32 / 67
原宿
しおりを挟む
やっぱりこの車はすぐに分かるな。
自動運転がどれだけ発展しようと、飯塚車だけは唯一って感じがある。
広さとしては普段ワゴンとリムジンをくっ付けたぐらいあるが、少人数の時は上手い具合に仕舞われる。
要は、軽自動車から大型自動車へと自由自在になれる。
こんな仕組みは他の車にはまだ無い。
6枚羽もあるし、かっこいいというか、いかつさがあるというか、なんかまぁ異様。
これが最新AIに携わってきた国家研究員の力だと、謎に訴えられてるみたいだ。
「やっと来たわね。あら?」
「ヒナ? あなたどうしたの?」
ユエさんとユキが開いた車内からこっちを向く。
「俺たちと一緒に来たいってよ! さっきルイも許可したとこだ! なぁ!?」
俺の右肩にシンヤの手が置かれる。
なに俺に丸投げしてんだ、コイツは。
「そうなの?」
ユキが本当にいいの?という表情で見てくる。
「まぁ、いろいろ考えてそうした。それに、今のヒナはたぶん俺たちに引けを取らないくらいの力を持ってる」
「え!? ヒナが!?」
「そうだぜ! あのルイが倒した"ゴッツい怪物の力"を取り込んだからな!!」
シンヤの言葉に前のめりになる様に、ユエさんが顔を出した。
興味津々の表情をしながら、
「ってことは、"アレ"はこの子に使えたのね!?」
「そうです。突然ポケットに出てきて、使用可能と出たので、良い機会かなと」
「そうね、なら、話は変わってくるわ。ヒナちゃん、あなたはこれから重要な火力要因になると思う。お願いできる?」
「...はい!」
「まぁなんかあったら俺たちもいるしよ! 気楽に行こうぜ! ひなひー!」
「よろしくお願いします...!」
こうして、ヒナを連れて東京ミッドタウン八重洲およびネビュラスホテル東京を後にした。
短い時間だったけど、部屋や食事はマジで良かった。
後は"あの事件"さえ無ければ...
右手にはまだ薄っすら浮かんで見える、"あの血痕"が。
実際に血が付着しているわけじゃないのに、いつまでもいつまでも。
でも俺がどうなろうと、やってみせる、最後まで。
「飯原さんには、結局挨拶せずにだったわね」
「あの人なら起きてすぐ気付くよ、あれに」
「今の時代に置き手紙なんて、ビックリしますかね」
「たまにはいいんじゃね! そんなのも! 粋な事すんのな、神崎さんも!」
きっとあの人ならすぐに気付く。
"今回の件"で、より目をこらすようになっただろうし。
反応を見てみたいとこではあったけど、生きてさえいれば、またどこかで会える。
立派な武装だったし、なんか長生きしそうなんだよな、あの人。
流れていく都会のビル群を見ながら、そう思った。
###
表参道へと入った頃、周囲の雰囲気が変わるのを感じた。
これを感じたのは俺だけじゃないと思う。
さっきまで広い車内を堪能していたヒナが、ずっと外を見るほどだ。
だって、普通に"大勢の人間が何事も無いかのように歩き回っている"んだから。
「ここだけなんか、"別世界"って感じしね?」
とうとうシンヤがその一言を放った。
それによって議論が広がる。
「どういうこと? "無防備な人ばかり"だし、怖くないの?」
「なんでしょうね、コレ...」
俺は口を開かなかった。
みんなの思ってる通りだったから。
外に出るまでは、"本当の違和感"には気付けそうにない、そうも感じる。
だが、これだけは分かる。
"絶対に油断してはいけない"、という事を。
先頭にいたユエさんがこっちへとやってくる。
「そろそろ目的地周辺よ。見ての通りみたいだから、各自油断しないようにね」
「もしかして、"竹下通り"なんですか?」
「そうなの。ちょうど"ここの監視カメラ"に映っていたのよ。それで、この"赤ビル"の方へ入ったっきりまだ出てきてないの」
「え、"赤ビル"!?」
「えぇ。急に出来たみたい」
いつ出来たんだ!?
俺が覚えている限り、渋谷と秋葉原しか知らないぞ。
というか、結局この"赤ビルは何をする場所"なんだ?
ツイッターを見ると、昨日から現れたとあるが、中には入れなかったという情報しかない。
ユエさんはここに本当に行くつもりなのだろうか?
「ツイッターには、中には入れなかったっていうツイートばかりですけど、本当に行くんですか?」
「それがね、"1分間だけ開く時間"を発見したの。昨日一日中監視して、やっと見つけたんだからね」
"1分間の開く時間"?
どういうことだ?
「その1分間は"4回チャンス"があるわ。それが10時、14時、18時、22時の計4回。開く時間はどれも"最初の0分から1分の間"だけよ」
「どの時間も同様に"最初の0分から開始"なんですね」
「そうなの、意味はまだ分かってないけどね。それで今の時間を見て。後30分もすれば10時になる」
確認すると、ちょうど"AM 09:30"とある。
ユエさんの言う事が正しければ、開くタイミングがもうすぐ来る。
と思った瞬間、車は『目的地までの最適な場所に停車しました』と喋り、止まった。
シンヤが真っ先に立ち会がる。
「っしゃぁぁ! んじゃ裏部さんとやらをさっさと見つけに行こうぜ!」
「あのー、気合いれてるところ悪いんだけど...」
と、ユエさんはお腹をさすり始めた。
「私はもう走れそうにないの。そろそろ、"キテるみたい"でね」
しんどそうに座るユエさんに、ユキが「大丈夫ですか!?」と駆け寄った。
そうだ、ユエさんは妊娠中。
もうそろそろ無理は出来ないという事。
あまりに平気そうな顔をしていたため、まだまだサポートしてもらえるとばかり。
「ありがとう新崎さん、もう大丈夫。それで...実は今回の作戦のことなんだけど、あなたたちだけでやってもらいたいの」
やっぱり、そうなるか。
だからヒナに"火力要因"としてお願いしたってわけだ。
もしヒナが来ないようであれば、私が無理してでも先陣を切る、そうするつもりだったんだろう。
またポーカーフェイスを装いながら。
この人、どれだけ良い人なんだよ、どこまでも俺たちの事を考えて、最善を尽くして、命を懸けて...
これが大人って事なんだろうか。
これがアオさんと約束した事なんだろうか。
だとしても...
俺はもうミスはしない。
絶対に、この人は生かし続けてみせる。
年下年上は関係無い。
アオさん...俺は絶対に...
「...まかせてください。僕たちが必ず、裏部さんを連れてきます」
「そうね。やりましょう」
「お、おう! ユエさんはゆっくりしててくださいよ!」
「とにかく、頑張ります!」
ヒナはあまり状況分かってないよな。
急に一緒になったわけだし。
たぶん、話の流れでなんとなくは分かっているだろうけど。
説明は追々するから、とにかく今は付いてきて欲しい事をヒナへ伝えた。
そして俺たちは...
「危ないと思ったらすぐに引き返してくる事、いいわね!?」
「「「「はい!」」」」
とうとう外に出た。
【タイムリミットまで後28分】
自動運転がどれだけ発展しようと、飯塚車だけは唯一って感じがある。
広さとしては普段ワゴンとリムジンをくっ付けたぐらいあるが、少人数の時は上手い具合に仕舞われる。
要は、軽自動車から大型自動車へと自由自在になれる。
こんな仕組みは他の車にはまだ無い。
6枚羽もあるし、かっこいいというか、いかつさがあるというか、なんかまぁ異様。
これが最新AIに携わってきた国家研究員の力だと、謎に訴えられてるみたいだ。
「やっと来たわね。あら?」
「ヒナ? あなたどうしたの?」
ユエさんとユキが開いた車内からこっちを向く。
「俺たちと一緒に来たいってよ! さっきルイも許可したとこだ! なぁ!?」
俺の右肩にシンヤの手が置かれる。
なに俺に丸投げしてんだ、コイツは。
「そうなの?」
ユキが本当にいいの?という表情で見てくる。
「まぁ、いろいろ考えてそうした。それに、今のヒナはたぶん俺たちに引けを取らないくらいの力を持ってる」
「え!? ヒナが!?」
「そうだぜ! あのルイが倒した"ゴッツい怪物の力"を取り込んだからな!!」
シンヤの言葉に前のめりになる様に、ユエさんが顔を出した。
興味津々の表情をしながら、
「ってことは、"アレ"はこの子に使えたのね!?」
「そうです。突然ポケットに出てきて、使用可能と出たので、良い機会かなと」
「そうね、なら、話は変わってくるわ。ヒナちゃん、あなたはこれから重要な火力要因になると思う。お願いできる?」
「...はい!」
「まぁなんかあったら俺たちもいるしよ! 気楽に行こうぜ! ひなひー!」
「よろしくお願いします...!」
こうして、ヒナを連れて東京ミッドタウン八重洲およびネビュラスホテル東京を後にした。
短い時間だったけど、部屋や食事はマジで良かった。
後は"あの事件"さえ無ければ...
右手にはまだ薄っすら浮かんで見える、"あの血痕"が。
実際に血が付着しているわけじゃないのに、いつまでもいつまでも。
でも俺がどうなろうと、やってみせる、最後まで。
「飯原さんには、結局挨拶せずにだったわね」
「あの人なら起きてすぐ気付くよ、あれに」
「今の時代に置き手紙なんて、ビックリしますかね」
「たまにはいいんじゃね! そんなのも! 粋な事すんのな、神崎さんも!」
きっとあの人ならすぐに気付く。
"今回の件"で、より目をこらすようになっただろうし。
反応を見てみたいとこではあったけど、生きてさえいれば、またどこかで会える。
立派な武装だったし、なんか長生きしそうなんだよな、あの人。
流れていく都会のビル群を見ながら、そう思った。
###
表参道へと入った頃、周囲の雰囲気が変わるのを感じた。
これを感じたのは俺だけじゃないと思う。
さっきまで広い車内を堪能していたヒナが、ずっと外を見るほどだ。
だって、普通に"大勢の人間が何事も無いかのように歩き回っている"んだから。
「ここだけなんか、"別世界"って感じしね?」
とうとうシンヤがその一言を放った。
それによって議論が広がる。
「どういうこと? "無防備な人ばかり"だし、怖くないの?」
「なんでしょうね、コレ...」
俺は口を開かなかった。
みんなの思ってる通りだったから。
外に出るまでは、"本当の違和感"には気付けそうにない、そうも感じる。
だが、これだけは分かる。
"絶対に油断してはいけない"、という事を。
先頭にいたユエさんがこっちへとやってくる。
「そろそろ目的地周辺よ。見ての通りみたいだから、各自油断しないようにね」
「もしかして、"竹下通り"なんですか?」
「そうなの。ちょうど"ここの監視カメラ"に映っていたのよ。それで、この"赤ビル"の方へ入ったっきりまだ出てきてないの」
「え、"赤ビル"!?」
「えぇ。急に出来たみたい」
いつ出来たんだ!?
俺が覚えている限り、渋谷と秋葉原しか知らないぞ。
というか、結局この"赤ビルは何をする場所"なんだ?
ツイッターを見ると、昨日から現れたとあるが、中には入れなかったという情報しかない。
ユエさんはここに本当に行くつもりなのだろうか?
「ツイッターには、中には入れなかったっていうツイートばかりですけど、本当に行くんですか?」
「それがね、"1分間だけ開く時間"を発見したの。昨日一日中監視して、やっと見つけたんだからね」
"1分間の開く時間"?
どういうことだ?
「その1分間は"4回チャンス"があるわ。それが10時、14時、18時、22時の計4回。開く時間はどれも"最初の0分から1分の間"だけよ」
「どの時間も同様に"最初の0分から開始"なんですね」
「そうなの、意味はまだ分かってないけどね。それで今の時間を見て。後30分もすれば10時になる」
確認すると、ちょうど"AM 09:30"とある。
ユエさんの言う事が正しければ、開くタイミングがもうすぐ来る。
と思った瞬間、車は『目的地までの最適な場所に停車しました』と喋り、止まった。
シンヤが真っ先に立ち会がる。
「っしゃぁぁ! んじゃ裏部さんとやらをさっさと見つけに行こうぜ!」
「あのー、気合いれてるところ悪いんだけど...」
と、ユエさんはお腹をさすり始めた。
「私はもう走れそうにないの。そろそろ、"キテるみたい"でね」
しんどそうに座るユエさんに、ユキが「大丈夫ですか!?」と駆け寄った。
そうだ、ユエさんは妊娠中。
もうそろそろ無理は出来ないという事。
あまりに平気そうな顔をしていたため、まだまだサポートしてもらえるとばかり。
「ありがとう新崎さん、もう大丈夫。それで...実は今回の作戦のことなんだけど、あなたたちだけでやってもらいたいの」
やっぱり、そうなるか。
だからヒナに"火力要因"としてお願いしたってわけだ。
もしヒナが来ないようであれば、私が無理してでも先陣を切る、そうするつもりだったんだろう。
またポーカーフェイスを装いながら。
この人、どれだけ良い人なんだよ、どこまでも俺たちの事を考えて、最善を尽くして、命を懸けて...
これが大人って事なんだろうか。
これがアオさんと約束した事なんだろうか。
だとしても...
俺はもうミスはしない。
絶対に、この人は生かし続けてみせる。
年下年上は関係無い。
アオさん...俺は絶対に...
「...まかせてください。僕たちが必ず、裏部さんを連れてきます」
「そうね。やりましょう」
「お、おう! ユエさんはゆっくりしててくださいよ!」
「とにかく、頑張ります!」
ヒナはあまり状況分かってないよな。
急に一緒になったわけだし。
たぶん、話の流れでなんとなくは分かっているだろうけど。
説明は追々するから、とにかく今は付いてきて欲しい事をヒナへ伝えた。
そして俺たちは...
「危ないと思ったらすぐに引き返してくる事、いいわね!?」
「「「「はい!」」」」
とうとう外に出た。
【タイムリミットまで後28分】
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
5
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる