とりあえず異世界を生きていきます。

狐鈴

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心の内は雨模様

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 騎士達が私に群がってくる。
 それを一人、また一人と殴る蹴るなどして吹き飛ばしていくのだけれど……

「負傷者は後ろへ下がって治癒師に診てもらえ!」
「自分はまだ戦えます!」
「うおぉぉ!」

 いくらなんでもキリがない!
 【側線】で周囲の音を頼りに、死角を突かれないよう回避しているけれど、それも完璧じゃあない。

 とはいえ、この人達は問題を起こした私を捕まえようとしているだけなのだから、酷い怪我は負わせたくない。

 私はただ騒ぎを起こしたいだけなんだから!

 とまぁ……なんとも迷惑極まりない話ではあるのだけれど、それは自覚しているので、もう少し私に付き合ってもらいたい。

 でも、そうなると私のスキルはほとんど使えないんだよね。イヤ、身体強化はしてるけどね。

 だって【牙撃】【爪撃】【鎌撫】【竜咆哮】は、ちょっと怪我の度合いがヤバイし【丸呑み】は、使う気にならないし【吸血】も吸う量を間違えると危険だし、そもそも少し血を流させてそこから【吸血】するとか手間がかかりすぎる。

 【麻痺付与】も相手を麻痺させるのに、少し時間がかかるから却下。
 【潜影】【影針】は、この日中には使用不可だから論外。

 ああもうっ! 縛りが多くて面倒な!
 面倒にしてるの私だけども!


 私は振り下ろされる剣を避けて騎士を殴り飛ばす。

 そして騎士の手から離れた剣を拾うと、それで次の攻撃を防いでいく。
 別に剣がなくても防御は出来るので、これはあくまで威嚇行為でしかない。

 邪魔になれば捨てるつもりだ。


 あ。あっちの人の多いところに投げ込もう。
 鎧を着ているから怪我もしないでしょ。

 私が回転をつけて剣を投げると、騎士達からどよめきがあがった。
 あれ……誰かに刺さっちゃったかな?

 大丈夫だよね?



「剣が石畳に刺さったぞ?!」
「ぬ、抜けねぇ……」
「馬鹿! そんなのは放っておけ!」
「後で、力自慢が抜くだろ」
「あ、折れたわ」
「バッカお前! あとで持ち主に謝っとけよ!」

 そんな会話が聞こえた。

 なんか結構余裕あるね……
 私……ちゃんと騒ぎになってるよね?

 ちょっと不安になってきたかも。


「このぉ!」
「てい」
「がっ?!!」

 そこへ襲いかかってきた騎士に金的をお見舞いしてあげる。
 身長差があるから、本当はこっちの方が狙いやすいんだよね。可哀想だから狙ってなかったけど。

 でも、これは戦い……だもんね。

 酷い怪我はさせるつもりはないし、私も非情になる時がきたのかもしれない……
 なんて、目の前で股間を押さえて悶絶している騎士がいる時点で非情なのだけどね。

 さて、これで相手の無力化も、やり易くなったかな。

 若干だけど尻込みしている騎士が増えた気もするから、そうなったと思いたい。

 とか考えていると視界に影が映り込む。

 上?


「男児の急所を狙うとは小癪な真似を! 貴様には少々きつい仕置きをしてやろう!」

 私が上を見上げると、上空に大剣を振り上げた騎士がいた。

 いつの間にっ?!
 回避が間に合わない!

 私は瞬時に、そう判断して両手を交差して防御する。

 そして、そこへ大剣を振り下ろす騎士。

「どっせい!」
「ぐっ…?!」

 瞬間。
 竜鱗が砕けた音と、骨が折れたかのような鈍い痛みがはしる。

 私は大剣を受けながらも、攻撃の衝撃をそのまま受けないように後方に飛び退く。

 どうにか大剣使いの騎士から距離を取るが、他の騎士は当然まだいる。

「はい。ここでお仕舞いだね」

 私が飛び退いた地点には細剣を持った騎士が、突きを放つ姿勢で私を待ち構えていた。

 不味い!
 最初から示し合わせていたのかは分からないけど、完全に動きを合わせている。

 私は体を捻って無理矢理相手に向き合うけど、さっきの大剣で左腕が動かない。

 中途半端に攻撃を受けたりしたら、すぐに大剣使いが合流して挟み撃ちにあってしまう。

 どうするべきか答えが出る前に、細剣が私を貫こうと迫ってくる。


 ギャリッと金属が擦れるイヤな音がした。

「なっ…」

 細剣の騎士が驚いている。

 そりゃそうだよね。
 剣を片手で掴まれれば驚くよね。

 いくら私がスキルの恩恵で頑丈とはいえ、そのまま刃物を掴めば指が落ちかねない。
 なので、いつものように竜鱗を掌に出してみただけなんだけどね。

 そして切っ先を掴んだまま膝を垂直に上げ、剣をへし折る。
 続けて金的もお見舞いしようかと思ったけど、すぐに距離を取られてしまったので、後ろから迫る大剣使いにへし折った剣の切っ先を投げつける。

「なんの!」

 それを難なく防いで私に突っ込んでくる。

 正直、これ以上長引かせるとローウェルさんが復帰してきちゃう。
 結構強めに殴ったから、まだ平気だとは思うけど、あの人が来たら余裕がなくなると思う。

 同じ方法で撃退できるとも思えないし、【迷宮創造】はともかくとして【迷宮領域拡大】の方は魔力をがっつりと消費するからね。
 下手するともたない。

 となると、ここいらでお開きかな。


 私は大剣使いの攻撃を避けていくが、この人の攻撃もちょっと速い。
 さっきみたいに不意をつかれなければ問題はないけど、あまり余裕はない。

 なので私は、一つの手札を切る。

 とか言ってみたけど、別に隠されたスキルがあるとか、突如として力に目覚めたりする訳じゃあないよ?

 ただ袖口から、いくつかの刃物を飛ばすだけっ!


「ぐぉ!」

 私が飛ばした刃物が大剣使いの足に突き刺さる。

「安心してください。弾けないので」
「意味が分からぬわ!」

 おかしい怒られた。
 私はただ「貴方の足に突き刺さった竜鱗は弾けませんよ」って伝えたつもりなのに……
 まぁ、私のスキルを知らないから当然の反応なんだけどね。

「暗器とは……ぬかったわ」

 大剣を地面に突き立てて、なんとか膝をつかない騎士。
 頑張るね。

「アンドレイ隊長を助けるんだ!」
「いくぞぉ!」

 大剣使いの苦戦に他の騎士が動き出す。
 この人、隊長だったんだ。
 他の騎士が一緒に攻撃してこなかったのは、この人の邪魔にならないようにだったのかも。

 騎士達は私に向かって突っ込んでくるけど、それを【跳躍】で躱す。

「飛んだ?!」
「逃すなっ」

 離されても追ってくる騎士達に辟易しながら、私は【疾空】を使って城壁の上へと避難する。

「アイツやっぱり空を飛んだぞ!」
「いや、なにか仕掛けがあるに違いない」
「そんな事より、上に登るぞ!」

 ここでも、まだ来るのか……と力が抜けてしまいそうになる。

「待て! 全員ここで待機だ。登ってもヤツにやられるだけだぞ」
「しかし……」

 意外にもローウェルさんが騎士達を止めてくれた。
 助かったよ。

 ローウェルさんは、城壁にいる私を見上げる。
 動けるようになったんだ。ホントに危なかったね。

「先程、空を飛んだように見えたが……貴様、何者だ?」

 以前にも投げかけられた問いだ。
 でも、前回と今回では意味合いが違うんだろうな。

 前回は私を探るような感じだったけど、今回はなんだろう……
 と、黙ってちゃ良くないよね。
 私は不敵に笑ってみせる。

「私は私ですよ。皆さんと同じ……ただの人です。――まぁ少し丈夫ですけどね」
「そんな貴様が、この国に何しに来た」
「この国の力になりにきたんですよ」
「これだけの騒ぎを起こしておいて、何を言ってやがる」
「信じてもらえませんか……」

 本当のことなんだけどなぁ。

「それでは、これは信じてもらえますか?」

 ローウェルさんの目付きが鋭くなる。
 警戒しているのかな?
 他の騎士も固唾を飲んで私の言葉を待っている。

 いいね。
 これだけ騒ぎを起こせば私が危険だという認識が強くなるはず。
 そうすればアルフリードさん達にも酌量の余地ができるかもしれない。

「先程、貴方達の騎士団長を殺しました」

 ザワリとどよめきが走る。

「あそこに騎士が三人倒れているが、ゼブルス団長は見当たらないな」
「ええ、跡形も無く吹き飛ばしましたから」
「そんな戯言を信じるとでも?」
「私の言葉が信じられないなら、目の前の現実を疑いますか? 城を守る城壁の一角が崩れている、この光景を」

 全員の視線が城壁へと移る。

「瓦礫を掘り起こせば肉片くらいは見つかるかもしれませんよ」

 私の発言に顔色を悪くする者、怒りを向ける者とそれぞれだけど、ここまですれば上々かな。

 最後の一押しとして私は【有翼(鳥)】を使った。

 バサリと純白の翼が背中に広がる。


「ただの人ではなかったのか?」
「これでも人のつもりですけど?」

 ローウェルさんが意外にも、冷静に突っついてくる。
 そこはスルーしようよ。

「羽が生えたぞ?!」
「まさか獣人かっ」
「翼を持つ獣人がいるのか!?」
「弓を持ってこい!」
「このケモノ風情がぁ!」

 下で色々言っているけど、相手にする必要はないかな。

「なぜ攻撃をやめた?」

 そんな中、ローウェルさんが私に問う。
 さすがにヤバくなったから、とは言えない。

「単純に付き合いきれなくなっただけですよ。手伝いに来たのに殺されそうになるなんて、割りに合わないですもの」
「殺されかけた?」

 ローウェルさんが怪訝そうな顔をする。

「ええ……貴方方の団長にね」
「だから殺した…と?」
「おかしいですか? 自分の身を守るなんて、誰でもする事でしょう?」
「だが貴様が殺したのは――」
「貴族。……と、言いたいのでしょう?」

 他の騎士から蔑みの視線が向けられる。
 平民を蔑むような教育でもされてるんだろうから仕方がないんだろうけど、本当にどうしようもない。

「貴族とは……産まれた家がたまたま貴族の家だっただけで、その環境に胡座をかく無能の総称でしょう?」
「俺達貴族には国を守るという使命がある」
「私のような小娘一人捕まえる事もできない烏合の衆に守れるものがあるとでも?」
「…………」

 少し挑発し過ぎたかな?

「たしかに立派な貴族もいるのでしょうが、少なくとも相手が平民だからと平気で剣を振り下ろすような方が、立派な貴族ではないのは明白です」

 言いたい事を言った私は、そろそろこの場を締め括ろうと思う。

「皆様もまだ私と話をしたいとは思いますが、私はこれで失礼させてもらいますね」
「このまま逃げられると思っているのか?」
「そうだとも! 騎士団の総力を持って貴様を捕らえるぞ!!」

 あ、さっきの大剣使いも復活したのか。
 でも、まぁ、城壁の上にいる私の下に来るのは簡単じゃないよ。

「逃げるのは簡単ですよ? ――だってが協力してくれるんですもの」
「なに?」
「【誘引】【誘体】」

 私は使いたくなかった二つのスキルを使用する。

 すると私がスキルを使ったことによって、反応が二つに分かれた。

 一つは魔物に使った時と同じように我を忘れたように私に向かってくる者。

 もう一つは、何かに堪えるようしている者だ。

 やっぱり、このスキルは人にも作用するんだね。
 本当にゾッとするスキルだよ……

「なにを…した?」

 ローウェルさんが私を睨むけど、先程のような勢いはない。
 我を忘れなくても、多少は効果があるみたいだね。

 我を忘れた騎士達が騒いでるおかげで、すぐには私の所には来れないだろうけど、会話に付き合ってあげる必要もないよね。

 それにしても、スキルで我を忘れているのは約三割ってところかな?
 思ったよりは少ないね。
 もしかすると人と魔物とでは効果に差があるのかもだけど。

「さぁ? 今更ながらも私の魅力に気が付いただけなのでは?」
「戯言を……」

 私はローウェルさんの敵意を笑って流しておく。
 あれだね、距離があれば怖くないよっ

 って、もう一人の隊長さんは? …………って群れに紛れてるし。
 大剣を扱うような体格の人に襲われたら色々と危険だ。

 自分で蒔いた種だけど、これを使うと寒気しかしないよ。


 私が周囲を確認するとアルフリードさんが、治療を受けているのが見えた。
 もう……大丈夫、だよね?
 あとは無事を祈るしかないね。


 そして私は翼をはためかせて宙に浮かぶ。

 もう、ここに来ることも無くなるね。
 姫様にも会えなかったし……

 貴族絡み以外は、それなりに楽しかったのにな……
 って、関係者は皆さん貴族でしたね。



「それでは、ご機嫌よう」


 それだけ伝えて私は背を向け、全力で飛び去る。

 未練も置き去りにできるように。



 雨がポツリと頬に当たった気がした。

 でも、空を見回しても雲はまばらで雨の気配はない。
 こんな時くらい、気を利かせて雨を降らせてくれたっていいじゃないか。


 私には瞳から溢れる涙を止めることができなかった。











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後書き
シラハ「王都を飛び去ったように見せかけて、実はまだ残っている私……ちょっと王城の様子を見てから帰ろ」
ワンコ「くぅ~ん。ハッハッハッ!」
シラハ「え? なんで犬が群がってくるのっ?! いやー!」

シラハ「ふぅ…どうにか撒いたみたいだね……一体なんだって犬が……」
ニャンコ「な~う。ニャオォン!」
シラハ「わっ! って猫? もしかして、またー?!」
ワンコ「わん! わんわん!」
シラハ「犬にも見つかった!? こうなったら建物の上に避難するしかっ……ハッ?!」
ニャンコ「にゃーーん!」
シラハ「上からの奇襲っ…きゃあ!」

シラハ「なんでこんなに群がってくるのさー!」
狐鈴「スキル解除してないからじゃない?」
シラハ「あっ」
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