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エクスタシーについて考え込む女の子の独り言
しおりを挟むイク。
気をやる、果てる。
至る。
エクスタシー。
女として生まれた自分にとって、そんな言葉で表現される身体現象はとても不可思議で理解し難いものであった。
人間の持つ機能の中でもこれほど特殊で、解釈に困るものもないと常に想っている。
排泄、睡眠、食事という生存のために必須な行為とは異なり、生きること自体にはなんら関係がない。
最も関係性が深いはずの生殖においてすら決定的な要素ではなく、別にこれがなくても妊娠出産は可能で、繁殖をするのに必要というわけでもない。
つまり生物としての本質的な部分とはまったく関係がない。
単なる付属的機能としか思えない。
強いて言うなら、生殖行為に対する欲求を高め、繁殖を促す効果があることは間違いないのだろうけれど。
この機能を発揮して感覚を享受できる女性は実際にはそう多くないらしいから、人類全体の生殖活動における寄与がどれほどあるのかは正直疑わしいと想う。
生まれもっての適性と後天的な反復訓練。
それらが上手く噛み合った一部の個体だけが持ちうる、生存行為全般の中での優先度は明らかに低いけれど、主体たる当人にとっては発現したときの影響がとてつもなく巨大な現象。
一度味わってしまったら、なかなか忘れることが出来なくなる強い快感を伴う身体機能。
何故こんなものが自分に備わっているのか、常々疑問に想っていた。
殊更、パートナーである男と同衾して同時に至ったときなどにふと頭によぎる。
制御できない激しい身体反応が収まるまでのなんともいえない多幸感、ふわふわとした浮遊感に身を任せている最も幸福なはずのひと時。
まどろみと恍惚が絶妙な配分で混じった事後の余韻の中で見詰める、愛しい男の顔に浮かぶもの。
とてもやさしく穏やかだけど、何故か空虚で存在感が希薄。
確かな思いやりと愛情に溢れているけど、どこか作り物めいた虚飾のような。
そんな表情。
自分に起きているのとは全く異なる現象がそこで展開されていることを確信する。
こちらはこんなにも凄まじい満足感に心が浸ってしまい、このぬくもりを放したくない、もっと側にいて欲しいとより一層強く精神的な欲求が溢れているのに。
何故か相手の顔に浮かんでいるのはそんな心からの嘘偽りない真っ直ぐで純粋なものとは違うのだ。
一応、そういう顔をしてはいるけれど。
表面上はとても巧妙に造り上げているけれど。
でも違う。
似て非なるものであるからこそはっきりと感じてしまう。
自分にとっては手段でありプロセスでしかないものを、目的かつ結果として認識させるような作用がすぐ目の前の恋人の中で働いていることを確信してしまう。
たぶん男に備わったそれは、一度満たされると投げやりになってしまう、どれだけそれまで価値を見出していたはずのものでも蔑ろにしてしまうような、そんな機構なのだと想う。
本人がどれだけ強い意志と想いで抵抗しても、とても抗いようの無い暴力的かつ一方的な力で精神と魂を侵食してしまう。
きっと男とはそういう風に構成されてしまっているのだ。
まず間違いなく生物としてはそうプログラムされている存在なのだ。
人が長い生存競争で勝ち取ってきた、繁殖方法に由来する古い機能の残滓なのかもしれない。
だからこそ、どれだけうそ寒い虚飾と空虚がそこに垣間見えたとしても、形だけでも優しさを見せてくれる、そう振舞おうとしてくれることはとても貴重で価値あることなのだろう。
自動的に励起してしまう強制処理に必死で抗って、動物としてではなく一個の自我を持つ存在として関係を成立させ続けようと努めるその姿勢こそ。
先天的にそういう生き物として作られてしまった、逃れられない己の業に必死で抗おうとするその在り様こそが、パートナーたる自分に対する誠実と真摯、献身と想いそのものなのだ。
そして永らく疑問であったことの答えをようやく見つけたような気がした。
自分に備わった由来も必要性もよくわからない、奇妙で不可思議な機能はこの違いを理解し実感するためのものだったのだと。
穏やかな調子で綴られる睦言を聞きながらそう想った。
了
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