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脱出

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 確かに途中から違和感はあった。
 あまりに動きがぎこちなかったから。
 でもまさか...コイツだったなんて...

 だったら先生は!?
 "本当の君野先生"はどこなんだよ!?

 ...

 ...もし...かして...

 頭を巡る最悪の答え。

 ― 俺は意を決して"頭の無くなった人物"の近くに寄った

 ...これ...これって...

 先生がいつも着ていた服。
 胸元には【新東京大学】の教職員証。
 名前は...

 ...

 ......

【名誉教授:君野正義】

「...そういう...ことかよ...」

 あんな事を先生がするはずが無い。
 それが分かったのと同時に、悔しさと怒りが込み上げてきた。

 これは夢なんかじゃなく、"非現実の現実"なんだと。
 どうして...先生を...こんな...

「ユキ...先生は..."本当の先生"は...」

 俺を見て察したのか、小さく頷いた。
 そしてユキは、

「ルイの..."その銃"って」
「あぁこれ、"UnRule"を起動すると突然出たんだ」
「"本物"...だったよね...?」
「...あぁ」

 その後間もなくして、また"アイツ"から通話が入った。

「おい!! 新崎さんも一緒にいるんだよな!? 早くこっから出ろ!!」
「え!?」
「何体か中に入ってきやがった!!」
「まだ他に"コイツ"が!?」
「あぁいる!! 特に"赤いヤツ"には気を付けろ!! アイツはおかしい!! マッポが瞬殺されやがった!!」
「警察が!? シンヤって今"1階"だよな?」
「そそ! 後、降りてくる時には"階段"を使え!! アイツらエレベーター前にもいやがる!! ここもヤバいから後でな!!」

 そう言って、シンヤからの通話は途切れた。
 シンヤの場所もGPSで共有しているからすぐ分かる。

 "コイツ"他にもいやがるのか...?
 一応警察に連絡してみたが、一向に繋がらない。
 警察が一瞬で殺られた"赤いヤツ"って...

「ユキ、他にも"コイツ"がいるらしい」
「まだいるの...?」
「シンヤが言うにはだけど...一旦ここから出よう、立てるか?」
「うん...シンヤ君がいるんだね。警察はどうだった?」
「ダメだ何度やっても繋がらない。それに唯一来てくれた警察は赤いヤツに殺られたって...」
「"赤いヤツ"?」
「"ソイツ"が他と違ってヤバいそうだ。気を付けて行くぞ」
「分かったわ、気を付ける」
「んじゃ階段を使って行くぞ。エレベーター前にもいるらしいから」
「階段ね」

 俺は室内の安全装置を操作し、自動ドアを開いた。
 ヤツはこれを操作して閉めていたようだ。
 研究分室を先に出るユキは、

「...今までお世話になりました」

 と、小さく呟いた。
 その言葉は、俺の胸の奥にも響いた気がした。
 だから俺も、

「一生忘れません、君野先生...いや...君野正義名誉教授」

 8階まで来たが、今のところヤツらを見かけていない。
 静寂な薄暗い廊下に赤い光だけが不気味に漂う。

 シンヤは先見研究棟じゃなく、"総合研究棟の1階"をうろうろしているようだ。
 早く合流出来るといいんだが...

「ここを降りると7階ね」

 ユキの声が静寂に響き渡る。
 なんとか7階だ。

 このまま1階まで行ければ、すぐに総合研究棟には行ける。
 先見研究棟はAからDまで別れてるとはいえ、それぞれからすぐに総合研究棟へアクセスしている。

 ややこしいのは先見研究棟が"区別されてて30階まである"ってとこだけだ。
 覚えちまえばどうって事ないだろ?

 ...よし、この先を行って降りれば6階だ。
 大丈夫だ、このまま、このまま...

 ...

 .....

 な訳が無かった。
 後ろの奥の方で、あの秋葉原駅構内で聞こえた"ヤツの不穏な足音"が聞こえた。

 心臓の鼓動が大きくなり、危険信号を鳴らす。
 だが距離があったため、俺たちは走って6階へと逃げる事が出来た。

 できれば"この特殊な銃"は使いたくない。
 銃の横には数字で"6"と書かれており、たぶんこれは残弾数だ。

 最初は"7"だったため、明らかにそれを表している。
 複数体いるだろうヤツらに使っていては、いざという時に怖い。

「ふぅ...この辺からいるのね」
「だな...はぁ...絶対離れるなよ」
「...うん」

 さて、あの先からは5階だ。
 足音も無い、大丈夫だ。
 そう思った時、

「うわぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」

 ― 近くの研究室から大きな悲鳴が響いた
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