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「誰だ」(マリルノ視点)
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「たしか、この広場で授業が行われているというお話だったはずですが……
あら? パージさん……?」
振り返ると、さっきまで近くにいたパージさんは、広場にあるベンチに座っておしゃべりしていたお年寄り二人のところに行っていました。
パージさんに話しかけられた方々は、気さくに何かを返していました。
しばらくして、パージさんは私のところへ戻ってきました。
「授業はしばらくお休みにすると、ダイナさんがちょっと前におっしゃったそうです」
「どうしましょう……」
ダイナさんに聞けば、何かがわかるかと思ったのですが……
しかしここにいないということは、使節団の方もダイナさんと一緒におられて、何か別のことをされているという可能性も出てきました。泊っている宿に戻る時間も惜しいような、調査しがいのあることをされているのかもしれません。
しかし、どこにいるかは分からないままですが……
私が頭を下げると、ベンチに座られていたお二方はひらひらと手を振ってくださいました。私はお年寄りの方々の厚意に感謝して、次の場所へと向かいました。
次の場所というのは、私が手紙を送っていた配達屋でした。
望みはそれほどありませんでしたが、もしかしたらアルダタさんのことで、何か覚えていることがあるかもしれません。
「アルダタ?」
配達屋におられたおじいさんは、首を傾げました。
「ええ、ヨーランドから来た黒髪の青年が、こちらの配達屋を何度か利用していたと思うのですが……」
「……ああ、あの好青年のことか! よく覚えているよ。とても感じが良かったし、ちょっと珍しいくらい顔が整っていたからなぁ。
うん、確かによく手紙を出していたよ。それに、返事もここでうけ取っていたな」
そう言うとおじいさんは、ぐいと顔をこちらに近づけて、にやりと笑い言いました。
「ありゃ間違いない。手紙の相手はフィアンセだよ、フィアンセ」
私はかっと顔が熱くなるのを感じました。
軽く咳払いをします。
「えっと、そのアルダタさんですが、最近、いつこちらを訪れたでしょうか」
「え? うーん。どうだろうな。
そういえば最近、顔を見てないな。
ここ二週間ぐらいか?
おお、そうだ。それに、受け取りの手紙もあったんだが、結局それも渡せなかったんだよ。
一週間くらい前だったかなぁ。うちも何日も手紙を預かっておくわけにはいかないからね」
私ははっとしました。どうやら、私のもとに送り返された手紙のようです。宿に帰っておらず、配達屋にも来ていない……
「せっかくいつものフィアンセからのお手紙だったのにさ。お国で彼女も悲しんだだろうね」
「コホン。
では、最後にアルダタさんがこの店に来たのはいつ頃だったか、教えていただけませんか。
その時彼は、何か言っていませんでしたか?
例えば、しばらくどこか遠くに行くから、この配達屋には来られないかもしれない、といったようなことを」
「えー? どうだったかなぁ。
そんなこと、きいた覚えはないが……
ん? ちょっと待てよ」
おじいさんは、何かを思い出したように真剣な顔をし、指で顎をさすりました。
「おー、そうだ。思い出した。
あの好青年に最後に会った日だけどね、あなたたちと同じように、『彼を見かけませんでしたか?』って二人の人が尋ねて来たんだよ。
一人は決して若くない、何だか賢そうな人でね。
それからもう一人は……うん、そうだ、確か青年と同じくらいの年齢の子じゃなかったかな。その二人が、ここへきて言ったんだ。青年がどこかへ行ってしまったんだけど、ここへは来てないかねって。
それで……そう、そう! 思い出した。ダイナさんだ。
あの日、青年とダイナさんが、手紙を出したあとここの前で話していたんだ。
それで二人で一緒にどこかへ行ってしまったしばらく後に、青年が行方不明になったっていって二人組がこの店にやってきたんだよ。
だからダイナさんに聞いてみたらいいんじゃないかな。
ダイナさんは知ってる? あの、広場で授業をやってる人だよ」
「あっはい。広場には行ってみたのですが、授業はしばらく休みになるみたいで」
「ああ、そうか。
そしたら、ダイナさんのおうちに行ってみたらいいんじゃないかな。
この町の外れにあるんだ。歩いても、そんなに時間はかからないよ。
待ってな、地図をかいてあげよう」
「あ、ありがとうございます!」
配達屋さんがかいてくださった地図をもとに、私とパージさんは歩いてダイナさんのお家へ向かいました。
地図の通り行くと、町はずれにあった木造の建物にたどり着きました。
私は、その建物の扉をノックします。
すると、圧のある低い声が返ってきました。
「誰だ」
あら? パージさん……?」
振り返ると、さっきまで近くにいたパージさんは、広場にあるベンチに座っておしゃべりしていたお年寄り二人のところに行っていました。
パージさんに話しかけられた方々は、気さくに何かを返していました。
しばらくして、パージさんは私のところへ戻ってきました。
「授業はしばらくお休みにすると、ダイナさんがちょっと前におっしゃったそうです」
「どうしましょう……」
ダイナさんに聞けば、何かがわかるかと思ったのですが……
しかしここにいないということは、使節団の方もダイナさんと一緒におられて、何か別のことをされているという可能性も出てきました。泊っている宿に戻る時間も惜しいような、調査しがいのあることをされているのかもしれません。
しかし、どこにいるかは分からないままですが……
私が頭を下げると、ベンチに座られていたお二方はひらひらと手を振ってくださいました。私はお年寄りの方々の厚意に感謝して、次の場所へと向かいました。
次の場所というのは、私が手紙を送っていた配達屋でした。
望みはそれほどありませんでしたが、もしかしたらアルダタさんのことで、何か覚えていることがあるかもしれません。
「アルダタ?」
配達屋におられたおじいさんは、首を傾げました。
「ええ、ヨーランドから来た黒髪の青年が、こちらの配達屋を何度か利用していたと思うのですが……」
「……ああ、あの好青年のことか! よく覚えているよ。とても感じが良かったし、ちょっと珍しいくらい顔が整っていたからなぁ。
うん、確かによく手紙を出していたよ。それに、返事もここでうけ取っていたな」
そう言うとおじいさんは、ぐいと顔をこちらに近づけて、にやりと笑い言いました。
「ありゃ間違いない。手紙の相手はフィアンセだよ、フィアンセ」
私はかっと顔が熱くなるのを感じました。
軽く咳払いをします。
「えっと、そのアルダタさんですが、最近、いつこちらを訪れたでしょうか」
「え? うーん。どうだろうな。
そういえば最近、顔を見てないな。
ここ二週間ぐらいか?
おお、そうだ。それに、受け取りの手紙もあったんだが、結局それも渡せなかったんだよ。
一週間くらい前だったかなぁ。うちも何日も手紙を預かっておくわけにはいかないからね」
私ははっとしました。どうやら、私のもとに送り返された手紙のようです。宿に帰っておらず、配達屋にも来ていない……
「せっかくいつものフィアンセからのお手紙だったのにさ。お国で彼女も悲しんだだろうね」
「コホン。
では、最後にアルダタさんがこの店に来たのはいつ頃だったか、教えていただけませんか。
その時彼は、何か言っていませんでしたか?
例えば、しばらくどこか遠くに行くから、この配達屋には来られないかもしれない、といったようなことを」
「えー? どうだったかなぁ。
そんなこと、きいた覚えはないが……
ん? ちょっと待てよ」
おじいさんは、何かを思い出したように真剣な顔をし、指で顎をさすりました。
「おー、そうだ。思い出した。
あの好青年に最後に会った日だけどね、あなたたちと同じように、『彼を見かけませんでしたか?』って二人の人が尋ねて来たんだよ。
一人は決して若くない、何だか賢そうな人でね。
それからもう一人は……うん、そうだ、確か青年と同じくらいの年齢の子じゃなかったかな。その二人が、ここへきて言ったんだ。青年がどこかへ行ってしまったんだけど、ここへは来てないかねって。
それで……そう、そう! 思い出した。ダイナさんだ。
あの日、青年とダイナさんが、手紙を出したあとここの前で話していたんだ。
それで二人で一緒にどこかへ行ってしまったしばらく後に、青年が行方不明になったっていって二人組がこの店にやってきたんだよ。
だからダイナさんに聞いてみたらいいんじゃないかな。
ダイナさんは知ってる? あの、広場で授業をやってる人だよ」
「あっはい。広場には行ってみたのですが、授業はしばらく休みになるみたいで」
「ああ、そうか。
そしたら、ダイナさんのおうちに行ってみたらいいんじゃないかな。
この町の外れにあるんだ。歩いても、そんなに時間はかからないよ。
待ってな、地図をかいてあげよう」
「あ、ありがとうございます!」
配達屋さんがかいてくださった地図をもとに、私とパージさんは歩いてダイナさんのお家へ向かいました。
地図の通り行くと、町はずれにあった木造の建物にたどり着きました。
私は、その建物の扉をノックします。
すると、圧のある低い声が返ってきました。
「誰だ」
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(ごめんなさい、作品のコメント欄でここまで内情を打ち明けるのもどうかとは思うのですが……)
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ご期待に添えるよう、頑張ります!
コメントありがとうございました^ ^
クズ王子、今更体裁も何も無いですよね。直接対決近し、ですかね(゚A゚;)。
おゆうさん、再びコメント下さりありがとうございます!最新話までリアルタイムで追いかけてくださっていること、本当に嬉しいです😭
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