ずっと片想いだった幼なじみに告白されて舞い上がっていたら、なぜか異世界に転生してしまいました。

ぴょん吉

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第一章

先生とケイスケ

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まるで、うじ虫を見るかのような目つきで俺を見下ろす先生。とてもではないが、自分の子同然の教え子に向ける目ではない。



 「どうした? 何か言ったらどうだ?」



 先生は表情一つ変えず、ただ単に無機質な声を発する。さっきまでの高らかな笑いとハイテンションさは見る影もない。


   本当に同一人物か? 俺みたいに乗り移っている……わけでもないよな。本能が、この人はヤバいと警報を鳴らしていた。



「……はい、俺はディラン・ラーシュではありません」



 俺が選んだのは、真実を話すことだった。なぜかは分からないが、向こうは俺がディランではないとほぼ確信を持っている。それに冷たい威圧に、今こうやって向かい合っているだけでもちびりそうだ。誤魔化すにもすぐにボロを出す自信しかない。



「ディランではない……ね。分かった、じゃあ次は最初の質問に答えてもらおうか。お前は一体誰なんだ?」



「俺の名前は富永慶助と言います――」



 俺だけが感じているであろう張りつめた緊張感の中、何とか声を振り絞り、自分の身に起きた出来事を説明していく。先生はその間特に相づちを打つということもなく、それでいて途中で口も挟まず、たどたどしく話す俺の説明をじっと黙って聞いてくれていた。



 あまりにも緊張しすぎて、自分でも何て言ったのか覚えていない。全身汗びっしょりだ。先生は俺が話し終えると、しばしの間両目を閉じて何か考えるような素振りを見せた後、スーッと口元から細い息を吐いた。



 すると、そこに冷たい感情が一緒に出ていったのかと思ってしまうぐらい、和やかな空気が場を包み始めた。



「なるほど……嘘をついているようにも見えないし、感じ的に悪い奴じゃなさそうだからまあいいか」


「いいん……ですか?」


 あっさり信じてくれたのは嬉しいけど、俺が言うのはなんだがそんなドライな感じでいいのか……?


 先生は八畳ほどの自室の端に移動し、そこにあるシングルベッドに腰を下ろした。「ほら」と首を動かして隣を手で叩く。これはここに来て座れということだろうか。



「……失礼します」



 まだ先生に対するさっきまでの恐怖感は消え去っていなかった。けど肩が触れ合うぐらいの至近距離にいるにも関わらず、なぜか一種のやすらぎと安心感があるのは、ディランの記憶の影響か。



「――別の世界からやって来て誰かに乗り移った、私も又聞きだが、この世界ではそういう事例があるらしい」

「本当ですか?」

「私はてっきりわけの分からん魔法でもかけられたのかと思っていたけど、どうやらそんな代物ではないんだな。こうしていざ目の当たりにすると、信じるしかない」

「先生……すみません、エフリーナさんが今言った、その人たちがその後どうなったのかとかは知らないですか?」

「先生でいいよ、その顔で名前で呼ばれるのは気持ち悪い。私も二人の時はディランじゃなくてケイスケって呼ぶから。それで今の質問の問いだが、残念ながらそこまでは知らない。なんせそれを耳にしたのはもう十年以上前の話だからな」

「そう……ですか」



 そんなに上手く事が進むわけではなかった。けれど、かなり有益な情報も手に入った。俺以外にも、俺と同じような人が存在していた。元の世界に帰るのも大事だが、優先すべきは楓を見つけることだ。



「――ここからは、私個人の意見だが」



 と、先生がまた少し改まった風に重みのある声を出した。



「お前はその幼馴染とやらを見つけるのが目的だと言っていたな」

「……はい」

「意味深な言葉を残した幼馴染も気にはなるが、私はそれとは別に、お前にはこの世界に来た理由があるのだと思っている」

「理由……ですか」

「そうだ、ディランの記憶が残っているのならあいつがどのような男だったかは何となくイメージを持てるかもしれないが、あいつは優しすぎる。それでいて魔法の才能はあとの三人はおろか、私でさえ遥かに凌駕している。あれほどの才能を持っているというのに――」



「優しすぎるんですね」


 先生は小さく頷き、肯定の意を示す。


 ディランの記憶はその大部分が、先生たちとの魔法の訓練で埋め尽くされていた。その一環として、対人戦を見込んだゼロやシノリアたちとの模擬戦を何度か行ったりした。しかしディランはその全てで全力で手を抜き、全力で相手に怪我をさせないことだけを心掛けていたのだ。



「あのお子様め、現時点では圧倒的に格上である私相手でさえ、遠慮しやがるんだ。あれはかなりの重傷だぞ、多分この先本当の意味で悪い敵と戦うことがあったとしても、あいつは同じようにすることが目に浮かぶ」

「その優しさと、俺がディランの身体に入ったのと何か関係が……?」

「ああ、お前はディランであってディランではない。別の目と意識が介入することにより優しすぎるあいつには見えていなかった何かが見えるかもしれない。大袈裟に聞こえるかもしれないが、あいつは将来世界でもトップクラスの魔法使いになると断言できる。その器にお前が入った」

「俺がディランの弱点になるかもしれない部分を埋めると?」

「何か意味があるとすれば――だ。最初に言っただろ、私個人の意見だと」

「けど俺の世界じゃ魔法なんて概念そもそも存在していなかったし……」

「そんなこと気にするな、この私がみっちりと鍛えこんでやる。そして何かの役目を果たし終えた時、お前は元の世界に戻り、ディランも帰ってくる。そこまでが私の描いたルートだ」



 ポジティブな人だ……もっと狼狽えたり無理にでも俺を引きずり出そうとするかと、ちょっとは覚悟したけど、杞憂に終わってくれた。



「だからなケイスケ、十六歳だっけ? 今のお前は暫定的にお兄ちゃんだ。だからこの先私がいなくなるようなことがあっても、あいつらのことは頼んだぞ」

「えっ……? それってどういう――」

「ほら、話は終わりだ! 今日のところは早く寝ろ、明日からお前だけ特別メニューだからな!」  



 そうして無理やり俺を担ぎ上げると、邪魔だと言わんばかりに部屋の外へ放り出してしまう。微かに明かりが漏れる閉じられたドアの前で、俺は一人考えを張り巡らせていた。



 最後の先生の、どこか遠い場所を見据えるような細い声音。お風呂の中でもその憂いに満ちた姿だけが頭にこびりつき、そのままゼロとの共同部屋に向かう。


  そして、すでに眠っていた黒髪の少年を起こさないよう、静かに布団を被った。

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