「婚約破棄させてやる……」最低王子が企むも、純粋な公爵令嬢にその手は効かない。

オコムラナオ

文字の大きさ
19 / 107

どうして、今(アルダタ視点)

しおりを挟む
 その後の記憶ははっきりとしない。

 おぼろげながら覚えているのは、叔父が何度も私に謝ったこと。私はそれに対して「いいんです」「叔父さんは悪くないんです」とうわ言のように繰り返していたこと。

 そして気が付くと、私は一人で町を歩いていた。

 叔父とはどのような別れ方をしたのだろう。正気を失った私は、彼を傷つけるような言葉を並べなかっただろうか。あるいはこの手で暴力をふるったり、そんな八つ当たりめいたことをしてはいないだろうか。

 不安に思ったが、しかし他人事のようだとも感じた。

 もう、どうだっていいんだ。

 私がこれまでやってきたことは、全て無駄なことだったのだから。


 ぐるぐるとあてどなく、町の中を歩いた。今頃、屋敷ではタラレッダが怒っているかもしれない。

『仕事を放り出して、あの男はどこへ行ったんだい!』

 そんな声が頭の中で響いた。しかしその声も、もはやどうでもいいのだという気持ちにかき消された。
 私にはもう骨身を削って働く必要などない。タラレッダや、他の使用人たちには申し訳ないけれど。

 もう、疲れた。


 人混みを避けていたためか、町の外れへ、町の外れへと進んでいた。

 日頃はペドロル様の屋敷からほとんど出ることがないから、町の中の道がほとんど分からない。大通りを外れると、もはや見知らぬ町を歩いている異邦人の気持ちだった。

 日が傾き始め、このままだと帰れなくなるかもしれないと思った。

 いや。
 どこに帰るというのだろう。

 そもそも私にはもう、帰るべき場所がないのだ。

 
 ごみごみした建物を抜けてだだっぴろい空き地に出た。
 町を出てしまったのだろうか、と私は思った。

 空は暗くなり始めていた。
 空き地の向こうに、建物の影が見えた。

 私は考えもなく、ふらふらその建物に近づいた。

 その時、犬の鳴き声が聞こえた。
 段々近づいてくる。私はその声の方を見た。

「アルダタさん?」
 こちらに向かって走ってきたのは、犬だけではなかった。

「なぜあなたがここに……?」
 私は思わず呟いた。

 どうしてこんなタイミングで、あなたは私の前に現れたのですか。

 私はどんな顔をして、あなたに会えばよいのですか。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

捨てられた者同士でくっ付いたら最高のパートナーになりました。捨てた奴らは今更よりを戻そうなんて言ってきますが絶対にごめんです。

亜綺羅もも
恋愛
アニエル・コールドマン様にはニコライド・ドルトムルという婚約者がいた。 だがある日のこと、ニコライドはレイチェル・ヴァーマイズという女性を連れて、アニエルに婚約破棄を言いわたす。 婚約破棄をされたアニエル。 だが婚約破棄をされたのはアニエルだけではなかった。 ニコライドが連れて来たレイチェルもまた、婚約破棄をしていたのだ。 その相手とはレオニードヴァイオルード。 好青年で素敵な男性だ。 婚約破棄された同士のアニエルとレオニードは仲を深めていき、そしてお互いが最高のパートナーだということに気づいていく。 一方、ニコライドとレイチェルはお互いに気が強く、衝突ばかりする毎日。 元の婚約者の方が自分たちに合っていると思い、よりを戻そうと考えるが……

P.S. 推し活に夢中ですので、返信は不要ですわ

汐瀬うに
恋愛
アルカナ学院に通う伯爵令嬢クラリスは、幼い頃から婚約者である第一王子アルベルトと共に過ごしてきた。しかし彼は言葉を尽くさず、想いはすれ違っていく。噂、距離、役割に心を閉ざしながらも、クラリスは自分の居場所を見つけて前へ進む。迎えたプロムの夜、ようやく言葉を選び、追いかけてきたアルベルトが告げたのは――遅すぎる本心だった。 ※こちらの作品はカクヨム・アルファポリス・小説家になろうに並行掲載しています。

【12月末日公開終了】これは裏切りですか?

たぬきち25番
恋愛
転生してすぐに婚約破棄をされたアリシアは、嫁ぎ先を失い、実家に戻ることになった。 だが、実家戻ると『婚約破棄をされた娘』と噂され、家族の迷惑になっているので出て行く必要がある。 そんな時、母から住み込みの仕事を紹介されたアリシアは……?

悪役令嬢として断罪? 残念、全員が私を庇うので処刑されませんでした

ゆっこ
恋愛
 豪奢な大広間の中心で、私はただひとり立たされていた。  玉座の上には婚約者である王太子・レオンハルト殿下。その隣には、涙を浮かべながら震えている聖女――いえ、平民出身の婚約者候補、ミリア嬢。  そして取り巻くように並ぶ廷臣や貴族たちの視線は、一斉に私へと向けられていた。  そう、これは断罪劇。 「アリシア・フォン・ヴァレンシュタイン! お前は聖女ミリアを虐げ、幾度も侮辱し、王宮の秩序を乱した。その罪により、婚約破棄を宣告し、さらには……」  殿下が声を張り上げた。 「――処刑とする!」  広間がざわめいた。  けれど私は、ただ静かに微笑んだ。 (あぁ……やっぱり、来たわね。この展開)

出来損ないの私がお姉様の婚約者だった王子の呪いを解いてみた結果→

AK
恋愛
「ねえミディア。王子様と結婚してみたくはないかしら?」 ある日、意地の悪い笑顔を浮かべながらお姉様は言った。 お姉様は地味な私と違って公爵家の優秀な長女として、次期国王の最有力候補であった第一王子様と婚約を結んでいた。 しかしその王子様はある日突然不治の病に倒れ、それ以降彼に触れた人は石化して死んでしまう呪いに身を侵されてしまう。 そんは王子様を押し付けるように婚約させられた私だけど、私は光の魔力を有して生まれた聖女だったので、彼のことを救うことができるかもしれないと思った。 お姉様は厄介者と化した王子を押し付けたいだけかもしれないけれど、残念ながらお姉様の思い通りの展開にはさせない。

さようなら、たったひとつの

あんど もあ
ファンタジー
メアリは、10年間婚約したディーゴから婚約解消される。 大人しく身を引いたメアリだが、ディーゴは翌日から寝込んでしまい…。

悪役令嬢に転生したと気付いたら、咄嗟に婚約者の記憶を失くしたフリをしてしまった。

ねーさん
恋愛
 あ、私、悪役令嬢だ。  クリスティナは婚約者であるアレクシス王子に近付くフローラを階段から落とそうとして、誤って自分が落ちてしまう。  気を失ったクリスティナの頭に前世で読んだ小説のストーリーが甦る。自分がその小説の悪役令嬢に転生したと気付いたクリスティナは、目が覚めた時「貴方は誰?」と咄嗟に記憶を失くしたフリをしてしまって──…

聖女解任ですか?畏まりました(はい、喜んでっ!)

ゆきりん(安室 雪)
恋愛
私はマリア、職業は大聖女。ダグラス王国の聖女のトップだ。そんな私にある日災難(婚約者)が災難(難癖を付け)を呼び、聖女を解任された。やった〜っ!悩み事が全て無くなったから、2度と聖女の職には戻らないわよっ!? 元聖女がやっと手に入れた自由を満喫するお話しです。

処理中です...