とりあえず異世界を生きていきます。

狐鈴

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最悪ですね

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「それで嬢ちゃんは監禁場所から逃げ出してからは、どうしてたんだ?」

 レギオラさんが領主様に手紙を書いて、それを職員に渡すと再度私と向き合った。
 そこが一番気になるかもしれないけど、こっちも話せないんだよねぇ……。

「えーと……昔みたいに野外で寝泊まりして過ごしてましたね」
「えぇ?!」
「外で?!」
「嬢ちゃんは森育ちだったか? いくら慣れているとはいえ、一人で野宿は危険だぞ」

 エレナさんとアゼリアさんが驚いているけど、レギオラさんはそこまで気にした様子はない。むしろ注意されてしまった。
 昔はともかく、今はかなり安全なんだけどなぁ。

「でも、その割にはシラハちゃんの身嗜みは整っているわね」
「言われてみれば……」
「たしかにな……嬢ちゃんの着ているその服なんか、派手さはないがかなり上等な物みたいだ」

 あ……やばい。そっちに考えが及んでいなかった。
 そうだよね。野外に隠れ潜んでいた私が身綺麗にしているなんて変だよね。
 なんで、その前に着ていた服にしなかったんだ私!

 って母さんが作ってくれた服が嬉しかったからだよね。浮かれすぎだよ私。

「シラハちゃん……まさか…どこぞの男に身体を売って、お金を?!」
「ないです! それだけはありません!」
「良かったわ……」

 アゼリアさんは、いきなり変な事を言い出さないでくださいよ。
 想像するだけで悪寒が止まらない。

「ならシラハちゃんはどうやって、そんな服を手に入れたの?」
「裁縫を嗜む人に作って貰ったんです」
「街の外に身を潜める嬢ちゃんが、外で人に出会ったのか?」
「はい。夜の森で死にかけている困っているところを助けてもらったんです」

 よし。嘘は言っていない。
 実際、夜の森で母さんに助けられた訳だしね。

「まぁ服についてはいい。それで、嬢ちゃんは今後はどうするんだ?」
「とくには決めてないですね。身を隠しながら適当にブラついているつもりですけど」
「そうか……。それなら…いや、でもなぁ……」

 なんかレギオラさんがブツブツと独り言を言いながら考え事を始める。
 自分から話を振ってきておいて、それはないと思うんだ。

「なんですか。何か言うことがあるなら言ってください」
「ん? なんか怒ってるのか?」
「なんでもないので、つべこべ言わずに答えてください」
「絶対、怒っているよな?!」

 私がレギオラさんに口撃していると、エレナさん達がクスクスと笑っていた。
 二人ともレギオラさんがイジられているのを見て、喜んでいるなんて…………

「レギオラさん、嫌われてるんですね……」
「ちょっと待て。なんでそんな結論に行き着いた?」
「可哀想なので、苛めるのはやめます」
「やっぱり確信犯だったのかよ!」

 いまさら気付くなんて、レギオラさんは鈍感系キャラか何かなのかな……。

「シラハちゃんはギルマス相手だと容赦ないよね」
「本当にね。まるで親娘みたいだわ」
「無いですね」
「即答かよ!」

 私がイジっているのを、じゃれていると見られるのは良いけど、親娘とかはさすがに遠慮したいね。
 私に魔物の群れをぶつけるような人は、あれくらいの扱いでいいのだ。

「そんな事より」
「本当に俺の扱いが雑だな……」

 本当にいまさらだよ、レギオラさん。

「お客様ですよ? 出迎えなくて良いんですか?」
「客? ……あ、大丈夫だ。すぐ、ここに来るはずだ」

 レギオラさんは一瞬考える素振りをしたけど、すぐにお客様が誰か思い至ったらしい。

 さっき手紙送ったしね。

「すまないが、アゼリアとエレナは席を外してくれ」
「わかりました」
「……シラハちゃん」
「エレナさん、私は大丈夫ですよ」

 エレナさんが私を心配そうな目で見ていたので、どうにか安心させようとニコリと笑ってみせる。

 するとエレナさんだけではなく、アゼリアさんやレギオラさんまでもが何やら顔を赤らめてしまった。

 あ、まさか【誘引】か【誘体】の効果が出ちゃった?

 私は慌てて表情を消す。笑顔、そうか笑顔を向けるとスキルの効果が軽く出ちゃうのか……。これは気を付けないとね。

 部屋の中に微妙な空気が漂う中、扉をノックする音が響く。
 三人は少しビクっと肩が跳ねていた気がするけれど、私はお客様がギルド内に入ってきた音も聞こえているので驚く事はない。

 そしてレギオラさんが入室の許可を出すと、アルクーレの領主様であるルーク様と、その執事のセバスチャンさんが入ってきた。

「お邪魔させてもらうよ」

 領主様が部屋に入って来ると、エレナさんとアゼリアさんが部屋の隅に移動する。二人とも退室するタイミングを逃したね……。

「元気そうだな、シラハ」
「領主様も、お元気そうでなによりです」

 そういえば、なんでわざわざ領主様が冒険者ギルドまで来たんだろう。
 普通なら、こちらから出向くんじゃないのかな?

「こっちまで来てもらって悪いな」
「いや、手紙で報せてくれて助かった。話を聞かれていたら騒がれただろうからね」
「容易に想像できるな……」

 あれ、なんかレギオラさんの領主様に対する態度が軽い。
 友達にでもなったのかな?
 それより、私がいるって報せが騒ぎになるの? どんな迷惑な人が屋敷にいるんだろう……。

「私がいると何か問題でもあるんですか?」
「そういうわけじゃないんだ。……ただ、ほら、アレだ」

 なんですか。わかりませんよ、それじゃ。

「ほら、屋敷で会っただろ? ルークの嫁さんに」

 なかなか答えない領主様の代わりに、レギオラさんが答える。
 よめ、ヨメ、嫁。ファーリア様の事だよね? それがなんで…………いや騒ぐね、あの人は……

「事情はわかりました。それで領主様がこちらに来た理由はなんでしょうか?」

 私の近況が気になるなら、あとでレギオラさんから聞けば良いのに、こっちに出向いたのなら用事があるはずだ。

「この前のカイラスの事だよ」
「カイラス様…ですか?」

 なんで、ここで駄目次男の名前が出てくるのさ。私は、あの人には、これっぽっちも興味はないよ?
 って、その話はここでしていいの? エレナさんやアゼリアさんもいるんだよ?

「大丈夫。今からする話は街の人間は皆が知っている。多少は知らない事もあると思うが、ここにいる者なら問題はないだろう」

 私がチラッと二人を見ると、領主様がその視線に気付いたのか問題はない、と言った。
 つまり、口外はするなって事ですよね。

「それで、結論から言わせてもらうと、恥ずかしながら身内から魔薬中毒者を出してしまった」
「それは……」

 やっぱり、という気持ちが先にきたけど、それ以上に領主様やファーリア様の心労が気になる。
 私から見れば、あんな奴だけど、二人にとっては大事な家族だ。
 それが色々と問題を起こせば、様々な苦労が降りかかると思う。それこそ私には理解できない貴族社会のアレやコレやがあるはずだ。

「カイラスが勝手に行った魔薬調査の目的は、魔薬を手に入れる為で捕らえた売人から押収した物を使っていたそうだ」
「押収した物の管理はしていなかったんですか?」
「カイラスが珍しくやる気だったから、任せてしまっていたんだ……」
「最悪ですね……」

 呆れた……身内に対して警戒がなかったんだね。
 家族愛といえば聞こえは良いのかも知れないけど、それはただの無責任だよ。

「人に体を張らせておきながら、そんな杜撰な管理体制しか敷いていないなんて驚きですね」
「本当にすまなかった」

 頭を下げられても、何も変わらないですよ。

「それで、その犯罪者はどうなさったんですか? 共犯者は? まさか部屋で療養させている、なんて言わないですよね?」
「嬢ちゃん、やめろ」

 レギオラさんが私を止める言葉をかけてくるけど、さすがに止めるつもりはない。
 良い領主だと思っていた。たしかに良い人なんだとは思う。けれど良い人=良い領主ではない。

「わかっているんですか? あの時、あの犯罪者に魔薬を使っているという嫌疑を掛けなければ、きっとあの犯罪者が別の街から魔薬を持ち込んでいたはずです。領主様はこの街から魔薬を取り除きたかったのではないのですか?」
「嬢ちゃん! ……ルークも今回の件は堪えているんだ。だから……」
「堪える? それは身内から中毒者が出た事ですか? それとも、やっと解決したかと思ったのに自分の無能さで全てを台無しにしかけた事ですか?」
「シラハ!!」
「「ギルマス!」」

 レギオラさんが私の胸倉を掴み、それを見てエレナさんとアゼリアさんが悲鳴に近い声でレギオラさんを止める。

 私はというと、掴み上げられて足がプランと浮いていて締まらない格好だけど、冷めた視線をレギオラさんに向けている。

「怒りたいのはこっちですよ。殺されかけたのに、その苦労も痛みも適当に対処されていた、なんて聞かされて許せる人がどれだけいるんですかね」
「シラハちゃん……」
「それで? もう一度聞きますけど、その犯罪者と共犯者はどうしたんですか?」

 レギオラさんからは視線を外して、領主様へと目を向ける。
 領主様はまだ頭を下げていて、まるで項垂れている様だった。

「カイラス様は貴族籍から外して、現在は軟禁状態にあります。それとカイラス様と共に調査を行った者達は、その行動を強要されたとして罪には問いませんでした」

 私の質問にセバスチャンさんが答えてくれる。
 領主様は答えないんだね。ここに来たのは直接、私に説明するためだと思ってたんだけどね。

「その人達もちゃんと調べたんですよね? 自宅やその人の周囲の人達まで」
「勿論です」
「そうですか……。ですが強要されたとはいえ、押収した魔薬の量を正確に報告する、という当たり前の責任さえ果たさなかったのですよね」
「その通りですが、私を始めとして関わった者が気付かなかったのです。それを彼等だけの罪にするわけにはいきません」

 本当なら、それはカイラスに一任した領主様の罪なんだけどね。セバスチャンさんは、それを理解した上で自分の責任でもあると言っている。

「では、あとはちゃんと管理できる体制を作っていくしかないですね」
「その通りです。これから大変ですが、私も微力ながらお手伝いさせて頂く所存です」
「ここまで言ってくれる方がいて良かったですね。それで、いつまでそこで、へこたれているつもりですか?」

 私の言葉に領主様が漸く顔を上げた。

「今回は無駄にする一歩手前で止められたんですから、今後こんな事が起きないように全力で改善していくしかないんですよ。それなのに領主様がそんな調子では、誰が皆を引っ張っていくんですか?」
「私だ……」
「そうですよ。私みたいな小娘に言われるまでもない事です。目が覚めたのなら、常に街の人達に見られていると思って死ぬ気で頑張ってください」
「死ぬ気でか?」

 領主様が苦笑気味に聞き返してくる。

「ええ、死ぬ気で…です。それが体を張って事に当たった人達に見せるべき、上の人間の姿です」

 矢面に立つ者だけが命や体を犠牲するなんてあってはいけない。
 偉いからって、踏ん反り返っているなんて馬鹿のやる事だ。
 命も体も掛けないのなら、それ以外の全部を使って街を守らなきゃ駄目だ。

 在り方は人それぞれだけど、下の人間だけに何かを求めるのは間違っていると断言できる。

 だから私に良くしてくれた貴方が、この街に疎まれる事がないようにして欲しい。


 だからどうか、私の好きなこの街を守ってください。









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後書き
シラハ「というかレギオラさんは、いつまで私を掴んでいるんですか?」
レギオラ「す、すまん。手を離すタイミングを逃した」
エレナ「ギルマスサイテー」
アゼリア「チョーコワイー」
ルーク「アリエナーイ」
レギオラ「ルークの裏切り者!」
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