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お話ししましょうか
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私は退屈のあまり、落ち着きがなくなる……こともなく待っていると、そこへアルフリードさんが戻ってきた。
そこまで時間がかからなかったけど、大した内容じゃなかったのかな?
「お待たせ。ちゃんと良い子にしてたかな?」
「あら、お兄様。私はいつでも良い子ですよ」
アルフリードさんがお兄様モードなので、私も妹モードで返事をする。
まだ、ここは訓練場の近くだしね。
「それじゃあ、行こうか」
「どこに行きましょうか……」
「まだ決まっていないなら、行きたい所があるんだけど良いかな?」
「お兄様が行きたい所なら、何処でも平気ですよ」
「それは良かった。気に入って貰えるか不安だったから」
正直いつもと違う喋り方って疲れるから、早く場所を移動したいんだよね。
……なんて思っていた時もありました。
私は今、貴族街の入り口にやって来ています。
「お兄様の行きたい所って、貴族街…ですか?」
「そうだよ」
そうだよ……じゃないよ、お兄様!
私、入れないから!
入りたくもないし、ついでに身分偽ってるから入れないし!
しかも、何でよりにもよってここなの?!
昨夜来たばっかりだし、やべー事をしたばかりだよ!
貴族街と下町を隔てる城壁に、人や馬車が出入りする為の入り口があるんだけど、当然そこには見張りもいる。
私は、そこでストップがかかると思うんだよね。
「大丈夫だよ。僕がいるから」
私が浮かない顔をしていると、アルフリードさんが私の耳元で囁く。
ちょ、ゾワっとするからヤメテ!
私がアルフリードさんの攻撃を受けて俯いていると、その間にアルフリードさんが手続きを済ませてくれたみたいだった。
見張りの人は私を一瞥すると、すぐに視線を外す。
本当に通って良いみたいだ。
ちょっとドキドキしながらアルフリードさんと貴族街に入って行く。
何処に行くんだろう?
「お兄様、私達はどちらに向かっているのですか?」
私は入り口から少し離れた所まで来ると、アルフリードさんに訪ねてみる事にした。
「僕も詳しい事は知らないんだけど、昨夜に貴族が一人、行方不明になったそうなんだ」
「…………へぇ」
あれ? それって、まさに私が昨夜しでかした事件ではないのかな?
あれですか……犯人は現場に戻ってくる、ってヤツですか!
「まぁ、君は興味ないだろうけど、隊長に許可を貰ったんだ。そうすればシラハと一緒にいられるからね」
「……わぁぃ」
余計なことを……とは口が裂けても言えないね。
犯人、私ですし?
「あれ? イヤだった?」
「全然ソンナコトナイデスヨ?」
「そう? なら良いけど……」
良くはないんだけどね。
もう帰りたいよ……
私の祈りは何処にも届かず、私達は貴族の屋敷にやって来た。来てしまったのである……
屋敷に到着して、私達はすぐに消えた貴族が最後に居た部屋に通された。
ホント、ここには来たくなかったよ……
「それで、ここで何を探すのですか?」
「消えた手掛かりならなんでも。あとは魔薬関係、かな」
「……そうですか」
昨夜に消してしまった貴族を証拠として提出したいところだけど、それができない以上、とにかく証拠となる物を探さなきゃだね。
あの貴族から話を聞いただけに、なんとも歯痒い。
「と言っても、すでに隊長達が一度調べた後だから、何も無いかもだけどね」
「何もない事が分かれば良いんじゃないんですか?」
「そうだね。それじゃ、早速探すとしようか」
探すと言っても、こういうのって何処から探せばいいのさ。
刑事ドラマとかで出てくる鑑識の人みたいに、指紋とか調べても意味ないというか道具がないし。
犯人に繋がる手掛かりを手に入れても、犯人は私だしなぁ……
もしも私が犯人だとバレたら、アルフリードさんはどうするのかな……
おっと、いけない。
証拠探しに集中しているように見せなきゃね。
それから二人で他の部屋でも証拠を探したりしたけど、魔薬調査に繋がりそうな物は出てこなかった。
「やっぱり隊長達が調べただけあって何もないね」
「まぁ、私達よりは手慣れているでしょうからね」
騎士だから家宅捜査が得意という事はないと思うけど、私達よりは経験はあるんじゃないのかな? 知らないけど。
とはいえ、手ぶらで帰るのはアルフリードさんにとっては任務失敗みたいな感じになるのかな?
私のせいで汚点が付くのは、ちょっとイヤかなぁ……
んー、何かないかなぁ。
「貴族が最後に会っていたという誰かを探せれば良いんだけどな」
考え込む私の隣でアルフリードさんが呟く。
待て待て私。
変な事を考えちゃダメだよ。
さすがにそれは言い訳が難しい。
「あの…アルフリード様。その貴族が最後に会っていたという人物。探せるかもしれません」
「本当か?!」
言ってしまった。
どうするんだ私。
その人物の事は、知っているので探すのは簡単だ。
だけど、どういった理屈で私は、その人物を見つけると言うのだろうか。
「それで僕は何をすれば良い?」
「ええっと……」
すみませんノープランなので、ちょっとお待ちを……
どうしようかな……
貴族に騙されて姫様に毒を飲ませていた燕尾服の男の匂いを追跡するにしても、もう屋敷には他にも沢山の人の匂いが混ざってしまっているので、匂いの追跡はできない。
他の人は匂いなんてわからないだろうけど、もしそこを突っ込まれたら困るしね。
なら、あの燕尾服の男が使っていた毒の匂いを追跡する?
あの毒なら匂いも分かるし、まだ魔薬と一緒に匂いが少し残っているから大丈夫かな。
なるべく事実も盛り込んでおかないとね。
多少は嘘を混ぜる事にはなるけど、それは今更だしね。
「アルフリード様、魔薬と一緒に押収された物に毒物はありませんでしたか? 私、その匂いを何日か前から王城の近くでも嗅いだ覚えがあります」
「城の付近、もしくは城内で使われた、ということか? さすがに証拠品をシラハに見せる事は出来ないと思うけど……一応確認してみる」
まずはアルフリードさんを動かす事には成功だね。
あとは許可が出るかどうか……
私達は貴族の屋敷での調査を終わりにして、貴族街を出て王城へと向かう。
「今日は、なんだか城に行ってばっかりだなぁ」
「大変ですね」
「他人事みたいに言うね……」
そんな事ないですとも。
ただ許可が貰えなかったら、どうしよう……って緊張してるだけなので。
王城に到着すると、私はまた訓練場の入り口付近で待機だ。
さすがに勝手に入っちゃいけない事くらいはわかってますとも。
アルフリードさんが許可を貰いに王城に入ってから暫くすると、有り得ない人を連れてきた。
ローウェルさんじゃん!
なんで、この人を連れて来たの?!
「コイツが、例の協力者か?」
「……はい」
「ふむ……見た目は目立つが、何処にでもいそうな娘だな」
ローウェルさんが値踏みするような視線を私に向ける。
私は先日、忍び込んだ時に気配を察知されたので、お近づきにはなりたくなかった。
それなのに何故か目の前にいる。
いや少し考えれば分かる事なんだけどね。
アルフリードさんが許可を取ってくる相手が、上司であるローウェルさんなのは不思議じゃないし。
「で? この娘が信用できる根拠は?」
私を観察し終わったのか、視線を外してアルフリードさんに質問を投げかける。
どうでも良いけど、それを私の前で言う?
「シラハが信用できるのは、アルクーレの一件から見ても明白です。それに領主殿も信頼している様子でした」
「それは聞いたが、お前の話を聞いてもコイツには不審な点が多い。そうだろう?」
「それは……」
あれ?
なに、この会話。
私をアルフリードさんの妹として話してない。
ローウェルさんは私の事を知ってるの?
「なぁ、お前さんは本当にただの村娘だったのか?」
「そうですけど?」
ここは誤魔化さない方がいいかな……
「それを証明できるのか?」
「…………証明できる物はありませんね」
「つまり、お前は身元不明の冒険者ってことか……」
「冒険者は身分証明になるのでは?」
だから冒険者ギルドで発行させられたんだしね。
「それ以前の生い立ちが不明瞭では信用できないな」
「隊長……!」
そんなこと言われてもなぁ……
アルフリードさんも困った顔をしている。いや、私も困ってるんだけどね。あとできちんとお話ししましょうか。
私はローウェルさんをしっかりと見据える。
「それではローウェル隊長は、ご自身の身分や騎士となる以前の事を証明する事はできるのでしょうか?」
「それなら俺の部下や城にいる連中、俺の生家でも訪ねればいい」
「しかし、今貴方が挙げた方達が、私を騙す為に用意された方かもしれませんよね? その方達が本物の証人であるという証明は何処にあるのですか?」
「お前は何を言っている? そんな事を言ったらキリがないだろ」
「そもそも、人の言に信用を置こうとしている時点で間違いなのでは? アルフリード様の上司であるのなら、貴方も魔薬調査をしているのでしょうけど、私から言わせれば貴方も十分に怪しいと思いますが?」
「俺が怪しいなら、どうする?」
「帰りますが何か? 私も解決する気のない方と一緒いる程、暇ではないですもの」
「………………」
ローウェルさんが沈黙する。
どうかな……
「俺は、お前を信用しきれん」
「当然ですね」
「城内にいる間は俺も同行する。構わんな?」
「わかりました」
ふぃー。
どうにかなったかな?
「ところで……」
一息ついた私にローウェルさんが、さらに話しかける。
「なぜ俺をローウェルだと知っていたんだ? アルフリードは俺の事を隊長としか呼んでいなかったはずだが……」
ヤバっ……失敗した!
落ち着け、落ち着け……!
「ここに来るまでの間にアルフリード様とヴァンス様のやり取りで、アルフリード様の上司である方がローウェル隊長だと聞いておりましたので、許可を取り付けるのならローウェル隊長が出てくるだろうと勝手に思い込んでおりました」
「……そういう事にしておこう」
どうにか、引いてくれたね……
ローウェルさんは怖いよ……
「それで、まずは何をするんだ?」
さっそくローウェルさんが質問をしてくる。
もう少し休ませて欲しいんだけどね!
「まずは魔薬と一緒に押収した毒物を見せてもらいたいのですが……」
「よく匂いだけで毒だと分かったな」
「知っている匂いでしたので」
「なら、毒物を見せる必要はないんじゃないのか?」
「ただの確認です」
まあ匂いは覚えているから、あとは燕尾服の男を見つけ出すだけなんだけどね。
とはいえ、いきなり燕尾服の男を見つけ出すのも不自然かと思っての演出だったんだけど、ローウェルさんはすでに私を不審人物扱いしているね。
私も無理を言ってる自覚はあるけどね。
ローウェルさんの案内で、ローウェルさんの執務室までやって来る。
前回ここに来た時は、ローウェルさんに私の侵入がバレてヒヤヒヤした覚えしかないよ。
あれは生きた心地がしなかったね。
「押収したのは、そこに置いてあるやつだ」
ローウェルさんが部屋の一角に置いてある机を指差した。
机の上には、紙の束やら調度品やらとゴチャゴチャ物が溢れていた。
執務室は、そこまで広くはないし無理にこの部屋に集めなくても良いと思うんだけどな。
「ああ、それとお前は物に触るなよ」
「……わかりました」
どこまで警戒してるんだよ!
面倒くさいなぁ……
「それじゃあ、アルフリード様アレを取ってください」
「コレか?」
私は小さな小瓶を指差して、アルフリードさんに取ってもらうと匂いを嗅がせて貰う。
この小瓶から姫様に盛られていた毒と同じ匂いがする。
「それが毒なのか? 一体どんな毒なんだ?」
ローウェルさんは、コレが毒だとは知らなかったみたいだね。
姫様の症状からすると遅効性だし、分からなかったのかもしれない。
「さぁ? 私はこの匂いが毒だと知っているだけで、どんな毒かは興味ありませんし」
毒による症状まで説明すると、さすがに怪しいかな、と思って惚けることにした。
どっちにしても怪しまれるかな?
もう何をやっても怪しまれる気がするよ!
とにかく、なるようになれだ。
怪しまれてるなら、あとは出たとこ勝負だね。
「匂いの確認はできたので、あとは城内を歩かせてもらえれば大丈夫です」
「良いだろう。だが……怪しい動きをすれば手足の一本くらいは覚悟して貰うぞ?」
マジですか……
何かあったら全力で避けよう。
なんともスリリングな城内見学になりそうだ……
//////////////////////////////////////////////////////
後書き
シラハ「ローウェルさんって、おっかないですよね」
アルフリード「そうかな? 良い人だと思うけど……」
シラハ「なら、もう少し優しくしてくれても良いと思うんだ」
アルフリード「まぁ、シラハが怪しいのは今に始まった事ではないしね」
シラハ「酷い! あ、でもカトレアさんなら証人になるのでは?」
ローウェル「魔物だろ?」
シラハ「本当の事だけど言い方! なら狐鈴とかっ」
ローウェル「自称作者の駄狐だろ?」
シラハ「そうでしたね」
狐鈴「二人して酷すぎる!」
そこまで時間がかからなかったけど、大した内容じゃなかったのかな?
「お待たせ。ちゃんと良い子にしてたかな?」
「あら、お兄様。私はいつでも良い子ですよ」
アルフリードさんがお兄様モードなので、私も妹モードで返事をする。
まだ、ここは訓練場の近くだしね。
「それじゃあ、行こうか」
「どこに行きましょうか……」
「まだ決まっていないなら、行きたい所があるんだけど良いかな?」
「お兄様が行きたい所なら、何処でも平気ですよ」
「それは良かった。気に入って貰えるか不安だったから」
正直いつもと違う喋り方って疲れるから、早く場所を移動したいんだよね。
……なんて思っていた時もありました。
私は今、貴族街の入り口にやって来ています。
「お兄様の行きたい所って、貴族街…ですか?」
「そうだよ」
そうだよ……じゃないよ、お兄様!
私、入れないから!
入りたくもないし、ついでに身分偽ってるから入れないし!
しかも、何でよりにもよってここなの?!
昨夜来たばっかりだし、やべー事をしたばかりだよ!
貴族街と下町を隔てる城壁に、人や馬車が出入りする為の入り口があるんだけど、当然そこには見張りもいる。
私は、そこでストップがかかると思うんだよね。
「大丈夫だよ。僕がいるから」
私が浮かない顔をしていると、アルフリードさんが私の耳元で囁く。
ちょ、ゾワっとするからヤメテ!
私がアルフリードさんの攻撃を受けて俯いていると、その間にアルフリードさんが手続きを済ませてくれたみたいだった。
見張りの人は私を一瞥すると、すぐに視線を外す。
本当に通って良いみたいだ。
ちょっとドキドキしながらアルフリードさんと貴族街に入って行く。
何処に行くんだろう?
「お兄様、私達はどちらに向かっているのですか?」
私は入り口から少し離れた所まで来ると、アルフリードさんに訪ねてみる事にした。
「僕も詳しい事は知らないんだけど、昨夜に貴族が一人、行方不明になったそうなんだ」
「…………へぇ」
あれ? それって、まさに私が昨夜しでかした事件ではないのかな?
あれですか……犯人は現場に戻ってくる、ってヤツですか!
「まぁ、君は興味ないだろうけど、隊長に許可を貰ったんだ。そうすればシラハと一緒にいられるからね」
「……わぁぃ」
余計なことを……とは口が裂けても言えないね。
犯人、私ですし?
「あれ? イヤだった?」
「全然ソンナコトナイデスヨ?」
「そう? なら良いけど……」
良くはないんだけどね。
もう帰りたいよ……
私の祈りは何処にも届かず、私達は貴族の屋敷にやって来た。来てしまったのである……
屋敷に到着して、私達はすぐに消えた貴族が最後に居た部屋に通された。
ホント、ここには来たくなかったよ……
「それで、ここで何を探すのですか?」
「消えた手掛かりならなんでも。あとは魔薬関係、かな」
「……そうですか」
昨夜に消してしまった貴族を証拠として提出したいところだけど、それができない以上、とにかく証拠となる物を探さなきゃだね。
あの貴族から話を聞いただけに、なんとも歯痒い。
「と言っても、すでに隊長達が一度調べた後だから、何も無いかもだけどね」
「何もない事が分かれば良いんじゃないんですか?」
「そうだね。それじゃ、早速探すとしようか」
探すと言っても、こういうのって何処から探せばいいのさ。
刑事ドラマとかで出てくる鑑識の人みたいに、指紋とか調べても意味ないというか道具がないし。
犯人に繋がる手掛かりを手に入れても、犯人は私だしなぁ……
もしも私が犯人だとバレたら、アルフリードさんはどうするのかな……
おっと、いけない。
証拠探しに集中しているように見せなきゃね。
それから二人で他の部屋でも証拠を探したりしたけど、魔薬調査に繋がりそうな物は出てこなかった。
「やっぱり隊長達が調べただけあって何もないね」
「まぁ、私達よりは手慣れているでしょうからね」
騎士だから家宅捜査が得意という事はないと思うけど、私達よりは経験はあるんじゃないのかな? 知らないけど。
とはいえ、手ぶらで帰るのはアルフリードさんにとっては任務失敗みたいな感じになるのかな?
私のせいで汚点が付くのは、ちょっとイヤかなぁ……
んー、何かないかなぁ。
「貴族が最後に会っていたという誰かを探せれば良いんだけどな」
考え込む私の隣でアルフリードさんが呟く。
待て待て私。
変な事を考えちゃダメだよ。
さすがにそれは言い訳が難しい。
「あの…アルフリード様。その貴族が最後に会っていたという人物。探せるかもしれません」
「本当か?!」
言ってしまった。
どうするんだ私。
その人物の事は、知っているので探すのは簡単だ。
だけど、どういった理屈で私は、その人物を見つけると言うのだろうか。
「それで僕は何をすれば良い?」
「ええっと……」
すみませんノープランなので、ちょっとお待ちを……
どうしようかな……
貴族に騙されて姫様に毒を飲ませていた燕尾服の男の匂いを追跡するにしても、もう屋敷には他にも沢山の人の匂いが混ざってしまっているので、匂いの追跡はできない。
他の人は匂いなんてわからないだろうけど、もしそこを突っ込まれたら困るしね。
なら、あの燕尾服の男が使っていた毒の匂いを追跡する?
あの毒なら匂いも分かるし、まだ魔薬と一緒に匂いが少し残っているから大丈夫かな。
なるべく事実も盛り込んでおかないとね。
多少は嘘を混ぜる事にはなるけど、それは今更だしね。
「アルフリード様、魔薬と一緒に押収された物に毒物はありませんでしたか? 私、その匂いを何日か前から王城の近くでも嗅いだ覚えがあります」
「城の付近、もしくは城内で使われた、ということか? さすがに証拠品をシラハに見せる事は出来ないと思うけど……一応確認してみる」
まずはアルフリードさんを動かす事には成功だね。
あとは許可が出るかどうか……
私達は貴族の屋敷での調査を終わりにして、貴族街を出て王城へと向かう。
「今日は、なんだか城に行ってばっかりだなぁ」
「大変ですね」
「他人事みたいに言うね……」
そんな事ないですとも。
ただ許可が貰えなかったら、どうしよう……って緊張してるだけなので。
王城に到着すると、私はまた訓練場の入り口付近で待機だ。
さすがに勝手に入っちゃいけない事くらいはわかってますとも。
アルフリードさんが許可を貰いに王城に入ってから暫くすると、有り得ない人を連れてきた。
ローウェルさんじゃん!
なんで、この人を連れて来たの?!
「コイツが、例の協力者か?」
「……はい」
「ふむ……見た目は目立つが、何処にでもいそうな娘だな」
ローウェルさんが値踏みするような視線を私に向ける。
私は先日、忍び込んだ時に気配を察知されたので、お近づきにはなりたくなかった。
それなのに何故か目の前にいる。
いや少し考えれば分かる事なんだけどね。
アルフリードさんが許可を取ってくる相手が、上司であるローウェルさんなのは不思議じゃないし。
「で? この娘が信用できる根拠は?」
私を観察し終わったのか、視線を外してアルフリードさんに質問を投げかける。
どうでも良いけど、それを私の前で言う?
「シラハが信用できるのは、アルクーレの一件から見ても明白です。それに領主殿も信頼している様子でした」
「それは聞いたが、お前の話を聞いてもコイツには不審な点が多い。そうだろう?」
「それは……」
あれ?
なに、この会話。
私をアルフリードさんの妹として話してない。
ローウェルさんは私の事を知ってるの?
「なぁ、お前さんは本当にただの村娘だったのか?」
「そうですけど?」
ここは誤魔化さない方がいいかな……
「それを証明できるのか?」
「…………証明できる物はありませんね」
「つまり、お前は身元不明の冒険者ってことか……」
「冒険者は身分証明になるのでは?」
だから冒険者ギルドで発行させられたんだしね。
「それ以前の生い立ちが不明瞭では信用できないな」
「隊長……!」
そんなこと言われてもなぁ……
アルフリードさんも困った顔をしている。いや、私も困ってるんだけどね。あとできちんとお話ししましょうか。
私はローウェルさんをしっかりと見据える。
「それではローウェル隊長は、ご自身の身分や騎士となる以前の事を証明する事はできるのでしょうか?」
「それなら俺の部下や城にいる連中、俺の生家でも訪ねればいい」
「しかし、今貴方が挙げた方達が、私を騙す為に用意された方かもしれませんよね? その方達が本物の証人であるという証明は何処にあるのですか?」
「お前は何を言っている? そんな事を言ったらキリがないだろ」
「そもそも、人の言に信用を置こうとしている時点で間違いなのでは? アルフリード様の上司であるのなら、貴方も魔薬調査をしているのでしょうけど、私から言わせれば貴方も十分に怪しいと思いますが?」
「俺が怪しいなら、どうする?」
「帰りますが何か? 私も解決する気のない方と一緒いる程、暇ではないですもの」
「………………」
ローウェルさんが沈黙する。
どうかな……
「俺は、お前を信用しきれん」
「当然ですね」
「城内にいる間は俺も同行する。構わんな?」
「わかりました」
ふぃー。
どうにかなったかな?
「ところで……」
一息ついた私にローウェルさんが、さらに話しかける。
「なぜ俺をローウェルだと知っていたんだ? アルフリードは俺の事を隊長としか呼んでいなかったはずだが……」
ヤバっ……失敗した!
落ち着け、落ち着け……!
「ここに来るまでの間にアルフリード様とヴァンス様のやり取りで、アルフリード様の上司である方がローウェル隊長だと聞いておりましたので、許可を取り付けるのならローウェル隊長が出てくるだろうと勝手に思い込んでおりました」
「……そういう事にしておこう」
どうにか、引いてくれたね……
ローウェルさんは怖いよ……
「それで、まずは何をするんだ?」
さっそくローウェルさんが質問をしてくる。
もう少し休ませて欲しいんだけどね!
「まずは魔薬と一緒に押収した毒物を見せてもらいたいのですが……」
「よく匂いだけで毒だと分かったな」
「知っている匂いでしたので」
「なら、毒物を見せる必要はないんじゃないのか?」
「ただの確認です」
まあ匂いは覚えているから、あとは燕尾服の男を見つけ出すだけなんだけどね。
とはいえ、いきなり燕尾服の男を見つけ出すのも不自然かと思っての演出だったんだけど、ローウェルさんはすでに私を不審人物扱いしているね。
私も無理を言ってる自覚はあるけどね。
ローウェルさんの案内で、ローウェルさんの執務室までやって来る。
前回ここに来た時は、ローウェルさんに私の侵入がバレてヒヤヒヤした覚えしかないよ。
あれは生きた心地がしなかったね。
「押収したのは、そこに置いてあるやつだ」
ローウェルさんが部屋の一角に置いてある机を指差した。
机の上には、紙の束やら調度品やらとゴチャゴチャ物が溢れていた。
執務室は、そこまで広くはないし無理にこの部屋に集めなくても良いと思うんだけどな。
「ああ、それとお前は物に触るなよ」
「……わかりました」
どこまで警戒してるんだよ!
面倒くさいなぁ……
「それじゃあ、アルフリード様アレを取ってください」
「コレか?」
私は小さな小瓶を指差して、アルフリードさんに取ってもらうと匂いを嗅がせて貰う。
この小瓶から姫様に盛られていた毒と同じ匂いがする。
「それが毒なのか? 一体どんな毒なんだ?」
ローウェルさんは、コレが毒だとは知らなかったみたいだね。
姫様の症状からすると遅効性だし、分からなかったのかもしれない。
「さぁ? 私はこの匂いが毒だと知っているだけで、どんな毒かは興味ありませんし」
毒による症状まで説明すると、さすがに怪しいかな、と思って惚けることにした。
どっちにしても怪しまれるかな?
もう何をやっても怪しまれる気がするよ!
とにかく、なるようになれだ。
怪しまれてるなら、あとは出たとこ勝負だね。
「匂いの確認はできたので、あとは城内を歩かせてもらえれば大丈夫です」
「良いだろう。だが……怪しい動きをすれば手足の一本くらいは覚悟して貰うぞ?」
マジですか……
何かあったら全力で避けよう。
なんともスリリングな城内見学になりそうだ……
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後書き
シラハ「ローウェルさんって、おっかないですよね」
アルフリード「そうかな? 良い人だと思うけど……」
シラハ「なら、もう少し優しくしてくれても良いと思うんだ」
アルフリード「まぁ、シラハが怪しいのは今に始まった事ではないしね」
シラハ「酷い! あ、でもカトレアさんなら証人になるのでは?」
ローウェル「魔物だろ?」
シラハ「本当の事だけど言い方! なら狐鈴とかっ」
ローウェル「自称作者の駄狐だろ?」
シラハ「そうでしたね」
狐鈴「二人して酷すぎる!」
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