137 / 223
ショコラーデと紅茶。
137話
しおりを挟む
クルト・シェーネマン。その名前にダーシャも聞き覚えがある。
「……え? あの、ショコラティエで有名な? あの?」
同じ区でもないが、三〇歳という若さで自身の店を持ち、フランスにおいてM.O.Fを獲得した、ショコラーデ界で今、最も勢いがあると言ってもいい人物だ。その人物が今いる? 顔はよく知らなかったので気づかなかったし、見えなかった。
チラチラとその壁際の席を確認しながら、ユリアーネは意味もなく声をひそめる。
「間違いありません。一度、お店のほうに伺ったことがあります。なぜここに……?」
ただの休憩、と受け取っていいのだろうか。カフェとショコラトリー。客層が被らないこともないだろうが、まさか偵察ということもないだろう。気にしすぎか、と非常に息遣いが荒くなる。なにせ彼女はクルトのショコラーデの大ファンだ。新作の紅茶のショコラーデももちろん堪能した。
「……てことは、おそらくアニーちゃんを呼んだのはマクシミリアンさんだとして、それと一緒ってことは……」
点と点が繋がる……ような気はしないのだが、ダーシャはそこにアニーが関わってくるとなると、ややこしいことになるのでは、と心臓がキュッとなる。胃薬を常備はしているが、果たして出番がないように済むだろうか。
興奮と、不安と。複雑な心境でユリアーネは見守るしかない。
「……たまたま、かもしれませんが、アニーさんに用があるということ、でしょうか」
なぜ? 引き抜き……はないだろう。製菓学校を出ているわけでもない。売り場での接客のためにわざわざ、ということは考えにくいから。とすると、まさかウチの店とコラボ……なんてことになったら……!
どちらかというと良い方向に物事を考えるユリアーネに対して、ダーシャは慎重だ。悪いふうに考えておいて、ダメージを軽減する性格。
「なにか試されている、のかな……? いや、本当にただカフェに来ただけかもしれないし——」
「なーに悪いことを企んでるんスか。働きましょう」
紅茶を淹れている最中のアニーが、ユリアーネに背後から抱きつきつつ、話に割り込む。ベースはシンプルなストレート。待ってる間は暇。そうなると彼女の元に行くのは必然。
驚きつつも、いつも通りのアニーがダーシャは気になる。
「いつの間に。てかアニーちゃん、あの人が誰か知ってるの?」
メディアなどでも取り上げられることもある人物。紅茶のショコラを生み出し、それも評判の高いショコラティエ。紅茶だし、もしかして?
若干テンションの上がったダーシャに、アニーは疑念を抱く。
「? なに言ってるんスか? マクシミリアンさんじゃないですか。ヒゲに全部ブドウ糖持ってかれたんスか?」
やっぱりあっちが本体だったんスか……と、残念がる。まさか常連さんさえも忘れてしまうなんて。
「……え? あの、ショコラティエで有名な? あの?」
同じ区でもないが、三〇歳という若さで自身の店を持ち、フランスにおいてM.O.Fを獲得した、ショコラーデ界で今、最も勢いがあると言ってもいい人物だ。その人物が今いる? 顔はよく知らなかったので気づかなかったし、見えなかった。
チラチラとその壁際の席を確認しながら、ユリアーネは意味もなく声をひそめる。
「間違いありません。一度、お店のほうに伺ったことがあります。なぜここに……?」
ただの休憩、と受け取っていいのだろうか。カフェとショコラトリー。客層が被らないこともないだろうが、まさか偵察ということもないだろう。気にしすぎか、と非常に息遣いが荒くなる。なにせ彼女はクルトのショコラーデの大ファンだ。新作の紅茶のショコラーデももちろん堪能した。
「……てことは、おそらくアニーちゃんを呼んだのはマクシミリアンさんだとして、それと一緒ってことは……」
点と点が繋がる……ような気はしないのだが、ダーシャはそこにアニーが関わってくるとなると、ややこしいことになるのでは、と心臓がキュッとなる。胃薬を常備はしているが、果たして出番がないように済むだろうか。
興奮と、不安と。複雑な心境でユリアーネは見守るしかない。
「……たまたま、かもしれませんが、アニーさんに用があるということ、でしょうか」
なぜ? 引き抜き……はないだろう。製菓学校を出ているわけでもない。売り場での接客のためにわざわざ、ということは考えにくいから。とすると、まさかウチの店とコラボ……なんてことになったら……!
どちらかというと良い方向に物事を考えるユリアーネに対して、ダーシャは慎重だ。悪いふうに考えておいて、ダメージを軽減する性格。
「なにか試されている、のかな……? いや、本当にただカフェに来ただけかもしれないし——」
「なーに悪いことを企んでるんスか。働きましょう」
紅茶を淹れている最中のアニーが、ユリアーネに背後から抱きつきつつ、話に割り込む。ベースはシンプルなストレート。待ってる間は暇。そうなると彼女の元に行くのは必然。
驚きつつも、いつも通りのアニーがダーシャは気になる。
「いつの間に。てかアニーちゃん、あの人が誰か知ってるの?」
メディアなどでも取り上げられることもある人物。紅茶のショコラを生み出し、それも評判の高いショコラティエ。紅茶だし、もしかして?
若干テンションの上がったダーシャに、アニーは疑念を抱く。
「? なに言ってるんスか? マクシミリアンさんじゃないですか。ヒゲに全部ブドウ糖持ってかれたんスか?」
やっぱりあっちが本体だったんスか……と、残念がる。まさか常連さんさえも忘れてしまうなんて。
0
あなたにおすすめの小説
立花家へようこそ!
由奈(YUNA)
ライト文芸
私が出会ったのは立花家の7人家族でした・・・――――
これは、内気な私が成長していく物語。
親の仕事の都合でお世話になる事になった立花家は、楽しくて、暖かくて、とっても優しい人達が暮らす家でした。
消えない思い
樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。
高校3年生 矢野浩二 α
高校3年生 佐々木裕也 α
高校1年生 赤城要 Ω
赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。
自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。
そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。
でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。
彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。
そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。
灰かぶりの姉
吉野 那生
恋愛
父の死後、母が連れてきたのは優しそうな男性と可愛い女の子だった。
「今日からあなたのお父さんと妹だよ」
そう言われたあの日から…。
* * *
『ソツのない彼氏とスキのない彼女』のスピンオフ。
国枝 那月×野口 航平の過去編です。
Take On Me
マン太
BL
親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。
初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。
岳とも次第に打ち解ける様になり…。
軽いノリのお話しを目指しています。
※BLに分類していますが軽めです。
※他サイトへも掲載しています。
老聖女の政略結婚
那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。
六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。
しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。
相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。
子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。
穏やかな余生か、嵐の老後か――
四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。
四人の令嬢と公爵と
オゾン層
恋愛
「貴様らのような田舎娘は性根が腐っている」
ガルシア辺境伯の令嬢である4人の姉妹は、アミーレア国の王太子の婚約候補者として今の今まで王太子に尽くしていた。国王からも認められた有力な婚約候補者であったにも関わらず、無知なロズワート王太子にある日婚約解消を一方的に告げられ、挙げ句の果てに同じく婚約候補者であったクラシウス男爵の令嬢であるアレッサ嬢の企みによって冤罪をかけられ、隣国を治める『化物公爵』の婚約者として輿入という名目の国外追放を受けてしまう。
人間以外の種族で溢れた隣国ベルフェナールにいるとされる化物公爵ことラヴェルト公爵の兄弟はその恐ろしい容姿から他国からも黒い噂が絶えず、ガルシア姉妹は怯えながらも覚悟を決めてベルフェナール国へと足を踏み入れるが……
「おはよう。よく眠れたかな」
「お前すごく可愛いな!!」
「花がよく似合うね」
「どうか今日も共に過ごしてほしい」
彼らは見た目に反し、誠実で純愛な兄弟だった。
一方追放を告げられたアミーレア王国では、ガルシア辺境伯令嬢との婚約解消を聞きつけた国王がロズワート王太子に対して右ストレートをかましていた。
※初ジャンルの小説なので不自然な点が多いかもしれませんがご了承ください
【完結】旦那様、離縁後は侍女として雇って下さい!
ひかり芽衣
恋愛
男爵令嬢のマリーは、バツイチで気難しいと有名のタングール伯爵と結婚させられた。
数年後、マリーは結婚生活に不満を募らせていた。
子供達と離れたくないために我慢して結婚生活を続けていたマリーは、更に、男児が誕生せずに義母に嫌味を言われる日々。
そんなある日、ある出来事がきっかけでマリーは離縁することとなる。
離婚を迫られるマリーは、子供達と離れたくないと侍女として雇って貰うことを伯爵に頼むのだった……
侍女として働く中で見えてくる伯爵の本来の姿。そしてマリーの心は変化していく……
そんな矢先、伯爵の新たな婚約者が屋敷へやって来た。
そして、伯爵はマリーへ意外な提案をして……!?
※毎日投稿&完結を目指します
※毎朝6時投稿
※2023.6.22完結
🥕おしどり夫婦として12年間の結婚生活を過ごしてきたが一波乱あり、妻は夫を誰かに譲りたくなるのだった。
設楽理沙
ライト文芸
☘ 累計ポイント/ 190万pt 超えました。ありがとうございます。
―― 備忘録 ――
第8回ライト文芸大賞では大賞2位ではじまり2位で終了。 最高 57,392 pt
〃 24h/pt-1位ではじまり2位で終了。 最高 89,034 pt
◇ ◇ ◇ ◇
紳士的でいつだって私や私の両親にやさしくしてくれる
素敵な旦那さま・・だと思ってきたのに。
隠された夫の一面を知った日から、眞奈の苦悩が
始まる。
苦しくて、悲しくてもののすごく惨めで・・
消えてしまいたいと思う眞奈は小さな子供のように
大きな声で泣いた。
泣きながらも、よろけながらも、気がつけば
大地をしっかりと踏みしめていた。
そう、立ち止まってなんていられない。
☆-★-☆-★+☆-★-☆-★+☆-★-☆-★
2025.4.19☑~
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる