14 Glück【フィアツェーン グリュック】

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蜂蜜と毒。

172話

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 曖昧な表現にも関わらず、サラッと受け付けたことにララは感嘆しつつ、手を振る。
 
「よろしくね」

 さて、コーヒーなのか紅茶なのか。予想はコーヒー。なんとなく強そうだし。

 ちょっとした所作すらサマになる女性に、ユリアーネは目眩さえ感じてくる。

「ではお待ちください」

 終始笑顔は崩さないが、内心はヒヤヒヤする。同性ではあるが、反応に困ってしまうから。

 去っていくユリアーネの後ろ姿も、ララは消えるまで追いかける。思いがけない場所でいい子を見つけた。

「ふふ、可愛い」
 
 なんとなく背中に寒気を感じつつも、キッチンに到着したユリアーネ。少しの間ボーッと調理作業を進めるダーシャを見ながら、強くなりたい人のための紅茶かコーヒーをセレクトする。が、当然出てこない。

(……どうしましょう。ダメですね、やっぱり浮かれています……ですが、引き受けてしまった以上、やるしかありません。そんなメニューないのですが……)

「? どうしたの? 注文入った?」

「……」

 無言で立ち尽くすユリアーネを見るのは、ダーシャにも珍しい。アニーが同じようなことをしている時は、だいたい紅茶を沸かしている。

 とはいえ、このままではなにも提供できないと悟ったユリアーネは、意見を求めるためにもダーシャに事の顛末を報告する。

「……実は」

 アニーなら紅茶で思い付いているのであろう。私ならコーヒー。だが、当然ながら『強くなりたい』人に向けたコーヒーなんて淹れたことない。他の人はその課題をどう捉えるか。

 だがダーシャは難易度よりも、今回の行動に苦笑する。

「……珍しいね。なんていうか、ユリアーネちゃんはそんな曲芸みたいなサービス、しないものだと思っていたから」

 まるでアニーちゃんのようだね、と引き合いに出す。だが、なにか彼女自身の中で変化があったのだろう、と感じ取った。いい方向へ導けるか、自分の仕事となるだろう。

 そのダーシャの言葉通り、アニーならどうするかという考えのもとの行動。ユリアーネも同意。

「私も自分でビックリしています。なにを血迷ったか、と」

 普段なら絶対にしないが、ララという人物、それとシシー・リーフェンシュタール。この二人に惑わされた、としておく。

 さて、オーダーを受けてしまったからには作らねばならないわけだが。ダーシャは確認を取っておく。

「それで、なにか案はあるの? アニーちゃんみたいに、相手の状態とかを読めるわけじゃないけど」

 いや、それが普通なんだけどね。好みだけでもわかればやりようはあるが、イメージというのは人それぞれ。なにを出したら正解で、不正解か。人の数だけある。

 だが、浮かぶものがあるユリアーネは、眉間に皺寄せつつも案を出す。

「……ないこともないです。強く、というのを捉え方次第になりますが」

 自信はない。が、あるように見せる。提供する時は、これが正解と押し通す。自分の店の味は、全て美味しいと太鼓判を押せる。なら、思っていたものと違ったとしても満足させてみせる。

 その気概をダーシャは受け取る。やはり良いのか悪いのか、今日のユリアーネはいつもと違う。

「よし、それでいこう。すぐに作るけど、どんなやつ?」

 苦味の強いコーヒーか、それとも紅茶か。必要とあらば、アニーが隠し持っている茶葉が必要になるかも。いや、なんで隠してるのよ店の備品を。

 ここからの解釈は独自のもの。ユリアーネは迷いつつも提供する一杯を決めた。

「強く、ということはワイルドになる、とも言えますよね?」

 言えないかもしれないが、言うことにする。とりあえず今だけは。

 ワイルド……コーヒーか……? となると、二つが繋がる一杯はおそらくアレ。

「どうだろ、でもありっちゃありかもね。となると、たぶんだけど——」

「はい、よろしくお願いします。ラテアートは私がやります」

 メニューにはない。だが、ユリアーネの心は躍る。
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