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迷推察
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パチリと目が覚める。
えっと…たしか……
何があったのかを思い返しながら体を起こそうとして、私は体が動かない事に気が付いた。
うわぁ……だるっ
まるでアレの日みたいだ。
仕方なく動く事をやめて天井を眺める。
そうだ。
姫様が死んでいたんだ……
それで頭の中がぐちゃぐちゃになって……
「そっか……私、また倒れたんだ」
これで何度目だよ、と思わなくもないけど、あの痛みは堪え難いものがあるんだよ。
それに堪えるもなにも意識がいきなりプツっと途切れちゃうんだから、どうにもならないし。
思ったより落ち着いているな、私。
あの時は姫様を前にして感情を抑えられなかったのに、今は姫様が死んでしまった事を受け入れている。
私って結構、薄情なんだな。
私は目を瞑って溜息を吐く。
すると、ノックもなく部屋のドアが開かれた。
「あら……」
メイドさんだ。
ここは、何処かの屋敷だとは思うから使用人だと思うけど、寝ていた私の世話をしてくれていたのかな?
「お目覚めになられましたか。どこか体調が優れないところはありますか?」
「……ちょっと体が動かないです」
「まぁ……。すぐに先生を呼んで参りますね」
メイドさんはパタパタと何処かへ走り去ってしまった。
体が動かない事を誤魔化そうか一瞬悩みはしたけど、その後すぐにバレるだろうから諦めた。
私を客間らしき一室で寝かしているなら、危害を加える事は無さそうだしね。
程なくして、医者の人がやってきて私の体を見てくれた。
「かなり魔力が抜けていたみたいだからね。今日一日はまともに動けないと思うけど、明日には普通に日常生活を送れる程度には回復するはずだよ」
「ありがとうございました」
先生は薬として魔力回復薬を処方してくれた。
とりあえずコレを飲んで魔力の回復に努めろ、との事だ。
私の世話をしてくれていたメイドさんの話だと、私は昨夜この屋敷に運ばれてきたらしい。
命に別状はないから、寝かせておいて欲しいと頼まれたそうだ。
「誰に頼まれたんですか?」
「アルフリード様ですよ」
「…………」
なるほど。
ここはアルフリードさんのお家だったのか。
アルフリードさん、私の事をなんて説明して置いていったんだろう?
「そのアルフリード様はどちらに?」
「アルフリード様は朝早くに王城へ向かわれましたよ。夕方には戻られるそうです」
「そうですか……」
いきなりアルフリードさんの実家に送り込まれて、ひとりぼっちですか。
完全なアウェーじゃないですか。
家族の人いないよね? いなかったら良いなぁ……
メイドさんが用意してくれた食事を、食べようとして動けない事を思い出し、メイドさんに食べさせてもらいながら話をする。
人に食べさせてもらうのって申し訳ないね。
「お食事が終わりましたら、旦那様がお会いしたいと仰っていました。どうなさいますか?」
どうしよう……
会いたくはないけど、お邪魔させてもらってるわけだし挨拶くらいはしないとだよね。
「まだ体調が優れない、とお断りしておきましょうか?」
メイドさんっ……!
「そうさせてください」
「かしこまりました」
メイドさんの救いの言葉で私は休む事になった。
他人の家ってだけで疲れちゃうからね、できるだけイベントはない方がありがたいよ。
私は一眠りする事にした。
◆アルフリード・オーベル視点
一体何が起きているんだ。
シラハが急に走り出し、その後を追えば、行き着いた部屋には女性が血に塗れて倒れていた。
一瞬、誰だ? と思っていたら、すぐ隣でローウェル隊長がイリアス様と叫んでいた。
あれ? ローウェル隊長はシラハがイリアス姫って知っていた?
凄く警戒しているように見えたのは、イリアス姫の身を心配しての事だったのかな?
ローウェル隊長が倒れている女性を見ている。
すると、その横でシラハが倒れた。
「うぐっ…か、はぁ……!」
「シラハ!! しっかりしろ!」
駆け寄ってみるが、僕にできる事はない。
「何が起きた!?」
ローウェル隊長が何があったのかと聞いてくるが、それ以上何をするわけでもない。
イリアス姫が倒れているっていうのに、何しているんですか!
内心腹を立てていると医師の方がやってくるが、先に血塗れの女性を診始めた。
何やってるんだよ!
そう思っていると、女性をベッドに移す事になった。
シラハを放っておいて?
納得のいかないまま僕は指示に従う。
「さすがは宮廷医師殿ですな。イリアス様を救ってくださるとは……」
するとローウェル隊長が、そんな事を言い出した。
なんだって?
「ご謙遜を……私が来る前に治療をしたのは貴方方でしょうに……私がやった事など、姫様の体調を確認したくらいですぞ」
医師の方も、この血塗れの女性をイリアス姫として扱っている。
あれ……?
なんかおかしい。
目の前の血塗れの女性がイリアス姫?
なら、シラハは……?
普通の冒険者?
イリアス姫だと思っていたのは僕の勘違い?
…………危なかったぁ!
ちょっとシラハに変な態度をとったけど、致命的な失言をせずにすんで良かったぁ!
なるほど。
たしかに全部が僕の勘違いなら、シラハから見れば僕の態度の変わりようは変だったろうね。
ま、まぁ…そのおかげで可愛いシラハが見れたんだから良しとしておこうか。
でも……これで不敬罪とかになったりしないか、と怖がる必要がなくなった!
って、そうじゃない!
シラハも、何処かに運ばなきゃ!
そのまま床に寝かせておくわけにはいかない!
僕はシラハを抱き上げるが、そこで止まってしまう。
何処に運べば良いのだろう……
「ソイツは、とりあえず俺の執務室のソファーにでも寝かせておけ」
ローウェル隊長の言葉に頷き、僕はシラハを抱えたまま移動する。
移動中、人とすれ違う度に視線が痛い。
だが、これは人助けであって、やましい行動ではないのだ、と自分に言い聞かせる。
ローウェル隊長の執務室に着くと、シラハをソファーへと寝かせる。
シラハは、まだ意識を失ったままだけど、今はただ眠っているだけのようにしか見えない。
僕はシラハの様子が見える位置に座ると、考えを整理する。
僕は恐れ多くも、シラハをイリアス姫と勘違いしてしまっていた。確証はなかったけども……
ただ、シラハが来てから物事が動き出した気がするのは確かだ。
たまたまそうなった可能性もあるけど、僕にはそうは思えないんだ。
少なくとも陛下と、何かしらの繋がりがあるんじゃないのかとは思っている。
シラハと調査をした翌日には、陛下からの許可証を頂き、ローウェル隊長の下で動けるようになったんだ。いくらなんでも、それはおかしいと思う。
でも、そんな事をシラハに直接聞いたところで答えてくれる訳がない。
きっと、シラハは陛下直属の間諜の類いなんだろう。
……騎士と間諜か。
報われなさそうだな……と考えたところで、その考えを打ち消す。
僕はお互いの立場を気にして、気持ちを伝えないなんて事はしたくない。
結果が駄目だったとしてもね……
変な事を考えて一人落ち込んでいると、そこへローウェル隊長がやってくる。
「とりあえずイリアス様は命に問題はない。犯人についてはイリアス様が目を覚ましてからになるが……」
ローウェル隊長が、そこで言葉を止めるとシラハに視線を向けた。
隊長の言いたい事は分かる。
イリアス姫を見つけた時のシラハの行動は明らかにおかしかった。
何故、シラハはイリアス姫の部屋の場所を知っていたのか? という事だと思う。
でも、それはシラハが陛下の部下であるのなら不思議ではなくなる。
問題はそれを、どうやって隊長に伝えるかだ。
「実は……陛下からイリアス様の所在を調べて欲しいと指示を受けていた。俺も表沙汰にならないように調べてはいたんだが……こんな形でイリアス様を見つける事になるとはな」
あれ……?
陛下も隊長もイリアス姫の居場所を知らなかった?
それじゃ、なんでシラハは……
「ソイツは、よく倒れるのか?」
「え? あ、自分が知っているのは、これが二回目です」
シラハの正体が分からなくなって不安になってきたところに、ローウェル隊長から質問を投げかけられる。
僕は頭の中に芽生えたシラハへの疑念を誤魔化すように、質問に応えていく。
一度目はアルクーレの街で魔薬製作所を襲撃した時。
あの時は僕は側にはいなかったが、シラハの悲鳴だけは今でも覚えている。
そして二度目は王城で、今度は僕の目の前だ。
何が起きたのか分からなかった。
何も出来なかった。
シラハが血塗れで倒れているイリアス姫に駆け寄ったかと思えば、いきなり倒れた。
でも、きっと目を覚ませば、シラハは何でもないと言うんだろうな。
「ふむ……ソイツを間者ではないかと疑っていたんだが、そんなすぐに倒れるような人間を送り込んではこないか……」
「間者……」
「お前はコイツとは、それなりに親しいようだから言わないようにしていたんだが、イリアス様の居場所を知っていた事が気にかかる」
それは僕でも変に思った。
シラハは本当に味方なんだよな……?
「今、城内は騒がしい。だからソイツの事はお前に任せたいんだが、出来るか?」
「それは……」
「まずは城内から連れ出して、お前の家に連れて行って欲しい。馬車の手配は俺がしておく」
ローウェル隊長の指示で、シラハを家に連れて行くことになってしまった。
でもシラハを連れて行くことに不安を感じてしまう。
以前はオーベル家で引き取るなんて言ったこともあったのに……今の僕では言えない言葉だな。
僕と隊長は、なるべく人目につかないように馬車まで移動すると、シラハを座席に寝かせる。
「俺も、こっちが落ち着いたらソイツに会いに行くつもりだが、もしかすると逃げようとする可能性もある。気を付けろよ」
隊長は、それだけ伝えると御者に合図を送り馬車が動き出した。
揺れる馬車の中で、僕はいまだに意識を失っているシラハを見つめる。
彼女に問われ、僕は一緒にいたいと答えた。
でも今その問いを投げかけられたら、同じように答えられるのか……?
「あ……」
そこで僕は、はたと気づいた。
「家族にシラハの事、どうやって説明しよう……」
ローウェル隊長に急かされるようにして出てきたので、何も考えていなかった。
城での事は説明する訳にはいかないし……
僕は一体どうしたら良いんだ!
//////////////////////////////////////////////////////
後書き
狐鈴「いやぁ、投稿遅れました。申し訳ないです」
シラハ「駄狐め」
アルフリード「まぁまぁ…ところで僕はなんて言ってシラハを家に連れて行くの?」
狐鈴「拾ってきたので僕の嫁にします。ですかね?」
アルフリード「おい」
シラハ「お嫁さん……」
アルフリード「シラハ騙されるな! この狐がここでネタバレするはずがない!」
シラハ「ハッ!?」
狐鈴「ちっ。なんて言って家に連れ帰ったかは、次話を楽しみにしておくんだな! フハハハ!」
アルフリード「変な事を言わせるなよー!」
えっと…たしか……
何があったのかを思い返しながら体を起こそうとして、私は体が動かない事に気が付いた。
うわぁ……だるっ
まるでアレの日みたいだ。
仕方なく動く事をやめて天井を眺める。
そうだ。
姫様が死んでいたんだ……
それで頭の中がぐちゃぐちゃになって……
「そっか……私、また倒れたんだ」
これで何度目だよ、と思わなくもないけど、あの痛みは堪え難いものがあるんだよ。
それに堪えるもなにも意識がいきなりプツっと途切れちゃうんだから、どうにもならないし。
思ったより落ち着いているな、私。
あの時は姫様を前にして感情を抑えられなかったのに、今は姫様が死んでしまった事を受け入れている。
私って結構、薄情なんだな。
私は目を瞑って溜息を吐く。
すると、ノックもなく部屋のドアが開かれた。
「あら……」
メイドさんだ。
ここは、何処かの屋敷だとは思うから使用人だと思うけど、寝ていた私の世話をしてくれていたのかな?
「お目覚めになられましたか。どこか体調が優れないところはありますか?」
「……ちょっと体が動かないです」
「まぁ……。すぐに先生を呼んで参りますね」
メイドさんはパタパタと何処かへ走り去ってしまった。
体が動かない事を誤魔化そうか一瞬悩みはしたけど、その後すぐにバレるだろうから諦めた。
私を客間らしき一室で寝かしているなら、危害を加える事は無さそうだしね。
程なくして、医者の人がやってきて私の体を見てくれた。
「かなり魔力が抜けていたみたいだからね。今日一日はまともに動けないと思うけど、明日には普通に日常生活を送れる程度には回復するはずだよ」
「ありがとうございました」
先生は薬として魔力回復薬を処方してくれた。
とりあえずコレを飲んで魔力の回復に努めろ、との事だ。
私の世話をしてくれていたメイドさんの話だと、私は昨夜この屋敷に運ばれてきたらしい。
命に別状はないから、寝かせておいて欲しいと頼まれたそうだ。
「誰に頼まれたんですか?」
「アルフリード様ですよ」
「…………」
なるほど。
ここはアルフリードさんのお家だったのか。
アルフリードさん、私の事をなんて説明して置いていったんだろう?
「そのアルフリード様はどちらに?」
「アルフリード様は朝早くに王城へ向かわれましたよ。夕方には戻られるそうです」
「そうですか……」
いきなりアルフリードさんの実家に送り込まれて、ひとりぼっちですか。
完全なアウェーじゃないですか。
家族の人いないよね? いなかったら良いなぁ……
メイドさんが用意してくれた食事を、食べようとして動けない事を思い出し、メイドさんに食べさせてもらいながら話をする。
人に食べさせてもらうのって申し訳ないね。
「お食事が終わりましたら、旦那様がお会いしたいと仰っていました。どうなさいますか?」
どうしよう……
会いたくはないけど、お邪魔させてもらってるわけだし挨拶くらいはしないとだよね。
「まだ体調が優れない、とお断りしておきましょうか?」
メイドさんっ……!
「そうさせてください」
「かしこまりました」
メイドさんの救いの言葉で私は休む事になった。
他人の家ってだけで疲れちゃうからね、できるだけイベントはない方がありがたいよ。
私は一眠りする事にした。
◆アルフリード・オーベル視点
一体何が起きているんだ。
シラハが急に走り出し、その後を追えば、行き着いた部屋には女性が血に塗れて倒れていた。
一瞬、誰だ? と思っていたら、すぐ隣でローウェル隊長がイリアス様と叫んでいた。
あれ? ローウェル隊長はシラハがイリアス姫って知っていた?
凄く警戒しているように見えたのは、イリアス姫の身を心配しての事だったのかな?
ローウェル隊長が倒れている女性を見ている。
すると、その横でシラハが倒れた。
「うぐっ…か、はぁ……!」
「シラハ!! しっかりしろ!」
駆け寄ってみるが、僕にできる事はない。
「何が起きた!?」
ローウェル隊長が何があったのかと聞いてくるが、それ以上何をするわけでもない。
イリアス姫が倒れているっていうのに、何しているんですか!
内心腹を立てていると医師の方がやってくるが、先に血塗れの女性を診始めた。
何やってるんだよ!
そう思っていると、女性をベッドに移す事になった。
シラハを放っておいて?
納得のいかないまま僕は指示に従う。
「さすがは宮廷医師殿ですな。イリアス様を救ってくださるとは……」
するとローウェル隊長が、そんな事を言い出した。
なんだって?
「ご謙遜を……私が来る前に治療をしたのは貴方方でしょうに……私がやった事など、姫様の体調を確認したくらいですぞ」
医師の方も、この血塗れの女性をイリアス姫として扱っている。
あれ……?
なんかおかしい。
目の前の血塗れの女性がイリアス姫?
なら、シラハは……?
普通の冒険者?
イリアス姫だと思っていたのは僕の勘違い?
…………危なかったぁ!
ちょっとシラハに変な態度をとったけど、致命的な失言をせずにすんで良かったぁ!
なるほど。
たしかに全部が僕の勘違いなら、シラハから見れば僕の態度の変わりようは変だったろうね。
ま、まぁ…そのおかげで可愛いシラハが見れたんだから良しとしておこうか。
でも……これで不敬罪とかになったりしないか、と怖がる必要がなくなった!
って、そうじゃない!
シラハも、何処かに運ばなきゃ!
そのまま床に寝かせておくわけにはいかない!
僕はシラハを抱き上げるが、そこで止まってしまう。
何処に運べば良いのだろう……
「ソイツは、とりあえず俺の執務室のソファーにでも寝かせておけ」
ローウェル隊長の言葉に頷き、僕はシラハを抱えたまま移動する。
移動中、人とすれ違う度に視線が痛い。
だが、これは人助けであって、やましい行動ではないのだ、と自分に言い聞かせる。
ローウェル隊長の執務室に着くと、シラハをソファーへと寝かせる。
シラハは、まだ意識を失ったままだけど、今はただ眠っているだけのようにしか見えない。
僕はシラハの様子が見える位置に座ると、考えを整理する。
僕は恐れ多くも、シラハをイリアス姫と勘違いしてしまっていた。確証はなかったけども……
ただ、シラハが来てから物事が動き出した気がするのは確かだ。
たまたまそうなった可能性もあるけど、僕にはそうは思えないんだ。
少なくとも陛下と、何かしらの繋がりがあるんじゃないのかとは思っている。
シラハと調査をした翌日には、陛下からの許可証を頂き、ローウェル隊長の下で動けるようになったんだ。いくらなんでも、それはおかしいと思う。
でも、そんな事をシラハに直接聞いたところで答えてくれる訳がない。
きっと、シラハは陛下直属の間諜の類いなんだろう。
……騎士と間諜か。
報われなさそうだな……と考えたところで、その考えを打ち消す。
僕はお互いの立場を気にして、気持ちを伝えないなんて事はしたくない。
結果が駄目だったとしてもね……
変な事を考えて一人落ち込んでいると、そこへローウェル隊長がやってくる。
「とりあえずイリアス様は命に問題はない。犯人についてはイリアス様が目を覚ましてからになるが……」
ローウェル隊長が、そこで言葉を止めるとシラハに視線を向けた。
隊長の言いたい事は分かる。
イリアス姫を見つけた時のシラハの行動は明らかにおかしかった。
何故、シラハはイリアス姫の部屋の場所を知っていたのか? という事だと思う。
でも、それはシラハが陛下の部下であるのなら不思議ではなくなる。
問題はそれを、どうやって隊長に伝えるかだ。
「実は……陛下からイリアス様の所在を調べて欲しいと指示を受けていた。俺も表沙汰にならないように調べてはいたんだが……こんな形でイリアス様を見つける事になるとはな」
あれ……?
陛下も隊長もイリアス姫の居場所を知らなかった?
それじゃ、なんでシラハは……
「ソイツは、よく倒れるのか?」
「え? あ、自分が知っているのは、これが二回目です」
シラハの正体が分からなくなって不安になってきたところに、ローウェル隊長から質問を投げかけられる。
僕は頭の中に芽生えたシラハへの疑念を誤魔化すように、質問に応えていく。
一度目はアルクーレの街で魔薬製作所を襲撃した時。
あの時は僕は側にはいなかったが、シラハの悲鳴だけは今でも覚えている。
そして二度目は王城で、今度は僕の目の前だ。
何が起きたのか分からなかった。
何も出来なかった。
シラハが血塗れで倒れているイリアス姫に駆け寄ったかと思えば、いきなり倒れた。
でも、きっと目を覚ませば、シラハは何でもないと言うんだろうな。
「ふむ……ソイツを間者ではないかと疑っていたんだが、そんなすぐに倒れるような人間を送り込んではこないか……」
「間者……」
「お前はコイツとは、それなりに親しいようだから言わないようにしていたんだが、イリアス様の居場所を知っていた事が気にかかる」
それは僕でも変に思った。
シラハは本当に味方なんだよな……?
「今、城内は騒がしい。だからソイツの事はお前に任せたいんだが、出来るか?」
「それは……」
「まずは城内から連れ出して、お前の家に連れて行って欲しい。馬車の手配は俺がしておく」
ローウェル隊長の指示で、シラハを家に連れて行くことになってしまった。
でもシラハを連れて行くことに不安を感じてしまう。
以前はオーベル家で引き取るなんて言ったこともあったのに……今の僕では言えない言葉だな。
僕と隊長は、なるべく人目につかないように馬車まで移動すると、シラハを座席に寝かせる。
「俺も、こっちが落ち着いたらソイツに会いに行くつもりだが、もしかすると逃げようとする可能性もある。気を付けろよ」
隊長は、それだけ伝えると御者に合図を送り馬車が動き出した。
揺れる馬車の中で、僕はいまだに意識を失っているシラハを見つめる。
彼女に問われ、僕は一緒にいたいと答えた。
でも今その問いを投げかけられたら、同じように答えられるのか……?
「あ……」
そこで僕は、はたと気づいた。
「家族にシラハの事、どうやって説明しよう……」
ローウェル隊長に急かされるようにして出てきたので、何も考えていなかった。
城での事は説明する訳にはいかないし……
僕は一体どうしたら良いんだ!
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後書き
狐鈴「いやぁ、投稿遅れました。申し訳ないです」
シラハ「駄狐め」
アルフリード「まぁまぁ…ところで僕はなんて言ってシラハを家に連れて行くの?」
狐鈴「拾ってきたので僕の嫁にします。ですかね?」
アルフリード「おい」
シラハ「お嫁さん……」
アルフリード「シラハ騙されるな! この狐がここでネタバレするはずがない!」
シラハ「ハッ!?」
狐鈴「ちっ。なんて言って家に連れ帰ったかは、次話を楽しみにしておくんだな! フハハハ!」
アルフリード「変な事を言わせるなよー!」
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