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第一章 未知の世界と賑わう大都市
第六話:人間が商品
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そこからパジャリブまでは五人旅だったが、馬車の中は、俺とランダー、女と子供たち、というように真っ二つに分かれていた。
俺は親子と会話しようと試みたのだが、彼女たちはそれを完全に拒んだ。
子供たちは屋敷では俺に懐いていたのに、今や目さえ合わせてくれない。
嫌な予感は常にしていた。
だから、あえて、その予感を無視した。互いのグループを無視しあって、馬車は進んだ。
そうして、パジャリブまでたどり着いた。
王都に次ぐ国で二番目の都市というだけあって、パジャリブは本当に大きな街だった。
大通りは馬車が何台も同時に通れるだけの広さがあり、石畳で舗装されている。その両脇には、石造りの建物が並び、凝った服だの宝石だのを売っている。
金持ちのマダムらしき人が、御者に馬車を運転させ、自分は後ろでふんぞり返っている。その馬車が通るすぐ横には、服と言うよりは布切れと言ったほうがいいような格好の老婆が、土下座をして施しを無心している。老婆は懸命に哀れみの声を出すが、マダムの耳に届く気配はない。
その他、往来には様々な人がいた。野菜の入った大きな籠を背負い、がなりながら売り歩く少年。ジャグリングのような大道芸をして客を集める若い男。裸同然の姿で「遊んでいかない?」と昼間から商売に励む巨乳の女。
街並みを眺めながら、俺たちは大通りの一番向こうの大きな建物に向かった。
その建物はパジャリブの一番中心部にあるらしく、俺たちが通ってきた以外の大通りもまたそこに集まってきている。蜘蛛の巣の中心部のような位置というわけだ。
中心部の一番の中心にあるのは、市庁舎であるらしい。その横に、小学校の体育館ほどの大きさの建物があった。
そこに入った。
中は、どでかいホールがあるだけのシンプルな造りだった。ホールの正面奥には、ステージがある。
「ここはなんだ?」
「市場だよ」
ランダーはスタッフらしき人に、自分の名前と、連れてきた女と子供たちの名前を告げた。
スタッフは番号札をランダーに渡した。それからランダーは、三人を連れて建物の壁際に向かった。
壁際には、ランダーのように番号札を持った男と、首輪をつけられた人々の列があった。ランダーはその列に並んだ。
ホールの中央部分にはイスが並べられ、半分以上が埋まっていた。座っているのは、立派な服を着こなした人々ばかり。おや、さっき大通りで見かけたマダムもいる。
彼らは、壁際に並ぶ人々を観察するような目で見ては指差し、なにやら話している。
「あのさ、これってやっぱり」
質問するより先に、決定的な光景が目の前で繰り広げられた。
ステージにメガホンを持った紳士風の男が上がり、実に直接的な挨拶を始めたのだ。
「それでは、これから競りを始めたいと思います。みなさま、ぜひ少しでも高い値段をおつけくださるようお願いいたします」
一番の番号札を持った男が、二メートルはありそうな男を引っ張って、ステージに上がった。二メートルの男の首には、やはり首輪がつけられている。
「いきなり本日の目玉です。グランデア出身、二十二才、ボーマくん。ご覧のように見事な体をしております。彼だけで三人分の力仕事をしてくれるでしょう。その分大飯食らいのようですが、せいぜいふたり分。つまり、一人分お得なわけです。まずは、一千リンからスタートです」
リンというのは、この国の通貨単位である。
一リンあれば、一食は食える。
「一千二百」
「一千三百」
「一千五百」
「二千」
会場から次々と声が上がる。
その後も値段は上がり、二千八百まで上がった。最後まで竸っていた男は悔しそうな顔をしていたが、これで競争は終わり、決まりかと終わられた。
しかし、ステージ上の司会者は、まだまだ競争を煽った。
「言い忘れた情報がありました。ボーマくんは、ただ力が強いだけではありません。こう見えて頭がよく、九九を覚えていますし、文字だって読めます。忠義者で、部下の面倒をみることだってできるのです」
すると、一度は諦めたはずの男が、
「三千!」
と叫んだ。だが、
「三千五百!」
すぐに返され、もう一度粘ったが、結局はギブアップ。終値は四千。
「決まりました。四千のあなた」
競りに勝った男の元にスタッフが向かうと、彼は財布を取り出して、大量のコインを中から出した。
この国に紙幣はない。すべて硬貨で、一番大きいのは百リン金貨らしい。
だが、百リン金貨の流通量は多くない。実質一番大きな貨幣は五十リン金貨で、小さい硬貨も使えば、四千リンは百枚を超えてくるだろう。
スタッフはたくさんの硬貨を念入りにかぞえ、きっちり揃っているのを確認すると、一枚の書類を取り出した。
競り落とした男が、そこになにかを記入する。サインだろうか?
それが終わると、
「おめでとうございます。今から彼はあなたの所有物です」
そして、二メートルの大男のすべてが、番号札を持った男から、競り落とした男に移った。
疑惑を超えて答えを見せられたってわけだ。
間違いない、ここは奴隷市場だ。
人間が人間を物として売買する、おぞましき空間だ。
俺は親子と会話しようと試みたのだが、彼女たちはそれを完全に拒んだ。
子供たちは屋敷では俺に懐いていたのに、今や目さえ合わせてくれない。
嫌な予感は常にしていた。
だから、あえて、その予感を無視した。互いのグループを無視しあって、馬車は進んだ。
そうして、パジャリブまでたどり着いた。
王都に次ぐ国で二番目の都市というだけあって、パジャリブは本当に大きな街だった。
大通りは馬車が何台も同時に通れるだけの広さがあり、石畳で舗装されている。その両脇には、石造りの建物が並び、凝った服だの宝石だのを売っている。
金持ちのマダムらしき人が、御者に馬車を運転させ、自分は後ろでふんぞり返っている。その馬車が通るすぐ横には、服と言うよりは布切れと言ったほうがいいような格好の老婆が、土下座をして施しを無心している。老婆は懸命に哀れみの声を出すが、マダムの耳に届く気配はない。
その他、往来には様々な人がいた。野菜の入った大きな籠を背負い、がなりながら売り歩く少年。ジャグリングのような大道芸をして客を集める若い男。裸同然の姿で「遊んでいかない?」と昼間から商売に励む巨乳の女。
街並みを眺めながら、俺たちは大通りの一番向こうの大きな建物に向かった。
その建物はパジャリブの一番中心部にあるらしく、俺たちが通ってきた以外の大通りもまたそこに集まってきている。蜘蛛の巣の中心部のような位置というわけだ。
中心部の一番の中心にあるのは、市庁舎であるらしい。その横に、小学校の体育館ほどの大きさの建物があった。
そこに入った。
中は、どでかいホールがあるだけのシンプルな造りだった。ホールの正面奥には、ステージがある。
「ここはなんだ?」
「市場だよ」
ランダーはスタッフらしき人に、自分の名前と、連れてきた女と子供たちの名前を告げた。
スタッフは番号札をランダーに渡した。それからランダーは、三人を連れて建物の壁際に向かった。
壁際には、ランダーのように番号札を持った男と、首輪をつけられた人々の列があった。ランダーはその列に並んだ。
ホールの中央部分にはイスが並べられ、半分以上が埋まっていた。座っているのは、立派な服を着こなした人々ばかり。おや、さっき大通りで見かけたマダムもいる。
彼らは、壁際に並ぶ人々を観察するような目で見ては指差し、なにやら話している。
「あのさ、これってやっぱり」
質問するより先に、決定的な光景が目の前で繰り広げられた。
ステージにメガホンを持った紳士風の男が上がり、実に直接的な挨拶を始めたのだ。
「それでは、これから競りを始めたいと思います。みなさま、ぜひ少しでも高い値段をおつけくださるようお願いいたします」
一番の番号札を持った男が、二メートルはありそうな男を引っ張って、ステージに上がった。二メートルの男の首には、やはり首輪がつけられている。
「いきなり本日の目玉です。グランデア出身、二十二才、ボーマくん。ご覧のように見事な体をしております。彼だけで三人分の力仕事をしてくれるでしょう。その分大飯食らいのようですが、せいぜいふたり分。つまり、一人分お得なわけです。まずは、一千リンからスタートです」
リンというのは、この国の通貨単位である。
一リンあれば、一食は食える。
「一千二百」
「一千三百」
「一千五百」
「二千」
会場から次々と声が上がる。
その後も値段は上がり、二千八百まで上がった。最後まで竸っていた男は悔しそうな顔をしていたが、これで競争は終わり、決まりかと終わられた。
しかし、ステージ上の司会者は、まだまだ競争を煽った。
「言い忘れた情報がありました。ボーマくんは、ただ力が強いだけではありません。こう見えて頭がよく、九九を覚えていますし、文字だって読めます。忠義者で、部下の面倒をみることだってできるのです」
すると、一度は諦めたはずの男が、
「三千!」
と叫んだ。だが、
「三千五百!」
すぐに返され、もう一度粘ったが、結局はギブアップ。終値は四千。
「決まりました。四千のあなた」
競りに勝った男の元にスタッフが向かうと、彼は財布を取り出して、大量のコインを中から出した。
この国に紙幣はない。すべて硬貨で、一番大きいのは百リン金貨らしい。
だが、百リン金貨の流通量は多くない。実質一番大きな貨幣は五十リン金貨で、小さい硬貨も使えば、四千リンは百枚を超えてくるだろう。
スタッフはたくさんの硬貨を念入りにかぞえ、きっちり揃っているのを確認すると、一枚の書類を取り出した。
競り落とした男が、そこになにかを記入する。サインだろうか?
それが終わると、
「おめでとうございます。今から彼はあなたの所有物です」
そして、二メートルの大男のすべてが、番号札を持った男から、競り落とした男に移った。
疑惑を超えて答えを見せられたってわけだ。
間違いない、ここは奴隷市場だ。
人間が人間を物として売買する、おぞましき空間だ。
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