とりあえず異世界を生きていきます。

狐鈴

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尋問ですかっ

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 目が覚めると、すでに夜になってしまっていた。

 慌てて起き上がろうするけど、体が怠くて動かない事を思い出す。

「でも、少しは動くようになったみたいだね……」
「それは良かったです」
「ひゃわっ?!」
「あら……驚かせてしまい申し訳ありません」

 誰もいないと思っての独り言だったのに、まさか人がいるとは……心臓が飛び出すかと思ったよ。って、この人は私のお世話をしてくれているメイドさんか。
 一応知っている顔の人で安心する私。

 まぁ、名前も知らないんですけどね。

「起きたばかりですけど、何か食べられますか?」

 メイドさんに聞かれて、私は少しは食べられそうだと考える。

「なら、軽く食べられる物を……」
「かしこまりました」

 メイドさんが部屋を出て行く。

 ふぅ……
 ここが他人の家だって事を忘れないようにしなくちゃね。

 さて、まともに動く事ができない今、出来る事をしましょうかね。

 私は自分のステータス画面を表示する。

  名前:シラハ
  領域:〈ソードドラゴン+パラライズサーペント〉
     《森林鷹狗》 サハギン
      フォレストマンティス
      レッドプラント ハイオーク
      エアーハント シャドー 迷宮核
      シペトテク(0)

 スキル一覧

  通常:【牙撃】【爪撃】【竜咆哮】【丸呑み】
     【鎌撫】【吸血】【風壁】【影針】

  強化:【竜気】【剛体】【熱源感知】【跳躍】
     【水渡】【疾空】

身体変化:【竜鱗(剣)】【有翼(鳥)】【血液操作】
     【擬態】【潜影】

状態変化:【麻痺付与】【解毒液】

  重複:【獣の嗅覚】【側線】【誘引】【誘体】

  自動:【体力自動回復(中)】【毒食】【夜目】
     【潜水】【散花(●)】

  迷宮:【迷宮領域拡大】【迷宮創造】【主の部屋】

  特殊:【贄魂喰ライ(0)】


 うーん……
 特に変わったところはないかぁ。
 今までは、あの堪え難い痛みとかが発生すると、スキルとかに変化があったりしたんだけどな……
 今度、ナヴィに聞いてみよっと。

 まぁ、今回はナヴィからのアナウンスもなかったしね。
 となると、ステータスの変化じゃなくてスキルの弊害なのかもね。

 でも、今回も自分でスキルを使った覚えがないから、ちょっと怖いね……
 いつかスキルを暴発させて、誰かを傷つけてしまうんじゃないかと不安になる。
 マックレーとかいう貴族はどうでもいいけど。


 私が倒れた後は、どうなったんだろう……
 自分で言うのもアレだけど、私の動きは、かなり怪しかったと思う。
 初めて行った城内をいきなり駆け出したかと思えば、冷たくなった姫様を発見だもの。目が覚めた時、自分が牢屋の中にいなかったのが不思議なくらいだ。

 ローウェルさんは私の事を疑ってたし、拘束くらいはしてきそうだったんだけどね。

 それにしても、いつ目を覚ますか分からなかったとはいえ、状況を把握できるようにアルフリードさんには側にいて欲しかったんだけどな……
 いや、別に甘えたい訳じゃなくてねっ!

 自分が置かれている状況が分からないのは、かなり落ち着かないんだよね。

 私が色々と考えていると、遠くで知っている声が聞こえた。

 うわぁ……先にこっちが来ちゃったか。
 さっきのメイドさんが、これから食事だから待って欲しいと伝えているけど、声の主は構わないの一点張りだ。
 私が気にするから遠慮して欲しいものだよ、まったく。

 メイドさんが止めようとしているのも気にせずに、その人は私の部屋へと入ってきた。
 一応、女子の部屋なんだからノックくらいはして欲しかったな、とは思うんだ。

「こんばんは、ローウェル隊長」
「思っていたよりは元気そうだな」
「この時間まで、ぐっすりと寝かせてもらいましたので」
「そうか……食事は自分でできるか? なら、俺とこの娘の二人だけにしてもらおう」
「で、ですが――」

 ローウェルさんの言葉にメイドさんが慌てて食い下がろう
とするが、ローウェルさんはメイドさんから食事をひったくるとドアを閉めてしまった。酷い……

「今のはメイドさんが可哀想なのでは……?」
「少ししたらアルフリードが来るからな。それまでに少し話したい事がある」
「話したいこと?」

 私は早速きたか、と思いながらローウェルさんから渡された食事を受け取る。
 受け取ったミルク粥を、モッキュモッキュと食べながらローウェルさんの言葉を待つ。

「…………食べるのを止めろよ」
「お腹減ってますし……」

 食べちゃダメなら、渡さないでくださいよ。
 いざ話そうとしたら、食べながらだと締まらないな、とか思ったんでしょうけど。
 しばらく私を見ていたローウェルさんだったけど、私が食べるのを止めないと分かると、諦めたのか溜め息を一つ吐いて喋りだした。

「まずは、イリアス様を救ってくれて感謝する」
「えっ?!」

 ローウェルさんの口から出た予想外の言葉に、私は手に持っていたミルク粥を落としそうになるが、それどころではない。

「姫様が……生きている……?」
「…………」

 あの状況で?
 姫様はたしかに冷たくなっていたのに……
 でも生きていたんだ。
 本当に良かった。

「お前が助けたんじゃないのか?」
「違います。王城のお医者様が救ってくださったのではないのですか?」
「ふむ……」

 ローウェルさんが考え込む。
 違うの?
 というか、どうして私だと思ったの?
 あの時、私から出てきた黒い靄に対してアルフリードさんとローウェルさんは何も言ってこなかった。
 だから勝手に、あの黒い靄は私にしか見えていないと思っていた。
 なので私が姫様に何かした、という発想はないはずだ。

 でも、もし…あの黒い靄で姫様を治していたとしたら……

 あのスキルは傷を癒すことができるということ?
 最初に試しで使った時は誰も怪我なんてしてなかったしね。
 とはいえ、冷たくなっていた姫様を癒したとなると、その治癒力は異常なのでは……?
 しかも、自分がぶっ倒れる程の痛み付きときたもんだ。

 できることなら、あまり使いたくない。

「では質問を変えよう」

 おっと、考え事をしている間に、ローウェルさんも考えを纏めたのかな?
 とりあえず姫様を癒したかもしれない、という事は黙っておく方向でいくとして――

「お前は何者だ?」

 ローウェルさんの言葉で私は凍りつく。
 何か言わなければ、と思ってもローウェルさんがそれを許さない。

「ただの冒険者が、何故イリアス様の寝所の場所を知っていた? そもそも何故あの時、倒れていた方がイリアス様だと知っていたんだ? イリアス様を害したのがお前だとしたら、イリアス様を癒したのは、俺達に…いや、国王陛下に取り入る為か?」
「ち、ちがっ――」
「それとも、あの騒ぎも全てノレオ・ネカオの指示でやった事なのか!」
「ノ、ノレオ……?」

 どこの言葉だ、それは?! 話から察するに人名みたいだけど。

「なんだ、その反応は……? お前、宰相の名前を知らないのか?」
「初めてお聞きましたね。それは田舎でも知っているような事なのですか?」

 ローウェルさんの勢いがなくなって、私も少し余裕ができた。

「田舎……たしかに農村辺りでは知られていないかもな……」
「それで、その方の指示だったとしたら、私はどうなるのですか?」
「俺が、この場で斬る」
「っ!?」

 ローウェルさんから、息苦しくなるような空気が発せられた。

 なに…これ……

「だが、違うようだな……」

 空気が元に戻り、私は息をつく。
 寿命が縮みそうだよ。

「最後の質問だ」
「なんでしょうか?」

 ローウェルさんが真っ直ぐ私を見つめる。
 私も、ローウェルさんを見つめ返した。

「お前は、このブランタ王国の……敵か?」
「…………」

 沈黙が訪れる。
 ブランタ?
 あっ! この国の名前か!
 そういえば、そんな名前だったね。

「違います。私は困っている方の味方です」

 私は国の名前を忘れていたなんて事を、顔に出さないようにキリっとしながら答える。

「なら困っている国が、ブランタ王国を敵だと言ったら、お前は敵に回るんだな」
「そんな事は……」

 ぐぬぬっ! なんて性格の悪い返しを……!

「聞きたい事は聞けた。お前は聞いておきたい事はないのか?」
「あ、それなら姫様の容態をお聞きしたいです」

 律儀にも私の疑問に答えてくれる、と言うのだから、そこは聞いておかないとね。

「命に別状はない。……だが、まだ意識を取り戻していない。あれほどの出血があったのだから、かなり衰弱しているとは思うのだが……」

 そこで、ローウェルさんが私を見る。
 なんですか?
 私は何もしてないですよ。たぶん……

「お前とイリアス様の関係は、なんだ?」
「関係ですか? ……うーん」

 質問は終わったんじゃないんですか?

 姫様との関係か…なんだろう。
 そうだなぁ……

「ぼっち仲間……ですかねぇ?」
「なんだ…それは?」
「それ以上は乙女の秘密ですね。どうしても聞きたかったら姫様に聞いてください」
「そうか……」

 ローウェルさんは、私の言葉で納得したのか、それ以上は聞いてこなかった。


 少しの間、妙な沈黙があったけど、そこへアルフリードさんが帰ってきた。
 ううむ……なんか緊張してきたな。
 ちょっと、ソワソワしているとローウェルさんが、私を変なものでも見るような目で見ていた。

「何をしているんだ?」
「あ、ぃや……あの、変なところとかないですかね?」
「寝癖がついてるな」
「えっ、どこですか?」

 私はペタペタと頭を触る。
 あれ……

「なんだか結構、髪の毛ボサボサじゃないですか?」
「そうだな。乙女としてどうかと思うぞ」
「むぅ……」

 そう思うなら、部屋に押し入ってくるなよぅ!
 私がむくれていると、ローウェルさんが小さくクスリと笑った。

「ふむ。繕った表情と無愛想な態度しかとれない娘かと思っていたが、そんな顔もできるのだな」
「なんですか……」
「いやなに、初めてお前が普通の女に見えたのでな」

 失礼すぎませんか……?
 たしかに私はローウェルさんの前だと緊張しちゃって、愛想とか振りまけていなかった気もするけどね。
 最初の出会いが良くなかったんだと思うんだ。


 そこへ、メイドさんがノックをして扉越しにアルフリードさんが会いに来たと伝えられる。

「それじゃあ俺は退散する。あまり城を空けておくわけにはいかないからな」
「今日はありがとうございました」

 私が礼を伝えるとローウェルさんが怪訝そうな顔をする。
 なんだよぅ。

「俺はお前を脅しに来ていたんだが?」
「やましい事はありませんので」

 嘘です。あります。
 母さんが相手だったら、秒でバレるね。

「お前の狙いが何かは分からんが、俺の敵にならないようにだけは気を付けろよ」

 相変わらず怖い事を言うね。
 とりあえずニコリと笑っておこうか。

 そしてローウェルさんが部屋を出て行く。
 部屋の外でアルフリードさんの驚いた声が聞こえる。
 あとで何をしていたか言及されるかもしれない……。

 ローウェルさんと入れ替わりでメイドさんが部屋に入ってきた。

「アルフリード様がお会いしたいと仰っていますが、どうしますか?」
「今はダメです」
「あら……」

 私が即答すると、メイドさんが一瞬だけ驚いた声をあげる。

「せめて髪を梳かしてからにしたいです……」
「……あら、あらあら」

 私の顔が熱を帯びていく。
 メイドさん…その好奇の眼差しはやめてください。恥ずいです。

 櫛を取り出して、私の髪を梳かし始めるメイドさん。
 私、ちゃんと櫛を使うのって初めてかもしれない……

「あのアルフリード様を好いてくださる女性がいらっしゃるなんて……」

 メイドさんがしみじみとしている。
 でも何気に失礼なんじゃ……雇い主の息子なんだよ?

「アルフリード様は、その……今まで…女性に好かれる事がなかったんですか?」
「……ええ。アルフリード様は女性がお嫌いでしたから」
「そうなんですか?」

 意外だ。
 そんな素振りはなかったのに……

「普通に接する事はできるのですが、色恋沙汰に発展しそうになるとアルフリード様が急に冷たくなってしまうのです……」
「なんで……?」
「細かい事は申し上げられませんが、奥様が原因かと……」
「そうなんですか」

 なんとなく察しました。
 つまり地雷なんですね。
 そこは触れないようにしておきます。

「それにしても……」
「なんですか?」
「アルフリード様を好いておられる事を、否定なさらないんですね」
「…………」

 ぷしゅう……
 これは否定できませんな。

 やるな、メイドさんめっ

「さぁ、これで可愛くなりましたよ」
「ありがとうございます」

 メイドさんがニコニコしながら退散していく。
 でもゴメンなさいメイドさん。
 私そんなつもりはないんだよ……


 さて、気を取り直して、アルフリードさんとお話ししましょうかね。










//////////////////////////////////////////////////////

後書き
シラハ「メイドさんなら、アルフリードさんの弱味を握り放題か……」
アルフリード「シラハは絶対に雇わないから大丈夫」
シラハ「な、なんでっ?!」
メイドさん「それは、つまり「君とは対等な関係でいたいんだ、どうか僕の伴侶として屋敷に来てくれないか?」という事ですね」
アルフリード「恐ろしいまでの曲解だ!」
メイドさん「幼妻ですね。羨ましい……」
シラハ「幼妻……大きくなるもん…ぐふっ」
アルフリード「幼妻……良い……」
メイドさん「何故か反応が両極端に……」


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