64 / 223
必要と不要。
64話
しおりを挟む
「エンターテイメント……ですか?」
漠然とした答えに、アニーはきょとんとする。なにかワァーっとするものだということはわかるのだが、範囲が広く、うまく飲み込めない。インド映画みたいに踊るとかっスか?
まず、その理由を発案者であるユリアーネが説明する。
「はい、やはりSNSというものを味方につけたほうが、これから生き抜いていける、という風に感じました」
それがここ最近、そして昨日、他店舗へ偵察に行き感じたこと。売上を伸ばすことはつまり、客数を増やすことと同意。まずは分母を増やすことを第一に。単価はそれからだ。
「それとエンターテイメント、どういう繋がりが?」
なんとなくわかってはいるのだが、若者達の成長を促すため、ダーシャはあえて質問を投げかける。カフェはどちらかというと、落ち着きの場所。そこへ娯楽の投入。果たして。
それに対する答えも、ユリアーネは持ち合わせてきた。
「カフェである以上、『美味しい』というものを目指すのは大事ですが、それ以上に『美味しそう』『楽しそう』と客観的に見ても、この店に行きたいと思えるような、なにかが必要なのでは、と」
味というものは、飲み手による主観の感想となってしまうため、どうしても他者には伝わりづらい点がある。『こんな風に』『○○のように』と言われても、人によって感性が異なるからだ。
しかし、写真や映像、もしくは大雑把でも、特殊なことをやっていると文章で知ることができれば、受け手が自由に解釈することができるため、それぞれの理由で来店する理由となる。
「なるほど。それがエンターテイメントね。例えばラテアートであれば、海外からの観光客にもわかりやすいからね。ありだとは思う。ただ……」
一定の理解はしつつも、ダーシャは語尾を窄める。
「どちらかといえば、ウチは『隠れ家』的なスポットとして、利用されることが多いからね。森、っていうコンセプトと店名だし」
ヴァルトは森を意味する。そこでひっそりとした非日常を味わうことが、現在の店の方向性だ。いきなり森の中でカーニバルをするような変更は、常連客にも戸惑いを与えかねない。
そういえば、とアニーがひとつ閃く。
「エンターテイメントといえば、前に森の動物のマスクつけてやったことありました。ホールだけでしたけど」
過去のチャレンジを思い出す。森、ということはつまり動物、ということで店員だけ少し特殊になったこと。ありましたねぇ、としみじみと感傷に浸る。
「マスク?」
なにやらおかしなことを、と思いつつも、ユリアーネは一応は内容の把握に努める。
漠然とした答えに、アニーはきょとんとする。なにかワァーっとするものだということはわかるのだが、範囲が広く、うまく飲み込めない。インド映画みたいに踊るとかっスか?
まず、その理由を発案者であるユリアーネが説明する。
「はい、やはりSNSというものを味方につけたほうが、これから生き抜いていける、という風に感じました」
それがここ最近、そして昨日、他店舗へ偵察に行き感じたこと。売上を伸ばすことはつまり、客数を増やすことと同意。まずは分母を増やすことを第一に。単価はそれからだ。
「それとエンターテイメント、どういう繋がりが?」
なんとなくわかってはいるのだが、若者達の成長を促すため、ダーシャはあえて質問を投げかける。カフェはどちらかというと、落ち着きの場所。そこへ娯楽の投入。果たして。
それに対する答えも、ユリアーネは持ち合わせてきた。
「カフェである以上、『美味しい』というものを目指すのは大事ですが、それ以上に『美味しそう』『楽しそう』と客観的に見ても、この店に行きたいと思えるような、なにかが必要なのでは、と」
味というものは、飲み手による主観の感想となってしまうため、どうしても他者には伝わりづらい点がある。『こんな風に』『○○のように』と言われても、人によって感性が異なるからだ。
しかし、写真や映像、もしくは大雑把でも、特殊なことをやっていると文章で知ることができれば、受け手が自由に解釈することができるため、それぞれの理由で来店する理由となる。
「なるほど。それがエンターテイメントね。例えばラテアートであれば、海外からの観光客にもわかりやすいからね。ありだとは思う。ただ……」
一定の理解はしつつも、ダーシャは語尾を窄める。
「どちらかといえば、ウチは『隠れ家』的なスポットとして、利用されることが多いからね。森、っていうコンセプトと店名だし」
ヴァルトは森を意味する。そこでひっそりとした非日常を味わうことが、現在の店の方向性だ。いきなり森の中でカーニバルをするような変更は、常連客にも戸惑いを与えかねない。
そういえば、とアニーがひとつ閃く。
「エンターテイメントといえば、前に森の動物のマスクつけてやったことありました。ホールだけでしたけど」
過去のチャレンジを思い出す。森、ということはつまり動物、ということで店員だけ少し特殊になったこと。ありましたねぇ、としみじみと感傷に浸る。
「マスク?」
なにやらおかしなことを、と思いつつも、ユリアーネは一応は内容の把握に努める。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】私の事は気にせずに、そのままイチャイチャお続け下さいませ ~私も婚約解消を目指して頑張りますから~
山葵
恋愛
ガルス侯爵家の令嬢である わたくしミモルザには、婚約者がいる。
この国の宰相である父を持つ、リブルート侯爵家嫡男レイライン様。
父同様、優秀…と期待されたが、顔は良いが頭はイマイチだった。
顔が良いから、女性にモテる。
わたくしはと言えば、頭は、まぁ優秀な方になるけれど、顔は中の上位!?
自分に釣り合わないと思っているレイラインは、ミモルザの見ているのを知っていて今日も美しい顔の令嬢とイチャイチャする。
*沢山の方に読んで頂き、ありがとうございます。m(_ _)m
さようならの定型文~身勝手なあなたへ
宵森みなと
恋愛
「好きな女がいる。君とは“白い結婚”を——」
――それは、夢にまで見た結婚式の初夜。
額に誓いのキスを受けた“その夜”、彼はそう言った。
涙すら出なかった。
なぜなら私は、その直前に“前世の記憶”を思い出したから。
……よりによって、元・男の人生を。
夫には白い結婚宣言、恋も砕け、初夜で絶望と救済で、目覚めたのは皮肉にも、“現実”と“前世”の自分だった。
「さようなら」
だって、もう誰かに振り回されるなんて嫌。
慰謝料もらって悠々自適なシングルライフ。
別居、自立して、左団扇の人生送ってみせますわ。
だけど元・夫も、従兄も、世間も――私を放ってはくれないみたい?
「……何それ、私の人生、まだ波乱あるの?」
はい、あります。盛りだくさんで。
元・男、今・女。
“白い結婚からの離縁”から始まる、人生劇場ここに開幕。
-----『白い結婚の行方』シリーズ -----
『白い結婚の行方』の物語が始まる、前のお話です。
【完結】旦那様、離縁後は侍女として雇って下さい!
ひかり芽衣
恋愛
男爵令嬢のマリーは、バツイチで気難しいと有名のタングール伯爵と結婚させられた。
数年後、マリーは結婚生活に不満を募らせていた。
子供達と離れたくないために我慢して結婚生活を続けていたマリーは、更に、男児が誕生せずに義母に嫌味を言われる日々。
そんなある日、ある出来事がきっかけでマリーは離縁することとなる。
離婚を迫られるマリーは、子供達と離れたくないと侍女として雇って貰うことを伯爵に頼むのだった……
侍女として働く中で見えてくる伯爵の本来の姿。そしてマリーの心は変化していく……
そんな矢先、伯爵の新たな婚約者が屋敷へやって来た。
そして、伯爵はマリーへ意外な提案をして……!?
※毎日投稿&完結を目指します
※毎朝6時投稿
※2023.6.22完結
立花家へようこそ!
由奈(YUNA)
ライト文芸
私が出会ったのは立花家の7人家族でした・・・――――
これは、内気な私が成長していく物語。
親の仕事の都合でお世話になる事になった立花家は、楽しくて、暖かくて、とっても優しい人達が暮らす家でした。
甘過ぎるオフィスで塩過ぎる彼と・・・
希花 紀歩
恋愛
24時間二人きりで甘~い💕お仕事!?
『膝の上に座って。』『悪いけど仕事の為だから。』
小さな翻訳会社でアシスタント兼翻訳チェッカーとして働く風永 唯仁子(かざなが ゆにこ)(26)は頼まれると断れない性格。
ある日社長から、急ぎの翻訳案件の為に翻訳者と同じ家に缶詰になり作業を進めるように命令される。気が進まないものの、この案件を無事仕上げることが出来れば憧れていた翻訳コーディネーターになれると言われ、頑張ろうと心を決める。
しかし翻訳者・若泉 透葵(わかいずみ とき)(28)は美青年で優秀な翻訳者であるが何を考えているのかわからない。
彼のベッドが置かれた部屋で二人きりで甘い恋愛シミュレーションゲームの翻訳を進めるが、透葵は翻訳の参考にする為と言って、唯仁子にあれやこれやのスキンシップをしてきて・・・!?
過去の恋愛のトラウマから仕事関係の人と恋愛関係になりたくない唯仁子と、恋愛はくだらないものだと思っている透葵だったが・・・。
*導入部分は説明部分が多く退屈かもしれませんが、この物語に必要な部分なので、こらえて読み進めて頂けると有り難いです。
<表紙イラスト>
男女:わかめサロンパス様
背景:アート宇都宮様
灰かぶりの姉
吉野 那生
恋愛
父の死後、母が連れてきたのは優しそうな男性と可愛い女の子だった。
「今日からあなたのお父さんと妹だよ」
そう言われたあの日から…。
* * *
『ソツのない彼氏とスキのない彼女』のスピンオフ。
国枝 那月×野口 航平の過去編です。
四人の令嬢と公爵と
オゾン層
恋愛
「貴様らのような田舎娘は性根が腐っている」
ガルシア辺境伯の令嬢である4人の姉妹は、アミーレア国の王太子の婚約候補者として今の今まで王太子に尽くしていた。国王からも認められた有力な婚約候補者であったにも関わらず、無知なロズワート王太子にある日婚約解消を一方的に告げられ、挙げ句の果てに同じく婚約候補者であったクラシウス男爵の令嬢であるアレッサ嬢の企みによって冤罪をかけられ、隣国を治める『化物公爵』の婚約者として輿入という名目の国外追放を受けてしまう。
人間以外の種族で溢れた隣国ベルフェナールにいるとされる化物公爵ことラヴェルト公爵の兄弟はその恐ろしい容姿から他国からも黒い噂が絶えず、ガルシア姉妹は怯えながらも覚悟を決めてベルフェナール国へと足を踏み入れるが……
「おはよう。よく眠れたかな」
「お前すごく可愛いな!!」
「花がよく似合うね」
「どうか今日も共に過ごしてほしい」
彼らは見た目に反し、誠実で純愛な兄弟だった。
一方追放を告げられたアミーレア王国では、ガルシア辺境伯令嬢との婚約解消を聞きつけた国王がロズワート王太子に対して右ストレートをかましていた。
※初ジャンルの小説なので不自然な点が多いかもしれませんがご了承ください
静かなる公爵令嬢と不貞な王子~婚約破棄の代償は国家転覆の危機?~
岡暁舟
恋愛
第一王子スミスと公爵令嬢アリエッタの物語。婚約破棄したスミスの代償は、アリエッタの兄:若き陸軍士官オングリザによる国家転覆計画だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる