「婚約破棄させてやる……」最低王子が企むも、純粋な公爵令嬢にその手は効かない。

missing（アルダタ視点）

『ここは……どこだ……？』

目を開けると、視界は暗かった。

そして体が揺れている。

『馬車の中……動いているのか』


眠る前、自分の身に起きたことの記憶を整理する。

『確か……そうだ、マリルノ様あてに手紙を出しに行ったのだ。

配達屋へ。そこでダイナさんに出会って……

渡したいものがあるからと、家についていった」

――すまない。

ズキッ

『……思い出した。

あの時、ダイナさんは私のことを殴ったんだ……

……あれ、何だこれは……』

手が動かせない。後ろに回った手が、縛られている。


「起きたか」

声がする。男性だ。しかし何も見えない。

目が、布のようなもので覆われている。


「大人しくしていてくれ。

手荒な真似はしたくないからな」

『どういうことですか、これは！』と尋ねたいが、口に何かを噛まされている。
「んー、んー」としかしゃべれない。

「悪いな。邪魔だとは思うが、外してやることはできないからな。

でもあと少しの辛抱だ。もう少ししたら着くから」

男はそう言った。


『状況が何も分からない。

今は従うしか……』

アルダタは耳を澄ませ、状況を確認しようとした。

しかし馬車の中であるということ、隣に何者かの男が座っていることくらいしか分からない。

『いや……』

男だけじゃない。周りに何人かいる気がする。二人？　三人？

しかし正確には分からない。

ひとまず、抵抗してどうにかなる状況には思えない。

『攫われたのか。しかしどうして……』

記憶にダイナさんの顔が浮かぶ。

『すまない……』と呟く声、そして頭に走った衝撃。

『何が起こっているんだ……』


それから何時間が、あるいは何日が経っただろうか。

何の前触れもなく、馬車はとまった。