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いーやーでーすー!

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「いーやーでーすー!」
「そんな事言わないで話くらい聞いてくださいシラハちゃん!」
「なんで、そんなに頑ななんだよ嬢ちゃん……」

 私は領主様の依頼だと聞いてすぐに部屋を出ようとしたけど、素早く動いたエレナさんに捕まってしまった。
 やるねエレナさん……

「せめて依頼を受けられない理由を教えてくれないか?」
「むしろ私が選ばれた理由が気になるんですけど……」
「それはここでは言えん。依頼を受けてくれるなら説明する」

 レギオラさんは教えてくれなさそうなので、私はエレナさんに視線を向ける。同情を誘うために少し瞳を潤ませるのも忘れない。

「シラハちゃん、ごめんなさい。私も選考理由は知らないの……」
「嬢ちゃん諦めろ、エレナは知らない。ここで知ってるのは俺だけで理由を知りたきゃ依頼を受けるしかない」
「これが大人のやり方……汚いっ」
「嬢ちゃんの俺に対する扱いが悪いのは分かったから……なんで依頼を受けてくれないんだ?」
「だって領主様ってことは貴族様なんですよね?」
「そうだが?」

 レギオラさんがそれがどうしたと言わんばかりに頷いた。
それを見て、やっぱり依頼は受けたくないと心底思う。

 いきなりだけど、ここで私が知り得る異世界ジャンルでの、私の中の三大厄ネタを説明したいと思う。

 一つ目は「勇者&魔王」だ。
 勇者が最低な奴で傍若無人な振る舞いをする小説もあるし、魔王だって良い人設定の場合もあったけど、大抵は強い力だったり魔法だったりを使う人類の敵である場合が多い。
 この世界に勇者や魔王の話はあるけど実際にいるかは分からないし関わりたくもない。フラグがあったらへし折りたいね。

 二つ目は「転生者or転移者」だね。
 これは私も含まれるから複雑な所だけど、両者とも異世界に多大な恩恵を与える事もあれば、その知識を使って悪巧みをしている事もある。結局はその人に寄るところがあるから一概には言えないけど、もし私以外にも転生者とかがいたらコレも近付きたくないなぁ……

 そして最後の三つ目は「お貴族様」だよ。
 王族も含まれるけど貴族は生まれた家が貴族だから偉い、とか考えてそうだし、癒着、賄賂、脱税、横領とか平気でやるし気に食わなければ平民も気にせず殺す。私の中ではそんなイメージがあるので一番近付きたくない。

 なのに今回の依頼だよ。私がなにをしたというのか?
 たしかにちょっと目立っちゃったかもしれないけどさ、もう少し平穏に過ごしたいです。

 なので是非ともここは断りたい。不敬罪とか言われないよね? 本人いないし。

「だって貴族様って気に入らなければ平気で人を捕まえたり殺したりするんですよね? 私みたいな底辺を生きる村娘なんて吹いて消える命じゃないですか……そんな人に会うなんて命が幾つあっても足りませんよ」
「なるほどな……嬢ちゃん、貴族に恨みでもあるのか? たしかにそんな奴も居るだろうが、ここの領主様はそんな奴じゃないぞ」
「本当ですか?」

 私が依頼を受けたくない理由を話すと、レギオラさんは呆れた様子でそれを否定した。しかし私としては信用しにくい。

「信用ねぇなぁ……俺」
「出会いから嘘をついてましたからね」
「シラハちゃん……」

 エレナさんが申し訳なさそうにするが、こればかりはどうにもならない。私もスキルの部分については嘘をついているけれども、冒険者はわざわざ自分の能力を開示しないし、その義務もない。
 嘘をつかれて試されていたと知れば、その後にその人の立場を明かされたとしても、どうしても疑ってしまう。信用しろと言われても私には無理なのだ。

「昇格の件だけなら、あのやり方でも良かったんでしょうけど、その後に依頼を受けさせるつもりなら嘘は駄目でしたね」
「そうは言ってもなぁ……」
「私に依頼を受ける気はないので、私に構っている暇があるのなら他の方を探した方がいいですよ。……では」
「待ってくれ」

 未だに諦めきれないレギオラさんを放置して私が席を立とうとすると、レギオラさんに呼び止められる。
 私は溜息を吐きながら座り直した。

「まだなにか?」
「嬢ちゃんに依頼を任せたい理由を話す。――ああ、エレナも聴いてくれていい」
「いいんですか?」

 レギオラさんが話すと言うとエレナさんはすぐに席を立とうとしたがレギオラさんが止めた。

「俺は嬢ちゃんに信用されてないからな。エレナがいてくれた方が話が進みやすい。だがこれは口外禁止だ。口外すれば罰を受ける、という事は理解しておけ」
「はい」

 エレナさんがこくりと喉を鳴らした。私も居住まいを正して話を聞くことにする。

「二人は魔薬って知ってるか?」
「麻薬?」
「最近、王都周辺の街で出回ってるっていう薬ですね」
「そうだ」

 なんか私の知っている麻薬とは違う気もするけど、黙って話を聞くことにしよう。

「その魔薬を服用すると気分が良くなるらしい。だが中毒性が高くて、服用を続けると幻覚を見たり、支離滅裂な事を言ったりして、最後には魔薬なしじゃ生きられない廃人になるんだと」
「ではギルマス、その魔薬がこのアルクーレの街にも広まっているという事ですか?」
「そういう事だ。その調査の為に王都から騎士が一人来ていてな、その騎士と一緒に調査する為の人員を冒険者ギルドから出して欲しいって依頼なんだ」
「なんで冒険者なんですか? 騎士様って貴族様だったりしません? そんな人が冒険者と一緒に行動できるんですか?」
「貴族にこだわるなぁ……まぁ実際貴族なんだがな。ただ何日か前から調査してるんだが進展がなくてな。高ランク過ぎず、それで調査に向いていて、それなりに腕が立つ冒険者を派遣して欲しいって依頼されたんだ」

 そこから更にレギオラさんの話を聞いていくと、魔薬の常習者はDランクより低い冒険者が多く、素行が悪かったり周囲に溶け込めない者が魔薬に手を出している傾向があるのだとか。
 わ、私は馴染めてるしっ!

「それと以前、嬢ちゃんにちょっかいを掛けたチンピラやら新人冒険者も魔薬に手を出してたみたいなんだ」
「ああ……なるほど」

 たしかに絡んできた人はまともなやり取りが出来なかったから納得だ。でも気になる事がある。

「そんなカモを叩きのめした私が調査に入ったら目立つんじゃないんですか?」
「カモってシラハちゃん……」
「そこは気にしなくても大丈夫だろ。魔薬の売人は売れれば気にしないはずだ。それに客を潰した奴を薬漬けにできれば、むしろ喜ぶんじゃないのか?」
「そんなもんですか……」

 むう。面倒事に関わる気がないのに、やっぱり話を聞いたら断りにくくなってしまった。私が魔薬に手を出すことはないけど、他の人が知らずに手を出すこともあるだろうし、中毒者が暴れて事件を起こすなんて事は前世でもあった。

 この街での知り合いなんて多くはないけど、その人達が魔薬の被害に遭うのは嫌だな。

「領主様と会って、もし騎士様と一緒に行動出来そうになければ断っても良いですか? 協力が出来ないのであれば一緒に調査する意味ありませんし」
「ああ、それで構わない。ただし嬢ちゃんが一方的に毛嫌いしてるだけなら認めないからな。その騎士の態度があからさまに悪かった場合だけだ」
「……分かりました。それで良いです。」

 私が頷くと二人は安堵の息を吐く。もしかすると人選に苦慮したのかも知れない。

「それで私はいつ領主様に会いに行けば良いんです? 貴族様は会いに行くにも時間が掛かるんですよね?」
「嬢ちゃんは貴族の事情に詳しいのか? 時間がかかるのはその通りなんだが……今回の依頼は領主様も早く解決したいからな、そこまで時間はかからんさ」

 貴族の事情は詳しくないけど、連絡してから色々と準備があるとか聞いた事がある。ただ話を聞くだけでも貴族は体裁を整えるものだとかなんとか。面倒臭い生き物だね貴族って。

 そしてギルドでの話を終えて、日向亭に戻ってきた私は看板娘のコニーちゃんとたわいのない話をした後に部屋へと戻った。連泊するようになってコニーちゃんと話すようになったけど、コニーちゃんは私と背丈が同じくらいなのに、まだ10歳なのだとか。ぐぬぬ……負けないからね!

 食事を摂った後に、私は持っている魔石を並べて眺めていた。

「うーん。どれにしようかなぁ……」

 レギオラさんとのやり取りで保留にしていた魔石取り込みの儀式を行うのだ。ふふふ……これにしようかなぁ。

 私は並べた魔石の中から、血を吸う植物の魔物レッドプラントの魔石を選んでみた。さっそく取り込んでみようっと。

『レッドプラントの魔石を確認しました。
 領域を確認、魔石を取り込みます。

 レッドプラントの魔石の取り込みが完了しました。
 スキル【吸血】が
 使用可能になりました』

【吸血】血が流れている箇所から血を吸う。

「うーむ。血が流れている、っていうのは血管のことかな? それとも怪我してる部分かな? 首筋を噛めば吸えるかも? って、それじゃあ吸血鬼だから!」

 一人ツッコミをしてはみたけど虚しいだけだった。私は気を取り直してスキルを確認し直した。

  名前:シラハ
  領域:〈ドラゴンパピー+パラライズサーペント〉
     〈フォレストドッグ+フォレストホーク〉
      サハギン フォレストマンティス
      レッドプラント(0)
 スキル:【体力自動回復(少)】【牙撃】【爪撃】
【竜気】【麻痺付与】【毒食】【解毒液】【熱源感知】
【獣の嗅覚】【夜目】【潜水】【鎌切】【吸血】

「今回はリンクは出来なかったかぁ……吸血も使いどころが分からないなぁ。他の魔石を手に入れたら変えちゃうのもアリかな」

 魔石の取り込みが終わったので、私はもそもそとベッドに潜り込むと、すぐに眠気が襲ってきた。おやすみなさいー


 翌朝、気持ち良く目が覚めた私のところへエレナさんがやって来て、迎えの馬車がくるから午後に冒険者ギルドに来て欲しいと告げられた。

 
気持ちの良い朝が台無しだよ……領主様めぇ……









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後書き
シラハ「はぁ……領主様と会うとか、お腹痛い……」
レギオラ「嬢ちゃんが前向きに考えてくれて良かったぜ。領主様に人を寄越せって言われて胃が痛かった」
シラハ「やっぱり今度、麻痺させてやる」
レギオラ「あれ寒気が……風邪かな。早く寝よ……」
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