66 / 209
exd5
66話
しおりを挟む
青に変わった信号を、ウルスラが進む。
それを二人の少女が、離れたビルとビルの隙間から、その姿を見ている。同じ学校の制服に身を包んでおり、ひとりはケーニギンクローネ女学院の模範生、シシー・リーフェンシュタール。もうひとりは、ひとつ下の学年、つまりウルスラと同じ年齢の少女、アリカ・ラットヴァイン。白衣のような丈の長い改造制服を身につけている。
「な? 消えてるだろ? 実験は成功だ。これでひとまずは区切り」
冷え切ったアリカの目は、ウルスラを追う。心の中で「ありがとね」と、ニヤけた笑顔で感謝を述べた。
訝しみつつ、シシーはアリカに問いかける。
「……どういう原理なんだ? 副作用なんかも気になるね」
ウルスラの辛い記憶を消す。というのは建前で、アリカの目的は『記憶を消す毒』を作り出すこと。その実験。モルモットに彼女を選んだ。そのために、彼女の恋心をシシーに利用してもらう。ただ、ギャンブルに依存してしまったのは想定外。
だが、よりよい研究結果が出た。前回からの改良が生かされた形。結果に満足したアリカは、シシーに教授する。
「まず、記憶というものは『タンパク質』だということ」
「どういうことだ?」
よくわからない説明に、その分野では無知なシシーは説明を求めた。
全生徒の憧れ、と言ってもいいシシー・リーフェンシュタールが、自分にすがる。その様に、笑みを浮かべてアリカは饒舌に語り出す。
「人間の記憶の機能というのはまだ、完全に解明されていないわけだが、脳の『ベータアドレナリン作動性受容体』という部分が関係している、と言われていてね」
脳のブラックボックス的なことを話すのは楽しい。いつか掻っ捌いて、ひとつひとつ疑問を実験で明らかにしたい。
全くついていけなさそうな話になると予想したシシーは、先に断りを入れておく。
「ま、深くは聞かないよ。どうせわからないし」
専門的な知識はない、できるだけ簡単によろしく、とアリカに依頼する。
それを聞き、アリカはニヤッと笑う。
「その受容体に、情報を持ったタンパク質が結合することで、脳にとどまる、それが記憶。くらいに覚えておけばいい。正確にはシナプスなどが関わってくるが、必要ない知識だ」
無意識に舌なめずりをする。内容は複雑だが、その表情は官能的で、脳や毒について話しているときは頬が赤らむ。
反対に、無表情で冷静にシシーは分析した。
「その特定のタンパク質を分解する、ということか」
ウルスラに与えた二種類の毒。それを思い出し、合点がいったようで納得した。
「そういうことだ。理解が早くて助かる。まず、最初の毒で徐々に消していく。一気に消すと、脳に障害が残る可能性があったからな。そして次の毒で完全に消去。完全に、と言っても、ここ数日くらいと思ってくれ」
「……薬として、大々的に売ればいいのに」
もったいない、とシシーが呟く。もし狙った記憶をピンポイントで消すことができれば、それこそノーベル賞かなにか貰えるのではないか。そしたら一生安泰なんじゃないか? 大儲けどころじゃないだろう。
しかし、ムッとしたアリカが反論する。
「こんなものが認可されるか。それに、アリカは薬が作りたいわけじゃない。最終的には毒として使用するためだ」
裏で取引される『毒』。なにも殺害するだけが目的ではない。様々な用途で需要を満たす。アリカにとっては、新たな毒の製造こそが生き甲斐。そのためには、シシーをも利用する。
それを二人の少女が、離れたビルとビルの隙間から、その姿を見ている。同じ学校の制服に身を包んでおり、ひとりはケーニギンクローネ女学院の模範生、シシー・リーフェンシュタール。もうひとりは、ひとつ下の学年、つまりウルスラと同じ年齢の少女、アリカ・ラットヴァイン。白衣のような丈の長い改造制服を身につけている。
「な? 消えてるだろ? 実験は成功だ。これでひとまずは区切り」
冷え切ったアリカの目は、ウルスラを追う。心の中で「ありがとね」と、ニヤけた笑顔で感謝を述べた。
訝しみつつ、シシーはアリカに問いかける。
「……どういう原理なんだ? 副作用なんかも気になるね」
ウルスラの辛い記憶を消す。というのは建前で、アリカの目的は『記憶を消す毒』を作り出すこと。その実験。モルモットに彼女を選んだ。そのために、彼女の恋心をシシーに利用してもらう。ただ、ギャンブルに依存してしまったのは想定外。
だが、よりよい研究結果が出た。前回からの改良が生かされた形。結果に満足したアリカは、シシーに教授する。
「まず、記憶というものは『タンパク質』だということ」
「どういうことだ?」
よくわからない説明に、その分野では無知なシシーは説明を求めた。
全生徒の憧れ、と言ってもいいシシー・リーフェンシュタールが、自分にすがる。その様に、笑みを浮かべてアリカは饒舌に語り出す。
「人間の記憶の機能というのはまだ、完全に解明されていないわけだが、脳の『ベータアドレナリン作動性受容体』という部分が関係している、と言われていてね」
脳のブラックボックス的なことを話すのは楽しい。いつか掻っ捌いて、ひとつひとつ疑問を実験で明らかにしたい。
全くついていけなさそうな話になると予想したシシーは、先に断りを入れておく。
「ま、深くは聞かないよ。どうせわからないし」
専門的な知識はない、できるだけ簡単によろしく、とアリカに依頼する。
それを聞き、アリカはニヤッと笑う。
「その受容体に、情報を持ったタンパク質が結合することで、脳にとどまる、それが記憶。くらいに覚えておけばいい。正確にはシナプスなどが関わってくるが、必要ない知識だ」
無意識に舌なめずりをする。内容は複雑だが、その表情は官能的で、脳や毒について話しているときは頬が赤らむ。
反対に、無表情で冷静にシシーは分析した。
「その特定のタンパク質を分解する、ということか」
ウルスラに与えた二種類の毒。それを思い出し、合点がいったようで納得した。
「そういうことだ。理解が早くて助かる。まず、最初の毒で徐々に消していく。一気に消すと、脳に障害が残る可能性があったからな。そして次の毒で完全に消去。完全に、と言っても、ここ数日くらいと思ってくれ」
「……薬として、大々的に売ればいいのに」
もったいない、とシシーが呟く。もし狙った記憶をピンポイントで消すことができれば、それこそノーベル賞かなにか貰えるのではないか。そしたら一生安泰なんじゃないか? 大儲けどころじゃないだろう。
しかし、ムッとしたアリカが反論する。
「こんなものが認可されるか。それに、アリカは薬が作りたいわけじゃない。最終的には毒として使用するためだ」
裏で取引される『毒』。なにも殺害するだけが目的ではない。様々な用途で需要を満たす。アリカにとっては、新たな毒の製造こそが生き甲斐。そのためには、シシーをも利用する。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
せんせいとおばさん
悠生ゆう
恋愛
創作百合
樹梨は小学校の教師をしている。今年になりはじめてクラス担任を持つことになった。毎日張り詰めている中、クラスの児童の流里が怪我をした。母親に連絡をしたところ、引き取りに現れたのは流里の叔母のすみ枝だった。樹梨は、飄々としたすみ枝に惹かれていく。
※学校の先生のお仕事の実情は知りませんので、間違っている部分がっあたらすみません。
義姉妹百合恋愛
沢谷 暖日
青春
姫川瑞樹はある日、母親を交通事故でなくした。
「再婚するから」
そう言った父親が1ヶ月後連れてきたのは、新しい母親と、美人で可愛らしい義理の妹、楓だった。
次の日から、唐突に楓が急に積極的になる。
それもそのはず、楓にとっての瑞樹は幼稚園の頃の初恋相手だったのだ。
※他サイトにも掲載しております
放課後の約束と秘密 ~温もり重ねる二人の時間~
楠富 つかさ
恋愛
中学二年生の佑奈は、母子家庭で家事をこなしながら日々を過ごしていた。友達はいるが、特別に誰かと深く関わることはなく、学校と家を行き来するだけの平凡な毎日。そんな佑奈に、同じクラスの大波多佳子が積極的に距離を縮めてくる。
佳子は華やかで、成績も良く、家は裕福。けれど両親は海外赴任中で、一人暮らしをしている。人懐っこい笑顔の裏で、彼女が抱えているのは、誰にも言えない「寂しさ」だった。
「ねぇ、明日から私の部屋で勉強しない?」
放課後、二人は図書室ではなく、佳子の部屋で過ごすようになる。最初は勉強のためだったはずが、いつの間にか、それはただ一緒にいる時間になり、互いにとってかけがえのないものになっていく。
――けれど、佑奈は思う。
「私なんかが、佳子ちゃんの隣にいていいの?」
特別になりたい。でも、特別になるのが怖い。
放課後、少しずつ距離を縮める二人の、静かであたたかな日々の物語。
4/6以降、8/31の完結まで毎週日曜日更新です。
〈社会人百合〉アキとハル
みなはらつかさ
恋愛
女の子拾いました――。
ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?
主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。
しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……?
絵:Novel AI
ママはヤンママ女子高生! ラン&ジュリー!!
オズ研究所《横須賀ストーリー紅白へ》
キャラ文芸
神崎ランの父親の再婚相手は幼馴染みで女子高生の高原ジュリーだった。
ジュリーは金髪美少女だが、地元では『ワイルドビーナス』の異名を取る有名なヤンキーだった。
学校ではジュリーは、ランを使いっ走りにしていた。
当然のようにアゴで使われたが、ジュリーは十八歳になったら結婚する事を告白した。
同級生のジュリーが結婚するなんて信じられない。
ランは密かにジュリーの事を憧れていたので、失恋した気分だ。
そう言えば、昨夜、ランの父親も再婚すると言っていた。
まさかとは思ったが、ランはジュリーに結婚相手を聞くと、ランの父親だと判明した。
その夜、改めて父親とジュリーのふたりは結婚すると報告された。
こうしてジュリーとの同居が決まった。
しかもジュリーの母親、エリカも現われ、ランの家は賑やかになった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる