Giftbiene【ギフトビーネ】

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66話

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 青に変わった信号を、ウルスラが進む。

 それを二人の少女が、離れたビルとビルの隙間から、その姿を見ている。同じ学校の制服に身を包んでおり、ひとりはケーニギンクローネ女学院の模範生、シシー・リーフェンシュタール。もうひとりは、ひとつ下の学年、つまりウルスラと同じ年齢の少女、アリカ・ラットヴァイン。白衣のような丈の長い改造制服を身につけている。

「な? 消えてるだろ? 実験は成功だ。これでひとまずは区切り」

 冷え切ったアリカの目は、ウルスラを追う。心の中で「ありがとね」と、ニヤけた笑顔で感謝を述べた。

 訝しみつつ、シシーはアリカに問いかける。

「……どういう原理なんだ? 副作用なんかも気になるね」
 
 ウルスラの辛い記憶を消す。というのは建前で、アリカの目的は『記憶を消す毒』を作り出すこと。その実験。モルモットに彼女を選んだ。そのために、彼女の恋心をシシーに利用してもらう。ただ、ギャンブルに依存してしまったのは想定外。

 だが、よりよい研究結果が出た。前回からの改良が生かされた形。結果に満足したアリカは、シシーに教授する。

「まず、記憶というものは『タンパク質』だということ」

「どういうことだ?」

 よくわからない説明に、その分野では無知なシシーは説明を求めた。

 全生徒の憧れ、と言ってもいいシシー・リーフェンシュタールが、自分にすがる。その様に、笑みを浮かべてアリカは饒舌に語り出す。

「人間の記憶の機能というのはまだ、完全に解明されていないわけだが、脳の『ベータアドレナリン作動性受容体』という部分が関係している、と言われていてね」

 脳のブラックボックス的なことを話すのは楽しい。いつか掻っ捌いて、ひとつひとつ疑問を実験で明らかにしたい。

 全くついていけなさそうな話になると予想したシシーは、先に断りを入れておく。

「ま、深くは聞かないよ。どうせわからないし」

 専門的な知識はない、できるだけ簡単によろしく、とアリカに依頼する。

 それを聞き、アリカはニヤッと笑う。

「その受容体に、情報を持ったタンパク質が結合することで、脳にとどまる、それが記憶。くらいに覚えておけばいい。正確にはシナプスなどが関わってくるが、必要ない知識だ」

 無意識に舌なめずりをする。内容は複雑だが、その表情は官能的で、脳や毒について話しているときは頬が赤らむ。

 反対に、無表情で冷静にシシーは分析した。

「その特定のタンパク質を分解する、ということか」

 ウルスラに与えた二種類の毒。それを思い出し、合点がいったようで納得した。

「そういうことだ。理解が早くて助かる。まず、最初の毒で徐々に消していく。一気に消すと、脳に障害が残る可能性があったからな。そして次の毒で完全に消去。完全に、と言っても、ここ数日くらいと思ってくれ」

「……薬として、大々的に売ればいいのに」

 もったいない、とシシーが呟く。もし狙った記憶をピンポイントで消すことができれば、それこそノーベル賞かなにか貰えるのではないか。そしたら一生安泰なんじゃないか? 大儲けどころじゃないだろう。

 しかし、ムッとしたアリカが反論する。

「こんなものが認可されるか。それに、アリカは薬が作りたいわけじゃない。最終的には毒として使用するためだ」

 裏で取引される『毒』。なにも殺害するだけが目的ではない。様々な用途で需要を満たす。アリカにとっては、新たな毒の製造こそが生き甲斐。そのためには、シシーをも利用する。
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