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アルフリードの苦悩
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◆アルフリード・オーベル視点
「はっ! はっ! はっ! ……ふぅ」
無心になろうと剣を振るっていたけど、どうにも集中できずに剣を降ろした。
理由なんて分かりきっている。
あの日、シラハがゼブルス騎士団長を殺害してから五日が経っていた。
ゼブルス騎士団長に斬りつけられた時の傷は既に治っているけど、ローウェル隊長に自宅で待機しているようにと言われていた。
「シラハ……」
ぽつりと彼女の名前を呟く。
何かやっていないと、すぐにあの時の事を思い出してしまう。
あのシラハが泣きそうな顔で笑いながら言った、さようならが頭から離れない。
「守れなかった……助けると誓ったのに……」
僕はその場に蹲る。
そう彼女に誓った。
なのに誓いを守るどころか、彼女に助けられてしまった。
何をやっているんだ僕は!
守りたいと思ったシラハを守れず、彼女に全部の罪を背負わせて……
もしも、あの騒動でシラハが死んでいたら……僕は一生後悔していたに違いない。
シラハは、よく分からない力を持っている。そんな彼女が本当に味方なのかと考えた事もあったけど、もう迷わない。
たとえシラハがどんな力を持っていようと、僕は気にしない。
シラハはシラハだ。
出会った頃から変わっていない。
貴族である僕に遠慮もしないし容赦もない。言葉遣いは気にしてるみたいだけど。
というか、シラハは誰に対しても敬語で喋っていたか……
だけど、そんなシラハの全部を僕は好きだと言える。
本当なら今すぐにでもアルクーレに探しに行きたいくらいだ。
でもイリアス姫が目を覚ましたら、ローウェル隊長と一緒に陛下にお会いする事になっている。
今は城内がバタバタしているらしいし、あの時イリアス姫の部屋に立ち入った僕とローウェル隊長に話を聞きたいとかなんとか……
まぁ、僕が知っている事はローウェル隊長に話してあるし、それらは全て報告済みだとか。
当事者を集めての再確認をしたいという事らしい。
陛下と直接お話しするだなんて今から緊張してしまうけどね……
それとアルクーレに行きたいと父さんに話をしたけど、シラハの行方についての手掛かりが何もない為、止められた。
アルクーレに居なかったら手詰まりだし仕方ないか……
でもルーク殿なら何か知っている可能性があるとは思っている。
なので、こちらでやらなければいけない事が終わり次第、アルクーレに向かおうと思う。
そして、あの時の守れなかった事を謝りたい。
もしかすると頼りない男だと呆れられているかもだけど……
「僕に守れるのかな……」
シラハは強い。
僕自身は彼女が戦う姿をほとんど見たことがないけれど、街のゴロツキに絡まれても返討ちにしたとか聞いたことがある。
あの小柄なシラハを見ていると、どうしても強いとは思えない。
なのに多くの騎士に囲まれていたのにも関わらず、彼女はかなりの騎士を殴り倒して動けなくさせていたと言うのだから、本当に人は見かけだけでは分からない。
そんなシラハの力になれるのだろうか……
あの騒動以来そんな後向きな事ばかり考えてしまう。
「はぁ……」
溜息を吐きながら立ち上がると、不意に後頭部を小突かれた。
「っ?! ――に、兄さん?」
「随分と辛気臭い顔をしているな。ちゃんと休めているのか?」
振り返ると、そこにはロドリック兄さんが呆れたような表情で立っていた。
「久しぶり……戻ってきてたんだ」
「せっかく兄が帰って来たんだから、もう少し嬉しそうな顔しろよな、まったく……」
「ごめん……僕のせいで兄さんにまで迷惑かけて……」
兄さんは最近オーベル家が所有している領地にて領地経営の勉強をしている為、王都にはほとんどいない。
色々と忙しいはずなのに、このタイミングで王都に来たという事は、考えられる理由は一つしかない。
「何を言ってるんだ? ちゃんと父さんから聞いているぞ? 陛下の勅命で魔薬を売り捌いていた者を処罰したんだろ?」
「いやいや! どんな説明をうけたら、そんな話になるのさ!? 僕は調査の為に平民を王城へと入れて、その結果騎士団長が殺害されてしまったんだよ……」
説明していて、どんどん言葉尻が小さくなっていく。
自分が正しかったのかさえ分からない。
「でも騎士団長は魔薬に関わっていたんだろ?」
「それは、まぁ…証拠が出てきているらしいけど……」
「なら騎士団長が死んだのは結果的には良かったんじゃないのか? 大きな声では言えないけどさ」
「それは……」
本当に兄さんが言った言葉は他の者に聞かれたら大問題だけど、その通りだと僕も思う。
だけど、どうしても素直にそうは思えないんだ。
「そのせいで国を追われた人がいるんだ……」
「ああ、聞いたよ。でも、そのおかげでアル…お前は助かったんだ。俺はそれで良かったと思ってる」
なんだよ……それ……!
「良いわけないだろ! 僕のせいでシラハは国の敵として認識されたんだぞ!! なのに……僕だけが無事であって良い訳がないじゃないか……」
「落ち着けって……。俺は、そのシラハって子を知らないが、父さんはとても良い子だったと言っていたし、こっちが落ち着いたらアルは探しに行くんじゃないのか?」
「そう、だけど……」
僕の考えがバレている事が少し恥ずかしい。
そんなに分かり易かっただろうか……?
「まぁ父さんは女の見る目ないから、そのシラハって子の評価は当てにならないし、その血を受け継いでいるアルの嵌まり具合から見て兄としては不安しかないけどさ……」
身内の評価が厳しい。
父さんは母さんという前例があるから分かるけど、僕は大丈夫だと思う。…たぶん……きっと。
「だけど、それでもアルが探しに行きたいって言うなら止めはしないさ。俺からも手伝える事があるなら遠慮なく言えよ? そんで見つけたら当分は国外で身を隠すんだな」
「応援してくれるのは嬉しいけど、普通は止めるところなんじゃないの?」
「言えば止めるの?」
「いや、止めない」
「だろ?」
僕には探さないっていう選択肢はない。
絶対に探し出して、あの時の事を謝りたい。
そして今度こそ守るんだ。
「それに陛下は貴族だからと見逃されている悪事をどうにかしようと動くはずだ。そんな陛下がそのシラハって子を見捨てるような事はしないんじゃないのか?」
「そう……なのかな?」
「おいおい……忠誠を誓うべき主人を少しは信用しろよな……」
「分かってはいるけど、上の人過ぎて何を考えてるか分からないし……」
「お前……探しに行く前に不敬罪で捕まるなよ?」
「だ、大丈夫だって……」
不敬罪……いや、よくよく考えてみれば僕はシラハを王城に入れた件について、何かしらの罰を受けるのでは……?
そうなったらシラハを探しに行く事なんてできなく……
どうしよう不味い……
「アル、どうしたんだ? 顔色悪いぞ?」
「兄さん。僕、今からシラハを探してくる!」
「待て待て待て! どうしてそうなった!? お前、陛下とお会いする約束もあるんだろ? アルが姿消したら、さすがに不味い!」
駆け出そうとしたところで兄さんに捕まった。
領地に篭ってばかりで鈍ってると思ったのに……
「二人とも仲が良いな」
そんなやり取りをしている所に、父さんがやってきた。
父さんの手には手紙あった。
もしかして……
「父さん…それって」
「ああ、陛下から明日登城するようにとの連絡があった。イリアス姫も意識が戻ったそうだ」
明日か……陛下とお会いして、まともに話す事ができるかな……?
そんな不安を抱きながらも次の日はやってくる。
僕は若干の胃腸の不調を感じながら王城へと向かい、そしてローウェル隊長と合流した。
ローウェル隊長は僕の顔を見るなり顔を顰める。
「少しは休ませてやろうと思ったんだが……なんか調子悪そうだな」
「申し訳ありません……」
緊張して気持ち悪いとか言えないしなぁ……
「まぁ、気持ちは分からんでもないが断る事もできないしな。もしも倒れそうになっても陛下への報告が終わるまでは我慢しろよ」
「善処します……」
ローウェル隊長の励ましの言葉に涙が出そうになるけど、いつまでもウジウジ考えていても仕方ない!
そしてローウェル隊長の案内で陛下が待っているであろう部屋へと到着した。
部屋の前には見慣れない鎧を着た騎士が二人立っていた。
あれは近衛騎士の方だ。
そうだよな、陛下が来られるのなら当然の警備だよな。
ゴクリと喉を鳴らすと、余計に緊張してきてしまったけど、ローウェル隊長が無情にも近衛騎士に取り次ぎ、部屋の扉が開かれてしまった。
緊張しながらローウェル隊長の後ろにくっ付いて行くと、中にはベッドに腰掛けた陛下と上半身を起こした状態のイリアス姫が話をしていた。
そんなお二人が僕達に気がつき視線をこちらに向けると、ローウェル隊長が口を開いた。
「お待たせして申し訳ありません陛下」
「いや気にしなくて良い。予定の時刻より早くこちらに来てイリアスと話をしていただけだ」
陛下は以前にお会いした時よりも、ずっと雰囲気が柔らかかった。
お会いしたのはアルクーレの街の魔薬製作所を潰せた事への感謝のお言葉だったし、他の貴族の目もあったから、そもそもの状況が違うんだけどね。
「君は確か……騎士オーベルだったな」
「は、はい!」
陛下が僕に視線を向けると、名前を呼んでくださった。
それだけで心臓の鼓動がうるさい。
「君がアルクーレの街で活躍してくれたのにも関わらず、こちらでそれを活かすことができずに済まなかった」
そう言うと陛下が頭を下げた。
え? 陛下……何をなさってるんですかっ!
「あ、頭を上げてください陛下! 自分の方こそ、お力になれず申し訳ありませんでした!」
「いや……とある協力者が教えてくれなければ、君に動いてもらっていると勘違いしたままだったんだ。自分の迂闊さが恨めしい……」
協力者? その人のおかげで陛下が動いて下さったのか?
「陛下。陛下の周りは宰相が手駒で固めていましたし、致し方ない状況だったかと……」
「だが、それでももっと注意深く行動すべきだったのだ」
ローウェル隊長が擁護しても陛下は納得する事はできない様子だった。
「兄上だけの責任ではありません。私も毒を盛られている事にも気付けず、事態を悪化させてしまいました……」
陛下もイリアス姫も、今の王都の現状に責任を感じているようだった。
しかし、悪いのは宰相や騎士団長といった魔薬を流していた者達だ。
でも、お二人も僕と同じように後悔を抱えたりするんだな……
どこか遠い人のように考えていたけれど、悔んでも悩んでも、それでも国を良くしようと考えているんだろう。
なら僕も自分にできる事をしよう。
そして、いつかシラハを迎えに行こう。
それが僕にできる彼女への恩返しだ。
//////////////////////////////////////////////////////
後書き
シラハ「今日は出番なしで楽だったなぁ」
狐鈴「王様や姫様と遊びたかった?」
シラハ「姫様なら歓迎するけど、王様はパスで」
狐鈴「不敬罪で捕まっちゃうよー?」
シラハ「最初から不敬だったから今更だし」
狐鈴「あー。王様のベッドに穴開けてたしねー」
シラハ「まぁ、そうさせたのアンタだけどね」
王様「じゃあ二人ともギルティという事で……」
二人「ぎゃあぁぁー!いつの間に?!」
「はっ! はっ! はっ! ……ふぅ」
無心になろうと剣を振るっていたけど、どうにも集中できずに剣を降ろした。
理由なんて分かりきっている。
あの日、シラハがゼブルス騎士団長を殺害してから五日が経っていた。
ゼブルス騎士団長に斬りつけられた時の傷は既に治っているけど、ローウェル隊長に自宅で待機しているようにと言われていた。
「シラハ……」
ぽつりと彼女の名前を呟く。
何かやっていないと、すぐにあの時の事を思い出してしまう。
あのシラハが泣きそうな顔で笑いながら言った、さようならが頭から離れない。
「守れなかった……助けると誓ったのに……」
僕はその場に蹲る。
そう彼女に誓った。
なのに誓いを守るどころか、彼女に助けられてしまった。
何をやっているんだ僕は!
守りたいと思ったシラハを守れず、彼女に全部の罪を背負わせて……
もしも、あの騒動でシラハが死んでいたら……僕は一生後悔していたに違いない。
シラハは、よく分からない力を持っている。そんな彼女が本当に味方なのかと考えた事もあったけど、もう迷わない。
たとえシラハがどんな力を持っていようと、僕は気にしない。
シラハはシラハだ。
出会った頃から変わっていない。
貴族である僕に遠慮もしないし容赦もない。言葉遣いは気にしてるみたいだけど。
というか、シラハは誰に対しても敬語で喋っていたか……
だけど、そんなシラハの全部を僕は好きだと言える。
本当なら今すぐにでもアルクーレに探しに行きたいくらいだ。
でもイリアス姫が目を覚ましたら、ローウェル隊長と一緒に陛下にお会いする事になっている。
今は城内がバタバタしているらしいし、あの時イリアス姫の部屋に立ち入った僕とローウェル隊長に話を聞きたいとかなんとか……
まぁ、僕が知っている事はローウェル隊長に話してあるし、それらは全て報告済みだとか。
当事者を集めての再確認をしたいという事らしい。
陛下と直接お話しするだなんて今から緊張してしまうけどね……
それとアルクーレに行きたいと父さんに話をしたけど、シラハの行方についての手掛かりが何もない為、止められた。
アルクーレに居なかったら手詰まりだし仕方ないか……
でもルーク殿なら何か知っている可能性があるとは思っている。
なので、こちらでやらなければいけない事が終わり次第、アルクーレに向かおうと思う。
そして、あの時の守れなかった事を謝りたい。
もしかすると頼りない男だと呆れられているかもだけど……
「僕に守れるのかな……」
シラハは強い。
僕自身は彼女が戦う姿をほとんど見たことがないけれど、街のゴロツキに絡まれても返討ちにしたとか聞いたことがある。
あの小柄なシラハを見ていると、どうしても強いとは思えない。
なのに多くの騎士に囲まれていたのにも関わらず、彼女はかなりの騎士を殴り倒して動けなくさせていたと言うのだから、本当に人は見かけだけでは分からない。
そんなシラハの力になれるのだろうか……
あの騒動以来そんな後向きな事ばかり考えてしまう。
「はぁ……」
溜息を吐きながら立ち上がると、不意に後頭部を小突かれた。
「っ?! ――に、兄さん?」
「随分と辛気臭い顔をしているな。ちゃんと休めているのか?」
振り返ると、そこにはロドリック兄さんが呆れたような表情で立っていた。
「久しぶり……戻ってきてたんだ」
「せっかく兄が帰って来たんだから、もう少し嬉しそうな顔しろよな、まったく……」
「ごめん……僕のせいで兄さんにまで迷惑かけて……」
兄さんは最近オーベル家が所有している領地にて領地経営の勉強をしている為、王都にはほとんどいない。
色々と忙しいはずなのに、このタイミングで王都に来たという事は、考えられる理由は一つしかない。
「何を言ってるんだ? ちゃんと父さんから聞いているぞ? 陛下の勅命で魔薬を売り捌いていた者を処罰したんだろ?」
「いやいや! どんな説明をうけたら、そんな話になるのさ!? 僕は調査の為に平民を王城へと入れて、その結果騎士団長が殺害されてしまったんだよ……」
説明していて、どんどん言葉尻が小さくなっていく。
自分が正しかったのかさえ分からない。
「でも騎士団長は魔薬に関わっていたんだろ?」
「それは、まぁ…証拠が出てきているらしいけど……」
「なら騎士団長が死んだのは結果的には良かったんじゃないのか? 大きな声では言えないけどさ」
「それは……」
本当に兄さんが言った言葉は他の者に聞かれたら大問題だけど、その通りだと僕も思う。
だけど、どうしても素直にそうは思えないんだ。
「そのせいで国を追われた人がいるんだ……」
「ああ、聞いたよ。でも、そのおかげでアル…お前は助かったんだ。俺はそれで良かったと思ってる」
なんだよ……それ……!
「良いわけないだろ! 僕のせいでシラハは国の敵として認識されたんだぞ!! なのに……僕だけが無事であって良い訳がないじゃないか……」
「落ち着けって……。俺は、そのシラハって子を知らないが、父さんはとても良い子だったと言っていたし、こっちが落ち着いたらアルは探しに行くんじゃないのか?」
「そう、だけど……」
僕の考えがバレている事が少し恥ずかしい。
そんなに分かり易かっただろうか……?
「まぁ父さんは女の見る目ないから、そのシラハって子の評価は当てにならないし、その血を受け継いでいるアルの嵌まり具合から見て兄としては不安しかないけどさ……」
身内の評価が厳しい。
父さんは母さんという前例があるから分かるけど、僕は大丈夫だと思う。…たぶん……きっと。
「だけど、それでもアルが探しに行きたいって言うなら止めはしないさ。俺からも手伝える事があるなら遠慮なく言えよ? そんで見つけたら当分は国外で身を隠すんだな」
「応援してくれるのは嬉しいけど、普通は止めるところなんじゃないの?」
「言えば止めるの?」
「いや、止めない」
「だろ?」
僕には探さないっていう選択肢はない。
絶対に探し出して、あの時の事を謝りたい。
そして今度こそ守るんだ。
「それに陛下は貴族だからと見逃されている悪事をどうにかしようと動くはずだ。そんな陛下がそのシラハって子を見捨てるような事はしないんじゃないのか?」
「そう……なのかな?」
「おいおい……忠誠を誓うべき主人を少しは信用しろよな……」
「分かってはいるけど、上の人過ぎて何を考えてるか分からないし……」
「お前……探しに行く前に不敬罪で捕まるなよ?」
「だ、大丈夫だって……」
不敬罪……いや、よくよく考えてみれば僕はシラハを王城に入れた件について、何かしらの罰を受けるのでは……?
そうなったらシラハを探しに行く事なんてできなく……
どうしよう不味い……
「アル、どうしたんだ? 顔色悪いぞ?」
「兄さん。僕、今からシラハを探してくる!」
「待て待て待て! どうしてそうなった!? お前、陛下とお会いする約束もあるんだろ? アルが姿消したら、さすがに不味い!」
駆け出そうとしたところで兄さんに捕まった。
領地に篭ってばかりで鈍ってると思ったのに……
「二人とも仲が良いな」
そんなやり取りをしている所に、父さんがやってきた。
父さんの手には手紙あった。
もしかして……
「父さん…それって」
「ああ、陛下から明日登城するようにとの連絡があった。イリアス姫も意識が戻ったそうだ」
明日か……陛下とお会いして、まともに話す事ができるかな……?
そんな不安を抱きながらも次の日はやってくる。
僕は若干の胃腸の不調を感じながら王城へと向かい、そしてローウェル隊長と合流した。
ローウェル隊長は僕の顔を見るなり顔を顰める。
「少しは休ませてやろうと思ったんだが……なんか調子悪そうだな」
「申し訳ありません……」
緊張して気持ち悪いとか言えないしなぁ……
「まぁ、気持ちは分からんでもないが断る事もできないしな。もしも倒れそうになっても陛下への報告が終わるまでは我慢しろよ」
「善処します……」
ローウェル隊長の励ましの言葉に涙が出そうになるけど、いつまでもウジウジ考えていても仕方ない!
そしてローウェル隊長の案内で陛下が待っているであろう部屋へと到着した。
部屋の前には見慣れない鎧を着た騎士が二人立っていた。
あれは近衛騎士の方だ。
そうだよな、陛下が来られるのなら当然の警備だよな。
ゴクリと喉を鳴らすと、余計に緊張してきてしまったけど、ローウェル隊長が無情にも近衛騎士に取り次ぎ、部屋の扉が開かれてしまった。
緊張しながらローウェル隊長の後ろにくっ付いて行くと、中にはベッドに腰掛けた陛下と上半身を起こした状態のイリアス姫が話をしていた。
そんなお二人が僕達に気がつき視線をこちらに向けると、ローウェル隊長が口を開いた。
「お待たせして申し訳ありません陛下」
「いや気にしなくて良い。予定の時刻より早くこちらに来てイリアスと話をしていただけだ」
陛下は以前にお会いした時よりも、ずっと雰囲気が柔らかかった。
お会いしたのはアルクーレの街の魔薬製作所を潰せた事への感謝のお言葉だったし、他の貴族の目もあったから、そもそもの状況が違うんだけどね。
「君は確か……騎士オーベルだったな」
「は、はい!」
陛下が僕に視線を向けると、名前を呼んでくださった。
それだけで心臓の鼓動がうるさい。
「君がアルクーレの街で活躍してくれたのにも関わらず、こちらでそれを活かすことができずに済まなかった」
そう言うと陛下が頭を下げた。
え? 陛下……何をなさってるんですかっ!
「あ、頭を上げてください陛下! 自分の方こそ、お力になれず申し訳ありませんでした!」
「いや……とある協力者が教えてくれなければ、君に動いてもらっていると勘違いしたままだったんだ。自分の迂闊さが恨めしい……」
協力者? その人のおかげで陛下が動いて下さったのか?
「陛下。陛下の周りは宰相が手駒で固めていましたし、致し方ない状況だったかと……」
「だが、それでももっと注意深く行動すべきだったのだ」
ローウェル隊長が擁護しても陛下は納得する事はできない様子だった。
「兄上だけの責任ではありません。私も毒を盛られている事にも気付けず、事態を悪化させてしまいました……」
陛下もイリアス姫も、今の王都の現状に責任を感じているようだった。
しかし、悪いのは宰相や騎士団長といった魔薬を流していた者達だ。
でも、お二人も僕と同じように後悔を抱えたりするんだな……
どこか遠い人のように考えていたけれど、悔んでも悩んでも、それでも国を良くしようと考えているんだろう。
なら僕も自分にできる事をしよう。
そして、いつかシラハを迎えに行こう。
それが僕にできる彼女への恩返しだ。
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後書き
シラハ「今日は出番なしで楽だったなぁ」
狐鈴「王様や姫様と遊びたかった?」
シラハ「姫様なら歓迎するけど、王様はパスで」
狐鈴「不敬罪で捕まっちゃうよー?」
シラハ「最初から不敬だったから今更だし」
狐鈴「あー。王様のベッドに穴開けてたしねー」
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