「婚約破棄させてやる……」最低王子が企むも、純粋な公爵令嬢にその手は効かない。

オコムラナオ

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猫のように(アルダタ視点)

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 私のことを、心底軽蔑してもらわなければならなかった。
 
 二度と私の顔なんてみたくない。そう思ってもらわなければならなかった。

 私はちゃんと、マリルノ様に嫌われることができただろうか。


 大した傷ではないと思ったが、思ったよりも血が流れたらしい。

 段々と、視界が悪くなっている気がする。いや、これはただ、時間が夜に向かっているだけなのだろうか。

 空を見ると、月がある。ああ、いつの間にか、ほとんど満月になっている。ペドロル様に与えられた期限。
 
 しかし最初から、私は騙されていたのだ。
 
 ペドロル様は私の母が亡くなったことを知っていた。
 知っていた上で、叔父に口止めし、私に交換条件を出した。

 最初からあの人は、私の手助けをするつもりなんてなかったのだ。

 マリルノ様のような誠実な人を騙そうとした報いなのだろう。

 やはり私を導いて面白がっていたのは、神ではなく、悪魔だった。


 私の頭に、猫の姿が浮かんでくる。

 ああこれは、昔、私の母が世話をしていた猫だ。

 黒いという理由で、近所の子たちからは石を投げられていた猫。

 悪魔の使いだ、不吉だなどと言われて。

 母だけが、我が子のようにその猫を可愛がっていた。

 そしてその猫が家の周りで姿を見せなくなると、母だけがその子を探した。

 家の近くにあった森の、ある大きな木の陰で猫は倒れていた。

 眠っているのかと思うほど、外傷のない状態で。

「私たちを悲しませないようにしてくれたんだよね……」

 母はその木の下に、猫を埋めてやった。

 
 みんないなくなる。

 猫も。母も。


 そういえばちょうど、これくらいの高さの木じゃなかっただろうか。

 私が背中を預けると、その木はひんやりと冷たく、心地が良かった。
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