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第二章 パジャリブ動乱
第十九話:暗闇の男と女
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穴蔵に入れられてから何時間が経っただろう?
自力で脱出できない俺たちは、救助がくることを祈り、持ちこたえることに全力を尽くしていた。
微動だにせず、時間が流れるままに任せ、暗闇に同化してやり過ごすことができれば、それがきっと一番体力と気力の温存になる。
ところが、俺たちは、どちらもそういうことができるタイプではなかった。
そこで逆転の発想。
周りが暗いのなら、俺たちだけでも明るく振舞おうとした。
暗い話を避け、どうでもいい雑談をして過ごした。
俺は地球について話し、ニャーラは彼女の故郷である王都について話した。
ニャーラは地球について強い関心を持ったようだ。
俺は俺で、ラカについていろいろと聞いた。
「つまりニャーラは、実はなかなかのお嬢様だと?」
「そうよ。パパは王都で女王陛下の親衛隊隊長をやってる。階級は大佐で、とっても偉いんだから」
「ニャーラの親ってことは、やっぱいい加減な人なのか?」
「あたしとパパを同時にバカにしないで。自分で言いたくないけど、あたしは甘やかされて育ったからこうなだけよ。パパはしっかりした人よ」
「へぇ……」
「信じてないわね。うちの家族の男たちは、みんな真面目で立派な軍人なんだから。一番上のお兄ちゃんは軍艦の船長だし、次のお兄ちゃんは国境を守る砦の司令官。弟だって、軍学校を主席で卒業して出世コースなんだから」
「なるほど。男は立派ってことは、娘のお前は例外の落ちこぼれか?」
「あたしだってこの年で小隊を指揮する少尉だっての。同期の出世頭なんだから」
よっぽど人材不足なんだな。
「つーか、実家は王都なの?」
「そうよ。高級住宅地の立派な家よ。なんて言っても、大佐の娘だから」
たぶん、でかい胸を張っているのだろう。
暗くて見えないが。
「王都ってどんなところ?」
「そうね……パジャリブと比べて過ごしやすいわ、気候は」
「パジャリブは暑いもんな」
「そう。この街は、暑い季節と、すごく暑い季節と、ものすごく暑い季節しかないもんね」
「え……そんな気候だったのか? ちなみに、今は?」
「すごく暑い季節」
「まだ上があるのか……」
「王都には、四つの季節があるわ。春夏秋冬の四つ。冬には、日よけじゃなくて防寒のために長袖がいるくらいには冷えるわ」
「あー、そのくらいなら過ごしやすそうだな。なんで王都の軍じゃなくて、こっちにきたんだ?」
「王都の軍って窮屈らしくてね」
「窮屈?」
「規則がうるさくて、融通が効かないんだって。たとえば、勤務中に勝手に外出したり、帰ったら大問題」
「それを許すここの軍がおかしいんじゃないのか?」
「…………まぁ、そう言われれば」
「お前、軍人に向いてないんじゃないのか?」
「向いてるわよ。天職だと思ってるわ」
「どの辺が?」
「とりあえず敵を殺せば評価してもらえるところとか、そういうわかりやすいところは大好きよ」
なんて理由だ。
「お前強いの?」
「まぁ、剣で戦えば、パパにも兄弟たちにも負けないわね」
「家族が弱いんじゃねぇの?」
「…………強いわよ」
「なんの間だよ」
絶対弱い、ニャーラの家族。
きっと、名門の軍人一家で、出世が約束されてるんだ。
中央から地方の中核都市へ下りてきたニャーラがヌルイ環境で仕事をしていられるのも、きっとそのせいだ。
「人生イージーモードだな、お前」
「……まぁ、そうかもね」
認めちゃった。
「あたしくらい美人だと、どうやっても人生楽よね」
「そっちの理由かよ」
相手の顔を見ないで話すことに、最初は戸惑いを感じた。
だが、慣れてくれば、なんてことない。
むしろ、表情が見えない分だけ楽だと思えてくる。
俺たちは、何時間も、世間話に興じた。
自力で脱出できない俺たちは、救助がくることを祈り、持ちこたえることに全力を尽くしていた。
微動だにせず、時間が流れるままに任せ、暗闇に同化してやり過ごすことができれば、それがきっと一番体力と気力の温存になる。
ところが、俺たちは、どちらもそういうことができるタイプではなかった。
そこで逆転の発想。
周りが暗いのなら、俺たちだけでも明るく振舞おうとした。
暗い話を避け、どうでもいい雑談をして過ごした。
俺は地球について話し、ニャーラは彼女の故郷である王都について話した。
ニャーラは地球について強い関心を持ったようだ。
俺は俺で、ラカについていろいろと聞いた。
「つまりニャーラは、実はなかなかのお嬢様だと?」
「そうよ。パパは王都で女王陛下の親衛隊隊長をやってる。階級は大佐で、とっても偉いんだから」
「ニャーラの親ってことは、やっぱいい加減な人なのか?」
「あたしとパパを同時にバカにしないで。自分で言いたくないけど、あたしは甘やかされて育ったからこうなだけよ。パパはしっかりした人よ」
「へぇ……」
「信じてないわね。うちの家族の男たちは、みんな真面目で立派な軍人なんだから。一番上のお兄ちゃんは軍艦の船長だし、次のお兄ちゃんは国境を守る砦の司令官。弟だって、軍学校を主席で卒業して出世コースなんだから」
「なるほど。男は立派ってことは、娘のお前は例外の落ちこぼれか?」
「あたしだってこの年で小隊を指揮する少尉だっての。同期の出世頭なんだから」
よっぽど人材不足なんだな。
「つーか、実家は王都なの?」
「そうよ。高級住宅地の立派な家よ。なんて言っても、大佐の娘だから」
たぶん、でかい胸を張っているのだろう。
暗くて見えないが。
「王都ってどんなところ?」
「そうね……パジャリブと比べて過ごしやすいわ、気候は」
「パジャリブは暑いもんな」
「そう。この街は、暑い季節と、すごく暑い季節と、ものすごく暑い季節しかないもんね」
「え……そんな気候だったのか? ちなみに、今は?」
「すごく暑い季節」
「まだ上があるのか……」
「王都には、四つの季節があるわ。春夏秋冬の四つ。冬には、日よけじゃなくて防寒のために長袖がいるくらいには冷えるわ」
「あー、そのくらいなら過ごしやすそうだな。なんで王都の軍じゃなくて、こっちにきたんだ?」
「王都の軍って窮屈らしくてね」
「窮屈?」
「規則がうるさくて、融通が効かないんだって。たとえば、勤務中に勝手に外出したり、帰ったら大問題」
「それを許すここの軍がおかしいんじゃないのか?」
「…………まぁ、そう言われれば」
「お前、軍人に向いてないんじゃないのか?」
「向いてるわよ。天職だと思ってるわ」
「どの辺が?」
「とりあえず敵を殺せば評価してもらえるところとか、そういうわかりやすいところは大好きよ」
なんて理由だ。
「お前強いの?」
「まぁ、剣で戦えば、パパにも兄弟たちにも負けないわね」
「家族が弱いんじゃねぇの?」
「…………強いわよ」
「なんの間だよ」
絶対弱い、ニャーラの家族。
きっと、名門の軍人一家で、出世が約束されてるんだ。
中央から地方の中核都市へ下りてきたニャーラがヌルイ環境で仕事をしていられるのも、きっとそのせいだ。
「人生イージーモードだな、お前」
「……まぁ、そうかもね」
認めちゃった。
「あたしくらい美人だと、どうやっても人生楽よね」
「そっちの理由かよ」
相手の顔を見ないで話すことに、最初は戸惑いを感じた。
だが、慣れてくれば、なんてことない。
むしろ、表情が見えない分だけ楽だと思えてくる。
俺たちは、何時間も、世間話に興じた。
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