Giftbiene【ギフトビーネ】

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54話

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 その後のことを私はよく覚えていない。シシー様が積極的に話しかけてくれていたのだが、内容は全く覚えていないのだ。気づいたら学校に着いていて、授業が始まっていた。有頂天になっていたのだろうか。せっかく夢の時間だったというのに。いや、夢だから、か。

 だが、あの方の近くに居続けるためには、必要なことがわかった。

「もっと、可愛くならなきゃ」

 今日よりも明日、さらに可愛くならなきゃ。綺麗にならなければ。一日でも怠れば、あの方は自分から興味を無くしてしまう。少しだけでもいいから、美しく。そのためにはお金が。お金が必要だ。

「お金を、稼がなきゃ」

 薬局じゃダメだ。もっと本格的なコスメショップで。そのためにお金を稼がなきゃ。アルバイトしなきゃ。あぁ、でもミニジョブじゃ稼げない。どうすれば。

「どうしよう……どうやってお金稼げば……」

 でも、働いて税金がかかってしまう方法じゃダメ。誰にもバレないように、稼がなきゃ。でも盗んだりとか、そんなことしたらあの方の隣に立つ資格なんてない。カジノも課税の対象。どうしたらいい。

「どうしよう……どうしよう……!」

 売春はどうだ。合法だし、なにかしら抜け道があるはず。でも……嫌だッ……! あの方以外に触れられるのは、絶対に嫌……! 女性でも嫌、男なんて、もっと嫌ッ……!

「どうしよう! どうしよう!」

 自宅のベッドで布団にくるまり、ガタガタと震えながら思考を巡らす。なにかいい手段はないか。こう考えているうちに一日が過ぎてしまう。明日は今日より可愛くならなければならないのに。

 脳に問いかける。お金の匂いのすること。ドカッと稼いで、課税されなくて、未成年でもできて、誰にも触れられなくていいコト。

「なにか……なにか……」

 右手親指の爪を噛む。この癖はやめることができたと思っていたが、ダメだった。止まらない。爪だけでも綺麗に、可愛くしなきゃ。噛んだらダメだ。

「あ」

 ふと、自分の趣味から探っていると、ひとつ思い出した。本や映画が趣味。古書や昔の映画なんかも好き。そのうちのひとつ、映画『ラウンダーズ』。マット・デイモンが主演した、一九九八年の映画。その中で彼は。

「闇ポーカー、やってた」

 非合法の闇賭博。賭け金は数万ドル。課税とかもないだろう。いや、私はそこまでじゃなくていい。ちょっとだけ勝てば、それだけでいい。億万長者になりたいわけじゃない。あの方の隣にいるためだけ。だから少しだけ。

 ……いやいや、闇賭博なんて、何考えてるんだ私は。ルールも、遊びでやった程度しかわからないし。

「本当にいいの?」

 誰かが囁く。日々美しくなっていくあの方の隣にいるということ。少しの額で足りるのだろうか。化粧品ならなんとかなるかもしれない。でも服は? バッグは? 宝石は? それがなくて、地味な私があの方に並んでいいの? でも、元金がなくて賭博なんかできない。

「賭けられるものがあるじゃないか」

 また誰かが囁く。自分の若く、しなやかな肢体。それだけは、嫌……! 絶対に……!

「勝てばいい」

 ふいに、ライチの香りがする。柑橘の香りもする。負けなければ、誰も触れてこない。勝てばいい。勝ち続ければいい。

 私はいつの間にか、震えが止まっていた。むしろ全身が火照る。答えが出た。あぁそうか、負けなければいいんだ。そうすれば、お金も手に入るし、誰も触れられない。勝てばいい。そうすれば、あの方の隣にいられる。

「ふふっ」

 可笑しくて笑った。なにを悩んでたんだ自分は。迷ったら、信じればいい。だって、あの方が、そう言ってくれたんだから。
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