Sonora 【ソノラ】

文字の大きさ
75 / 235
アフェッツオーソ

75話

しおりを挟む
 それを温かい目で見守っていたシャルルが事態の締めくくりを察すると、傍らでその姉はセシルのように無言で待ち構えていた。

 その様子を一瞥し、なんなんだか、とシャルルは頭を抱える。

「そうか? まあ期待もしていなかったがな」

 しかしその悠然とした口ぶりとは裏腹に、舌打ちの音が小さく存在する。こういったときにも羽目を外さないシャルルの落ち着きぶりを評価するとともに、ベアトリスは少し苛立ちを覚えているのもまた事実。そこから生じたスタッカート。

「期待されても困るけどね。姉さんに優しくされると、なんか調子狂いそうだし」

 常に偉そう、それがシャルルの姉に対する見解である。優しさの形もねじれたものが大半であったゆえ、普通の優しさは少々手に余るものを感じる。なにか裏がある、そう考えるのが悲しき反射となっていた。

「狂われてもこっちも困る。今晩や明日の食事やら掃除やらと」

「やっぱ楽してるだけだと思う……」

「聞こえんな」

 まだ泣き止む気配のないベルをあやしたまま、視線だけをセシルは二人に転ずる。

「ところでベアトリスさん。私にも敬語じゃない喋り方をしてもらってもいいかしら。自分が話すならともかく、どうも敬語で話されるっていうのが苦手で。できればシャルル君にもそうしてもらいたいのだけれど……」

「申し訳ありません、お客様に対してはこの口調を貫いていますので。弟は口癖みたいになっていますが」

 その提案は受け入れられない、と、ベアトリスはやんわりと断りを入れる。彼女は家族や友人、店の従業員といった、ある種の親しさを持ち合わせた場合のみ、謙遜とは遥かかけ離れた態度を示すのだが、お客様に対してそのようなことはできない。それが彼女の流儀であり、サービス業としては当然である。それゆえ、セシルはお客様というカテゴリにある以上、それを飲むことは出来ないのである。

「じゃあ私を『生徒の母』と思ってくれればいいわ。友達感覚。それならなんとかならない?」

 しかし食い下がり、引く気配を見せないそのセシルの姿勢に、『お客様第一』という理念の下、ベアトリスはその要求の受け入れを承諾した。なにより、やはりどちらかというと無理をして語を整えているため、多少のむず痒さを覚えていたのである。

「そうか、実は私も敬語は好かんでな。こっちの喋り方のがいい。娘さんも最初から特にお客様としては扱わなかったしな」

「切り替え早っ。あの、僕は……」

 その姉とは似通っているが、姉以外にはすべて敬語で話すことが癖になっているシャルルは、どうしても気後れしてしまい、語尾を細くしてしまう。慇懃な態度の最後には「申し訳ありません」という謝罪の声が隠れていた。それを脳内で補い、セシルは慌てて言い繕う。

「いいのよ、私のわがままなんだから。じゃあ、普段どおりに喋ってくれるかしら」

「はい、わかりました。普段どおり、というかさっきまでと変わりませんけど」

 お許しが出てシャルルはぱっと声を弾ませた。もし彼に尻尾というものがあれば、緩やかに振っていただろう、というほどの明瞭さがそこからにじみ出ていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

後宮の偽花妃 国を追われた巫女見習いは宦官になる

gari@七柚カリン
キャラ文芸
旧題:国を追われた巫女見習いは、隣国の後宮で二重に花開く ☆4月上旬に書籍発売です。たくさんの応援をありがとうございました!☆ 植物を慈しむ巫女見習いの凛月には、二つの秘密がある。それは、『植物の心がわかること』『見目が変化すること』。  そんな凛月は、次期巫女を侮辱した罪を着せられ国外追放されてしまう。  心機一転、紹介状を手に向かったのは隣国の都。そこで偶然知り合ったのは、高官の峰風だった。  峰風の取次ぎで紹介先の人物との対面を果たすが、提案されたのは後宮内での二つの仕事。ある時は引きこもり後宮妃(欣怡)として巫女の務めを果たし、またある時は、少年宦官(子墨)として庭園管理の仕事をする、忙しくも楽しい二重生活が始まった。  仕事中に秘密の能力を活かし活躍したことで、子墨は女嫌いの峰風の助手に抜擢される。女であること・巫女であることを隠しつつ助手の仕事に邁進するが、これがきっかけとなり、宮廷内の様々な騒動に巻き込まれていく。

診察室の午後<菜の花の丘編>その1

スピカナ
恋愛
神的イケメン医師・北原春樹と、病弱で天才的なアーティストである妻・莉子。 そして二人を愛してしまったイケメン御曹司・浅田夏輝。 「菜の花クリニック」と「サテライトセンター」を舞台に、三人の愛と日常が描かれます。 時に泣けて、時に笑える――溺愛とBL要素を含む、ほのぼの愛の物語。 多くのスタッフの人生がここで楽しく花開いていきます。 この小説は「医師の兄が溺愛する病弱な義妹を毎日診察する甘~い愛の物語」の1000話以降の続編です。 ※医学描写はすべて架空です。

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

17歳男子高生と32歳主婦の境界線

MisakiNonagase
恋愛
32歳主婦のカレンはインスタグラムで20歳大学生の晴人と知り合う。親密な関係となった3度目のデートのときに、晴人が実は17歳の高校2年生だと知る。 カレンと晴人はその後、どうなる?

処理中です...