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途絶えた手紙(マリルノ視点)
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「ちょっと、マリルノ。
私の話、聞いてる?」
親友のスコッテにそう言われ、私ははっとしました。
「えっと、ごめんなさい。何の話でしたか?」
「もー。
次の休み、どこか行こうよって話。前からしてたでしょう?」
「あっ、そうでしたね」
「そうだよ。でね、私が行きたいのはね……」
放課後。
学期が始まってから最初の長期休暇が近づいてきており、スコッテだけでなく、教室の中全体に、楽しげな雰囲気が漂っていました。
私も、何とかスコッテの話を聞き、一緒に休暇が来るまでのわくわくを共有したいと思うのですが、なかなかうまくはいきません。
気になることがあるとき、自分の意識をそれからうまく逸らすこと。私にとって、うまくできないことの一つです。
「マ、リ、ル、ノ!」
私はその声で、我に返りました。
口をへの字に曲げた親友の顔が目の前にあります。
「あっ、ごめんなさい、私また……」
「もういいよ。この話はまたにしよう。私、今日は美術室に用があるから、もう行くね」
「スコッテ……」
そう言うとスコッテは、すたすたと教室を出て行ってしまいました。
「ああ……」
私は自分の不甲斐なさに、思わず頭を抱えてしまいました。
一生懸命してくれていた話を、二度も聞き逃すなんて。
これでは友人失格です。
私はがっくりと肩を落として、家へと向かう馬車に乗りました。
頭の中ではスコッテの傷ついた顔が浮かびます。はぁ、とまた無意識のうちに、ため息がこぼれてしまいました。
どうしてスコッテの話に集中することができなかったか。その原因は、自分でもよくわかっています。
ずっと続いていた彼からの手紙が、ここしばらく、急になくなってしまったからです。
彼というのはもちろん、ナテナ国に調査へ行っている、アルダタさんのことです。
最初は、アルダタさんの手紙を一方的にもらうばかりでした。事前にアルダタさんにも、「返事はなくて大丈夫ですからね」と言われていたのです。
しかし手紙を多くいただいていくうちに、私もだんだんと返事をしたいという気持ちになりました。
それで、思い切って、アルダタさんの手紙に押された判、そこに表記された配達屋さんの住所に手紙を送ったのです。
するとアルダタさんは、手紙を受け取ることができましたと感謝の言葉を書いてくださり、そこからは私の方からも手紙を送るようになりました。
アルダタさんから一方的に手紙をいただく間は、ナテナのことをよく知ることはできたのですが、私の気持ちをお伝えすることはできませんでした。
そのため会話をしているというよりも、お話を聞かせていただいているという気持ちでした。
それでもアルダタさんが書いてくださる内容が興味深かったので、面白く読ませていただいてはいたのですが。
しかしこちらからも手紙をお返しするようになると、その内容は変わりました。
私の言葉に彼が反応し、彼の言葉に私が反応し。
少しだけ調査報告のようでもあった手紙が、二人の間での会話に変わりました。
アルダタさんの声が聞こえ、アルダタさんの微笑みが目に浮かび。
まるで隣にいるかのように、アルダタさんのことをより近くに感じられるようになったのです。
私にとって、こんなに幸せなことはありませんでした。
だから手紙が来なくなったことに、私はずっしりと重いものを感じてしまいました。
もしかして私が送った言葉が、思わぬ形で彼を傷つけてしまったのではないか。
私の返事によって会話の内容が制限され、彼は自分の話したいことを話すことができず、窮屈さを感じ、書くのが嫌になったのではないか。
これまでの、彼からだけの一方向的な手紙であれば、たぶんこんなことは思わなかったはずです。
「お仕事が忙しくなったのかな?」とか、「書きたいことが見つからなかったのかな」とか。
そんな風に思ったと思います。
でも、やりとりする形になってからでは、そうはいかない。
私の言葉が、彼に影響を与えてしまっている可能性があるからです。
手紙が来なくなってから、私の頭の中にはずっとそのような憂鬱な考えが回っていました。
もちろん言い訳に過ぎないのですが、親友であるスコッテの話に集中できなかった裏には、このような心配事があったのでした。
「マリルノお嬢様」
屋敷の前につくと、お手伝いのピペさんに呼び止められました。
『まさかっ……』
「て、手紙! 手紙ですか?」
私は思わず、彼女に詰め寄ってしまいました。
すると彼女は悲しげな顔をして、私にあるものを差し出してきました。
お手伝いのピペさんさんが差し出してきたもの。
それはすでに、私が送ったはずの手紙でした。
「これ……どうして?」
私は裏を見て、気が付きました。
手紙には、預かり期限切れによる返却印が押されていました。
「向こうの方が、お受け取りできなかったみたいで……」
ピペさんは自分の失態のように言いました。
「ピペさん、気にしないでください。大丈夫ですよ」
私は彼女を必要以上に傷つけぬよう、慌てて表情を取り繕いました。
それから、こう言いました。
「すみません、学校に忘れ物をしたことを思い出したので、もう一度出てきます。
お母様にそう伝えておいていただけますか?」
ピペさんは首を傾げかけましたが、私の表情を見て何かあるのだとくみ取ってくださったようで、
「かしこまりました。お任せください」
と、母にうまく説明する意志を見せてくださいました。
「よろしくお願いします」
私は馬車にのり、運転してくださる方に行先を告げました。
私の話、聞いてる?」
親友のスコッテにそう言われ、私ははっとしました。
「えっと、ごめんなさい。何の話でしたか?」
「もー。
次の休み、どこか行こうよって話。前からしてたでしょう?」
「あっ、そうでしたね」
「そうだよ。でね、私が行きたいのはね……」
放課後。
学期が始まってから最初の長期休暇が近づいてきており、スコッテだけでなく、教室の中全体に、楽しげな雰囲気が漂っていました。
私も、何とかスコッテの話を聞き、一緒に休暇が来るまでのわくわくを共有したいと思うのですが、なかなかうまくはいきません。
気になることがあるとき、自分の意識をそれからうまく逸らすこと。私にとって、うまくできないことの一つです。
「マ、リ、ル、ノ!」
私はその声で、我に返りました。
口をへの字に曲げた親友の顔が目の前にあります。
「あっ、ごめんなさい、私また……」
「もういいよ。この話はまたにしよう。私、今日は美術室に用があるから、もう行くね」
「スコッテ……」
そう言うとスコッテは、すたすたと教室を出て行ってしまいました。
「ああ……」
私は自分の不甲斐なさに、思わず頭を抱えてしまいました。
一生懸命してくれていた話を、二度も聞き逃すなんて。
これでは友人失格です。
私はがっくりと肩を落として、家へと向かう馬車に乗りました。
頭の中ではスコッテの傷ついた顔が浮かびます。はぁ、とまた無意識のうちに、ため息がこぼれてしまいました。
どうしてスコッテの話に集中することができなかったか。その原因は、自分でもよくわかっています。
ずっと続いていた彼からの手紙が、ここしばらく、急になくなってしまったからです。
彼というのはもちろん、ナテナ国に調査へ行っている、アルダタさんのことです。
最初は、アルダタさんの手紙を一方的にもらうばかりでした。事前にアルダタさんにも、「返事はなくて大丈夫ですからね」と言われていたのです。
しかし手紙を多くいただいていくうちに、私もだんだんと返事をしたいという気持ちになりました。
それで、思い切って、アルダタさんの手紙に押された判、そこに表記された配達屋さんの住所に手紙を送ったのです。
するとアルダタさんは、手紙を受け取ることができましたと感謝の言葉を書いてくださり、そこからは私の方からも手紙を送るようになりました。
アルダタさんから一方的に手紙をいただく間は、ナテナのことをよく知ることはできたのですが、私の気持ちをお伝えすることはできませんでした。
そのため会話をしているというよりも、お話を聞かせていただいているという気持ちでした。
それでもアルダタさんが書いてくださる内容が興味深かったので、面白く読ませていただいてはいたのですが。
しかしこちらからも手紙をお返しするようになると、その内容は変わりました。
私の言葉に彼が反応し、彼の言葉に私が反応し。
少しだけ調査報告のようでもあった手紙が、二人の間での会話に変わりました。
アルダタさんの声が聞こえ、アルダタさんの微笑みが目に浮かび。
まるで隣にいるかのように、アルダタさんのことをより近くに感じられるようになったのです。
私にとって、こんなに幸せなことはありませんでした。
だから手紙が来なくなったことに、私はずっしりと重いものを感じてしまいました。
もしかして私が送った言葉が、思わぬ形で彼を傷つけてしまったのではないか。
私の返事によって会話の内容が制限され、彼は自分の話したいことを話すことができず、窮屈さを感じ、書くのが嫌になったのではないか。
これまでの、彼からだけの一方向的な手紙であれば、たぶんこんなことは思わなかったはずです。
「お仕事が忙しくなったのかな?」とか、「書きたいことが見つからなかったのかな」とか。
そんな風に思ったと思います。
でも、やりとりする形になってからでは、そうはいかない。
私の言葉が、彼に影響を与えてしまっている可能性があるからです。
手紙が来なくなってから、私の頭の中にはずっとそのような憂鬱な考えが回っていました。
もちろん言い訳に過ぎないのですが、親友であるスコッテの話に集中できなかった裏には、このような心配事があったのでした。
「マリルノお嬢様」
屋敷の前につくと、お手伝いのピペさんに呼び止められました。
『まさかっ……』
「て、手紙! 手紙ですか?」
私は思わず、彼女に詰め寄ってしまいました。
すると彼女は悲しげな顔をして、私にあるものを差し出してきました。
お手伝いのピペさんさんが差し出してきたもの。
それはすでに、私が送ったはずの手紙でした。
「これ……どうして?」
私は裏を見て、気が付きました。
手紙には、預かり期限切れによる返却印が押されていました。
「向こうの方が、お受け取りできなかったみたいで……」
ピペさんは自分の失態のように言いました。
「ピペさん、気にしないでください。大丈夫ですよ」
私は彼女を必要以上に傷つけぬよう、慌てて表情を取り繕いました。
それから、こう言いました。
「すみません、学校に忘れ物をしたことを思い出したので、もう一度出てきます。
お母様にそう伝えておいていただけますか?」
ピペさんは首を傾げかけましたが、私の表情を見て何かあるのだとくみ取ってくださったようで、
「かしこまりました。お任せください」
と、母にうまく説明する意志を見せてくださいました。
「よろしくお願いします」
私は馬車にのり、運転してくださる方に行先を告げました。
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