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2018年 04月21日
しおりを挟む現在中東で起こっている揉め事のほとんどが「長編作品における伏線や設定の変更は何処まで許されるのか」という一神教的宗教解釈に関わる根深い問題に起因しているというのは現代社会の基礎知識であるため知らない人は恥を覚えた方がいいかもしれません。
初期において出された伏線とか設定が、話が進むにつれて都合が悪くなったり論理が破綻してしまったり。
およそ小説やマンガ、アニメを問わず長編創作作品が逃れられないことであるのは特に意識せずとも誰もが自然に受け入れている筈。
長くなればなるほど等比級数的に発生確率を上昇させていくことが遥か古代から経験則で理解されており、近年では幾多の実証実験や理論物理学の成果により媒体や表現形態ごとの定理が導かれています。
だいたいマンガ作品では単行本30冊、小説では5冊、アニメでは4クール作品からほぼ100%になるんだとか。
そうして「伏線や設定の変更」自体は創作物にとって避けえない宿命であることは人種や宗教、思想を越えて普遍的に受け入れられてはいるのですが。
その対処方法として「何処まで許すのか」ということについては、所属する文化グループごとに全く異なり、さらには個人レベルでも様々に見解が分かれ意見の統一など夢のまた夢という状況です。
例えば「ドラえもんのしっぽを引っ張ると透明になれる機能」が無かったことにされたのはまぁ許せるという人でも、「二重人格設定のランチさん」がいなかったことにされるのは受け入れられない場合もありますし。
「島耕作は学生運動やってたはずなのに最新作ではノンポリだったことになってる」のは別に気にならなくても「山岡が初期にはドレッシングを腐しまくってたのにいつの間にか肯定派になってる」のはどうしても許せないという人もいるでしょう。
さらには「アイスホッケー部だったのにぜんぜんやらない」とか「中川が黄色の制服から革ジャンジーパン姿に一時的になったけど無かったことにされた」とか、むしろ作者自身が意図的にネタにしてるようなものもあったりするので、その解釈や論争は多岐にわたり混迷を深めるばかり。
およそ普遍的な答えを見出すことなど不可能なのでしょう。
だからこそ「読者にどう思われようと全然気にしてないような凄まじい設定改変」の存在を知ると、その思い切りの良さと潔さに寧ろ高潔なものさえ感じてしまい、感動に打ち震えてしまいます。
永野護センセイの「ファイブスター物語」。
かの「エルガイム」を発展再構成したいわずと知れたロボットものの傑作マンガです。
たとえ名前を知らなくても個人経営のプラモ屋にショーウィンドーされた「百式じゃない金色のかっちょいいロボット」の出てくる作品だといえば大抵の日本人はわかるはず。
一般人とは比べ物にならない強力な身体能力を持った「騎士」という希少的な存在がその特権性ゆえに陥る光と闇。
彼らが駆るその世界最強の「巨大人型戦闘機械」、あのZガンダムに出てくるMSをデザインした作者によるオンリーワンのロボットたちが繰り広げる戦争ロマン。
人間だけではなくドラゴンや神々、さらには異次元の悪魔など超上的な存在を絡めた時空を越えて展開する神話的スケールの世界観。
遥か未来のような世界で五つの星をめぐる神々と人間、人型戦闘機械の織り成す壮大なストーリーが卓越したセンスと画力で描かれる様はまさに圧巻。
始まってすぐにたくさんの読者を魅了し、熱狂的なファンを生み出してきたことも納得です。
そんな「ファイブスター物語」の特徴の一つに、連載第1話から作品世界全体を網羅する年表を明示していることがあります。
作中で進む話の流れが最初から明らかで、少なくとも「これから何がどうなるか」ははっきりとわかってしまいます。
だけどその年表に端的に書かれた文章からは想像もできないドラマが展開していくので作品としてはマイナスどころか、寧ろ歴史絵巻的な面白ささえ持たせて読者にいろいろ「想像させる」面白さを与えたりしており、とても有効に機能しているのですが。
これが結構変わります。
もう最初書いてなかったものが書き加えられるのとか無くなるのとか当たり前。
それも長い連載期間中に何度もやられてるので、最新のヤツと最初のヤツを比べるともうほとんど別物になってたり。
そしてこの年表以外にも人物設定とかロボ設定など作内の設定変更が当たり前のようにやられることでも有名な作品でした。
まぁ、それでもことこの作品については読者の方も「そういうもんだ」と心得ており、左程問題になったことはありませんでした。
単行本の巻数は十数冊と決して多くはありませんが、1986年開始という連載期間の長さを考慮すると最初期の設定などを変えたくなるのは当然だろうし、作者自身のその時その時の心境や思想、知識などの変化に伴ってある程度の調整くらいはむしろ必要だろうというくらいの人が多かったと思います。
でもそこは「人の真似」がキライな永野センセイ。
そんな年表やちょっとした設定の改変くらいではすまない、作品全体の在り方を揺るがすような大変革を27年目にしてやってのけてしまいます。
それは永野センセイが映画製作をするために長期休載をした後、読者が待ち望んだ連載再開の時にいきなり何の説明もなく起こりました。
まず読んだ人間の目を疑わせたのは明らかに「ロボデザイン」が変わっていたこと。
それまで数十年の間慣れ親しんできたかっちょいいロボたちが明らかに違うものに変わってました。
元々のデザインを彷彿とさせはしましたが、やっぱり全然別のものというか、別系統の作品のものにしか見えないような。
例えるならば「パトレイバー」と「キングゲイナー」くらいに違うのです。
さらには名前まで変わっていました。
ロボットものにとって、その名称はアイデンティティに他ならない重要なもの。
何故なら人間のキャラクターと同じかそれ以上に一個の個性を持っており、作品イメージそのものといって過言ではないからです。
例えば「ガンダム」が「ガンボーイ」だったらと想像していただければお分かりになるはず。
でもそんな風に大切なはずのロボット名さえも連載再開と同時に全く別物に変わっていました。
それまでは英語ベースの「レッドミラージュ」とか「シュペルター」とか。
まぁ、耳に馴染むようなすんなり受け入れられるような。
人型兵器の名称としてはとてもいい感じな気がします。
でもそれがデザイン変更にあわせて「ツァラトゥストラ」とか「デムザンバラ」に変わっちゃいました。
全然もとのイメージと違います。
これだけデザインも名前が違うというのは、登場メカについてはもう別の存在に変わってしまったということに他なりません。
それでいてストーリーやキャラクターはそのまま。
前回と同じ話の延長でありながら、登場するロボットだけは全く違う別物。
全然馴染みのないオブジェクトの中で淡々と物語は何事も無かったように進んでいくのです。
その時の読者のショックはいかほどだったのか、想像するだけでも身震いしてしまいます。
この全く経験した事が無い事態を認識した瞬間に彼らの中に何が起きたのでしょうか。
案の定、すぐに阿鼻叫喚の嘆きが巷には満ち溢れました。
年表の改変程度ではどうともしなかったファン達も、さすがにこの別作品化とでも言うべきパラダイムシフトには耐えられなかったようです。
一応、センセイから「これまでのデザインはもう古いから一新した」とか「陳腐化したものをそのままにしておくのは自分には耐えられない」みたいなデザイナーとしての矜持ゆえにそうせざるを得なかったみたいなお言葉が公表されたりしましたけど、そんなものはなんの慰めにもならなかったに違いありません。
「何故」「どうして」「他にやりようはなかったのか」「意味がわからない」など、それこそ数十年来のファンをこれを機にやめるという人間が後を絶たなかったとか。
実際、読者数にどれだけの影響があったのかはわかりませんが、およそマンガやアニメ、小説作品の設定変更における影響の大きさでは史上最大級の事態だったのは確実でしょう。
恐らくあと数年もして歴史的な視点で理解されるようになれば「永野ショック」って名前がつけられるんじゃないでしょうか。
だからこそこんなことをあっさりと(少なくとも傍目にはそう見えます)やってしまった永野センセイの凄みに打ちのめされます。
いろんな意味で「仕掛け好き」な方なので、これさえも物語の一部でやがて整合性のある説明がなされるのではないかとまことしやかに噂されてたりしますけど。
たとえ今後どうなろうと、あの時点で娯楽創作物の歴史に残るような絶大な衝撃を受け手に与えたことは間違いありません。
もし自分だったら、こんなそれまで積み上げてきたものを全てご破算にしかねないようなことをやるなんてとてもじゃないけどできません。
賛否両論、いや否定的意見の方が圧倒的に多いとしても己の信念に殉じて表現者としての在り方を貫いたのであろう永野センセイの偉大さをこそ思ってしまいます。
……そんな感じで「良いこと言ってる」風に感情に訴えるように主張したら、自分がたかだか文庫本一冊にも満たないような作品でこっそり最初の方を直して設定変更をしたのも許されるような気がしてきました。
我ながらこれまではあんまりそういうことが無かったので、今回初めてやった後ろめたさがハンパなかったんですが。
これだけ「創作物の整合性なんて気にしたら負けだということがわかる事例」を紹介しておけばきっと大丈夫ですね。
かめのこセンセイは永野護センセイの「ファイブスター物語」をどれだけ設定変更があっても全面的に応援しています。
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