「婚約破棄させてやる……」最低王子が企むも、純粋な公爵令嬢にその手は効かない。

オコムラナオ

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賢い者(マリルノ視点)

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「マリルノ様、マリルノ様!」

 誰かに呼ばれています。

 目を開けると、私の顔を覗き込んでいたのは、御者のパージさん、そしてペドロル家のお屋敷で働かれているタラレッダさんのお二人でした。

 彼らの背後からぶるぶる、ぶるぶると音がして、見るとそれはパージさんの馬車に繋がれた、立派な二頭の馬でした。

「おい、目を開けたぞ……」と呟くパージさん。

「マリルノ様、私の声が聞こえてますか!」
 タラレッダさんは抱きかかえた私の体を強く揺さぶりました。

「は、はい」
 タラレッダ様の鬼気迫る様子に驚きつつも、私は答えました。
「あれ、私……」

「ここに倒れられてましたよ。大丈夫ですか。何があったのですか?」

 ……。

 そうでした! 私、急にお腹がきりきりと痛くなって……

 いえ、そんなことより!

「私は大丈夫です。
 それより、アルダタさんが怪我されたのです!

 私がアルダタさんを怒らせてしまったばっかりに、バウが……そこにいる私の飼い犬が、彼のことを噛んでしまったんです。

 それで彼は血を流して……ど、どうしましょう!」

「落ち着いてください、マリルノ様」
 タラレッダさんが強い口調で言いました。
「アルダタは今、どこにいるのですか?」

「わっ、分からないです。そのままどこかへ行かれてしまって……」

 本当にどうしましょう!

 バウウェルが私に近寄ってきました。
「バウ、バウッ!」
 タラレッダさんとパージさんを押し退けて、私に鼻をぶつけてきます。

「ちょっとバウちゃん。どうしたの。私は大丈夫よ?」
 
 しかしバウウェルは私から離れません。どうしたんだろう、とても賢い子で、普段は私の言うことが分かっているような素振りを見せるのに……

 するとバウウェルは、私の手に握られていたものを咥え、引っ張りました。
「あ、ちょっと!」
 バウウェルが私の手から奪ったのは、ハンカチでした。しかしそれは、もうほとんどハンカチには見えません。
 私が強く握りすぎていたためしわくちゃになり、乾いた血で黒ずんでいました。

 バウウェルは私に示すように、そのハンカチの上でふんふんと鼻を鳴らしました。
 そして私の方を一瞥すると、地面に鼻を這わせながら、てくてく歩き始めたのです。

「それ、アルダタの血ですか? この子、もしかして……」
 呆気にとられた様子でバウウェルを指差すタラレッダさんに、私は強く頷き、言いました。

「ついていきましょう」

 

 


 

 

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