Giftbiene【ギフトビーネ】

文字の大きさ
50 / 209
exd5

50話

しおりを挟む
「……最悪……遅れた……」

 信号待ちで地団駄を踏む。現在の時刻は七時三五分。学校までは一五分ほど。本来なら一〇分ほど早くここまで到着している予定だった。八時からの授業には余裕で間に合うのだが、目的はそれではない。学校がある日は基本、七時三〇分頃にあの方がここを通る。やはり寝過ぎたことが原因。リボンも決まらなかったし。

「まぁ、モブキャラなんてのは、こんなもんでしょう……」

 自分の立ち位置は理解している。あの方が猛禽類なら、自分はネズミかなんかで、記憶もされない、ただのオヤツ感覚のエサとなるだろう。でもそれでいい。自分の肉をあの人が貪ってくれるなんて。一度くらいは目が合うかな。

 信号はまだ変わらない。これなら、もう少しゆっくり髪を乾かせばよかった。半乾きで寒さが増す。本日は最低気温が四度。一一月ともなると寒い。頭が寒いと心も寒くなる。昨日、どこに置いたのかマフラーが見つからずそのまま来てしまった。さらに寒い。

「今日は倫理、スポーツ、数学、音楽」

 仕方ないので、今日の時間割を今一度確認する。八時から始まり、一四時三〇分には終わる。放課後はなにしよう。一六時からのバイトまで少しだけ時間がある。でもお金がないのだから、節約しないと。色々買いたいものは多い。

「はぁ……どうやったらお金貯まるんだろ」

 書店でアルバイトはしているが、女子は買いたいものが多い。ビオデルマのメイク落としも買いたいし、カフェの新作スイーツ食べ歩きたい。キツくなってきた下着も新調したいし、なんなら自転車登校もしたいし、それからそれから——

「髪、乾いてないけど、寒くないのかい?」

「え?」

 ふと。横から声をかけられた。

「でもわかる。昨日と比べて一気に寒くなったからね。俺も少しベッドから出るの遅くなった」

 赤くなった自分の鼻に、ライチのいい香りが吸い込まれる。香水。この香りは知っている。ウッディ系の香水。私も持っている。あの方を真似たから。

「風邪ひかないように気をつけて」

 その声は知っている。いつも何度も頭の中で繰り返し、巡っているから。でもいつもと違うのは、その声のベクトルが自分に向けられている。ネズミに目も声も向けられている。

 そうだ、とその方がポケットから出したものを手渡された。

「これをどうぞ。少し走ったら暑くなったから。いらなかったら捨ててもらっていい」

 そう言って渡されたものは、可愛いシロクマの描かれたエコカイロ。ほんのり温かい。これも知っている。使い終わった後、お湯に浸けると、また再利用できるカイロだ。

 嘘だと思った。相変わらず少しもハッピーになることはないし、ほとんど捕まらない信号のところで捕まるし、コーヒーは思ったよりも濃いめで、マフラーも見つからなくてそのまま来た。

「それじゃあ、少し急ぐから。先に行くね」

 信号が青になる。それに合わせて、歩いて行く。行ってしまう。

「あ、あのッ!」

 肺を振り絞り、声を出した。少し裏返った。でも、止まってくれた。

「あ、あの、あり、が……」

 あんなに妄想ではスラスラ喋れるのに。聞きたいことも、たくさんあるのに。

「……」

 頭が真っ白になり、なにを言ったのかわからない。喉になにかが引っかかったように、声が出ない。気持ちだけはあるのに。

 その方は、うん、と笑みを浮かべて手を振ってくれた。途中までしか言えなかったが、理解してくれたようだ。

「それじゃあね。ウルスラ・アオアースバルトさん」

 そう言って、早足にケーニギンクローネ女学院へ向かっていった。

 私がシシー・リーフェンシュタール様と初めて会話した時は、感謝の言葉すらまともに伝えられなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

百合短編集

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

せんせいとおばさん

悠生ゆう
恋愛
創作百合 樹梨は小学校の教師をしている。今年になりはじめてクラス担任を持つことになった。毎日張り詰めている中、クラスの児童の流里が怪我をした。母親に連絡をしたところ、引き取りに現れたのは流里の叔母のすみ枝だった。樹梨は、飄々としたすみ枝に惹かれていく。 ※学校の先生のお仕事の実情は知りませんので、間違っている部分がっあたらすみません。

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

義姉妹百合恋愛

沢谷 暖日
青春
姫川瑞樹はある日、母親を交通事故でなくした。 「再婚するから」 そう言った父親が1ヶ月後連れてきたのは、新しい母親と、美人で可愛らしい義理の妹、楓だった。 次の日から、唐突に楓が急に積極的になる。 それもそのはず、楓にとっての瑞樹は幼稚園の頃の初恋相手だったのだ。 ※他サイトにも掲載しております

放課後の約束と秘密 ~温もり重ねる二人の時間~

楠富 つかさ
恋愛
 中学二年生の佑奈は、母子家庭で家事をこなしながら日々を過ごしていた。友達はいるが、特別に誰かと深く関わることはなく、学校と家を行き来するだけの平凡な毎日。そんな佑奈に、同じクラスの大波多佳子が積極的に距離を縮めてくる。  佳子は華やかで、成績も良く、家は裕福。けれど両親は海外赴任中で、一人暮らしをしている。人懐っこい笑顔の裏で、彼女が抱えているのは、誰にも言えない「寂しさ」だった。  「ねぇ、明日から私の部屋で勉強しない?」  放課後、二人は図書室ではなく、佳子の部屋で過ごすようになる。最初は勉強のためだったはずが、いつの間にか、それはただ一緒にいる時間になり、互いにとってかけがえのないものになっていく。  ――けれど、佑奈は思う。 「私なんかが、佳子ちゃんの隣にいていいの?」  特別になりたい。でも、特別になるのが怖い。  放課後、少しずつ距離を縮める二人の、静かであたたかな日々の物語。 4/6以降、8/31の完結まで毎週日曜日更新です。

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

ママはヤンママ女子高生! ラン&ジュリー!!

オズ研究所《横須賀ストーリー紅白へ》
キャラ文芸
神崎ランの父親の再婚相手は幼馴染みで女子高生の高原ジュリーだった。 ジュリーは金髪美少女だが、地元では『ワイルドビーナス』の異名を取る有名なヤンキーだった。 学校ではジュリーは、ランを使いっ走りにしていた。 当然のようにアゴで使われたが、ジュリーは十八歳になったら結婚する事を告白した。 同級生のジュリーが結婚するなんて信じられない。 ランは密かにジュリーの事を憧れていたので、失恋した気分だ。 そう言えば、昨夜、ランの父親も再婚すると言っていた。 まさかとは思ったが、ランはジュリーに結婚相手を聞くと、ランの父親だと判明した。  その夜、改めて父親とジュリーのふたりは結婚すると報告された。 こうしてジュリーとの同居が決まった。 しかもジュリーの母親、エリカも現われ、ランの家は賑やかになった。

処理中です...