とりあえず異世界を生きていきます。

狐鈴

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私の気持ち

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「やぁシラハ、体調はどう?」
「こんばんは、アルフリード様。まだ体が満足に動かないですけど、それ以外は問題ないですよ」
「そうか……」

 そう言いながらアルフリードさんは、私の近くの椅子に腰掛ける。
 そしてメイドさんを見て退室を促した。

「えっと……」

 メイドさんが部屋から出て行くと、アルフリードさんが何やら言い淀む。

「アルフリード様。まずは、なんと言って私をお屋敷に連れてきたのか教えてください」
「あ、そうだね。すまない、気が利かなくて……」
「いや、そんな事は言ってないですけど……」

 どうしたんですか、そんな事を言うなんて珍しい。

「すまないが、父にはシラハの素性を伝えてある。他の者には、知り合いの妹と教えている」
「まぁ妥当ですね……」
「怒らないのか?」
「私は気を失っていましたし怒りませんよ。むしろ屋敷に滞在させて貰って、ありがとうございます。ですよ」
「そうか……」

 アルフリードさんが、ホッとしたような顔をする。
 そんな事で私が怒るとでも思ったのかな?
 失礼しちゃうよ。

「ですが……」
「ん?」
「ローウェル隊長に私の素性を伝えたのは、一体全体どう言う事ですかねぇ?」
「怒ってるじゃないかっ」
「そりゃ怒りますよ! いや、怒るというか怖かったんですからね! 私の一言一言、一挙手一投足全部を睨むように見てくるんですから! 本当に生きた心地しなかったんですよ?!」
「そ、それはすまなかった……」

 私の勢いにアルフリードさんが引いたように謝る。
 ちょっと熱くなってしまったね。

「まぁ、それも一応は落ち着いたので、もういいですけどね。それで、お城の方はどうですか?」
「あ、ああ……イリアス姫は、まだ意識は戻っていないけど命に別状はないみたいだ」
「はい、それはローウェル隊長から聞きました」
「そうか。ええっと……イリアス姫が襲われた事は表沙汰にはしたくなかったんだけど、さすがにそれは難しいそうでね」
「もう噂になっているんですか?」
「うん。何人か嗅ぎ回っているらしいよ」

 やっぱり王族が襲われたとなれば噂にはなるよね。人の口に戸は立てられないって言うからね。

「僕は詳しく聞かされていないけど、あんな所にイリアス姫が居たことに何名かの貴族が関わっているらしいんだ」

 ゴメンね、アルフリードさん。
 私は何名かの貴族ではなくて、その黒幕を知っているんだけどね。
 その事はローウェルさんも知っていたし、アルフリードさんには必要以上には情報が開示されていないのかも……

 今更ではあるけど、隠し事ばかりで申し訳なくなってきちゃうね……

「シラハ? どうかしたのか?」
「あっ…なんでもないですよ」
「そう? ならいいけど……」

 申し訳なさが顔に出ちゃってたのかな?
 話に集中しないと……

「そんな訳なんだけど、第一発見者である僕達はあまり関わらない方がいいという事で、隊長には城には顔を出すなと言われてしまったんだ」
「そうなんですか?」
「ああ。だから、この時間までノックス副隊長と話をして、情報の共有を行なっていたんだよ」
「それで、その副隊長さんにも私の事を教えてきちゃったんですか?」
「い、いや、さすがに僕もそこまで簡単に話したりはしないから大丈夫だよ……」

 私がジト目で尋ねると、アルフリードさんに目を逸らされる。
 ローウェルさんに教えてしまった事は反省して欲しいところだね。


「アルフリード様、旦那様がお見えになっておりますが、お通ししても宜しいでしょうか?」

 そこへメイドさんが部屋の入り口で取り次ぎをする。
 そういえば、アルフリードさんのお父さんとは、まだ会ってなかったね。

 アルフリードさんが私の方を見てくるので、それに頷くとメイドさんがドアを開けて、部屋の外で待つ人物を招き入れる。

 その人物はアルフリードさんが少し歳をとった感じだけど、ただ老けているという訳ではない気迫というか圧のようなものを感じる。
 もしかするとアルフリードさんのお父さんだから、昔は騎士だったのかも。

「お初にお目にかかる。私がオーベル家当主クレイス・オーベルだ」

 アルフリードさんのお父さんが挨拶をしてくれる。

 どうしよう……私まだ、あまり動けないんだよね。
 仕方ない……

「横になったままで申し訳ありません。私、冒険者のシラハと申します。この度は、こちらのお屋敷で休ませて頂き、ありがとうございます」

 私はベッドに横になったままで頭を下げながら自己紹介を行う。今の私には、これが精一杯だ。

「これは、ご丁寧に……。アル、しっかりした娘じゃないか」
「だから言ったじゃないか。見た目で判断すると、彼女の対応に驚くって」
「たしかにな。しかも思っていたよりもずっと綺麗だ。数年後が楽しみだな」

 こういう時、なんて反応したらいいか分からないから困るよね。
 ですよねー私ってば超可愛いし! とか言えないよ、恥ずか死ぬ。冗談でも恥ずかしいし……
 というかアルフリードさんて、家族にはアルって呼ばれてるんだ。

「それで、この娘を嫁に迎えたい、という話だったか?」
「っ?!」
「と、父さん! 揶揄うのはやめてくれ! シラハとは、ただの仕事仲間だ!」

 一瞬驚いたものの、そのあとのアルフリードさんの言葉がグサリと胸に突き刺さる。
 仕事仲間……

 いや、まぁ……そうなんですけどね。
 それでも、こうハッキリと言われると悲しいよね……

 しかも私はアルフリードさんとの関係を、これといって変えるつもりがないと決めたのにも関わらず、こんなんなんだから困ったものだよ。
 決めたつもりでも、まだ心の何処かでは未練があるのかもね。

「二人して初心な可愛らしい反応をするな。だが、アルはもう少し言葉に気を付けた方がいいぞ、何気ない発言だとしても相手が傷付く事はあるのだから」
「え…あ、はい」

 親子二人が私を見てくる。
 今は少し顔が赤いから見なくて宜しい。

「シラハ…だったね。アル、息子と共に行動していると聞いたが、剣ばかり振っていたアルでは、調査はなかなかに大変だったのではないか?」
「そんな事ありませんでした。アルフリード様は何かあれば私の身を案じてくれましたし、倒れれば私を運んでくれたりもしてくださいました。アルフリード様には本当に何度も助けられていますよ」

 調べる方は結果が出なかったけど、私を助けるという点では何度かお世話になっているので嘘ではないよ。

「そうか……アルが調査なんて、何が出来るのかと心配だったが杞憂だったか」
「ちゃんと報告しただろ? 問題ないって」
「だがアルクーレ伯爵と共に判断を誤って、彼女に怪我を負わせたのだろう? アルは、その責任をきちんと取ったのかい?」
「そ、それは……必要ないと言われて……」
「彼女にかい? それはアルが提示した責任の取り方が気に入らなかったのではないのか?」
「う……」

 アルフリードさんが言葉に詰まる。
 
 あの時は、私も油断してたから気にしなくて良いって言ったんだっけ?
 しかも、私をオーベル家で引き取るとか言い出したんだよね。当然断ったけど。
 なんとも惹かれない提案だったからね……

「まぁ、アルの気が利かないという話はどうでも良いんだ」

 良いんだ……。そこは気にしてあげようよ。

「私の妻は、使用人と駆落ちしてしまってね……」

 おおぅ……急になんですか……?
 って、なんて返せばいいんだコレは!

「そのせいで我が家は女性不信になっているところがあるから、心配していたんだ」
「父さん、僕らはそんな関係じゃ――」
「アルが異性と行動を共にしている、という事に驚いたという話だよ」

 親としたら心配だろうけど、言い方が紛らわしいよ……

「それで実際のところ、アルは彼女の事をどう思っているんだい?」

 父親ー!
 もう少し聞き方というモノがあるでしょうが!
 アルフリードさんも最初の頃は、生贄の事を平気で聞いてこようとしたし、やはり親子だね……

 アルフリードさんが困った顔をする。
 いや、当たり前だけどさ。
 あんな話の振られ方されたら私だって困る。

「僕は……」

 私はアルフリードさんを見る。
 こんな時に、なんで少し期待しちゃうんだよ私。
 自分は断るつもりなのに、相手には想っていて欲しいだなんて最低だな……

「僕らは本当にただの仕事仲間だよ。シラハには何度も助けられていて頼もしい限りだけど、そういった感情を持った事はないよ」
「アル……」



 そっか……
 アルフリードさんの反応が面白くて揶揄ったりしてたけど、あれは恥ずかしかっただけで私に特別な感情があったわけじゃないんだ。
 一緒に居たい、って言ってくれてたのも、結局のところ仕事としてであって、それ以上でもなかったと。

 私が勝手に舞い上がってたって訳だ。

 あー、ヤバい泣きそう。
 でも、こんな事で泣いてるところを見られるのは、なんか嫌だ。
 零れるなよ、堪えろ私。

「そういった話は家族同士、男同士でしたらどうですか? 私も体調が良い訳ではないので、用がないのなら休ませて欲しいのですが?」

 なるべく淡々と、そしてつまらない話しで不機嫌になったと装って、突き放すように言葉を並べる。

「そ、そうだな。体調の優れない者にする話ではなかったな。アル、今日はこの辺で終わりにしよう」
「……わかりました」

 父親の慌て方がアルフリードさんにそっくりだな、と思いながら眺めていると、アルフリードさんと目が合う。
 私は涙が溜まった瞳を見られないように、すぐに視線を外す。
 見られてないよね?

「シラハ、ゆっくり休んでくれ。おやすみ」

 アルフリードさんが申し訳なさそうな声音で私に声をかけてから部屋を出て行く。

 部屋には誰も居ない。

「ぅ…ぐ……ひっく…」

 どうしよう涙が止まらない。

 どこで、こんなに好きになっちゃったんだろう……
 アルフリードさんの言葉一つで一喜一憂しちゃって馬鹿みたいだ。

 胸が苦しいよ。

 泣くな。
 一緒には居られないって、自分で決めたんだから!
 形は違っても、こんな風に距離ができるのは分かりきっていたじゃない。


 そうだよ割り切れ。
 今までだって、それなりに上手くやってこれたんだしさ。

 でも、気持ちの整理は必要だ。

 だから今日だけは、泣こう。

 そして明日には、切り替えていくんだ。

 なんて事ない、誰にだってある、ただの初恋だ。


 恋の病ってヤツだ。
 泣けるだけ泣けば、明日には気持ちも軽くなってるはずだ。

 大丈夫。
 あとは明日の私に任せるさ。









//////////////////////////////////////////////////////

後書き
シラハ「ちーん……」
狐鈴「シラハちゃん、泣くなら私の胸にドーンと飛び込んで来るんだっ」
シラハ「今の私の気持ちを爆発させて飛び込んだら、アナタが爆散するけど大丈夫?」
狐鈴「どんな飛び込み?!」
シラハ「こう……スキルを使って全力で?」
狐鈴「よーし。私の胸は予約で埋まっちゃったから、また今度ね! ちなみに次回は未定よ!」
シラハ「残念ね……」
狐鈴「それは、どっちの意味で!?」
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