Giftbiene【ギフトビーネ】

文字の大きさ
120 / 209
Nc3

120話

しおりを挟む
 ベルリンはミッテ区。『中央』を意味するこの区は、ベルリン大聖堂やブランデンブルク門など、観光地として人気のある区である。比較的物価も高い場所ではあるが、当然住宅街もあれば公園もあるし学校もある。そして、暗く風通しの悪い裏通りに、廃墟のようなクナイペも。

「来てくれてありがとう」

 手を振ってジルフィアは出迎えた。先に一杯ひっかけている。

 廃墟というのは比喩ではなく、実際にそうだったから。ハンガリーなどでは流行した廃墟バー。それをベルリンでも取り入れた結果、コアな人気を博して知る人ぞ知る名店。壁には落書きだらけ、イスもテーブルもサイズや種類がまちまち。だが、そのラフさが人気の秘密でもある。

 店内だというのにネオン煌めく空間。壁には様々な破れかけた広告やステッカーなどが貼られ、治安の悪さをイメージさせる。壁側のベンチ、ラウンドテーブル、木製のイスという、ちぐはぐな席を確保している。

 ベンチに座ったジルフィアの前に立ち、私服に身を包んだシシーは携帯の画面を見せた。

「ジルフィア・オーバードルフさんだね。このメールはどういうこと?」

 そこには《チェスでもどう?》という一文と、この場所の地図。だが雰囲気から察するに、ただ遊ぼう、というのとはかけ離れた空間。

 ふふ、っと笑ってジルフィアは着席を促す。

「そのままの意味です。賭けチェスなんて、シシーさんからは想像できなくて。でも安心して。誰にも言うつもりもないし、言うなんて勿体無い」

 いきなり秘密を暴露する。どうせ誰も聞いてないし、酔ったヤツらだらけ。だからこの場所を選んだ。お気に入りなんだけど、あなたにも教えてあげるよ。

「勿体無い?」

 目を細めたシシーは訝しむ。数回話したことがある程度の人物にしては、距離感の近さが気になる。なにを考えている?

 ビールを含んだジルフィアの口元。そのまま飲み干すと饒舌に語る。

「そうでしょう? だって、みんな知らないことを知っている優越感。それを言いふらすなんて。自分の楽しみを奪うようなもの。できるわけないよね?」

 同意を求めるが、温度差がある。今から秘密のパーティーでも始めるかという、元気なジルフィアに対して、シシーはスポーツクラブの帰りかのように疲弊している。気疲れ。

 いつまでも立っているのも目立つ。座るシシーの目の炎は、揺らいで消えかけている。

「別に。言うなら言うでいいさ。いつかはバレると思っていたし、それならそれで。それに——」

「それに?」

 今日初めて長い一文を喋るシシーに、ジルフィアは興味津々と相槌を打つ。そんな顔もいいね。緑、紫、オレンジなどの粗悪な灯りでさえ、高級な間接照明に思えてきた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

百合短編集

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

せんせいとおばさん

悠生ゆう
恋愛
創作百合 樹梨は小学校の教師をしている。今年になりはじめてクラス担任を持つことになった。毎日張り詰めている中、クラスの児童の流里が怪我をした。母親に連絡をしたところ、引き取りに現れたのは流里の叔母のすみ枝だった。樹梨は、飄々としたすみ枝に惹かれていく。 ※学校の先生のお仕事の実情は知りませんので、間違っている部分がっあたらすみません。

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

義姉妹百合恋愛

沢谷 暖日
青春
姫川瑞樹はある日、母親を交通事故でなくした。 「再婚するから」 そう言った父親が1ヶ月後連れてきたのは、新しい母親と、美人で可愛らしい義理の妹、楓だった。 次の日から、唐突に楓が急に積極的になる。 それもそのはず、楓にとっての瑞樹は幼稚園の頃の初恋相手だったのだ。 ※他サイトにも掲載しております

放課後の約束と秘密 ~温もり重ねる二人の時間~

楠富 つかさ
恋愛
 中学二年生の佑奈は、母子家庭で家事をこなしながら日々を過ごしていた。友達はいるが、特別に誰かと深く関わることはなく、学校と家を行き来するだけの平凡な毎日。そんな佑奈に、同じクラスの大波多佳子が積極的に距離を縮めてくる。  佳子は華やかで、成績も良く、家は裕福。けれど両親は海外赴任中で、一人暮らしをしている。人懐っこい笑顔の裏で、彼女が抱えているのは、誰にも言えない「寂しさ」だった。  「ねぇ、明日から私の部屋で勉強しない?」  放課後、二人は図書室ではなく、佳子の部屋で過ごすようになる。最初は勉強のためだったはずが、いつの間にか、それはただ一緒にいる時間になり、互いにとってかけがえのないものになっていく。  ――けれど、佑奈は思う。 「私なんかが、佳子ちゃんの隣にいていいの?」  特別になりたい。でも、特別になるのが怖い。  放課後、少しずつ距離を縮める二人の、静かであたたかな日々の物語。 4/6以降、8/31の完結まで毎週日曜日更新です。

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

ママはヤンママ女子高生! ラン&ジュリー!!

オズ研究所《横須賀ストーリー紅白へ》
キャラ文芸
神崎ランの父親の再婚相手は幼馴染みで女子高生の高原ジュリーだった。 ジュリーは金髪美少女だが、地元では『ワイルドビーナス』の異名を取る有名なヤンキーだった。 学校ではジュリーは、ランを使いっ走りにしていた。 当然のようにアゴで使われたが、ジュリーは十八歳になったら結婚する事を告白した。 同級生のジュリーが結婚するなんて信じられない。 ランは密かにジュリーの事を憧れていたので、失恋した気分だ。 そう言えば、昨夜、ランの父親も再婚すると言っていた。 まさかとは思ったが、ランはジュリーに結婚相手を聞くと、ランの父親だと判明した。  その夜、改めて父親とジュリーのふたりは結婚すると報告された。 こうしてジュリーとの同居が決まった。 しかもジュリーの母親、エリカも現われ、ランの家は賑やかになった。

処理中です...