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死撃

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「なんでこんな時にこんな事!?」
「おい、どうする!?」

 二人が慌てて言う。
 落ち着け、こういう時こそ。

 まず、1階に"アイツら"が入って来たって事でおそらく間違いない。
 このまま放っておけば、"アイツら"はここにも来る可能性が高い。
 つまり、これは時間の問題。

 そして、もう後3分で23時だ。
 保護管理契約書によると、"朝8時~夜23時まで"しか警護はされていない。
 ここには女子が多いため、誰もが、自分の身を自分で守らなくてはいけない時間。

 この警報はこの東京ミッドタウン八重洲全体に行き渡っているはず。
 なら、小柴たちだって"慌てている"ってのが普通だ。

 だったら、なぜヒナに通話が繋がらない?
 あっちでも既に何かあった?

 クソ!!
 考えてても時間が経つだけだ!!
 ここは...!!

「ヒナへ繋がらない。俺は"4528の部屋"へ行く! ユキとシンヤは、1階へ行ってくれ!!」
「...分かったわ。必ず無茶しない事、いい? って言っても、聞かないのでしょうけど」
「分かってんじゃねえか」
「すぐ終わらせてそっち行くからよ!! ひなひーを頼んだぜ!!」

 こうして俺たちは二手に分かれた。
 どの場所も真っ赤な光が点灯し、警報が鳴り続ける。

 それでも俺は止まらない。
 必ず、ヒナを助けるまでは。

 45階の奥を見ると、なぜか一つだけドアの開いている部屋があった。
 急いで行くと、そこは"4528の部屋"だった。
 中に侵入すると、そこには...

「...は...?」

 誰もいなかった。
 突如部屋の時計が鳴り、23時である事を示す。

 意味が分からない。
 ヒナはどこに!?

 近くの部屋からも、物音すら聞こえない。
 おかしい、何かがおかしい。

 俺はすぐにユキに通話してみる事にした。
 すると、ユキにも通話が繋がらない。
 シンヤにも通話する。

「なんで...!!」

 どうして二人とも"不在着信"になる?
 例え繋がらなくとも、"不在着信"には決してならない。
 なんでだ!?

「わけがわかんねぇ...んだよ、これ...みんな!! ユキ!! ヒナ!! シンヤ!! ッ!!」

 今から1階に行く?
 いや、そしたらヒナは?

 じゃあここで待つ?
 そしたら1階の二人は?
 本当に無事なのか?

 考えてたって時間は経っていく。
 あの針は絶対止まらない。

 どうしたら...
 どうしたら...!!

 ッ!?
 待てよ!?
 俺の頭の中に、"あの時の出来事"がフラッシュバックした。

###

『こんなとこにいた! トイレじゃなかったの、ルイ』
『!? やっぱバレるよな...』
『そりゃね。L.S.で位置共有してるでしょ、私たち』
『はは...』

###

 位置...共有...!!
 俺はすぐさまL.S.でユキとシンヤの位置を確認した。

 ...いた!!
 二人の場所がそこにはあった。
 だが、明らかにおかしい位置に二人はいた。

「なんで..."この部屋"にいるんだ?」

 ...どういう...ことなんだよ...?
 理解した瞬間、脳内にアナウンスのような言葉が流れた

 〔コノ現実ハオカシイデスカ?〕

 え...?
 今、「この現実はおかしいですか?」って言ったよな?
 急になんだ?

 〔モウ一度問イマス。コノ現実ハオカシイデスカ?〕

 よく見ると、俺の銃剣が出現し、呼応するように光っていた。
 これは...!?

 答えろって...ことか...!?
 どちらにしろ、それしかもう方法は無い。

「この現実は...現実じゃない!!! いッ!!」

 答えた瞬間、頭痛が走った。
 耳鳴りも激しい。

「んで...こんな時に...ッ!!」

 視界が一瞬白くなり、ふらつきながら前を向く。
 すると、"知らない誰か"が立っていた。

「!? 誰だよ、お前!?」

 全身真っ白い服を着ており、白いパーカー?を被っている。
 その下には、髑髏のような白い仮面に、2本の鋭い角。
 両手には...

「俺と...同じ...!?」

 いや、厳密には同じじゃない。
 ヤツの右手に持っている銃剣は、まるで"カーテンのような残光"が腹部から出ている。
 それ以外は色も形も全て、【大蝶イーリス】と瓜二つだった。

 それだけじゃない。
 左手に握られている"アレ"。

 "白と黒を基調"とした、蝶の羽が生えた銃剣。
 右手のモノと同様に腹部から残光が出ており、まるで"左右対称"を示すかのようだった。

「お前は...いったい...?」

 ヤツが一瞬こっちを見たかと思うと、視界は晴れていき、ヤツの姿は霧にように消えていった。
 今のはなんだったんだろうか...?
 アイツは...?
 脳の理解が追い付かないままに、視界は晴れていく。

「お、お前なんで!!」

 聞き覚えのある声。
 これは...小柴だ。

 晴れた先に小柴を含む、あの時の3人がいた。
 ベッドに座っており、その横には、

「...ユキ!? ヒナ!?」
「んー!!」
「ん~~~!!!」

 下着姿のユキとヒナが座っていた。
 口にテープのようなモノを付けられており、喋る事ができないらしい。
 アイツらは、そんな二人の下着を脱がそうとしていた。

「なに、やってんだよ、お前ら」
「俺の"設置した幻覚"は完璧なはずなのに、なんで戻って来てんだよぉぉぉぉ!!」

 小柴は突然大きな声で叫ぶ。
 そうか、"今までの世界"はコイツが用意した...

「ん~~~!!」
「んーー!!」
「うるさいぞ!! じっとしろ!!」
「ん~~~~!?!?!?」

 不意に最悪の光景が目に映った。
 ヤツはなんと、ユキのショーツの中に手を入れた。

「はは!! ははは!! どうだ!?!? 今日から僕が、僕が本当の彼氏だぁぁぁぁぁ!!!!!」
「ん~~~~~~!?!?!?!?」

 頭が真っ白になった。

 俺は何を見せられている?
 何を見せられている?
 ナ ニ ヲ ミ セ ラ レ テ イ ル ?

「いッ!!!」

 急に発生する"さっきの頭痛"。
 俺は...ユキと...ヒナを...助けないと...!!

 また視界が白くなる。
 そこには、さっきのあの仮面の人物がいた。

 俺と目が合うと、その人物の思い?のような何かが俺へと流れ込んでくる。
 「理不尽ヲ壊セ」と。

 視界が現実へと戻ると、途端に男たちの悲鳴が響いた。
 「う、うわぁぁぁぁぁぁぁ!!」「人殺しーーーッ!!」と。
 走って逃げていく音が反響した。

 それもそうだった。
 小柴の頭部が撃ち抜かれており、そこからは血が溢れていた。

 それをやったのは...

 ...

 ......

 俺だった。
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