「婚約破棄させてやる……」最低王子が企むも、純粋な公爵令嬢にその手は効かない。

オコムラナオ

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会わなくては(ペドロル視点)

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屋敷の外に出たからといって、どこへ行くあてもなかった。

本当にただ眠れなくて、息が詰まる思いしかしなかったから外へ出ただけだ。


しかし俺の監視役であるあの男の変わりようはなんだ。

最初は不躾な視線を寄こして、俺のやることなすことに苦言を呈さなければ気がすまなかった男が、今では俺に忠誠を誓うと言ってきている。

あれはあれで、気持ちが悪い。

俺の仕事ぶりがどうとか言っていたが、防衛に関する視察や考察については、以前、俺自身のためにやっているのだとはっきり言ったはずだが。

やはり下の人間ーー頭の悪い、使われる側の人間が考えることはわからない。


だが、……まぁいい。

うるさく口を出されるよりは、黙っていてくれた方がましであることは確かだ。

こうして一人になって、落ち着いて外を歩くことができるということも。


しかし、このまま俺が逃げるなどとは、もう考えていないのだろうか。

俺は今、この田舎都市に幽閉されているも同然の身なのに。


中央とは違い、まったく整備されていない、泥の道。

貴族たちの夜遊び、夜通し明るい社交場から漏れる若い女の笑い声が懐かしい。

代わりに聞こえるのは、体にのしかかってくるような、蛙のわめき声。

風情のかけらもない。



しばらく行くと、道の先で何かが動いた。

『なんだ?』

俺は持ってきたランタンをかざし、その方を見た。

藪から姿を現したのは、巨大な蛙だった。

俺は迷わず、そいつのことを蹴った。

「ゲゴッ」

尖った靴の先が、柔らかいものを捉えた感触があった。蛙は鈍くとんで地面に転がった。

いい気味だ、と俺は思った。毎晩毎晩、うるさく鳴いて俺を不快にさせた罰だ。


しかし蛙は死んでおらず、緩慢な動きを繰り返した。

『とどめをさしてやる』

俺は大股で、そいつに近寄った。

すると目の端で、また別の動くものを捉えた。

するすると、太いロープのようなものが這っている。

蛇だった。

蛇は迷うことなく、蛙に向かっていった。

そしてようやく起き上がりかけた蛙に、飛びついた。

俺はその様子に見入った。

蛇は蛙の横腹を噛んだ。蛙は力なく足を動かし、それから逃れようとする。しかし蛇は、決してそれを離さなかった。

蛙の腹が、赤くにじむ。やがて蛙は、足を動かすのをやめる。

蛇はそれから、時間をかけて蛙を飲み込んだ。

まだ蛙の形が分かる、大きな喉をしたまま、蛇は藪の中に消えていった。


ざぁっと蛙の声が周りからあがって、俺は自分の耳から音が入ってこないほど、その出来事に見入っていたことに気が付いた。

俺は踵を返して、屋敷に戻り始めた。

抜け殻だった自分の体に、はっきりとした意識が戻ってきたような感覚だった。

網膜には、もがく蛙を決して離さず、時間をかけて丸のみにした蛇の姿が焼き付いていた。


屋敷の扉を開けると、ガテスラが近寄ってきた。

「おかえりなさいませ、ペドロル様」

「ああ」

俺はガテスラに、ランタンを渡した。

「……どうかされましたか」

「あ?」

俺はガテスラの顔を見た。

「いえ……」

「なんだ。言え」

「……その、すっきりした表情をされているように見えたので。

何か良い考えでも思い浮かばれたのかと」

「別にそんなことはない。

もう寝る。

お前も俺のことはいいから、自分の部屋に戻れ」

「お気遣いありがとうございます。そうさせていただきます」

ガテスラは素直に頭を下げて、廊下の奥に消えた。

『あいつの信頼……

気色は悪いが、利用できるかもしれないな』

俺は自室の扉を開けた。

『俺はやる。

まずはそう……あの男に会わなくては』
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