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可愛い妹の部屋でエッチなおもちゃを発見して動揺するお兄ちゃんの話

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 妹の部屋で見つけたそれが何なのか、俺はすぐにわかった。


 使ったことは勿論無かったし、見るのだってその時が最初だったけど、俺達の年齢になれば大体そういう知識は自然と身についてくるし、世の中もあけっぴろげであんまり隠そうともしていない感じだったし。
 悪友とかセンパイとか、雑誌とかインターネットとか。
 あるいは仲のいい同級生の女子とか。
 そういうところからいくらでもその手の話は聞き知っていて、特に問題も無く頭の中の知識とそれが結びついた。
 
 だから女の子が自分を慰めるために使う道具だっていうのはすぐにわかったんだ。

 でもだからこそ混乱した。
 それと妹との結びつきのありえなさ、荒唐無稽さに悪い冗談のような、怖くて笑ってしまうような足元が覚束ない非現実的な感覚に襲われてしばらく呆然と立ちすくむことしかできなかった。


 人目を惹く可憐な外観。
 やさしくて穏やかな性格。

 クラスどころか学校中の男達が狙っているだろう、絵に描いたような魅力的な女の子。

 それが俺の妹だった。

 勿論、兄妹仲は申し分無いくらいうまくいっている。
 妹が生まれてから喧嘩らしいことをした覚えなんて一度も無い。
 というより、こんな妹だと仲が悪くなるほうが難しい。
 常に兄である俺を想ってくれている、その気持ちが痛いほど伝わってくるから俺もそれに応えてやりたくなる。

 尊敬される兄でいたいと常に想い続けていた。

 よちよち歩きで俺にしがみついてきたときに一生守ってやると子供心に誓った。
 片言で「にーたん」と言われたらうれしさで心が溢れた。
 学校に通いだしたときに俺の手を握って一緒に登校したのも忘れられない思い出だ。
 やがて思春期になって少しづつ女の子としての距離感を出してきても、その根本は変わらない。
 彼氏の話がまだ出てこない奥手な様子に心配と安堵が半ばした想いを抱きながらもいつかは訪れるのだろうその時を覚悟して。

 青春の輝きと少女の可憐さを纏いながら一歩一歩ゆっくりと花開きつつある今も、兄と妹としての絆が変わることはない。

 この発見と感動の日々にただ満ち足りた想いに浸っていたはずなのに。


 やがては俺も妹も大人になって。
 それぞれ最高のパートナーを見つけて家庭を持っても。
 俺達の関係は続いていく。
 敬愛と信頼に基づいた善なる影響を与え合って互いの家族は繋がっていき。
 そうして幸せの単位が増えていく。
 
 そう明るい未来を確信していた。
 そのはずだったのに。


 その日、偶々入った妹の部屋で発見してしまったそれ。
 巧妙に隠されて部屋の主以外は気付くことなどありえようが無い筈のものだったのに。
 何故俺は見つけてしまったのだろうか。
 それに気がついてしまったのだろうか。
 そもそも妹の部屋に入ることすら普通はないのに。
 自分の意思ではない、そうせざるを得ない理由が何故出来てしまったのか。
 なんら異常性も無く堂々と入っていける大義名分が生まれてしまったのか。
 そして確かな意図で慎重に完全に隠匿されていたそれがこうも容易く俺の目に触れるような事態が起こってしまったのだろうか。

 しかしどれだけ嘆いてもその事実は変わらない。
 ありえない偶然の数々が奇跡的な悪夢的な配列をして成されてしまった。
 少なくとも俺が何を見てしまったかということをもう自分自身では覆しようが無い。

 ならば今出来ることは、俺以外にこの事実が、現実があることを漏らさないことだけだ。
 「俺がそれを見つけてしまった」という事実などどこにも無い。
 妹を含めたあらゆる人間に知られさえしなければ、そうなるはずなんだ。
 誰にも知られなければ、そんなことは起こりえなかったことなんだ。
 この世にありえないはずのことなんだ。

 ……ただ俺の中にだけ。

 俺は完全に何の違和感もないよう、細心の注意を払って慎重にそれを元に戻すと静かに部屋を後にした。
 

 そうして今、家族がそろった晩飯の時間。
 両親と妹と一緒にテーブルを囲む。

 両親も妹も全くいつも通り、何も変わったところはない。
 母親が今日の献立について話せば妹が相槌を打つし。
 俺と父親はテレビに映っている野球の試合の行方について時々箸を止めて言葉を交わす。

 俺は我ながら完璧に対応できていた。
 なんの違和感も漏らさずに、見事なほど「何時もの自分」を出来ていたと思う。
 まだ顔を見ることはできなかったけど、隣に座った妹に気持ちを揺らされることもなかったし。
 両親にも何かを感づかせることもなかっただろう。

 このいつも通りの自然な団欒の雰囲気があれほど俺の心を震え上がらせた混乱を快癒してくれたのかもしれない。
 そうしているうちに、段々あのことも大したことではないような気がしてきた。

 そうだ、別にどうだっていいやあんなもの。
 誰にだって他人には言えないプライベートなことなんていくらでもある。
 あまりに妹のイメージとかけ離れてたからびっくりしたけど、年頃になってくれば男も女も関係なくある程度は性に興味が出てくるもんだ。
 むしろそれで当然なんだ。
 健康的な証拠ですらあるんだろう。
 現に俺だって自分でやってることがいろいろあるし。
 
 ただ普段の妹のあまりに心優しい、穏やかで控えめな性格からのギャップに驚いちゃっただけだ。


 何時しか表面だけではなく、内心でもあのショックから徐々に自分が解放されていく実感に包まれていた。
 だからそれまで見るのを避けていた妹が何気ない話題を振ってきたからその顔を見て笑いかけようとしたんだ。
 もう大丈夫だって自信があったんだ。


 ……だけど。


 毎日見てきた慣れ親しんだその顔。
 少女の可憐さに美しさが混じり始めた、身内ながら自慢にしてきた妹の。
 数時間ぶりにその顔を見た瞬間。


 俺はそこに見出してしまった何かによって激しく打ちのめされた。


 顔貌(かおかたち)は全く変わらない。
 これまで十数年一緒にいた良く見知った間違えようもない、実の妹そのもの。

 だけど今、目の前にあるそこには俺が知らない何かがあった。

 細く通った鼻筋に、ぷっくりと膨らんだ桜色の唇に、淡く染まった頬に、艶やかに光る肩でそろえた髪に。
 こちらを見つめ返す、まったく普段通りの大きな瞳のその中に。

 心穏やかでやさしい妹のイメージとはかけ離れた、力強くしなやかにうねりながら脈動をする荒々しささえ感じさせる何かをそこに見出してしまった。
 それは俺が未だ見たことも聞いたこともないものだった。
 誰にも、どこでも教えてもらうことなどできないものだった。

 姿形は自分と似ているけど全く異なる由来と組成を持つ異界の生物の本質に触れてしまったような。
 それまでの知識や経験を総動員しても理解できない未知の存在、想像もできないものが傍目には全く変わらない妹の中に確かに存在することに根源的な恐怖すら覚えて。

 瞬時に視線を落として黙って箸を置き、そのまま自分の部屋に戻ってベッドの中にうずくまった。


 俺を呼ぶ母親の声がドアの向こうから何度かしたけど、返事もしなかった。





 了
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