フォールン・イノベーション -2030-

決意

『現在の東京全体の停電は私たち政府が強制的に行っております。機械の故障や電力会社の通電失敗等ではございません』

　政府の仕業...
　イヤな雰囲気が画面先から漂う。

『本日2度目の会見となりますが、ここではこの度発表した"経済対策の詳細"についてお話したいと思います。もう気付かれた方々もいると思いますが、これは"ただの支援政策"ではありません』

　これ以上"この会見"を見るのをどこか拒否しようとする自分がいた。
　次の言葉を聞くと、たぶんもう戻れない。

　今までの生活に。
　そんな気がした。

『これは"あなた方自身に経済になってもらう新政策"となっております』

　2030年9月17日火曜日。
　きっと"この日"を忘れる事は無いだろう。

　― 予想をはるかに超えた速さで"シンギュラリティ"が起きた事を

「私たち...自身が...経済」

　ユキの握る力がより強まっていく。
　俺は黙って握り返す事しかできなかった。
　シンヤは小さな声で「やっぱりそういう事かよ...終わってんなコイツ」と。

　数秒の間の後、総理は突然"ある場所のカメラ映像"を流し始めた。
　映し出される"6つの場所"。
　その中の1か所は、確実に"見覚えがある場所"だった。

「おい、これ！！」

　真っ先にシンヤが叫ぶ。
　ここにいる3人が"ついさっきまでいた場所"だった。

『これは"赤い発令"が行われている施設内部の一部となります。先ほど私は"もう気付かれた方々もいる"と発言しましたが、"これら"の存在をその場で実際に見たり、ネット上で見たことでしょう』

　総理がそう言うと、今日何度も俺たちを襲った"あの機械たち"がカメラ前を過ぎ去っていった。
　"赤いヤツ"も数か所で映り、そのうち1体は"陸田先輩の姿をしたアレ"だった。
　俺はその姿を見て、唇を嚙み締め...

「陸田...先輩...」

　言葉にならない怒りが上がってくるのを感じた。
　その思いを踏みにじる様に、総理は次々と話していく。

『名前は"Next time Living Things"、意味は"次を生きるモノ"、ネルト(NeLT)と私は呼んでいます。ネルトは"AI同士で創造した新たな存在"であり、人間の皆様自身を媒体として、これからの次世代を寿命やお金に縛られる事無く代わりに生きてくれるのです』

　さっきからコイツは何を言ってる？
　これは本当に現実なんだろうか。
　俺はまだ夢を見ているんじゃ...

　ネルトとか人間を媒体とか。
　意味が分からない。

　機械が突然人間を食い始めて、大事な人を殺して...
　その人に代わって生きる？

　...ふざけるなよ

『そして自由になったお金を私たちAI側で管理して経済に回し、これまで溜まりに溜まった国債へと使っていく。かつてないほど良い政策だと私は考えており、実行に移している所存です。現に、与野党では誰も反対者がおりません。従って今日は試験的なものとして行いましたが、明日からが"政策の本番"とし、まずは"東京の街中にもネルト"を配置したいと思います』

　Piitaの明かりと月明りで照らされたユキの顔は青ざめていた。

「ね、ねぇ！！　アレを...アレを明日から"東京の街中"に置くって...！！」

　唯一シンヤだけが、真剣な顔をし、

「なぁ」

　とある一言を放った。

「もう選択肢ないんじゃねぇか？」
「...どういうこと...？」
「ぶっ壊すんだよ」
「え...？」
「俺たちが全部ぶっ壊すんだよ！！　ネルトだの総理だの！！　もうそれしか方法はねぇだろ！！」
「でも私たちなんかで太刀打ちなんか...他を頼って...」

　俺はユキの手を改めて強く握った。

「ルイ...？」
「...警察はもうあてにならない。他の人だって自分を守る事で精一杯になる。待ってたってアイツらに食われて死ぬだけ。それだったら...シンヤの言う通り...壊すしかない」

　だが、総理は俺たちの決意を遮るように喋り続け、

『昼と夜に及ぶ会見は以上になりますが、最後に一つだけよろしいでしょうか。"多くの日"を生きられた方は有能であると判断し、"相応の金銭支援や生活支援等"を行う予定です。ではまた、次の会見でお会いできる方はお会いしましょう』

　L.S.は元の形へと戻っていった。

「無理よ...こんなの...壊す壊すって、こんな"ゲームから出てきたよく分かんない武器"なんかで...最悪ネルトはやれても"赤いの"とか"総理"とか」

　パニックに陥っているユキの顔を見て俺は、

「...でも....死なせたくないから...やるよ俺」

　そう言った。
　数分間、ユキは俺の顔だけをずっと見続けていた。
　また、頼られている。

　分かってる。
　明日から"誰がいつ死ぬか分からない日"が来る。
　今日なんか比じゃないかもしれない。

　だとしても、ユキもシンヤもみんなで、

　...絶対超えてやる