上 下
14 / 67

行先

しおりを挟む
 この夜、停電が直っても誰一人家に帰る事は無かった。
 どうせ帰ったって誰も親はいない。

 俺の両親は高校2年時にアメリカのニューヨークへ転勤。
 ユキの親は高校卒業と同時に俺の親と同じ場所へ転勤。
 シンヤは元々孤児だったらしく、親も分からない。

 ちょうどこういった時にいない。
 さっき通話をしてみたが、なぜか全く繋がらなかったんだ。

 なぜかと思って調べてみたら、
「大阪の友達に繋がらないんだけど」「広島もダメだった」「海外にも無理」と。

 ― "東京以外どこにも繋がらない"ようになってる

 それにヤバい映像もツイッター等のSNSで流れてくる。
 何がヤバいかって..."東京外へ出ようとした人が次々に警察に射殺されてる映像"だ。

 とうとう警察も日本政府の言う事しか聞かなくなったのだろう。
 "上の意見に反発した警察官が殺された"というニュースも幾つかある。

 もう"平和な日常"なんてものはどこにもない。
 東京から出ようとすれば殺される...
 この"経済対策"から逃げる事は絶対できない...

 これが海外だったら集団反乱を起こすだろうが、日本は国民性からしてそういった反乱をそうそうしない。
 消費税を15%にすると言った時も、寝るばかりの議員の給与がさらに増えた時にも。
 大きな反乱が起こる事もなく、ネットを通してどうにか出来ないかとやってきた。

 今回ばかりはそれらは通用しない。
 リアルでの大反乱が必要とされている。
 その大反乱でさえ、現状どこまで通用するかは分からない状態だけど...

 とにかく今は"アイツらをどう壊すか"だ。
 ユキが落ち着くのを待った後、俺たちは意見を出し合った。

「まずは"国会議事堂へ行く"ってのはどうだ? "今の総理が置かれている特別な部屋がある"って情報をある国家研究員がリークしたらしい」
「へぇ~、すげぇ研究員がいるもんだな!」
「この"飯塚ユエ"さんって人だ」

 俺はL.S.の画面をユキとシンヤへ共有する。
 飯塚ユエさんには"赤の認証マーク"が付いており、"赤"はAI総理と関連がある証だ。
 さらに、本人である事も表している。

「さっきからツイッターとかに情報を流してくれてる。R.E.D.の開発の一部に携わったり、"UnRule"のテストメンバーだったって」
「この人とどうにか会えないかしら?」
「どうだろうな...1000万以上もいいねが付いてて、たぶんとんでもない人数が押し寄せてる」
「他には国家研究員の人いねえのかよ!? 誰かツイッターとかSNSやっててくれよ!!」
「情報が錯乱しててよく分からん。いるかもだが、今や影響力からして成りすましもいるかもしれないし、そもそも"こっちの味方"かどうかも...」
「...なら、まず明日は"国会議事堂へ行く"のが良さそうね。周囲の警備がキツそうだけど」
「そうだな。まぁやるだけやって、会えるなら総理に直接会う」
「よっしゃ!! なんか俺ら三人ならいける気するぜ!!」

 シンヤは"赤く細長い銃"を取り出し、

「高校の時、"AR部門で優勝"しかしなかった俺らならな!!」
「かもな。でもお前、個人戦では俺に一度も勝てなかっただろ」
「今それ言うんじゃねえよ!! 良い雰囲気だっただろ!!」
「ふふっ」

 ユキが笑い始め、明るい空気が流れだした。
 こんな時にシンヤがいるのは心強い。
 コイツは出会った時からそうだった。

###

 シンヤと会ったのは高校2年の春だった。
 2年生になったばかりの時期。

 いわゆる"超進学校"と言われている"渋谷理学高校"に通っていた俺とユキは、偶然にも2年生で同じクラスになった。
 1年生では違ったわけだが、ユキは常にこっちのクラスへと来ては、俺の傍へと寄ってきた。

 理由を聞けば、「ここがいい」とだけ。
 んな事言われても、"常に成績1位で容姿端麗の女子"が自ら来るってのは、周りが黙っちゃいないのが現実。
 なんでお前なんだだの早く離れろだの、こそこそと言われている。

「休み時間くらい寝かせろ」
「いつも寝てるんだから、たまには相手して」
「他の連中がいるだろ? 今だって、こっち見てなんか言ってるぞ」
「ルイじゃなきゃやだ。ほら、今日もこんなミニスカよ? パンツ見とく?」
「...寝る」
「なら私も一緒に寝るわ」

 1年時はずっとこんな調子だった。
 そこから2年生になって一緒になったわけだが、席は前後で大きく離れた。

 と思ったのも束の間、先生に頼んで無理やり俺の隣の席にしやがったんだ。
 次期生徒会長の言う事だからって、先生は何でもかんでも聞き入れやがって。

「よろしく」
「別にあっちでもいいだろ」
「あっちじゃダメ。ここならルイの事がすぐに分かるもん」
「親か」
「親よ」
「マジ?」
「マジよ」
「...寝る」
「なら私も一緒に寝るわ」

 授業始まったら起きるくせに。
 そんな時、急に転校してきたのがアイツだった。
 自己紹介の内容は今でも覚えてる。

「え~、有川シンヤです! 実は俺、記憶喪失らしくて記憶がほぼないんですよね~! その分、楽しい思い出作れたら嬉しいです!!」

 こんな印象に残る自己紹介なかなかないだろ?
 気になって、つい前を見たんだよ。
 そしたら、シンヤは"俺だけ"を見ているようだった。

 この後、シンヤは一気にクラスの皆と仲良くなっていった。
 勉強が特段出来るわけじゃなかったが、運動神経は明らかに人間離れ。

 そんなヤツがまだ部活に入ってないってんだから、放課後の部活勧誘は当たり前。
 まるでユキの"登校初日"を見ているようだった。
 未だに大学でも告白されまくりだしな、アイツ。

 そんなある日の放課後の教室、生徒会に呼ばれたからとユキがいない中、俺が一人の時を狙って声をかけられた。

「よっ! 三船君!」
「ん、なんか用か」
「まぁ用ってほどでもないんだけどよぉ。いつも新崎さんと話してるからさ、話しかけ辛いっつうかなんつうか」
「ユキが何かと話しかけてくるからな。別に気にせず話しかけてくりゃいいよ」
「ははっ!! いいヤツなんだな三船君!!」

 シンヤは急に右手で握手してきた。

「てっきりよぉ、最初見た時"話しかけるな"って感じしたから、躊躇してたんだぜ?」
「あぁ、あの時寝起きみたいなもんだったから。それでそんな顔だったのかも」
「そういう事かよ~!! マジで嫌われてるわけじゃないよな!?」
「別に嫌ってなんかねえよ。それより、野球とかサッカーとか部活入らないのか? さっきも勧誘されてただろ」
「ん~、なんかピンと来なくてよぉ。そういう三船君はなんかやってんの?」
「俺は"e-sports部"ってのに適当に入ってて、それの"AR部門"やってるよ」
「"AR部門"? なんだそりゃ?」
「"仮想世界の現実版"で、いろんな武器を使って個人戦とかチーム戦とか」
「おぉクソ面白そうじゃねえか!! 俺もそれちょっとやってみたいぜ!!」
「ん~、じゃこの後ユキも来るけど、一緒に部室行くか?」
「ユキって新崎さんだよな? 行く行く!! めっちゃピンと来てるぜ今!!」

 シンヤと親友になったのはそこからだ。
 個人戦ではいつもシンヤとの同校決勝戦、チーム戦はいつも俺、ユキ、シンヤのトリオ。

 毎年、謎に全国優勝しまくったのも今では良い思い出かな。
 シンヤにも良い思い出になればと誘ったが、決勝では全部俺が勝って悪い思い出にしちまったかも。
 まぁ、だからこそこうやって三人で仲良くいられるのかもな。

 俺たちなら明日から何が変わろうと、何だってやれるはずだ。
 大学3年になった今だって、いろんな事を乗り越えてきた。
 大丈夫、俺たちなら。

###

 それぞれが風呂や食事等を済ませた後、まず一人ずつが俺の部屋で仮眠をとる事にした。
 日付が変わった今、もしかしたら"ヤツら"が襲ってくるかもしれないから一応だ。

「シンヤ君、交代よ。ゆっくり寝てきて」
「まだ早朝4時だぜ? もういいのかよ?」
「うん。昨日昼から夕方にかけて結構寝てたからね」
「んなら、ルイ! 久しぶりにベッド借りるぜ!」
「あぁ」

 麻雀やゲーム等、よくオールして遊んだ時にベッドを貸していたのを思い出す。
 最近は忙しくて少なくなったが、またやりたいなって思えてきた。

 2階から降りてきたユキは、俺の隣へと座った。
 ピンクのワンピース状のパジャマ姿のままだ。

「眠くない?」
「全然眠くない」
「無理しないようにね」
「たぶん昨日一緒に寝たのが効いたわ。ってかはい、これ」

 俺はPiitaが持ってきたコップをユキへと渡した。
 中身は"キッタさんが丹精込めて作った果実100%リンゴジュース"だ。

「昔からほんと好きよね、これ」
「なんか名前から好き」
「私も好き」

 ユキは一口飲むと、俺と同様にテレビを眺め始めた。
 流れている内容は"昨日警察に射殺された事件"と"現在の東京各地の様子"。
 東京から出ようとしただけで突然殺されるなんて...一日経っても理解が追い付かない。

「たぶん、他にももっと犠牲者いるよね...」
「たぶんな」
「ルイはずっと...いるよね?」
「...ずっといるよ」

 ユキがくっ付いてくる。
 そんなユキに俺は、

「...大丈夫だ」

 小さく囁いて抱き寄せた。
しおりを挟む

処理中です...