「婚約破棄させてやる……」最低王子が企むも、純粋な公爵令嬢にその手は効かない。

オコムラナオ

文字の大きさ
93 / 107

言葉の放棄(ジョルジュ、レピシ)

しおりを挟む
レピシの頭が、どろりと溶ける溶岩のように熱を持った。

そしてダイナの深い声が、耳の奥で、何度も繰り返し、反響した。

「言葉を使っていた時、彼らは自分たちのことをこう呼んだ。

『ダパスィージョア』。

彼らの言葉で、「誠実であろうとする人々」という意味だ。

何世代、何十世代も昔の話だ。

しかし、ダパスィージョアたちの大半はその間に言葉を捨てたから、この呼び名を使う者はいなくなった。

一方で、もともとダパスィージョアの仲間でありながら、言葉を捨てなかった者たちも、少数派ではあったが存在はしていた。

彼らは言葉ではなく、言葉を扱うことをやめた多数派の人々と決別した。

そして新たに住む場所を求め、より人間の生存に適した南へと移動し、そこにもともと住んでいた人たちと争ったり、関係を深めたりして、生き延びていった。

言葉を捨てたダパスィージョアたちは、自然をあるがままに受け入れるような生き方となり、必然的に、自然の中で暮らす獣に近づいた。

少数派の、言葉を捨てなかったダパスィージョアたちの生き方は、より人間らしくなった。

言葉は知恵を蓄積し、文化を花開かせた。

しかし言葉は、使う人間全てに幸せをもたらす万能の道具ではない。

言葉を捨てることに決めたダパスィージョアたちが恐れていたこと。それが言葉を持ち続けることを選んだ末裔たちの間で、予言された呪いのように起こった。

知恵は、より高度でより悲惨な奪い合い・騙し合いを。

文化は、人々の間に必要のない溝を。

言葉はより多くの人々を効果的に結びつけ、そうして出来上がった集団と、また別の言葉によって結びついた集団が、徹底的に排他し合うようになった。

そういうことが、至る所で起こった。

そして個々人を過剰に結びつけてしまう言葉は、その目的のために最も効果的で、決して生み出してはならないものを誕生させた」

レピシの頭の中で、ダイナの言葉が呪文のように響いていた。

熱い。

グラグラする。

快楽の波が押し寄せてくる。

そして辛い。

意識が霞む。

「それは……なんですか……?」

ただ答えを知りたい強い欲求で、うまく動かない体を制御し、なんとか言葉を発する。

ダイナは実験動物の観察者のように、冷徹な目で、レピシのことを眺め、言った。

「神だよ」
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

捨てられた者同士でくっ付いたら最高のパートナーになりました。捨てた奴らは今更よりを戻そうなんて言ってきますが絶対にごめんです。

亜綺羅もも
恋愛
アニエル・コールドマン様にはニコライド・ドルトムルという婚約者がいた。 だがある日のこと、ニコライドはレイチェル・ヴァーマイズという女性を連れて、アニエルに婚約破棄を言いわたす。 婚約破棄をされたアニエル。 だが婚約破棄をされたのはアニエルだけではなかった。 ニコライドが連れて来たレイチェルもまた、婚約破棄をしていたのだ。 その相手とはレオニードヴァイオルード。 好青年で素敵な男性だ。 婚約破棄された同士のアニエルとレオニードは仲を深めていき、そしてお互いが最高のパートナーだということに気づいていく。 一方、ニコライドとレイチェルはお互いに気が強く、衝突ばかりする毎日。 元の婚約者の方が自分たちに合っていると思い、よりを戻そうと考えるが……

P.S. 推し活に夢中ですので、返信は不要ですわ

汐瀬うに
恋愛
アルカナ学院に通う伯爵令嬢クラリスは、幼い頃から婚約者である第一王子アルベルトと共に過ごしてきた。しかし彼は言葉を尽くさず、想いはすれ違っていく。噂、距離、役割に心を閉ざしながらも、クラリスは自分の居場所を見つけて前へ進む。迎えたプロムの夜、ようやく言葉を選び、追いかけてきたアルベルトが告げたのは――遅すぎる本心だった。 ※こちらの作品はカクヨム・アルファポリス・小説家になろうに並行掲載しています。

【12月末日公開終了】これは裏切りですか?

たぬきち25番
恋愛
転生してすぐに婚約破棄をされたアリシアは、嫁ぎ先を失い、実家に戻ることになった。 だが、実家戻ると『婚約破棄をされた娘』と噂され、家族の迷惑になっているので出て行く必要がある。 そんな時、母から住み込みの仕事を紹介されたアリシアは……?

悪役令嬢として断罪? 残念、全員が私を庇うので処刑されませんでした

ゆっこ
恋愛
 豪奢な大広間の中心で、私はただひとり立たされていた。  玉座の上には婚約者である王太子・レオンハルト殿下。その隣には、涙を浮かべながら震えている聖女――いえ、平民出身の婚約者候補、ミリア嬢。  そして取り巻くように並ぶ廷臣や貴族たちの視線は、一斉に私へと向けられていた。  そう、これは断罪劇。 「アリシア・フォン・ヴァレンシュタイン! お前は聖女ミリアを虐げ、幾度も侮辱し、王宮の秩序を乱した。その罪により、婚約破棄を宣告し、さらには……」  殿下が声を張り上げた。 「――処刑とする!」  広間がざわめいた。  けれど私は、ただ静かに微笑んだ。 (あぁ……やっぱり、来たわね。この展開)

出来損ないの私がお姉様の婚約者だった王子の呪いを解いてみた結果→

AK
恋愛
「ねえミディア。王子様と結婚してみたくはないかしら?」 ある日、意地の悪い笑顔を浮かべながらお姉様は言った。 お姉様は地味な私と違って公爵家の優秀な長女として、次期国王の最有力候補であった第一王子様と婚約を結んでいた。 しかしその王子様はある日突然不治の病に倒れ、それ以降彼に触れた人は石化して死んでしまう呪いに身を侵されてしまう。 そんは王子様を押し付けるように婚約させられた私だけど、私は光の魔力を有して生まれた聖女だったので、彼のことを救うことができるかもしれないと思った。 お姉様は厄介者と化した王子を押し付けたいだけかもしれないけれど、残念ながらお姉様の思い通りの展開にはさせない。

さようなら、たったひとつの

あんど もあ
ファンタジー
メアリは、10年間婚約したディーゴから婚約解消される。 大人しく身を引いたメアリだが、ディーゴは翌日から寝込んでしまい…。

悪役令嬢に転生したと気付いたら、咄嗟に婚約者の記憶を失くしたフリをしてしまった。

ねーさん
恋愛
 あ、私、悪役令嬢だ。  クリスティナは婚約者であるアレクシス王子に近付くフローラを階段から落とそうとして、誤って自分が落ちてしまう。  気を失ったクリスティナの頭に前世で読んだ小説のストーリーが甦る。自分がその小説の悪役令嬢に転生したと気付いたクリスティナは、目が覚めた時「貴方は誰?」と咄嗟に記憶を失くしたフリをしてしまって──…

聖女解任ですか?畏まりました(はい、喜んでっ!)

ゆきりん(安室 雪)
恋愛
私はマリア、職業は大聖女。ダグラス王国の聖女のトップだ。そんな私にある日災難(婚約者)が災難(難癖を付け)を呼び、聖女を解任された。やった〜っ!悩み事が全て無くなったから、2度と聖女の職には戻らないわよっ!? 元聖女がやっと手に入れた自由を満喫するお話しです。

処理中です...