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行商人
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私は今、雪で真っ白な森の中にいる。
周囲には、いくつかの匂い。
その匂いの一つが、木の上から飛び出してくる。
「隙やりッス!」
そう宣言してから木剣を振り下ろしてきた。
それを竜鱗を生やした腕で逸らしながら、飛び掛かってきた竜人のお腹に拳を打ち込む。
「ぐぇっ!」
短い悲鳴をあげながら飛んでいく竜人。
彼はリューダスさんの舎弟の一人のニッチさん。
そのニッチさんがすぐには動けないと判断すると、木の影から飛び出してきたリューダスさんと相対する。
「とりゃ! てい! はぁ!」
リューダスさんの持つ木の棒を受けつつ、周囲の動きに注意する。
リューダスさんを相手にしながらだと、残りの三人を相手にするのは少し厳しい。
決闘の時のカウンターで懲りているのか、リューダスさんは私に武器を掴まれないように小手技で攻撃をしてくる。
それが私にとっては凄くやり難い……
そんな私の後方から二人が迫ってくる。
やむなく私は【疾空】を使って、三人の包囲から逃れようとしたところで、コツンと頭に矢が当たった。
「むぅ……」
「俺達の勝ちですな!」
リューダスさん達が勝利に浮かれている。
なかなか彼等に勝つ事ができなくて、少しむくれる私。くそぅ……
なんでリューダスさん達と、こんな事をしているのかと言うと、彼等が私と腕を磨きあいたいと言い出したのが始まりだ。
とはいえ、私がスキルを全開で戦うと洒落にならない怪我を負わせてしまうので、基本的には身体強化系のスキルと【獣の嗅覚】だけという縛りで戦う事にしている。
ついでに弓使いであるサンドさんは狙わない方針だ。
なので四人と戦いながら、飛んでくる矢を警戒するという事をしなければいけないので大変なんだよね。
以前クエンサの街の路地裏で拉致された時、強盗ABを相手に押し切れなかったせいで、隙をつかれたという事があった。
無意識に抵抗があるのかは分からないけど、私は基本的に人に対しては斬るや裂くといった攻撃をしない。
街中でスプラッターな惨状を作り出すことを避けただけかもしれないけど……
なので手練れを相手にしなければいけない時が来ても良いように、対人戦闘の経験を少しでも積もうと思ったのだけれど、これがなかなか思うように結果が出ない。
不味い状況だと判断すればスキルを使う事に躊躇はないんだけど、その前に致命傷を受けたり意識を刈り取られたりしちゃってるので、そうならないようにしないとね。
既に私達が集落に引っ越してきてから三ヶ月が経っている。
私は、ほぼ毎日と言っていいくらいにリューダスさん達と戦闘訓練を行っている。
最初は父さんも参加したいと言っていたんだけど、私かリューダスさん達かのどちらかに参加すると、それだけで勝負にならなくなるので断らせてもらった。
拗ねてたけどね……
父さん対私とリューダスさん達で戦っても、勝てる気がしないんだけどねー。
そして私達の訓練が終わるとリューダスさん達は父さんに扱かれに行く。
たしかに父さんは強いけど、誰かを鍛えるとかできるのかな?
まぁ本人が納得してるなら、それでも構わないんだけど……
私はリューダスさん達と別れると、今度は一人でスキルの練習を始める。
まずは【獣の嗅覚】と【熱源感知】を使って、練習相手を探さなきゃね。
ザックザクと雪を踏み固めながら適当に歩き回っていると、前方に熱源を発見した。
匂いが薄いけど、たぶん魔物かな?
雪が保護色になっているから、パッと見では分かりにくいね。
私は魔物がいる辺りに【竜鱗(剣)】を投げ付けた。
「ピギッ」
青白い色のトカゲみたいな魔物が、突然の攻撃に驚いて雪から飛び出してくると、竜鱗を弾けさせる。
竜鱗の破片がいくつかの傷をつけたけど、動きが鈍る程ではないみたいだ。父さんのように、これで仕留められれば楽なんだけどなぁ……
トカゲが私に気がつくと、口から冷気のようなモノを出しながら素早い動きで迫ってきた。うわ…はやっ!
口から出ているモノに触れるのは不味いと判断して【跳躍】で木の上へと飛び乗った。
うーん……効果のわからないモノに不用意に触れる訳にもいかないしなぁ。
「よし……ヨーク!」
「わふぅ!」
私の中から魔力が抜け、そこからヨークが現れる。
ヨークには直接攻撃を仕掛けないで相手の動きを牽制してもらい、私は【龍紫眼】のスキルを発動させる。
「ギッ」
するとトカゲがビクンと一瞬体を痙攣させると動きを止めた。
このスキルを発動させた状態で相手を見つめると、動きを阻害させる効果があるんだよね。
しかし、そうなると直接相手に触らなきゃいけない【麻痺付与】が、いらない子になっちゃうんだよね……
「ヨーク、お願い」
「わふ!」
私の言葉に反応してヨークがトカゲの首に噛みつき、そのままをゴキリと首を折ってくれる。
「んー! 偉いねぇヨーク! ――あ、でもその口で舐めようとしないでねー……」
「くぅ~ん……」
私がヨークを褒めてあげると、血で汚れた口で私を舐めようとしてきたので止める。可愛くても、それはちょっと無理だよ……
尻尾をへんにゃりとさせながらガッカリしているヨークを撫でながら、トカゲの死体を見る。
迂闊に触れない魔物を相手にする場合に【龍紫眼】は、使い勝手が良いかもしれないね。
というか、一番最初に【龍紫眼】を使った時に、使ったまま母さんを視界に入れてたんだけど、母さんはなんとも無かったって事だよね?
母さんに効果が無かったのは良かったんだけど、効かなかったのは単純に力量差のせいなのか、母さんが竜だからなのか……うーん。
まぁ行動を阻害させるスキルは、強そうな相手には効かないって考えておけばいいかな。
私はトカゲから魔石を取り出してから、トカゲを持って集落へと帰る事にする。
その横にヨークが尻尾をふりふりしながらついてきてくれる。
ちなみに今のヨークに翼は生えていない。
なんでも出し入れが自由にできるみたいで、森の中といった翼を広げるのに適さない場所では翼を引っ込めて行動している。
シリューもヨークと同じように外に出してあげたいんだけど、森の中だと木々を薙ぎ倒しそうだし、あの子は体が大きいから目立ちすぎる。
一度、集落の中で出しちゃってるから今更なんだけどもね……
もしもシリューが誰かの家とかを壊しちゃった場合、私は責任取れないし、シリューの印象が悪くなっちゃってもイヤだしね。
なので毎日とはいかないけど、家の前の荒地か雪原の方に移動してからシリューを呼び出して、一緒に遊んだりしている。
遊ぶと言っても、撫でてあげたりシリューの上に乗って空を飛んだりするくらいなんだよね。
あの大きさの子と、どうやって遊んだら良いんだろうか……というのが最近の悩みでもあったりする。
もう少し構ってあげたいからね!
「あ、シラハー!」
私が集落に戻ってくると、クーリヤさんという女性の竜人が手を振りながらやって来る。
「クーリヤさん、こんにちは」
「うんうん、こんにちわ! おっ、ヨークもこんにちはだよー」
「わふん!」
竜人族の人達って、みんな元気なんだよね。
やっぱり、その辺りはマグナスさんの影響なのかな?
「それで、クーリヤさんどうかしたんですか?」
「あっ、そうそう! シラハこの前、調理器具を頼んでたよね? 今、行商人が来てるから、受け取りに行った方が良いよーって伝えに来たんだ!」
「おっ、ついに来ましたかっ!」
行商人はあまり頻繁には集落に来れないみたいなので、前回来た時に調理器具を注文して、今回ようやく届いたって訳なんだよ!
私はクーリヤさんと一緒に私の家に行って、一旦トカゲを置いてから、荷物袋を持って行商人がいる所に向かう。
「ヨークはハウスね」
「わん!」
ヨークが私の言葉に反応したら、ヨークを私の中へと戻す。
「シラハのソレって不思議だよねー」
「ですよねー」
クーリヤさんの反応がとっても軽い。
これは別にクーリヤさんに限った話でもなくて、他の人達も似たような反応だったんだよね。
当然驚く人もいたけれど、大抵が炎竜様が紹介するくらいだから…と納得される事の方が多かった。
げせぬ……
私達が広場に到着すると、行商人の人達がいる場所に人だかりができていた。
あの中に入るのは大変なので、もう少し人が減ってからだね。
「あれ? シラハ行かないのー?」
「今、無理して入っても対応できる人は二人しかいないじゃないですか。あの中に入って接客終わるの待つくらいなら、ここで待ってます」
「そっかー。なら私もここで待とー」
少し待ち時間があるなら、もう少しヨークを出しといてあげれば良かったかな?
「そういえばシラハに会う前にリューダス達を見かけたんだけどさー。なんかシラハのお父さんに投げ飛ばされてたけど、あれって何の鍛錬なのー?」
「さぁ……? リューダスさん達に聞いてもよく分からないです! って言われるし、たぶん父さんの思い付きなんだと思います……」
「その前は丸太を引き摺ってたし、変わってるよねー」
「内容もコロコロ変わってるんですね……」
そんな鍛錬でも成果が出れば良いんだけどね……
でも、リューダスさん達との訓練では私が負け越しているから、もしかすると上達しているのかも?
クーリヤさんとお喋りしながら、待ち時間を潰していると行商人の周りの人がまばらになってきていたので、私達は行商人の所へと移動する。
「おぅ、いらっしゃい。……おっ、たしかアンタはウチに調理器具一式を注文していった……んだよな?」
「はい、それです。えっと…頼んでいた物って全部揃いました?」
「おうよ」
今、話をしているのは行商人の一人である、ドワーフのアンガスさん。
以前ライオスさんあたりから、ドワーフは背が低いとか聞いていたけれど、目の前にいるアンガスさんは私より頭一個分くらいは大きい気がする。
もしかすると、女性のドワーフならもう少し背が低いのかもしれぬ……
アンガスさんがガチャガチャと私が頼んでいた調理器具を運んできてくれる。
包丁、フライパン、鍋、お玉、フライ返し的なモノ……これで料理ができるっ……!
あとは、まともな料理が私に出来るかどうか……たぶん、きっと、おそらく大丈夫な…はず。
「ありがとうございます! えっと……お代は魔石や魔物の素材で大丈夫なんですよね?」
「問題ないぜ。ブツはその袋の中か?」
「そうです。これで足りますか?」
アンガスさんは、私が家に帰った時に持ち出してきた袋の中を見ながら、いくつかの素材や魔石を抜いていく。
ブツとか言われると、怪しい取引みたいだよね。
「まぁ、こんくらいってところかな……」
「アンガスさん、ありがとうございます!」
「おぅ、また欲しい物があったら声かけな」
アンガスさんがお代の分の素材を抜き取ってから袋を返してくる。
正直なところ、ぼったくられても分からないから足りないとか言われたらどうしようかと思ってた。
でも昔からずっと今のやり方だと言うので、相手を信じるしかないんだよね。
アンガスさんとの取引が終わると、今度は隣にいるもう一人の行商人に声をかける。
「ルミーナさん、こんにちは」
「あら、たしか……シラハさん。……だったかしら?」
「あってますよ」
「良かったわ。私、名前を覚えるの苦手だけど、ここに人間がいるなんて珍しいから覚えてられたわ」
「やっぱり珍しいですよねー」
「珍しいというか、初めて見たわね」
この人はルミーナさん。
ドワーフのアンガスさんと一緒に、私が滞在している集落まで行商に来ているエルフさんだ。
私のイメージだとエルフとドワーフって仲が悪いんだけど、そんな事はないらしい。
ドワーフのアンガスさんが鉄製品で、エルフのルミーナさんが魔道具や魔法薬を売りに来ている。
住んでいる場所は違うけど、私達がいる集落は辺鄙な所にあるので、別々に行くより一緒に行動した方が安全という理由で途中で合流してから来るらしい。
「ルミーナさん。薪の代わりになる魔道具くださいな」
「はーい。ちょっと待っててね」
ルミーナさんがガサゴソと荷物を漁って魔道具を取り出す。
これがあれば薪を集めなくても料理ができる!
薪で火加減を確認しながら料理とか難易度が高い気がするもんね!
よーし!
これで父さんと母さんに本当の手料理を振る舞えるぞー!
//////////////////////////////////////////////////////
後書き
狐鈴「この物語はフィクションです。作中に出てくる思想や価値観は舞台となっている異世界ならではのものであり、現代日本の思想や価値観を否定するものではありません」
シラハ「え、なに? 急にどうしたの?」
狐鈴「えっと…感想欄のコメントに主人公の考え方がおかしい……という、非難に近いお言葉を頂きました」
シラハ「なら感想の受け付けを止めたら?」
狐鈴「少し前の後書きでもいいましたが、感想を書きたいという方もいるので、今回の件の為だけに感想の受け付けを止めるという事はしたくありません」
シラハ「狐鈴、メンタル大丈夫なの?」
狐鈴「ぶっちゃけ気持ち悪いですが、伝えるべき事は伝えなきゃ、と思っています」
シラハ「無理はダメだよー」
狐鈴「作中での思想や価値観を見て、そんなもんかーとか、ふーん、くらいの感じで受け入れるか流せないのであれば、何も言わずに読むのを止める事を強くお勧めします」
シラハ「感想に気が付いた事を書くのは構わないけれど、自分の考えを押し付けて相手を否定するようなコメントは控えるようにお願いします」
狐鈴「今後も続くようなら、コメントの削除やブロックも検討させていただきます」
シラハ「後書きが長くなっちゃったけど、今話はこの辺でー! またねー!」
※この話は、小説家になろうの感想欄に書かれたコメントに対しての発言です。
アルファポリスには、コメントの削除機能はありません。
周囲には、いくつかの匂い。
その匂いの一つが、木の上から飛び出してくる。
「隙やりッス!」
そう宣言してから木剣を振り下ろしてきた。
それを竜鱗を生やした腕で逸らしながら、飛び掛かってきた竜人のお腹に拳を打ち込む。
「ぐぇっ!」
短い悲鳴をあげながら飛んでいく竜人。
彼はリューダスさんの舎弟の一人のニッチさん。
そのニッチさんがすぐには動けないと判断すると、木の影から飛び出してきたリューダスさんと相対する。
「とりゃ! てい! はぁ!」
リューダスさんの持つ木の棒を受けつつ、周囲の動きに注意する。
リューダスさんを相手にしながらだと、残りの三人を相手にするのは少し厳しい。
決闘の時のカウンターで懲りているのか、リューダスさんは私に武器を掴まれないように小手技で攻撃をしてくる。
それが私にとっては凄くやり難い……
そんな私の後方から二人が迫ってくる。
やむなく私は【疾空】を使って、三人の包囲から逃れようとしたところで、コツンと頭に矢が当たった。
「むぅ……」
「俺達の勝ちですな!」
リューダスさん達が勝利に浮かれている。
なかなか彼等に勝つ事ができなくて、少しむくれる私。くそぅ……
なんでリューダスさん達と、こんな事をしているのかと言うと、彼等が私と腕を磨きあいたいと言い出したのが始まりだ。
とはいえ、私がスキルを全開で戦うと洒落にならない怪我を負わせてしまうので、基本的には身体強化系のスキルと【獣の嗅覚】だけという縛りで戦う事にしている。
ついでに弓使いであるサンドさんは狙わない方針だ。
なので四人と戦いながら、飛んでくる矢を警戒するという事をしなければいけないので大変なんだよね。
以前クエンサの街の路地裏で拉致された時、強盗ABを相手に押し切れなかったせいで、隙をつかれたという事があった。
無意識に抵抗があるのかは分からないけど、私は基本的に人に対しては斬るや裂くといった攻撃をしない。
街中でスプラッターな惨状を作り出すことを避けただけかもしれないけど……
なので手練れを相手にしなければいけない時が来ても良いように、対人戦闘の経験を少しでも積もうと思ったのだけれど、これがなかなか思うように結果が出ない。
不味い状況だと判断すればスキルを使う事に躊躇はないんだけど、その前に致命傷を受けたり意識を刈り取られたりしちゃってるので、そうならないようにしないとね。
既に私達が集落に引っ越してきてから三ヶ月が経っている。
私は、ほぼ毎日と言っていいくらいにリューダスさん達と戦闘訓練を行っている。
最初は父さんも参加したいと言っていたんだけど、私かリューダスさん達かのどちらかに参加すると、それだけで勝負にならなくなるので断らせてもらった。
拗ねてたけどね……
父さん対私とリューダスさん達で戦っても、勝てる気がしないんだけどねー。
そして私達の訓練が終わるとリューダスさん達は父さんに扱かれに行く。
たしかに父さんは強いけど、誰かを鍛えるとかできるのかな?
まぁ本人が納得してるなら、それでも構わないんだけど……
私はリューダスさん達と別れると、今度は一人でスキルの練習を始める。
まずは【獣の嗅覚】と【熱源感知】を使って、練習相手を探さなきゃね。
ザックザクと雪を踏み固めながら適当に歩き回っていると、前方に熱源を発見した。
匂いが薄いけど、たぶん魔物かな?
雪が保護色になっているから、パッと見では分かりにくいね。
私は魔物がいる辺りに【竜鱗(剣)】を投げ付けた。
「ピギッ」
青白い色のトカゲみたいな魔物が、突然の攻撃に驚いて雪から飛び出してくると、竜鱗を弾けさせる。
竜鱗の破片がいくつかの傷をつけたけど、動きが鈍る程ではないみたいだ。父さんのように、これで仕留められれば楽なんだけどなぁ……
トカゲが私に気がつくと、口から冷気のようなモノを出しながら素早い動きで迫ってきた。うわ…はやっ!
口から出ているモノに触れるのは不味いと判断して【跳躍】で木の上へと飛び乗った。
うーん……効果のわからないモノに不用意に触れる訳にもいかないしなぁ。
「よし……ヨーク!」
「わふぅ!」
私の中から魔力が抜け、そこからヨークが現れる。
ヨークには直接攻撃を仕掛けないで相手の動きを牽制してもらい、私は【龍紫眼】のスキルを発動させる。
「ギッ」
するとトカゲがビクンと一瞬体を痙攣させると動きを止めた。
このスキルを発動させた状態で相手を見つめると、動きを阻害させる効果があるんだよね。
しかし、そうなると直接相手に触らなきゃいけない【麻痺付与】が、いらない子になっちゃうんだよね……
「ヨーク、お願い」
「わふ!」
私の言葉に反応してヨークがトカゲの首に噛みつき、そのままをゴキリと首を折ってくれる。
「んー! 偉いねぇヨーク! ――あ、でもその口で舐めようとしないでねー……」
「くぅ~ん……」
私がヨークを褒めてあげると、血で汚れた口で私を舐めようとしてきたので止める。可愛くても、それはちょっと無理だよ……
尻尾をへんにゃりとさせながらガッカリしているヨークを撫でながら、トカゲの死体を見る。
迂闊に触れない魔物を相手にする場合に【龍紫眼】は、使い勝手が良いかもしれないね。
というか、一番最初に【龍紫眼】を使った時に、使ったまま母さんを視界に入れてたんだけど、母さんはなんとも無かったって事だよね?
母さんに効果が無かったのは良かったんだけど、効かなかったのは単純に力量差のせいなのか、母さんが竜だからなのか……うーん。
まぁ行動を阻害させるスキルは、強そうな相手には効かないって考えておけばいいかな。
私はトカゲから魔石を取り出してから、トカゲを持って集落へと帰る事にする。
その横にヨークが尻尾をふりふりしながらついてきてくれる。
ちなみに今のヨークに翼は生えていない。
なんでも出し入れが自由にできるみたいで、森の中といった翼を広げるのに適さない場所では翼を引っ込めて行動している。
シリューもヨークと同じように外に出してあげたいんだけど、森の中だと木々を薙ぎ倒しそうだし、あの子は体が大きいから目立ちすぎる。
一度、集落の中で出しちゃってるから今更なんだけどもね……
もしもシリューが誰かの家とかを壊しちゃった場合、私は責任取れないし、シリューの印象が悪くなっちゃってもイヤだしね。
なので毎日とはいかないけど、家の前の荒地か雪原の方に移動してからシリューを呼び出して、一緒に遊んだりしている。
遊ぶと言っても、撫でてあげたりシリューの上に乗って空を飛んだりするくらいなんだよね。
あの大きさの子と、どうやって遊んだら良いんだろうか……というのが最近の悩みでもあったりする。
もう少し構ってあげたいからね!
「あ、シラハー!」
私が集落に戻ってくると、クーリヤさんという女性の竜人が手を振りながらやって来る。
「クーリヤさん、こんにちは」
「うんうん、こんにちわ! おっ、ヨークもこんにちはだよー」
「わふん!」
竜人族の人達って、みんな元気なんだよね。
やっぱり、その辺りはマグナスさんの影響なのかな?
「それで、クーリヤさんどうかしたんですか?」
「あっ、そうそう! シラハこの前、調理器具を頼んでたよね? 今、行商人が来てるから、受け取りに行った方が良いよーって伝えに来たんだ!」
「おっ、ついに来ましたかっ!」
行商人はあまり頻繁には集落に来れないみたいなので、前回来た時に調理器具を注文して、今回ようやく届いたって訳なんだよ!
私はクーリヤさんと一緒に私の家に行って、一旦トカゲを置いてから、荷物袋を持って行商人がいる所に向かう。
「ヨークはハウスね」
「わん!」
ヨークが私の言葉に反応したら、ヨークを私の中へと戻す。
「シラハのソレって不思議だよねー」
「ですよねー」
クーリヤさんの反応がとっても軽い。
これは別にクーリヤさんに限った話でもなくて、他の人達も似たような反応だったんだよね。
当然驚く人もいたけれど、大抵が炎竜様が紹介するくらいだから…と納得される事の方が多かった。
げせぬ……
私達が広場に到着すると、行商人の人達がいる場所に人だかりができていた。
あの中に入るのは大変なので、もう少し人が減ってからだね。
「あれ? シラハ行かないのー?」
「今、無理して入っても対応できる人は二人しかいないじゃないですか。あの中に入って接客終わるの待つくらいなら、ここで待ってます」
「そっかー。なら私もここで待とー」
少し待ち時間があるなら、もう少しヨークを出しといてあげれば良かったかな?
「そういえばシラハに会う前にリューダス達を見かけたんだけどさー。なんかシラハのお父さんに投げ飛ばされてたけど、あれって何の鍛錬なのー?」
「さぁ……? リューダスさん達に聞いてもよく分からないです! って言われるし、たぶん父さんの思い付きなんだと思います……」
「その前は丸太を引き摺ってたし、変わってるよねー」
「内容もコロコロ変わってるんですね……」
そんな鍛錬でも成果が出れば良いんだけどね……
でも、リューダスさん達との訓練では私が負け越しているから、もしかすると上達しているのかも?
クーリヤさんとお喋りしながら、待ち時間を潰していると行商人の周りの人がまばらになってきていたので、私達は行商人の所へと移動する。
「おぅ、いらっしゃい。……おっ、たしかアンタはウチに調理器具一式を注文していった……んだよな?」
「はい、それです。えっと…頼んでいた物って全部揃いました?」
「おうよ」
今、話をしているのは行商人の一人である、ドワーフのアンガスさん。
以前ライオスさんあたりから、ドワーフは背が低いとか聞いていたけれど、目の前にいるアンガスさんは私より頭一個分くらいは大きい気がする。
もしかすると、女性のドワーフならもう少し背が低いのかもしれぬ……
アンガスさんがガチャガチャと私が頼んでいた調理器具を運んできてくれる。
包丁、フライパン、鍋、お玉、フライ返し的なモノ……これで料理ができるっ……!
あとは、まともな料理が私に出来るかどうか……たぶん、きっと、おそらく大丈夫な…はず。
「ありがとうございます! えっと……お代は魔石や魔物の素材で大丈夫なんですよね?」
「問題ないぜ。ブツはその袋の中か?」
「そうです。これで足りますか?」
アンガスさんは、私が家に帰った時に持ち出してきた袋の中を見ながら、いくつかの素材や魔石を抜いていく。
ブツとか言われると、怪しい取引みたいだよね。
「まぁ、こんくらいってところかな……」
「アンガスさん、ありがとうございます!」
「おぅ、また欲しい物があったら声かけな」
アンガスさんがお代の分の素材を抜き取ってから袋を返してくる。
正直なところ、ぼったくられても分からないから足りないとか言われたらどうしようかと思ってた。
でも昔からずっと今のやり方だと言うので、相手を信じるしかないんだよね。
アンガスさんとの取引が終わると、今度は隣にいるもう一人の行商人に声をかける。
「ルミーナさん、こんにちは」
「あら、たしか……シラハさん。……だったかしら?」
「あってますよ」
「良かったわ。私、名前を覚えるの苦手だけど、ここに人間がいるなんて珍しいから覚えてられたわ」
「やっぱり珍しいですよねー」
「珍しいというか、初めて見たわね」
この人はルミーナさん。
ドワーフのアンガスさんと一緒に、私が滞在している集落まで行商に来ているエルフさんだ。
私のイメージだとエルフとドワーフって仲が悪いんだけど、そんな事はないらしい。
ドワーフのアンガスさんが鉄製品で、エルフのルミーナさんが魔道具や魔法薬を売りに来ている。
住んでいる場所は違うけど、私達がいる集落は辺鄙な所にあるので、別々に行くより一緒に行動した方が安全という理由で途中で合流してから来るらしい。
「ルミーナさん。薪の代わりになる魔道具くださいな」
「はーい。ちょっと待っててね」
ルミーナさんがガサゴソと荷物を漁って魔道具を取り出す。
これがあれば薪を集めなくても料理ができる!
薪で火加減を確認しながら料理とか難易度が高い気がするもんね!
よーし!
これで父さんと母さんに本当の手料理を振る舞えるぞー!
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後書き
狐鈴「この物語はフィクションです。作中に出てくる思想や価値観は舞台となっている異世界ならではのものであり、現代日本の思想や価値観を否定するものではありません」
シラハ「え、なに? 急にどうしたの?」
狐鈴「えっと…感想欄のコメントに主人公の考え方がおかしい……という、非難に近いお言葉を頂きました」
シラハ「なら感想の受け付けを止めたら?」
狐鈴「少し前の後書きでもいいましたが、感想を書きたいという方もいるので、今回の件の為だけに感想の受け付けを止めるという事はしたくありません」
シラハ「狐鈴、メンタル大丈夫なの?」
狐鈴「ぶっちゃけ気持ち悪いですが、伝えるべき事は伝えなきゃ、と思っています」
シラハ「無理はダメだよー」
狐鈴「作中での思想や価値観を見て、そんなもんかーとか、ふーん、くらいの感じで受け入れるか流せないのであれば、何も言わずに読むのを止める事を強くお勧めします」
シラハ「感想に気が付いた事を書くのは構わないけれど、自分の考えを押し付けて相手を否定するようなコメントは控えるようにお願いします」
狐鈴「今後も続くようなら、コメントの削除やブロックも検討させていただきます」
シラハ「後書きが長くなっちゃったけど、今話はこの辺でー! またねー!」
※この話は、小説家になろうの感想欄に書かれたコメントに対しての発言です。
アルファポリスには、コメントの削除機能はありません。
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忍は、不屈の闘志で最後まで運命に抗った。
担当医師の見立てでは、精々5年以内という余命期間を大幅に延長し、12年間の壮絶な闘病生活の果てについに力尽きて亡くなった。
その陰で家族の献身的な助力があったことは間違いないが、何よりも忍自身の生きようとする意志の力が大いに働いていたのである。
その超人的な精神の強靭さゆえに忍の生き様は、天上界の神々の心も揺り動かしていた。
かくして天上界でも類稀な神々の総意に依り、忍の魂は異なる世界への転生という形で蘇ることが許されたのである。
この物語は、地球世界に生を受けながらも、その生を満喫できないまま死に至った一人の若い女性の魂が、神々の助力により異世界で新たな生を受け、神々の加護を受けつつ新たな人生を歩む姿を描いたものである。
しかしながら、神々の意向とは裏腹に、転生した魂は、新たな闘いの場に身を投じることになった。
この物語は「カクヨム様」にも同時投稿します。
一応不定期なのですが、土曜の午後8時に投稿するよう努力いたします。
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