「婚約破棄させてやる……」最低王子が企むも、純粋な公爵令嬢にその手は効かない。

オコムラナオ

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悲劇の発明(ジョルジュ、レピシ)

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神……

「何がどう間違って伝わったか、ダパスィージョアというのは、いつしか賢明で誠実な人々の自称などではなくなった。

それは崇めるべき神の……崇めるべき救世主の名前になったのだ。

愚かな人々は気がついていない。

神が人を救うために存在するというのならば、なぜそれを守るための悲劇が繰り返されているのか。

疑問は他にもある。

この世は別の場所に存在する理想郷に生まれ直すための、仮の世界に過ぎないのか。

肉体は魂を扱う仮の容れ物に過ぎず、失われても構わないものなのか。



これほど素晴らしい、調和のとれた世界を前にしても、人は言葉によって簡単に欺かれる。

その世界、自然から切り離され、ありもしない別の理想郷のために喜んで自分の授かった生を犠牲にするようになる。

『ダパスィージョア』は今や、自然と共に生きる人々のことをささない。

存在などしない架空の救世主を示し、そのために人々を死へと駆り立てる、愚劣なシンボルと化してしまった。

『ダパスィージョア』から、『ダパス』という呼び名に変わって」

レピシの体は、限界だった。

おりてくる瞼を支えることさえ難しく、それどころか、椅子に座っていることも難しく、ふらふらと右へ左へと揺れる。

「長い話をして悪かったな。

だが君たちに飲んでもらった毒は、回るまでに少々時間がかかるものだったからな。

『毒が回るまで、大人しくここで待っていてくれないか』なんて頼むわけにもいかないし、君たちを退屈させないためには、私の話を聞いてもらうのがよかろうと思ってな」

レピシは強い驚きと恐怖を感じながら、残り僅かな意志で、ジョルジュの方を見る。

彼はもうとっくに、椅子から落ちて、床に倒れていた。

『全く気がつかなかった。一体、いつから……』

「覚えておくといい。

言葉は本来、嘘をつくための道具だ。

言葉によって媒介されるすべての意味が、まやかしであると言っても構わないくらいだ。

この世に純粋な真実があるのだとすれば、それは全て、言葉にはならないところにあるのだと私は確信しているよ」

レピシは椅子から崩れ落ちた。

彼の意識は、彼の体が地面に打ち付けられる前にぷつりと途絶えた。
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