートを差し出してきた。表紙には下手くそな字で、「アルダタ」と書かれている。

「なんだこれは」
「この二ヶ月、私がマリルノ様に教えていただいたことです」

 パラパラとページをめくる。字の反復練習、簡単な数字の計算。

「こんなものになんの意味があるんだ!」
 私はそのノートを、アルダタに投げつけた。
 アルダタにぶつかり、ノートは床に落ちた。
 アルダタは動かなかった。

 私は立ち上がってアルダタに近づき、そして言った。
「お前の母親がどうなってもいいのか」

 アルダタの顔がかたくなった。
 よし。この条件はやはり効いている。

「それと、もしこの話を誰かにばらしたりしたらどうなるか」
 私はポンと、アルダタの肩に手を置いた。
「分かっているな」

「心得ております」
 アルダタは胸に手を当てて敬礼した。

「よろしい」
 私は彼の方から手を離した。
「しかしいつまでもぐずぐずやっていてはきりがない。期限を設けることにしよう」
「期限……」
「そうだな」
 私は顎を指で触りながら考えた。

「一ヶ月にしよう。わかるか? 昨日ちょうど、月が大きく膨らんでいたろう。これからは毎晩月を確認しろ。あの月は一度萎んで、それから膨らむ。そして元の大きさに戻るまでに、お前はマリルノの心を奪わなくてはならない。マリルノの口から、私との婚約を解消することを望んでいると、そう言わせなくてはならない」

 アルダタの顔が苦しそうに歪んだ。

「もし出来なければ、泥は全てお前に被ってもらう」
「分かりました」

 アルダタの目が怪しく光った。
 間違いない。こいつならやれる。

 未来の婚約者よ、待っていてくれ。
 あと少しで、君は私のものになる。
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