Giftbiene【ギフトビーネ】

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62話

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「ターンだ。もう一枚」

 さらに山札からカードを表にする。クラブのJ。

「チェック」

「こっちもチェックだ」

 お互いに様子見。次が最後。

「リバー。最後の一枚だ」

 山札から最後の一枚を表に。ダイヤの6。これでカードは、お互いの二枚と、山札からの五枚。計七枚を使い、うち五枚で役を作る。このゲームで終わる。

 それを見、『あの方』は大きく笑った。ポーカーフェイスとは真逆。

「ベット、一万」

 五〇〇ユーロをさらに二〇枚追加。一気にポットの額がハネ上がる。

「……は?」

 おじさんは間抜けな声を出して、『あの方』の顔を覗き込んだ。何が起きたかわからない様子。

「どうした? 一万ユーロだ。ノーリミットと言っただろ? なにか問題あるのか?」

 なにも問題はない。ノーリミットだから。いくら賭けてもいい。そうだろ? そう目で『あの方』がおじさんに訴える。

 私は理解が追いつかず、声も出せないでいる。なに、が起きてるの?

「ない……けど、お前、さらに一万……あるのか……?」

 さすがにおかしいと感じ、おじさんは目を白黒させている。こんな小娘が、なんでこんなに……? そう言いたそうだ。

「あるよ。また数える?」

 『あの方』が言うよりも先に、おじさんは確認しだした。さっきよりも雑に。神経質に。

「……本物だ……俺には、ない……」

 同額を賭けるだけのお金はない。そうなるとできることは二つ。今まで払った額は諦めて、このゲームを降りること。もうひとつは、持ち金全て、オールインで賭けること。

 この場合、もしおじさんが勝ったら、自分の持ち金と同額を、ベットされた一万からもらうことができる。残りは『あの方』に戻る。だがもし。負けるようなことがあれば。持ち金全額持っていかれる。

「オールイン……いや、フォールドだ……くそッ!」

 勝てないと感じたおじさんは、勝負を降りた。おじさんが賭けた四〇〇と五〇〇、合計九〇〇ユーロは『あの方』がゲットしたことになる。手札は見せずに終わる。

 自身の賭けていたお金と、九〇〇ユーロ。全て手にし、『あの方』は懐にしまう。

 その姿を見て羨ましい、というよりも、よかった、という感想を私は抱いた。『あの方』に傷がつかず安堵した。

「そっちが決めたルールだ。勝てると思ったなら、オールインすればよかったのに。ま、文句ないだろ。もらってくぞ……と言いたいところだが」

 不完全燃焼、という風に、『あの方』は不満気な表情でおじさんに詰め寄る。

「こんな札束で殴り合うようなのはつまらない。なにか他にない? なんでもいいよ。他のゲーム。ブラックジャックにバカラ。セブンブリッジでもなんでも」

 なんで、そんなことをするんだ。私は止めに入りたかったが、先ほどから足が動かない。緊張と安堵と、その他様々な感情が入り乱れ、膝がガクガクとしている。声も出せない。

「……なんでもいいんだな?」

 怒りでわなわなと震えていたおじさんが、それらを凝縮し、威嚇するように低い声を発した。

 『あの方』は頷く。

「あぁ、二言はない」

 それを聞き、おじさんはニヤリと悪どく笑う。

「ボードゲームもアリだよな?」

「もちろん」

 そうしておじさんは、さらに満面の笑みに変わった。

「チェス。俺はこっちの方が得意なんだ。二言はないんだよな? ルールくらいは知ってるか?」

「チェス?」

 『あの方』が驚いた声をあげる。まさかのチェス。トランプも使わない。頭脳の格闘技。

 待って。いきなり、運とかじゃなくて、そんな。待って、お願い……悪いのは私だから……! 『あの方』は巻き込まないで……!

「元々、チェスで稼ぎすぎて、相手がいなくなったからポーカーに移っただけだ。悪く思うな」

 絶望的なおじさんの告白。そんなの……無理じゃない……! なんで、子供なんだよ私達……! 嫌、逃げて、お願い……!

「ちょっとずつ楽しむのがいいんじゃなかったのか?」

 『あの方』が揚げ足を取る。たしかに先ほどと言っていることが違う気がする。違う、かな? もうよくわからない。

「……いいから座れ。勝ったほうが一〇〇〇ユーロ。先に言っとく。俺はポーカーの一〇倍はチェスで稼いでる。相手が悪かったな」

「……うーん……」

 鼻息の荒いおじさんだが、『あの方』は首を傾げて悩む。なにをしているんだろう、今更作戦なんて考えても無理。チェスは複雑なゲームなんだから、今から数秒考えたって勝ちの芽なんか出てこない。

「なんだ? なんでもありって言ったのはお前だ」

 もうチェスで戦うことは決まった。『あの方』も受けてしまった。せっかくポーカーで勝てたのに……! 全部、私のせいだ……ごめん、なさい……!

「でもなぁ……」

「なんだ?」

 『あの方』は、堂々と言い放った。

「あんたより一〇倍稼いでるヤツ、他にいない?」
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