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第一章 未知の世界と賑わう大都市
第八話:クーミャ
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文句を言うランダーから金をもぎ取り、ステージに行ってスタッフに渡す。
「はい、確認しました。まいどあり」
書類にサインをすると、奴隷の女……たしかクーミャという名前だったはずだ……が俺のところへた。
死んだ魚のような目で、俺を見る。
「お買い上げいただきありがとうございます、旦那様」
クーミャの挨拶は、まったく張りのない、弱々しいものだった。
「至らないところもあるかと思いますが、誠心誠意がんばります」
今のところ至るところが一切ないように思える。
まぁいい。
一緒にランダーのところに戻ると、奴俺の腕から時計をひっぺがした。
「さて、こいつをどこに売りに行くか。金持ちの集まるオークションに出品しようかな。それとも貴族のところへ行くか」
「高く売れるといいな」
「うん」
奴隷商人というランダーの職業は気に入らない。
だが、それとは関係なく、ランダーは友達だ。
右も左もわからない俺がパジャリブにたどり着けたのも、この国の言葉を短期間で覚えられたのも、すべてランダーのおかげだ。
彼がいなければ、すでにどっかで野垂れ死んでいたかもしれない。
ランダーには本当に感謝している。感謝しかない。
「さて、と……」
俺はクーミャの首輪を外した。
「ほら、これでお前は自由だ。どこへでも行け」
ポカーンとした顔をするクーミャ。それにランダー。
「おいおい、なにを言ってるんだよ、兄さん。時計を売ってそいつを買って、タダで解放するって言うのかい?」
「ああ、そうだ」
「なんで買ったんだよ」
「いらないから買ったんだ」
「なんだよ、それ」
「わかってくれとは言わない。でも、いいだろ。今のところ、こいつは俺の所有物なんだろ? なら、どうしようと俺の勝手だ」
クーミャの背中を押して、
「ほら、お前も、いつまでこんなところにいるんだ。どこかに家族がいるんだろ? そこへ帰れ」
「お父さんもお母さんもすでに死んでいます。わたしに家族はいません」
「そうか……」
なんと悲惨な。
「家族がいたとしても、解放するのはまずいよ、兄さん」
ランダーが口を挟んできた。
「なにがまずいんだよ」
「そいつがガルラオン族ってことだよ。さっきの司会者も言ってただろ? ガルラオン族ってのは、ひどい差別を受けているんだ」
「どんな差別だ?」
「簡単に言えば、人間未満扱いさ。その辺にいる鳥を捕まえて飼うような感覚で無理やり奴隷にしたり、犯し尽くした挙句に殺しても問題ない、って扱いを受けてるんだ」
「なんだよ、それ」
ひどすぎる。
「国はそれを取り締まらないのか?」
「国の中枢に、差別主義者が多いんだ。暗黙の了解で、ガルラオン族が被害者になった場合は、事件はなかったことにされる。つまり、殺され損ってわけさ」
「じゃあこいつは解放されたとしても、人並みの生活は送れないってことか?」
「そうなるね。まぁ今日中か、うまく行っても明日にはまた奴隷になっちゃうと思うよ」
「ふざけるな!」
「ぼくに言われても……それが嫌なら、兄さんの奴隷にしておけばいい。奴隷は物と一緒だから、その存在はすべて所有者のものになる。
つまり、彼女が何者かに殺された場合、被害者は彼女ではなく、兄さんってことになるわけだ。
被害額も大きいからその分罪も重く、全額賠償できなければ、死刑になる。だから、誰も手を出さない」
「……ガルラオン族は、奴隷としてしか生きていけないってことか」
近くで立ち聞きしていたおっさんに、今の話は本当か? と尋ねた。すると、「そうだよ」と簡潔な返事をされた。
「どうする、クーミャ。もしお前が、どうしても奴隷が嫌なら、なんとかして奴隷制度のない国に連れて行くが」
「なぜわたしにそこまでしてくださろうと思うのですか?」
「なぜって……」
なぜだろう?
いざ聞かれると、答えに窮する。
彼女が奴隷という身分にされていることが頭にくるから……それだけの理由で、どこにあるかもわからない外国にまで連れて行く義理はあるんだろうか?
ない、はずだ。
でも、理由がないからってやっちゃいけないってことはない。
「なぜでもいいだろ。お前が望むなら、やる。それだけだよ」
「…………」
クーミャは、俺以上になにがなんだかわからなそうだった。
首を傾げ、どう答えたらいいのか必死に考えているようだった。
もしかしたら、なにかを試されていると思っているのかもしれない。
「……結構です。わたしは奴隷らしく、誠心誠意、旦那様にお仕えいたします」
「それでいいのか?」
「お気遣いありがとうございます。すばらしい旦那様に買っていただき、クーミャは幸せ者でございます」
どうも嘘くさいセリフだ。
俺の機嫌を取ろうとしているのが見え見えだ。
しかし、クーミャが自分の意思で、俺の奴隷として生きていきたいというなら、認めてやるしかない。
サイコロによってではなく、選択肢の中から運命を決めたのだから、俺がどういう言う話じゃない。
「じゃあ、改めて……お前は今から、俺の奴隷だ。よろしくな」
「はい、よろしくお願いいたします」
俺は、クーミャの首輪をはめ直した。
「はい、確認しました。まいどあり」
書類にサインをすると、奴隷の女……たしかクーミャという名前だったはずだ……が俺のところへた。
死んだ魚のような目で、俺を見る。
「お買い上げいただきありがとうございます、旦那様」
クーミャの挨拶は、まったく張りのない、弱々しいものだった。
「至らないところもあるかと思いますが、誠心誠意がんばります」
今のところ至るところが一切ないように思える。
まぁいい。
一緒にランダーのところに戻ると、奴俺の腕から時計をひっぺがした。
「さて、こいつをどこに売りに行くか。金持ちの集まるオークションに出品しようかな。それとも貴族のところへ行くか」
「高く売れるといいな」
「うん」
奴隷商人というランダーの職業は気に入らない。
だが、それとは関係なく、ランダーは友達だ。
右も左もわからない俺がパジャリブにたどり着けたのも、この国の言葉を短期間で覚えられたのも、すべてランダーのおかげだ。
彼がいなければ、すでにどっかで野垂れ死んでいたかもしれない。
ランダーには本当に感謝している。感謝しかない。
「さて、と……」
俺はクーミャの首輪を外した。
「ほら、これでお前は自由だ。どこへでも行け」
ポカーンとした顔をするクーミャ。それにランダー。
「おいおい、なにを言ってるんだよ、兄さん。時計を売ってそいつを買って、タダで解放するって言うのかい?」
「ああ、そうだ」
「なんで買ったんだよ」
「いらないから買ったんだ」
「なんだよ、それ」
「わかってくれとは言わない。でも、いいだろ。今のところ、こいつは俺の所有物なんだろ? なら、どうしようと俺の勝手だ」
クーミャの背中を押して、
「ほら、お前も、いつまでこんなところにいるんだ。どこかに家族がいるんだろ? そこへ帰れ」
「お父さんもお母さんもすでに死んでいます。わたしに家族はいません」
「そうか……」
なんと悲惨な。
「家族がいたとしても、解放するのはまずいよ、兄さん」
ランダーが口を挟んできた。
「なにがまずいんだよ」
「そいつがガルラオン族ってことだよ。さっきの司会者も言ってただろ? ガルラオン族ってのは、ひどい差別を受けているんだ」
「どんな差別だ?」
「簡単に言えば、人間未満扱いさ。その辺にいる鳥を捕まえて飼うような感覚で無理やり奴隷にしたり、犯し尽くした挙句に殺しても問題ない、って扱いを受けてるんだ」
「なんだよ、それ」
ひどすぎる。
「国はそれを取り締まらないのか?」
「国の中枢に、差別主義者が多いんだ。暗黙の了解で、ガルラオン族が被害者になった場合は、事件はなかったことにされる。つまり、殺され損ってわけさ」
「じゃあこいつは解放されたとしても、人並みの生活は送れないってことか?」
「そうなるね。まぁ今日中か、うまく行っても明日にはまた奴隷になっちゃうと思うよ」
「ふざけるな!」
「ぼくに言われても……それが嫌なら、兄さんの奴隷にしておけばいい。奴隷は物と一緒だから、その存在はすべて所有者のものになる。
つまり、彼女が何者かに殺された場合、被害者は彼女ではなく、兄さんってことになるわけだ。
被害額も大きいからその分罪も重く、全額賠償できなければ、死刑になる。だから、誰も手を出さない」
「……ガルラオン族は、奴隷としてしか生きていけないってことか」
近くで立ち聞きしていたおっさんに、今の話は本当か? と尋ねた。すると、「そうだよ」と簡潔な返事をされた。
「どうする、クーミャ。もしお前が、どうしても奴隷が嫌なら、なんとかして奴隷制度のない国に連れて行くが」
「なぜわたしにそこまでしてくださろうと思うのですか?」
「なぜって……」
なぜだろう?
いざ聞かれると、答えに窮する。
彼女が奴隷という身分にされていることが頭にくるから……それだけの理由で、どこにあるかもわからない外国にまで連れて行く義理はあるんだろうか?
ない、はずだ。
でも、理由がないからってやっちゃいけないってことはない。
「なぜでもいいだろ。お前が望むなら、やる。それだけだよ」
「…………」
クーミャは、俺以上になにがなんだかわからなそうだった。
首を傾げ、どう答えたらいいのか必死に考えているようだった。
もしかしたら、なにかを試されていると思っているのかもしれない。
「……結構です。わたしは奴隷らしく、誠心誠意、旦那様にお仕えいたします」
「それでいいのか?」
「お気遣いありがとうございます。すばらしい旦那様に買っていただき、クーミャは幸せ者でございます」
どうも嘘くさいセリフだ。
俺の機嫌を取ろうとしているのが見え見えだ。
しかし、クーミャが自分の意思で、俺の奴隷として生きていきたいというなら、認めてやるしかない。
サイコロによってではなく、選択肢の中から運命を決めたのだから、俺がどういう言う話じゃない。
「じゃあ、改めて……お前は今から、俺の奴隷だ。よろしくな」
「はい、よろしくお願いいたします」
俺は、クーミャの首輪をはめ直した。
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