「婚約破棄させてやる……」最低王子が企むも、純粋な公爵令嬢にその手は効かない。

オコムラナオ

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痛みに勝る感情(マリルノ視点)

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 パージさんの馬車は、屋敷から出て、それほど走らないうちに止まりました。

「着きましたよ」

「はい」

 外を見てみると、そこは私の家から目と鼻の先に建っている社交場のうちの一つでした。

「マリルノ様、お体は本当に問題ないのですか」

 パージさんが、私が馬車から降りることに手を貸してくださりながら、尋ねてこられました。

「大丈夫です」

 私はにっこりと笑いました。

 まだお腹がきりきり痛む感覚はありました。
 しかし私の胸の中は、別の感情が強く湧き上がっていました。

 怒り。




 アルダタさんの治療が済んだと聞いてひと安心していた私に、タラレッダさんはある話を打ち明けられました。

 その話とは、アルダタさんのこれまでの行いは全て、私の婚約者に命じられてやっていたことだという、信じられないような内容のものでした。

 しかしそれを耳にしたとき、私には、妙に腑に落ちる感覚があったのです。

 自分でも知らず知らずのうちに抱いていた婚約者への不信感。

 タラレッダさんの話を聞いて、私はこれまで何とか婚約者の良い面だけを見ようと、自分で自分を騙していたのだと気がつかされました。

 そして聞いた話が本当なのだとすれば、私の婚約者はアルダタさんに、とても卑劣で、人として許されない行為を働いたことになると思いました。

 私が騙されるのはまだいいです。

 でも私との関係をなるべく自分が損をしない形で終わらせるという目的が理由で、アルダタさんの大切なお母様の死を利用するなんてこと、絶対に許されるはずがありません。

 パージさんがこれから会いに行くのだと聞いて、私はすぐに連れていってくださいとお願いしました。




 本当は、タラレッダさんから聞いた話が、全て噂や誤解に過ぎないものであってほしい。

 私は未練がましく、馬車に揺られながらそう考えていました。

 でも婚約者の顔を一目見た瞬間に、「ああ、本当だったんだ」と、痛いくらいにわかってしまいました。



 パージさんが待ち合わせ場所と指定された会館の裏口。時間に随分と遅れて中から出てきたのは、酒に顔を赤らめて、私が知らない女性と腕を組んでいる婚約者でした。

 そして私と目があった瞬間、彼は「しまった」という顔をしたのです。

 その顔を見た瞬間に、私の彼に対する最後の信頼は消えてなくなりました。

「お話があります」

 私は迷いなく、彼に告げました。

「私との婚約関係をなかったことにしてください」
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