あの娘のスクール水着を盗んだ ~ちょっとエッチな短編集~

かめのこたろう

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中絶させた猫の横で人間のオスとメスは今夜も交尾に耽る

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 飼ってる猫がいつの間にか妊娠していた。
 かかりつけの獣医に別件で診せにいった際の、青天の霹靂のような突然の判明だった。

 下手人(猫)は不明。
 マンションのそれなりの高層階で部屋飼いしているから、まず他の猫との接触などほとんどないはずだった。
 だからこその油断であり、避妊手術が後手後手になってしまっていたというのもある。
 それでもいい加減、数度目の発情期が始まる前にはやっておこうとなんとなしに思ってはいたのだ。
 元々本来の飼い主である、同居している彼女ともそんな意向を示し合わせたようにいつしか共有していたのだが。

 どれだけ検討をしていようと、直近に実施予定であったとしても、間に合わなかったら何もやらないのと一緒である。
 どれだけ誠心誠意、嘘偽りなくきちんと対応しようと心掛けていたとしても、実際に行動して成果を得られなくては何の意味もない。

 思うだけ、考えるだけでは駄目なのだ。

 結果的には我々が無責任で駄目な飼い主だったということである。
 その反省と謝罪の念、後悔と慚愧はさておき。

 そのありえないはずのことが起こってしまった、不可能を可能にしたのが何かは一向にわからない。
 例えばベランダで遊ばせていたときにこんな高層階まで他の猫が侵入してきて狼藉を働いたとか、あるいは獣医や散歩など外に連れ出したときにほんの僅かに目を離したすきをついてあっという間に事に及ばれてしまったとか、二人で頭をひねっても思いつくのはその程度である。
 どちらにしろ、可能性として考えられるものを無理矢理ひねり出したにすぎず、こうして自分たちで案を出しつつも非現実的な印象は拭えない。
 それくらい、他の猫との接触なんて限られていたはずであった。
 常日頃、目の届くところから外れることなどほとんどなかったのだ。
 我ながらこんな荒唐無稽な想像くらいしか、この現象に説明付ける方法がなかった。

 だからすぐにそこらへんの検討は諦めた。 
 もはやその原因についてあれこれ悩む時期じゃないことだけは確かであった。
 どんな理由であろうと、何がどうしてそうなったのだろうともすでにあまり関係ない。
 今、否応なく直面させられて向き合わなくてはいけないのは、妊娠した猫をどうするか。
 できてしまった新たな生命の萌芽をどうするのかということである。
 もしその必要性があるならば、前段階のことについてはすべてが終わってからゆっくり精査検証実験考察なりなんなりを思う存分すればいい。

 そして結論は悩むまでもなく最初から明らかだった。
 何匹も生まれてくる子猫を全て飼う覚悟も碌にない、里親を探す労力と手間、仮に見つからなかった場合のケースも含めたリスクを考慮すれば、中絶以外にしようはない。
 純粋にロジカルに考えればそれしかない。
 幸い早期で、今のうちならそう大掛かりにならなくて済むという獣医の言葉だけが救いである。

 でも彼女は最後まで悩んでいた。
 結論自体はそうもめることもなく、妊娠が判明したその日に「そうせざるを得ない」という雰囲気で双方とも諦観のように受け入れたはずだったのだけれど。
 少なくとも自分の方はどうしようもないうしろめたさと罪悪感とともに、そうする覚悟だけは粛々と無表情に固めつつあったのだけれども。

 でも彼女は言葉にせずとも、結局最後まで思い悩んで躊躇い続けていた。
 心あらずの態度と仕草、猫を見やる視線や撫でる手つき。
 空虚と無為。
 その日を迎える当日になってもまだ、とっくに導き出して合意したはずの結論を何とか反故にして無効にできないか、ずっと徒労のような努力を内心でやっていたのだろう。
 彼女自身、覆るはずはなく、どうしようもないとわかってはいてもそうせざるを得なかったのだろうとも思う。

 だからこそこっちはそんなに思い悩まずに済んだのかもしれない。
 もともと、この手のことの割り切りは早い方だけれども、より一層彼女のそんな様子に救われてもいたのかもしれない。
 あるいはこれが男と女の「生」とか「胎児」、「中絶」とか「避妊」に関わる感じ方考え方の差異なのだろうか。
 先天的な性差によって齎される、より根源的本能的な部分の違い、その一つの表象だとでもいうのだろうか。

 そんなことをつらつら思っているうちに、獣医の処置は終わっていた。
 戻ってきた猫はそう変わった様子はなく、けっこう元気そうだった。
 ふんふん鼻を鳴らしながら、顔を洗っていた。

 彼女はそれを見ながら少しだけ泣いていた。


………

 それこそ、もっと感受性豊かで愛護精神に溢れた全うな人間であったならば、こんな出来事があったらしばらくはセックスなんてする気にならないものなのかもしれない。
 例え猫だろうと犬だろうと、バッタだろうとカエルだろうとメダカだろうとミジンコだろうと。
 生きとし生けるものの自然な営みの結果を自分たちの都合で人工的に無理矢理中絶させて命を奪うというエゴイズム極まる残虐行為に問答無用の拒否反応を起こし、あまりもの心理的負荷によって不能になってしまうことだってあるんだろう。

 でも自分の生殖本能、飽くなき性的欲求はその程度で折れてしまうほど脆弱なものではない。
 どれだけ眉を顰められて、道徳的見地から非難の声や視線を向けられようと誤魔化す気にもなれない。

 もちろん、罪悪感はある。
 後ろめたさもあるし、飼ってる猫への愛情も変わらずある。
 
 ただ自分の場合、それとは別腹で成立できてしまうようである。 

 所詮、猫の胎児よりも自分のエゴの方が大事なのだろう。
 結局、嘘偽りなく己というものを真正面から受け止めて認識すると、そうなってしまうのである。

 猫は可愛いし、胎児を殺した業は背負うけれども、セックスはする。
 それが己という人間なのだ。
 こんな風に割り切りできない人の方が多分正しいし、素晴らしいのかもしれないけれど自分は違う。
 ひたすら思い悩み続けて自分の生殖行為に対して激しい嫌悪感と拒絶を持つのが当然な在り方かもしれないけれど、残念ながらそうじゃない。
 それだけのこと。

 ただ、彼女の方を危惧していた。
 猫が返ってきたその日に、傍目にはもう普段と変わらない表情になってはいたけれど、たまにぼうっとしているようなことが増えたからだ。
 でも結論から言えば、それも杞憂に過ぎなかった。
 さすがに数日は間を置いたけれども、夜になって求めたら、何らの問題もなく応じてくれたのだ。

 それでもぬぐえなかった漠然とした不安も始まって徐々に解消されていく。
 感じ方も反応もまったく変わらない。
 彼女はきちんと性的に機能して、以前と変わらぬ艶姿を堪能させてくれる。
 こちらの欲求を察して応じてくれるし、自分の快感にも逆らうことなく素直に身を任せている。

 そんな彼女の様子に安堵して、なんら後顧の憂いなくいよいよ久方ぶりの行為に没頭してしばらくたったころ。
 汗だくで身体を動かしている真っ最中、突然何故かそれまで考えたこともなかった、胎児のイメージが己の中に確固として存在していることに気が付かされた。
 セックスの時に浮かび上がることなどこれまで一度としてなかった、明確なヴィジョンが溢れんばかりの性的欲求の真ん中に鎮座しているのを唐突に大悟させられた。

 行為の成果として必然、というよりもともとそのためにやるはずなのに、最中には子供のことなんて考えたくないものである。
 正直なところ、胎児とか赤ちゃんとか、そういった言葉に連想されるあらゆるイメージはそれを作るための行為の際には明らかに余計で邪魔なものなのだ。

 端的に言えば萎える。
 ただそれに尽きる。

 だからこれまでの人生で、少なくとも性行為の最中に赤ん坊のことなど考えたことなどなかった。
 ましてや萎えることなく、狂おしい欲求と両立させて行為を続けられることなどありえないはずだった。

 しかし今やはっきりと自分はそのイメージとともに、愛しい女の体を求めていた。
 己が今やってる行為が齎すかもしれない小さな生命の可能性と、目の前のしなやかで美しい肉体を同時に感じて抱いていた。
 以前ならばありえない両立併存。
 異質であるはずの感覚の同居がその時突如己の中で完璧に成立していることを理解する。

 何故か本能的に相反するものとそれまで思い込んでいたものがきちんと同一線上にあることをガツンといきなり認識させられたような不思議な感覚だった。
 ああ、この綺麗で柔らかく温かい魅力的な身体と、その中に生まれるかもしれない命まで含めて同時に想い、抱いていく。

 たぶん、初めて「子供」というのを意識した瞬間だったのかもしれない。
 頭で知識としては持っているけれど現実的なものとして把握されていなかったものを、性行為を覚えて短くない年月を経てついにこの時直感したとでもいうような。
 
 それまで自分にとってセックスとは単純に気持ちいいだけのものだった。
 淫らな快感に浸って、すっきりするだけのことであった。

 でも少しだけ違うものが見えたような気がする。
 セックスの「子供を作る行為」という本来的な意味について、ようやっと自分はたどり着きかけているのかもしれなかった。

 だからと言って今すぐにガキを作るつもりなんてこれっぽっちもないけれど。
 結婚とかの諸々を含めて、そこまで踏み込んだ覚悟はまだまだ無いし、彼女ともこれから先どうなるか全くわからない。
 そう簡単にわかりたくはない。
 わかってたまるか。

 行為自体はいつもと変わらぬ展開でいつも通りの終焉を迎えた。
 彼女も別に変らない。
 汗だくでだるそうに寝っ転がっている。
 脱力した腕と足が色っぽい。

 なんとなくだけれど、彼女のそんな事後の姿も感じ方が変わったような気がする。
 以前はただエロいとしか感じなかったものに、何かもっと違う意味と価値を見出し始めてきたような気がするのである。

 きらり、薄闇に浮かぶ二つの輝き。
 猫と目が合う。
 少しだけ、罪悪感が戻ってきた。
 




 了
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