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ぶっ倒れました。
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「キキィー!」
マッスルモンキーという、ボディービルダー並みに筋肉ムキムキなお猿さんが私に飛びかかってくる。
このマッスルモンキーの動きは猿そのものなんだけど、あの太い腕から繰り出される攻撃は、そこらの木々なら簡単に叩き折る事ができる。
周辺の木を使って縦横無尽に動き回るモンキーの動きは、なかなかに捉えにくい。
だけど私はそれ以上にモンキーを直視するのが苦痛だった。
だって……飛びかかってくる時、両手両足を広げながらやってくるからアレが丸見えなんだよ……。
なんで下半身丸出しなの!?
私、オークの一件でちょっとトラウマになってるから、ああいうの駄目なんだよ! 体が強張っちゃう……。
やだよぅ……キモいよぅ……怖いよぅ……
ぶるりと震える体を両腕で抱きしめるようにしながら私は走る。
走り難いけど構っていられない。
なんか時間が経つ程に苦手意識が強くなってる気がするなぁ。
私が後ろも振り返らずに走っていると、何かが爆ぜるような音が聞こえた。
その音に振り返ってみると、父さんがモンキーの頭に拳打を叩き込んだのか拳を振り抜いた状態で止まっていた。
モンキーの頭はどこかに吹き飛んだのか、見当たらなかったけど、どうにか倒せたようでホッとする。
「シラハ、どうしたんだ? 調子が悪いのなら休んでいて良かったのだぞ?」
逃げてばかりだった私を、父さんは心配してくれる。
「ううん。調子は悪くないんだけどね……。なんか私、人の形に近い魔物が苦手みたいで……」
「戦い難い、という意味ではないのか?」
「うん……ちょっと違うかな」
「ふむ。それならレティーツィアにも話をして、相談に乗ってもらうとしよう! という訳で狩りはここまでだ、帰るぞ!」
父さんは私の返事も聞かずに竜の姿に戻ると、マッスルモンキーをその足で掴む。
私も父さんの背中に乗って帰途についた。
「む……?」
寝床である洞窟に近付いていくと、父さんが首を傾げる。
どうしたんだろう?
私達が洞窟に降りると、洞窟の中から一人の女性が出てきた。
整った顔立ちに、ほんの少しだけ青みがかった白髪にアクアマリンのような透き通った青い瞳。
人間離れした、その容姿に同性である私でさえドキリとした。しかもナイスバデー……くっ、何故に親娘でここまでの戦力差がっ……!
さすがに誰? なんて鈍い事は言わないよ。
私自身、物凄く驚いてはいるけど、目の前の女性からは母さんの匂いがするもの。
「母さん、人化出来るようになったの?!」
「あら、やっぱり私だと分かるの?」
「うん。母さんの匂いだから」
「そう……やっと会得できたわぁ……」
母さんは、すぐに自分だと分かってしまった事が残念そうだったけど、匂いで分かったと言ったら何故か嬉しそうだった。
普通、匂いで分かったって言ったら嫌がられると思うんだけどな。
「レティーツィアもついに人化が出来るようになったか!」
「ええ、やはり目標があると覚えも早いわね」
「違いないな!」
父さん達が楽しそうに話している。
目標って、私ともっと近くで接したいってやつ? それでモチベーションが上がるなら安上がりだよね。
でも、それは私も嬉しいな。
「これで我等三人で出かけられるな!」
「ええ! どこに行きましょうか!」
あれ? 出掛けるの? いつの間にか、そんな計画を立ててたんだ。もしかして目標ってそっち?
いや、まあ、一緒にいられるんだし、どっちでも良いんだけどね。
「シーちゃんは行きたい所ってあるかしら?」
「え、私?」
「ええ。私達だけで盛り上がっても意味ないわ」
いきなり言われてもなぁ……。クエンサには様子を見に行きたいけど、今の遊びに行く! って雰囲気には良くないし。
アルクーレだって、私が無事だと分かればクエンサから怪しい連中がやって来るかもしれない。
私の心配のし過ぎだとは思うけど、できれば私の事で迷惑はかけたくはない。もう心配はかけているけどね。
うーん……。行きたいところかぁ。あ!
「私、海に行きたい!」
「海か、良いな!」
「そうね。これから、もっと暑くなるでしょうし海も良いかもしれないわ」
目的地は決まったね! さて、こういう時はオヤツを荷物に詰め込んでウキウキするものだけど、オヤツと呼べるものが無いんだよねぇ……。
海に行ったら食事はどうするんだろ? あ、海の魔物でいいのかな?
海の魔物は海鮮系になるのかな。楽しみだなぁ……。
ん、アレ?
「って、違うよ、父さん! 母さんに相談するんじゃなかったの?!」
「おお!? そうだった!」
「相談?」
父さんが思い出した! というように手を打った。
なんか人間臭い動きだね……。
母さんには、なんで私がオーク……というか性的なモノを連想させる存在に苦手意識を持ってしまったかを説明する。
思春期だからかな……?
いや、分かってるよ? あれだよ……【誘引】と【誘体】のスキル検証の時に、オークが私に欲情したのがトラウマになってるんだよ……。
私も使う相手を間違えたとは思ってるよ!
できれば、こんな事話したくなかったけど……くっ殺せ!
母さんは私の話を聞き終わると、腕を組んで何やら考えている。
そして少ししてから私を見て口を開いた。
「それならシーちゃん、恋をしましょう」
「えっ」
「は?」
母さんの発言に私と父さんが固まる。
いやいや、どうしてそんな結論になるの? 母さん大丈夫?
「ほら、人間は付き合うと体を重ねるんでしょう? ならシーちゃんも慣れちゃえばいいのよ」
「大事な娘だ、嫁にはやらんぞ!」
父さん、その調子だよ。私も嫁に行く気はないから。
あと母さんも慣れろ、とか凄い事を言うね。
「私13歳だし、まだそういうの早いと思うよ」
「別に番になれって言ってる訳じゃないわ。番候補を探すのよ! もちろんシーちゃんの意思も尊重するけど、私とガイアスが認めた相手じゃないと駄目よ」
ハードル高くない?! どうやって見極めるつもりか知らないけど竜に認められる人間っているの!?
私の場合は、かなり特殊な例だと思うんだけど……。
「というわけで街に行きましょう!」
「婿探しは反対だが、家族で街に遊びに行くというのは面白そうだな」
父さんが乗り気になっちゃったよ!
どうしたら…………そうだ!
「私、街には行きたくない……。海に行きたいの」
母さんはとりあえず置いといて、まずは父さんを泣き落としする。
瞳を潤ませて…上目遣い……そして少しだけ首を傾げる!
「父さん……ダメ?」
これで、どうだ!
「うっ……そ、そんな事ない…ぞ?」
よっし! 効果は効果は抜群だ!
あとは、母さんだね。
私……なんて恐ろしい子!
そして私が、どう説得しようか考えていると、母さんが溜息を吐いて首を横に振った。
「シーちゃんは一体誰に似たのかしらね……」
「いや、レティーツィアだろ……」
母さんの言葉に父さんが突っ込んだ。
そうなの?
「昔、ライゴウの番にさせられそうになった時に、雌の竜達を味方につけて、それを決めた年寄り共を非難させて大騒ぎになったところで、悠々と里を出てきたヤツよりは可愛げがあると思うがな」
母さん、そんな事してたんだ……。
てっきり、黙ってコッソリと抜け出して来たんだと思ってたよ。
「そうね……無理に治そうとして酷くしては意味ないものね。それじゃあ最初に言っていた通り、海に行きましょうか!」
「うん!」
海行きが決定したよ。
いやー良かった……。恋人探しなんて欠片も興味なかったから、そんなのさせられたら男嫌いになりかねないからね。
それにしても海かぁ……。なにがあるのかな?
あ、海をダンジョン化したら何が出来るのかな。
もしかして海を割ったりできちゃったりする? 面白そうかも……。
そうだ、海に着いたら【丸呑み】と【水渡】も検証してみよう。
迷宮核のスキルばっかりで、そっちはすっかり忘れてたからね。
【丸呑み】対象を丸呑みにする。
【水渡】水の上を渡る事ができる。
スキルの説明を見た限りだと【水渡】なら、海で役に立ちそうだしね。
【丸呑み】の方は、よく分からないね。
丸呑みって完全に蛇じゃん。私そんなに口広がらないからね、アゴ外れちゃうよ……。
呑み込む物にもよるけど、お腹ポッコリしちゃいそうだし、そんなスキルどうやって使うんだろ?
お腹一杯で動けなくなりそうだよ。
スキルは魔物基準の力だけど、私が使うと補正が掛かるのか何故か使えてしまう。
吸ってないのに流れ込んでくる血液だったり、私の体が周囲の景色の色に染まる訳でもないのに紛れられたり、と不思議な事が一杯だ。
だから【丸呑み】は一見すると使えなさそうだけど、もしかすると謎の補正効果で化けるかも知れない。
なので試してみるまでは、お楽しみとして取っておくとしよう。
そうだ、母さんも人化を覚えた事だし、私の【迷宮創造】で家でも建ててみようかな。
形だけなら整えられるはずだし。
二人が家に馴染めるかはわからないけど、街に興味があるなら少しは慣れておかないとね。
もしかすると布団とかにハマっちゃったりしてね。
あ、作れないか……。くそぅ、外側と内側で出来る事が混ざっちゃうよう。
内側も外と何も変わらないから、なんて言うか夢と現実の区別が付かなくなっちゃいそう……みたいな?
だから内側はあまり多用はしない。お風呂以外。
さて、二人に家を作って良いか聞いてみよう!
私はさっそく行動に移す事にする。
すると――
「良いぞ」
「良いわよ」
秒で了承が出た。
さすが私の両親である。娘に激甘だね。
どんな家を作ろうかな……。と言っても、あの二人の様子だと明日にでも海に行くと思うし、少ししか手を付けられないと思うので、今日のところは寝床周辺を私の領域にするので打ち止めになるかな?
むしろ私の魔力が足りないか。
せっかくなので自分の限界も知っておこうかな。
「ねぇ母さん。私ちょっと限界まで魔力使ってみるから、倒れたら適当に寝かせておいてくれる?」
「はぁ……分かったわ。シーちゃんは自分の魔力を感覚で使っているみたいだから、自分の出来る事を把握するのは必要だものね……」
さすが母さん。
私のやりたい事を理解してくれて嬉しいよ。
ちょっと呆れられちゃってるけどね。
でも、これは大事な事だと思ってるし試しておかないとね。
そして、私は【迷宮領域拡大】を使って周囲を自分の魔力で染めていく。
気持ち悪いくらいに魔力が流れていっているけど、まだ耐えられる。
寝床としている洞窟も岩の表面だけを自分の領域にするのでは心許無いので、表面から数メートルは魔力を通す。
足下がふらついてきた、かも。
自分が真っ直ぐ立てているか分からなくなってきた。気持ち悪い、吐きそう……。
ここまでならハイオーク戦で一度経験しているけど、それ以上は魔力を使わなかった。
だから、今回はこの先にいく。
正直、今すぐやめたいけど。
でも本当にギリギリな状況に遭遇した時に、倒れる寸前までは抗いたい。
なので一度で良いから、魔力の使い過ぎで動く事もできない、という状態を体験しておきたいのだ。
決して苦痛に快感を覚える人ではないですよ?
ただの実験です。
体の不調を紛らわせる為に、くだらない事を考えながら魔力を流していると、プツリと魔力が途切れた。
(あ、コレは駄目なヤツだ……)
体に衝撃が走る。
おそらくは地面に倒れたんだと思う。
目の前が真っ暗だ。
体の感覚が無くなっていく……。
(ああ……眠く、なって…きたなぁ……)
//////////////////////////////////////////////////////
後書き
父さん「うおぉぉぉ、シラハー!」
母さん「ガイアス五月蝿いわ。シーちゃんが魔力を通した所で寝かせれば、シーちゃんも少しは楽かもしれないから早く運びましょう」
父さん「我が運ぶ!」
母さん「私が運ぶわ。ガイアスは叫んでただけでしょ?」
父さん「うぐぐっ!」
母さん「ふふん」
シラハ「は、はやく運んで……きゅぅ…」
マッスルモンキーという、ボディービルダー並みに筋肉ムキムキなお猿さんが私に飛びかかってくる。
このマッスルモンキーの動きは猿そのものなんだけど、あの太い腕から繰り出される攻撃は、そこらの木々なら簡単に叩き折る事ができる。
周辺の木を使って縦横無尽に動き回るモンキーの動きは、なかなかに捉えにくい。
だけど私はそれ以上にモンキーを直視するのが苦痛だった。
だって……飛びかかってくる時、両手両足を広げながらやってくるからアレが丸見えなんだよ……。
なんで下半身丸出しなの!?
私、オークの一件でちょっとトラウマになってるから、ああいうの駄目なんだよ! 体が強張っちゃう……。
やだよぅ……キモいよぅ……怖いよぅ……
ぶるりと震える体を両腕で抱きしめるようにしながら私は走る。
走り難いけど構っていられない。
なんか時間が経つ程に苦手意識が強くなってる気がするなぁ。
私が後ろも振り返らずに走っていると、何かが爆ぜるような音が聞こえた。
その音に振り返ってみると、父さんがモンキーの頭に拳打を叩き込んだのか拳を振り抜いた状態で止まっていた。
モンキーの頭はどこかに吹き飛んだのか、見当たらなかったけど、どうにか倒せたようでホッとする。
「シラハ、どうしたんだ? 調子が悪いのなら休んでいて良かったのだぞ?」
逃げてばかりだった私を、父さんは心配してくれる。
「ううん。調子は悪くないんだけどね……。なんか私、人の形に近い魔物が苦手みたいで……」
「戦い難い、という意味ではないのか?」
「うん……ちょっと違うかな」
「ふむ。それならレティーツィアにも話をして、相談に乗ってもらうとしよう! という訳で狩りはここまでだ、帰るぞ!」
父さんは私の返事も聞かずに竜の姿に戻ると、マッスルモンキーをその足で掴む。
私も父さんの背中に乗って帰途についた。
「む……?」
寝床である洞窟に近付いていくと、父さんが首を傾げる。
どうしたんだろう?
私達が洞窟に降りると、洞窟の中から一人の女性が出てきた。
整った顔立ちに、ほんの少しだけ青みがかった白髪にアクアマリンのような透き通った青い瞳。
人間離れした、その容姿に同性である私でさえドキリとした。しかもナイスバデー……くっ、何故に親娘でここまでの戦力差がっ……!
さすがに誰? なんて鈍い事は言わないよ。
私自身、物凄く驚いてはいるけど、目の前の女性からは母さんの匂いがするもの。
「母さん、人化出来るようになったの?!」
「あら、やっぱり私だと分かるの?」
「うん。母さんの匂いだから」
「そう……やっと会得できたわぁ……」
母さんは、すぐに自分だと分かってしまった事が残念そうだったけど、匂いで分かったと言ったら何故か嬉しそうだった。
普通、匂いで分かったって言ったら嫌がられると思うんだけどな。
「レティーツィアもついに人化が出来るようになったか!」
「ええ、やはり目標があると覚えも早いわね」
「違いないな!」
父さん達が楽しそうに話している。
目標って、私ともっと近くで接したいってやつ? それでモチベーションが上がるなら安上がりだよね。
でも、それは私も嬉しいな。
「これで我等三人で出かけられるな!」
「ええ! どこに行きましょうか!」
あれ? 出掛けるの? いつの間にか、そんな計画を立ててたんだ。もしかして目標ってそっち?
いや、まあ、一緒にいられるんだし、どっちでも良いんだけどね。
「シーちゃんは行きたい所ってあるかしら?」
「え、私?」
「ええ。私達だけで盛り上がっても意味ないわ」
いきなり言われてもなぁ……。クエンサには様子を見に行きたいけど、今の遊びに行く! って雰囲気には良くないし。
アルクーレだって、私が無事だと分かればクエンサから怪しい連中がやって来るかもしれない。
私の心配のし過ぎだとは思うけど、できれば私の事で迷惑はかけたくはない。もう心配はかけているけどね。
うーん……。行きたいところかぁ。あ!
「私、海に行きたい!」
「海か、良いな!」
「そうね。これから、もっと暑くなるでしょうし海も良いかもしれないわ」
目的地は決まったね! さて、こういう時はオヤツを荷物に詰め込んでウキウキするものだけど、オヤツと呼べるものが無いんだよねぇ……。
海に行ったら食事はどうするんだろ? あ、海の魔物でいいのかな?
海の魔物は海鮮系になるのかな。楽しみだなぁ……。
ん、アレ?
「って、違うよ、父さん! 母さんに相談するんじゃなかったの?!」
「おお!? そうだった!」
「相談?」
父さんが思い出した! というように手を打った。
なんか人間臭い動きだね……。
母さんには、なんで私がオーク……というか性的なモノを連想させる存在に苦手意識を持ってしまったかを説明する。
思春期だからかな……?
いや、分かってるよ? あれだよ……【誘引】と【誘体】のスキル検証の時に、オークが私に欲情したのがトラウマになってるんだよ……。
私も使う相手を間違えたとは思ってるよ!
できれば、こんな事話したくなかったけど……くっ殺せ!
母さんは私の話を聞き終わると、腕を組んで何やら考えている。
そして少ししてから私を見て口を開いた。
「それならシーちゃん、恋をしましょう」
「えっ」
「は?」
母さんの発言に私と父さんが固まる。
いやいや、どうしてそんな結論になるの? 母さん大丈夫?
「ほら、人間は付き合うと体を重ねるんでしょう? ならシーちゃんも慣れちゃえばいいのよ」
「大事な娘だ、嫁にはやらんぞ!」
父さん、その調子だよ。私も嫁に行く気はないから。
あと母さんも慣れろ、とか凄い事を言うね。
「私13歳だし、まだそういうの早いと思うよ」
「別に番になれって言ってる訳じゃないわ。番候補を探すのよ! もちろんシーちゃんの意思も尊重するけど、私とガイアスが認めた相手じゃないと駄目よ」
ハードル高くない?! どうやって見極めるつもりか知らないけど竜に認められる人間っているの!?
私の場合は、かなり特殊な例だと思うんだけど……。
「というわけで街に行きましょう!」
「婿探しは反対だが、家族で街に遊びに行くというのは面白そうだな」
父さんが乗り気になっちゃったよ!
どうしたら…………そうだ!
「私、街には行きたくない……。海に行きたいの」
母さんはとりあえず置いといて、まずは父さんを泣き落としする。
瞳を潤ませて…上目遣い……そして少しだけ首を傾げる!
「父さん……ダメ?」
これで、どうだ!
「うっ……そ、そんな事ない…ぞ?」
よっし! 効果は効果は抜群だ!
あとは、母さんだね。
私……なんて恐ろしい子!
そして私が、どう説得しようか考えていると、母さんが溜息を吐いて首を横に振った。
「シーちゃんは一体誰に似たのかしらね……」
「いや、レティーツィアだろ……」
母さんの言葉に父さんが突っ込んだ。
そうなの?
「昔、ライゴウの番にさせられそうになった時に、雌の竜達を味方につけて、それを決めた年寄り共を非難させて大騒ぎになったところで、悠々と里を出てきたヤツよりは可愛げがあると思うがな」
母さん、そんな事してたんだ……。
てっきり、黙ってコッソリと抜け出して来たんだと思ってたよ。
「そうね……無理に治そうとして酷くしては意味ないものね。それじゃあ最初に言っていた通り、海に行きましょうか!」
「うん!」
海行きが決定したよ。
いやー良かった……。恋人探しなんて欠片も興味なかったから、そんなのさせられたら男嫌いになりかねないからね。
それにしても海かぁ……。なにがあるのかな?
あ、海をダンジョン化したら何が出来るのかな。
もしかして海を割ったりできちゃったりする? 面白そうかも……。
そうだ、海に着いたら【丸呑み】と【水渡】も検証してみよう。
迷宮核のスキルばっかりで、そっちはすっかり忘れてたからね。
【丸呑み】対象を丸呑みにする。
【水渡】水の上を渡る事ができる。
スキルの説明を見た限りだと【水渡】なら、海で役に立ちそうだしね。
【丸呑み】の方は、よく分からないね。
丸呑みって完全に蛇じゃん。私そんなに口広がらないからね、アゴ外れちゃうよ……。
呑み込む物にもよるけど、お腹ポッコリしちゃいそうだし、そんなスキルどうやって使うんだろ?
お腹一杯で動けなくなりそうだよ。
スキルは魔物基準の力だけど、私が使うと補正が掛かるのか何故か使えてしまう。
吸ってないのに流れ込んでくる血液だったり、私の体が周囲の景色の色に染まる訳でもないのに紛れられたり、と不思議な事が一杯だ。
だから【丸呑み】は一見すると使えなさそうだけど、もしかすると謎の補正効果で化けるかも知れない。
なので試してみるまでは、お楽しみとして取っておくとしよう。
そうだ、母さんも人化を覚えた事だし、私の【迷宮創造】で家でも建ててみようかな。
形だけなら整えられるはずだし。
二人が家に馴染めるかはわからないけど、街に興味があるなら少しは慣れておかないとね。
もしかすると布団とかにハマっちゃったりしてね。
あ、作れないか……。くそぅ、外側と内側で出来る事が混ざっちゃうよう。
内側も外と何も変わらないから、なんて言うか夢と現実の区別が付かなくなっちゃいそう……みたいな?
だから内側はあまり多用はしない。お風呂以外。
さて、二人に家を作って良いか聞いてみよう!
私はさっそく行動に移す事にする。
すると――
「良いぞ」
「良いわよ」
秒で了承が出た。
さすが私の両親である。娘に激甘だね。
どんな家を作ろうかな……。と言っても、あの二人の様子だと明日にでも海に行くと思うし、少ししか手を付けられないと思うので、今日のところは寝床周辺を私の領域にするので打ち止めになるかな?
むしろ私の魔力が足りないか。
せっかくなので自分の限界も知っておこうかな。
「ねぇ母さん。私ちょっと限界まで魔力使ってみるから、倒れたら適当に寝かせておいてくれる?」
「はぁ……分かったわ。シーちゃんは自分の魔力を感覚で使っているみたいだから、自分の出来る事を把握するのは必要だものね……」
さすが母さん。
私のやりたい事を理解してくれて嬉しいよ。
ちょっと呆れられちゃってるけどね。
でも、これは大事な事だと思ってるし試しておかないとね。
そして、私は【迷宮領域拡大】を使って周囲を自分の魔力で染めていく。
気持ち悪いくらいに魔力が流れていっているけど、まだ耐えられる。
寝床としている洞窟も岩の表面だけを自分の領域にするのでは心許無いので、表面から数メートルは魔力を通す。
足下がふらついてきた、かも。
自分が真っ直ぐ立てているか分からなくなってきた。気持ち悪い、吐きそう……。
ここまでならハイオーク戦で一度経験しているけど、それ以上は魔力を使わなかった。
だから、今回はこの先にいく。
正直、今すぐやめたいけど。
でも本当にギリギリな状況に遭遇した時に、倒れる寸前までは抗いたい。
なので一度で良いから、魔力の使い過ぎで動く事もできない、という状態を体験しておきたいのだ。
決して苦痛に快感を覚える人ではないですよ?
ただの実験です。
体の不調を紛らわせる為に、くだらない事を考えながら魔力を流していると、プツリと魔力が途切れた。
(あ、コレは駄目なヤツだ……)
体に衝撃が走る。
おそらくは地面に倒れたんだと思う。
目の前が真っ暗だ。
体の感覚が無くなっていく……。
(ああ……眠く、なって…きたなぁ……)
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後書き
父さん「うおぉぉぉ、シラハー!」
母さん「ガイアス五月蝿いわ。シーちゃんが魔力を通した所で寝かせれば、シーちゃんも少しは楽かもしれないから早く運びましょう」
父さん「我が運ぶ!」
母さん「私が運ぶわ。ガイアスは叫んでただけでしょ?」
父さん「うぐぐっ!」
母さん「ふふん」
シラハ「は、はやく運んで……きゅぅ…」
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